コロナ禍が落ち着きを見せはじめた中国では、新たなテックトレンドが。「恋愛」「働き方」「医療」「飲食」分野の注目するべきトピックスについて、中国の最新動向に詳しいこうみくさんに解説いただきました。
「都市によって異なりますが、2020年3月ごろから中国ではテレワークから通勤へと戻りはじめ、少しずつビジネスの再開が進んでいます」
こう語ってくれたのは、中国の最新トレンドやテック事情に詳しいこうみくさん。
2020年4月現在、新型コロナウイルスが世界中で猛威をふるう中、中国では新規感染者数が減少傾向に。コロナ禍が落ち着きを見せはじめた中国では、新たなテックサービスやトレンドが生まれているという。
「中国ではすでにテクノロジーを駆使した新たな取り組みが出てきています。今後社会がどう変化していくのか、どんなビジネスを仕掛けていくといいのか。一歩先をゆく中国を見てみることで、日本の未来のヒントが見えてくると思います」
新たな変化の兆しが見られた「恋愛」「働き方」「医療」「飲食」の4つ分野における中国トレンドの変化を解説してもらった。
コロナ禍の中国を通じて、見えてきた日本の未来とはーー。
【プロフィール】黄 未来(こう みく)中国トレンドマーケター1989年中国・西安市生まれ。6歳で来日。早稲田大学先進理工学部卒業後、2012年に三井物産に入社。国際貿易及び投資管理に6年半従事したのち、2018年秋より上海交通大学MBAに留学。現在は中国を本拠地として活動。「中国の今を知ることで、日本の未来を知る」をテーマとしたオンラインサロン「中国トレンド情報局」も主宰。Twitter:@koumikudayo 中国トレンド情報局:https://note.com/future392/n/n1aa7c8ea885a
もくじ
【1】恋愛|マッチングアプリは「ライブチャット」が流行
【2】働き方|労働者の4割がテレワーク実施
【3】医療|5G環境の仮説病院を10日で建設
【4】飲食|相互扶助システム「従業員シェア」
中国では最近あらゆるマッチングサービスで「ライブチャット」機能がリリースされ、大流行しています。外に出てデートができないからこそ、自宅でビデオ通話を通じてデートする人が増えています。
1対1のライブチャットはもちろん、「仲介人」も一緒に参加する『伊对(YIDUI)』という婚活アプリが人気です。仲介人が入るのは、初対面でいきなり2人だけでビデオ通話をすると気まづくなってしまうから。仲介人が婚活コーディネーターのごとくファシリテート役として入って場を盛り上げてくれます。
ちなみに、ライブチャットの模様は公開配信が可能で、アプリに登録しているユーザーであれば誰でも見ることができます。視聴者が投げ銭できるシステムになっていて、リアル婚活バラエティのように、いちエンタメコンテンツとしても楽しんでいる人もいるのかもしれません。
マッチングアプリ全体の傾向としては、中国がコロナのピークを迎えた2月に使用率と滞在時間が増加しました。中国版Tinder『探探(たんたん)』では、使用率が60%アップ。ユーザーの滞在時間も30%アップしたそうです。不安や孤独を感じやすい状況だからこそ、他者とのつながりを求めている人が増えているとも考えられます。
ちなみにですが、オンライン通話でフィルターを通して会話する機会が増えたことにより、美容などビジュアルに関する投資や時間をかける人が減少しています。女性の化粧頻度は、平均で15.7日に1回に。男性の髭剃りは6日間に1回になっているそうです。これは一時的なものだという見方もあるんですけど、リモートワークも浸透していけば、マクロ的に美容への意識は下がっていく可能性もありそうです。
日本全国でテレワーク実施率は2割程度*ですが、中国では早い段階で労働者の4割がテレワークを実施しました。中国の一番ピークだった2月では、約3億人が在宅勤務をしています。
参照記事*...テレワーク実施率、3月から倍増
テレワークの一斉実施に伴い、テレビ通話やチャットツールが爆発的に普及しました。とくに人気なのは、アリババグループの「DingTalk」、テンセントの「ウィーチャットワーク」、バイトダンスの「飛書」です。なかでも「DingTalk」は、ビジネスシーンだけでなく、学校の先生や生徒たちも授業で普通に使っています。ちなみに、中国では学校を休校にせずにオンライン授業に移行しました。
ここまでテレワークやオンラインサービスが広がっていく背景には、中国の一党独裁による政治体制が大きく関係していると思います。政府が「やれ」といえば企業も国民もやるしかない。だから、何か新しいものを広めるときや既存のものを変化させるスピードがすごく早いんです。
徐々に通勤も再開しオフラインへの移行もはじまっていますが、コロナによる状況は長期化していく前提で、働き方はオンラインとオフラインを使い分けが当たり前になっていくと思います。
ニュースでもよく報道されていましたが、中国・武漢では1000人規模の仮設病院がたったわずか10日で建設されました。10日で病院が建ってしまう、そのスピード感も驚きですが、面白いのは5Gのネットワーク環境が整備されていること。院内での遠隔治療を可能にし、医療スタッフと感染者が接触して感染を広げないような仕組みをつくりました。
中国の湖北省武漢市にある新型コロナウイルスによる肺炎の専門病院、「火神山医院」は10日間で建てられた。建設工事の様子を見てみよう。 pic.twitter.com/jVfNoVKST8
— China Xinhua News (@XHJapanese) February 5, 2020
オンライン診療についても、中国は数年前から実施が進んでいて、すでに様々なサービスが出てきています。たとえば中国の大手保険会社、平安保険が運営する「平安好医生(Ping An Good Doctor)」。24時間いつでも、オンライン上で問診が受けれるサービスです。2014年にリリースされて以降、ユーザー数は爆発的に伸び、現在は3億人を超えています。
今回コロナの影響によって、もっと使いやすくなりました。コロナの相談ができるようになったり、初期診断で使えるようになりました。
中国の飲食店は日本のように営業自粛ではなく、「営業禁止」が義務付けられていたので、日本以上に厳しい状況に立たされていました。飲食店の売上は通常の5~10%、倒産するお店も出てきていました。
そんな苦境の中、注目を集めたのが、アリババが展開する生鮮食品スーパー「フーマーフレッシュ(盒馬鮮生)」が発案した「従業員シェア(共享員工)」という取り組み。
休業を余儀なくされた飲食店の従業員を、フーマーフレッシュで一時的に雇用するというもの。もともとのお店に従業員として雇用契約を維持したまま、バイトができるようなイメージです。フーマーフレッシュが、給料の支払いと社会保障を提供します。
発案からわずか2日間でスタート。2週間ほどの間に40社以上の企業から計2700人の従業員がフーマーフレッシュに場所を移して業務に就きました。
この動きをカラオケ、ホテル、学校、工場なども真似るようになって、あらゆる業界で従業員がシェアされるようになっています。
中国では日本と違って、国民による公的な補償に対する期待感が薄く、皆「国なんて補償してくれない」という考えが前提にあります。なので、自分たちでなんとかしようと、相互扶助のシステムをつくる。国が動くよりもスピーディーに解決策を打ち出せる可能性もありますし、こういったマインドは日本でも取り入れられるといいなと思います。
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