2020.05.28
コロナで進化、中国発サービスに見るUX至上主義|藤井保文

コロナで進化、中国発サービスに見るUX至上主義|藤井保文

進化、発展し続ける中国発サービス。広く受け入れられるサービスに共通するのは、ユーザーの利便と幸福を追求する「UX」だと藤井保文さん(『アフターデジタル』主著者)は語るーー。

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全3本立てでお送りいたします。
【前編】「監視」か「安心」か。中国のデータ社会、コロナが投げかける問い
【中編】コロナで進化、中国発サービスに見るUX至上主義
【後編】中国トップエリートの仕事観「目先の儲けより社会貢献を」

データより、エクスペリエンスを。

アフターデジタル化する世界でのサービス開発において、一つ忘れてはいけないのが「OMO(※Online Merges with Offline)はあくまで手段である」ということです。大事なのはユーザーファーストなUX、データでどう人を幸せにするか?だと思います。

(※)Online Merges with Offline…オンラインとオフラインは既に融合しており、全てオンライン起点にするビジネス原理の考え方。オン・オフのチャネルで分けた考え方ではなく、ユーザーの利便に立つ。

現在、『アフターデジタル2(仮)』を執筆しているのですが、その理由の一つに、日本企業の「データを扱うビジネスに対する認識」に危惧があったからです。

前著の『アフターデジタル』で「行動データが出てくる時代になると、ビジネス論理が変わる」と書きました。これは良い方にいけば、皆がさまざまなUXを好きなタイミングで選べる、すごく自由な社会になるはずだ、という意味。

しかし、行動データをいかに牛耳ればいいのか。つまり「行動データが取れるようになれば金儲けの源泉」になる、そういった幻想がかなり生まれてしまったように感じて。そうなるとユーザーに不義理になり、データの獲得が主目的になる。そういった風潮が生まれてしまう。このままでは、日本社会の発展が止まると強い危機感を抱きました。

実際、勝手にデータを使われている事件やデータが売られている事件もあり、「データを取得されることは怖い」と思われてしまうことが多い。これは悪い方の監視社会、ディストピア化した社会の話が出てきます。今のままだと悪い方にばかり、目がいくと思ったんです。

データの方を見るか、エクスペリエンスの方を見るか。ここで解釈は大きく変わります。エクスペリエンス側を見て、ユーザーには選択肢が増えていく。そして「信頼」から生まれるデータを、企業が使えるようになっていく。そんな解釈にしていきたいですね。

フードデリバリー、ライブストリーミング、遠隔診療、オンライン授業…

コロナによって、生鮮食品配達、ライブコマース、遠隔診療、オンライン授業などのサービスが中国でも注目されました。ただ、コロナ禍を支えた全てのサービスに共通して言えるのは、すべて「コロナ以前からあった」ということです。

このタイミングでオンボードが進んだ、というイメージが近い。僕の感覚ですが、日本でも『UserEats』や『出前館』もコロナ以前からありましたが、緊急事態宣言でデリバリー需要が高まって、「一回使ってみよう」という人が増えました。これでアカウント開通や支払い登録が行われ、かつ一度便利な体験を知ってしまうため、以降は利用ハードルが劇的に下がった。こうなると、一般生活に入り込んで、使われるようになる。そういう意味で「オンボード」と言っています。

つまり、コロナに乗じて、その場しのぎで出てきた、あまり本質的でないサービスはやっぱり消えていく。当たり前ですが、便利なものしか使われないのだと思います。

中国だとアリババの事例として『釘釘(ディンディン)』というtoB向けビジネスツールがあります。これはセールスフォースのような営業管理ツール、Zoom、Slack、Googleドライブのような機能が入っているツールで、もともとは企業向けのものでした。

既に一定数の企業に利用されている中で、コロナになり、学校や塾が閉鎖し、教育はすべてがオンライン化されて。『釘釘』も数週間で教育向けに公開され、一定数、使われるようになりました。

ただ、この間、中国系の人とZoomで話したのですが「教育系のオンラインサービスは果たしてどこまで浸透するか」と話題になったんですよね。結論としては、あまり使われないのではないか。

むしろ一度休校になったことで、「場」として学校の価値が再認識されていて。また、子どもがずっと家にいる状態だと仕事ができない、という声もあります。もちろん一定の変化はあるかと思いますが、中国における「教育系のオンラインサービス」は生活様式が変わるまでの変化は与えないのではないか、と考えています。

濃い「世界観」で勝負をしていく。

そういった中で、日本企業としてどう戦っていくのか。

まず前提として、日本と中国だと人口が圧倒的に違います。つまり「人数が増えるほど効果が上がる」「コストが下がる」といったスケールメリットは享受ができない。

加えて中国は「本質」を捉えるのが得意ですよね。デジタルとリアルの強さと弱さを解像度高く理解しています。リアルでつなぐもの、オンラインでつなぐもの、特性を考えてこれらをうまく使い分けています。この接点づくりと、ビジネスモデル設計は中国が強いので、日本はなかなか勝てないですし、学ぶべきことだと思います。

ただ、日本には日本の強みもある。

以前、テンセントのUXトップは「日本のすごさは、一見意味のないくだらないことをひたすらやり続け、そこから発明が生まれるところだ」と話をしていました。「無目的なこと」をやらない中国に対し、日本は何の意味があるんだ…というものにも意味を見出し「自分としてはおもしろい」をひたすら掘り下げることで、ユニークなものが生まれる、という印象があるみたいです。

別の中国人アーティストも「日本人には1人1人の中にユニバースがある」と言っていて、おもしろい表現ですよね。どうやら「その人固有の世界観をそれぞれが持っている」という意味で。いくつもの自分が好きなもの、その「世界観」をつないだ結果「自分らしい世界観」が再構築されていく。

日本における「豊かさ」って本当に人それぞれですよね。おそらく「お金持ちになれる」という金銭的な豊かさが期待できない、総中産階級状態であることも関係している。だからこそそれぞれが「ユニバース」を持ち、個々に「豊かさ」を定義していく。

中国だとひとつビジネスが上手くいけば「給料が10倍になる」があり得る社会です。なので「お金持ちになること」が「豊かさ」に直結する。

また、社会的に医療がひどい、交通渋滞がひどいなど、国民共通の社会的な負、ペインポイントを解決するためにサービスが生まれていきます。「世界観」より、基本的には「どれだけ便利か」というもの。たとえば、類似サービスが70個出てきたとしても「一番便利なもの」しか残りません。

そう考えると、日本の強みは「濃い世界観を作りこみ、細部に魂を宿らせる力」だと思いますし、すでに世界に受け入れられているものもあります。たとえば、いま流行っているNintendo Switch『あつまれどうぶつの森』もそうですよね。ゲーム内に登場するキャラクターの話し言葉は漢字が使われているけれど、キャラクターが書いたものは漢字が使われていないのだそう。シーンによって文字の使い方を細かく設定されているといいます(※)。これも「コンテクスト」と「意味に深さ」に価値を見出し、「世界観」を定義しているものですよね。

これからのビジネスの現場においては、世界観を描いていけるかどうか。幸福のあり方を提示していけるか。そこが肝になるのではないでしょうか。

(※)参照:note『あつまれ どうぶつの森』の世界観をつくるUXライティング

【前編】「監視」か「安心」か。中国のデータ社会、コロナが投げかける問い
【後編】トップエリートの仕事観「目先の儲けより社会貢献を」

※本記事は、5月11日に実施した公開取材『コロナ時代を生き抜く方法』を編集したものです。公開取材の模様はYouTubeチャンネル「キャリアハック」でもご覧いただけます

【ダイジェスト版(20分)はこちら】

【ノーカット版(87分)はこちら


文 = 長谷川純菜
取材 / 編集 = 白石勝也


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