2019.12.17
「パクリ」は最強のリスペクト。こうみくさんに聞く、中国最新テック事情

「パクリ」は最強のリスペクト。こうみくさんに聞く、中国最新テック事情

書籍『TikTok 最強のSNSは中国から生まれる』が話題だ。著者であり、中国の最新トレンドやテック事情に詳しいこうみくさんに、「動画アプリ・サービス」のいまとこれからを徹底解説してもらった。

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《 目次 》
・老若男女問わず動画に熱狂する中国
・中国は「動画アプリ」戦国時代
・GAFAに匹敵する、チャイナ・イノベーション
・「◯◯×動画」があたり前に
・「音声配信」もアツい!
・リアル書籍が持つ「インテリア」の機能
・変化をポジティブに受け止める
・臆面もなくマネして、進化させる

老若男女問わず動画に熱狂する中国

「いま中国では全国民の4人に1人(3.6億人以上)が、『DOUYIN』(*1)を毎日使っていると言われています」

こう語ってくれたのは、中国のトレンド情報に詳しいこうみく(@koumikudayo)さん。

Douyinにおける中国国内ユーザーの50%以上は24歳以上。若者だけでなく、お年寄りや主婦、企業も当たり前に使うほど、中国国民の生活に浸透してきているんです」

中国籍を持ち、日本で育ってきた彼女。現在は北京在住のマーケターとして活躍する。

最近では、初の著書『TikTok 最強のSNSは中国から生まれる』を発表。これからの「動画時代」を生き抜くためのヒントがつまっている必読書だ。

中国の最新「動画アプリ・サービス」のいまとこれからを徹底解説。そこから見えてきたのは、日本の来る5G以後の世界だ。

(*1)『DOUYIN(抖音短视频)』とは、中国で流行するショートムービーアプリ。画像、『TikTok』の左。

ショートムービーアプリだけで130以上。中国は「動画アプリ」戦国時代

中国には「ショートムービー」というジャンルだけで、およそ130個のアプリが存在しています。

ショートムービーは中国国内で「時間キラー」と称されるほど。具体的には、1日の使用回数が1人あたり平均27回を超える(*2)、というデータもあります。

背景には通信環境の後押しも。中国ってパケットの「通信料」がとにかく安い。スマホや4Gの普及が加速した2014年頃から「動画の波」が押し寄せています。

2016年は「ライブ配信元年」、2017年は「ショートムービー元年」と言われました。

日本と比べると、1年ほどはやく流行の波が来ているといえます。この先、日本にも「5Gの時代」が来ますよね。いまの中国を見れば、5Gの世界観を一足先に体験できるかもしれません。

(*2)ショートムービーのユーザー月間使用時間より(出所:中国産業信息)

GAFAに匹敵する、チャイナ・イノベーション

そもそもなぜ、中国でここまで独自の動画アプリが発展したのか。これには、政府が長い間国策として「海外のサービスやコンテンツを遮断していること」が大きく影響していて。ご存知の通り、中国ではFacebookもTwitterも、YouTubeも、Instagramも、全て使えない。

この事実を知る人は、数年前まで、中国に対して「海外サービスが使えないゆえにITが遅れている」というイメージを持っていたかもしれません。私も日本で育ってきたので「こんなに楽しいSNSやサービスが使えないなんて、かわいそう」とさえ思っていた。

しかし、逆に中国国内では、テクノロジー系スタートアップがどんどん誕生した。オリジナリティあふれるアプリやサービスが次々生み出されていたんです。

14億人という世界最大の市場を舞台に、さまざまな実験が繰り返されてきた中国。いまでは「GAFA」に匹敵するほどのイノベーションが育ってきているとまで言われています。

【プロフィール】黄未来(こう みく) 1989年中国・西安市生まれ。早稲田大学先進理工学部卒業後、2012年に新卒で三井物産に入社。国際貿易や投資管理に6年半従事し、2018年より上海交通大学MBAに留学。現在は中国のメガITベンチャー勤務。北京在住。

「◯◯×動画」があたり前に

これほど動画がフューチャーされていると、リアルな書籍など「活字の市場」はどうなるの?という声もあると思います。

規模として縮小していくことは確かにあるかもしれません。ただ、個人的に、動画は他のコンテンツの「敵」ではなく「武器」だと思っていて。

たとえば私は最近、『樊登读书』という動画アプリをよく使っています。元テレビ局アナウンサーのインフルエンサーが、1時間で1冊の本について解説するという書籍紹介に特化したアプリです。

年会費が5000円かかるのですが、有料会員が1500万人ほどいるそう。書籍自体にはお金を払わなくても、動画なら躊躇わず課金する。そんな流れがあるんです。

日本でも、本の解説動画などは徐々に流行ってきていますよね。

たとえば、私が最近発売した本も、題名をYouTubeで検索するともう数件レビュー動画が上がってきます。

発売から1週間でおよそ6件のレビューが上がってくる。これって、だいたいのビジネス書は発売後すぐにYouTubeに要約が上がるということです。

中国では、書籍以外にもアリババが運営する『タオバオ』というECプラットフォームが、商品説明やレビューをテキストではなく映像にしています。中国版Twitterと言われる『Weibo』は、2018年に動画サービスへの大転換を発表しました。

「〇〇×動画」は、日本でも今後確実に波が来ると思っています。

「音声配信」もアツい!

中国のSNS・アプリで、動画ともう一つ目が離せないのが、音声メディアです。

中国では『Himalaya』という音声プラットフォームアプリが人気。これは「YouTubeの音声版」のようなアプリなのですが、ユーザーは5億人ほど(*3)います。

タレントや経営者なども利用していて、カテゴリもエンタメだけでなくビジネスや語学などものすごく幅広いんです。

また、最近はニュースメディアもどんどん変わってきていますね。記事内に「ボイス」のボタンが表示され、それを押せば、勝手に文章を読み上げてくれる。

中国の活字メディアは、もはや動画や音声と“戦う”という考えではありません。いかに「動画や音声という配信ツールを上手く利用し、伝えたいことを伝えるか」なんです。

「書籍」「Webメディア」といったように産業ごとにとらえる時代では、もうないのかなと思いますね。

動画や音声を武器にできた人だけが生き残っていく。そういった表現のほうが近いかもしれません。

(*3)2019年5月時点。参考:中国で5億人が利用する音声配信プラットフォーム「Himalaya」、その急成長の理由とは? シマラヤジャパン安陽CEO

リアル書籍が持つ「インテリア」の機能

一つ面白いなと思うのが、中国ではいま、本が「インテリア」の機能を強く持つようになってきていること。

重厚な紙が使われていたり、有名なデザイナーが表紙の絵を描いていたり。装丁やカバーデザインがかなり洗練されてきていて。いわゆる“映える”見た目ですよね。

これは、動画コンテンツや音声メディアの登場が大きく影響していると思います。

本が「読むもの」じゃなく「聞くもの」になった。じゃあ手に取ってもらうには、どのような価値を見出すべきか。役割の「再定義」ですよね。

日本でもすでに、本屋に“映え”の要素が入っている例はあるんじゃないかなと。

おそらく近い将来、本やさまざまなコンテンツの概念がアップデートされる流れが来ると思います。

変化をポジティブに受け止める

北京に来てとくに「イノベーション」という文脈で差を感じたのは、中国って、変化に対してポジティブなところがあって。新しい流行が来たら、いち早くそこにみんなが乗っかろうとする。

日本に比べ、都市部と農村部の間に大きな「収入格差」があることも寄与しているのですが、とにかく「波に乗って一発当ててやろう」という精神が強い。

『Douyin』のようなショートムービーが隆盛したのも、地方・農村部に住む人たちが「インフルエンサーとして一発逆転」を狙い、積極的に参加したことが大きく影響したと言われています。

一方で、日本は新しいものに対して少し悲観的なところがあると個人的には感じていて。たとえばAI技術の発展。中国だと「AIで便利になる。チャンスが来た」という思考になりますが、日本だと「AIに仕事が奪われる」とマイナスに受け取ってしまう傾向が強い。政府も、メディアも、そういった傾向を感じます。

とくにイノベーションや「一発逆転」を狙うなら、中国人の野心的な部分は取り入れていってもいいのだと思います。

臆面もなくマネして、進化させる

もうひとつ大きな差として実感したのが、中国では「パクリはリスペクトの証」という思想があること。つまり、模倣は悪ではないんですよね。

その背景には「これほど完成された商品には隅々まで設計思想が染み渡っているはずだ」という考えがあり、模倣された側もリスペクトを感じ取る、と。

個人的に、この模倣文化はすごくいいことだと思っています。業界全体のアップデートにもつながるはず。

たとえば、最近、日本でも編集者の箕輪厚介さんがYouTubeを上手く活用した本の売り方をされていますよね。もし中国だったら、箕輪さんみたいな人がすぐに100人くらい現れると思います(笑)。

でも日本だと、まだまだそのやり方をマネしたり、アップデートしたりする人は少なくて。

素晴らしい成功事例を「その人だけのもの」にしてしまうのって、すごくもったいないこと。パクるのはダサい。そういった考えは、取っ払ってしまってもいいんじゃないかなと思います。

 

▼参考文献
『TikTok 最強のSNSは中国から生まれる』(ダイヤモンド社 2019年)|著者 黄未来


文 = 長谷川純菜
取材 = 黒川安莉


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