2021.03.03
旅行市場の復活を見据えて。有川鴻哉に聞く、スタートアップの戦い方

旅行市場の復活を見据えて。有川鴻哉に聞く、スタートアップの戦い方

この1年、変化の荒波にさらされた旅行業界。いかに戦況を見極め、何を仕掛けるか。旅行予約サービス『こころから』を運営するHotspring社、有川鴻哉さんに「スタートアップの戦い方」をテーマに伺った。

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2度目の緊急事態宣言、Go To トラベル停止のダメージ

2度発出された緊急事態宣言。そのたびに、Go To トラベル関連対応にも追われた旅行業界。当然、旅行予約サービス・OTA*も例外ではなかった。

OTA*…Online Travel Agent/インターネット・オンライン上で取引を行う旅行会社のこと

刻一刻、目まぐるしく変化するマーケット。流動的な国としての施策や方針。変化の荒波のなか、スタートアップとしてどう戦っていくか。

2018年1月より旅行予約サービス『こころから』を展開している、Hotspring社の有川鴻哉さんにお話を伺った。

まずはじめに気になるのが、2020年12月28日に停止された「Go To トラベル」と、2度目の緊急事態宣言(2021年1月7日発出)の影響についてだ。

「とくに年末年始の旅行予約は、ほとんどがキャンセルになりました。旅行需要の落ち込みはすごく感じましたね。温度感は、1度目の緊急事態宣言時とあまり変わらない。そもそも国から“不要不急の外出について自粛を徹底してほしい”と発信もありましたし、旅行先でもお店が早くに閉まるなど、あまり楽しめない状況が影響したと思います」

ただ、前回との違いもあった。

「最近の傾向として、比較的多く1名様の予約がありました。ユーザーの中には、どうしても仕事で出張しないといけない、といった方もいます。また、テレワーク、ワーケーション需要が少しずつ増えているように感じます。そういった1名様での予約であっても使いやすくするための機能の改修は、緊急事態宣言下でもやれたことのひとつでした。

また、Go To トラベルが停止したことで、たとえ安くても泊まってもらわないと経営が厳しいというホテルも当然あって。どうしてもビジネストラベルなどが必要なユーザーにご紹介できればと、お得なプランとして紹介するSALEページも充実させました」

Go To 再開後、前回ほどの「需要爆発」にならない可能性も?

2021年3月3日(水)現在、大阪、兵庫、京都の関西3府県と、愛知県、岐阜県、福岡県の合わせて6つの府県で緊急事態宣言が解除されている。東京都を含む1都3県の解除はまだ未定だ。

Go To トラベルに関しては、まだどうなるかわからない状況。どう市場は動くか。「あくまで個人的な予測」としてお話いただけた。

「国としても需要が爆発するようなやり方はしないのでは?と考えています。全国的に一気に旅行が活発化するデメリットも経験しているので。旅行者側の感覚としても、前回とは少し違うのかもしれません。少し落ち着いたタイミング、たとえば、ゴールデンウィーク、夏休みの予約を先にしておこう、といった方もいる。

少しずつワクチン接種の準備が進んできていますし、それに伴って段階的に緊急事態宣言も解除されていきそう。少し先の見通しが立っている。そう考えると、住んでいる都道府県、近隣県で1泊など小さな旅行から徐々に戻ってくるのかもしれません。とはいえ、もし局地的にでも需要が高まればスタートアップとして勝負のしどころなので、そこには全力でアクセルを踏んでいこうと思います」

Go To トラベル再開を見据え、どう動き、何を仕込んでいるか。前回のGo To トラベル開始も踏まえた、これから動き方とは。

「旅行を考えるみなさんにとって一番気になるのが、“実際いくらで泊まれるか”ですよね。もしかしたら、前回以上にキャンペーンの内容や割引の仕組みがわかりにくくなるかもしれない。

ですので、まずは正確な一次情報を取得し、どこよりもわかりやすく伝えること。ここを徹底的にやります。また、スタートダッシュを切りやすいのがスタートアップの強み。一つ大きな強みとなったと考える部分は、キャンペーンの内容をサービスに落とし込んで使いやすく実装するところ。キャンペーンの内容が決まり次第、どこよりも早く対応させます」

とくに情報が錯綜、混乱が予想される今回のような場面では、ユーザーにとっての「わかりやすさ」は、シンプルだが、非常に重要だと有川さんは捉える。明瞭でわかりやすい価格表示や、UXの設計など、彼らが得意とする領域だ。

すでに前回のGo To トラベル開始をきっかけに、飛躍的にユーザー数を伸ばした実績がある。ここからは、激動の1年を有川さんと共に振り返り、いかに勝負をしてきたのか、見ていこう。

+++Go To トラベル事務局から正式な応援企業、パートナーとして「分散型旅行」特設ページを展開。「分散型旅行は、国としての安全にもつながっていく施策。新しい旅行の仕方、ニューノーマルな旅行を普及させていくためにスタートアップながらトライしたい」と有川さん。

この1年を振り返って。一時期、売上が前年同月比95.5%減も

新型コロナ感染拡大が本格化してから約1年。あらためて有川さんは、その時々の戦況をいかに見極め、どう動いてきたのか、振り返ってもらった。

まずは2020年4月~6月頃。

売上としては絶望的、会社としても危機的な状況だったという。

「予約件数は相当に落ち込んでしまいました。。どうしても仕事などで宿泊が必要な方のみがサービスを利用してくれていました。売上は前年度月比で95.5%減になってしまいました」

さらに、ちょうどそのタイミングではサービスの新しい展開にむけて仕込んでいたこともあり、資金ショートの危機に。

「じつは新型コロナが本格的に拡大する直前まで、海外旅行向けのOTAの仕込みをしていたんです。だから資金もギリギリで。いかに会社として存続させるか。新型コロナウイルス関連の融資制度を使うなど、ファイナンスにも動いていました」

必ず旅行需要は戻る

さらに、総額1億円を超える金額で臨時の資金調達を実施している。

あまりにも先行きが見えなかった旅行業界。さらに当時主力としてきたチャット型旅行予約『ズボラ旅(2020年12月23日サービス終了)』に加え、Webサイト型の旅行予約サービス『こころから』の事業展開に本腰を入れ始めたタイミング。

どういった経緯での資金調達だったのだろう。

「必ず旅行マーケットは戻ってくる、その確信はありました。戻ったタイミングで一気に攻めていく。そのための資金調達を行ないたいと考えました。ただ、売上は絶望的、市場も大混乱のタイミング。投資家の方々とのコミュニケーションでは、サービスのポテンシャル、市場への洞察力などは見ていただき、“信じてほしいです”と言ったお話を最終的にはしていきました」

当時、有川さんが参考にしていたのは過去の「不況下での旅行マーケット」だ。

「リーマンショックなど、世界的に経済が落ち込んだ時期を見てみると、比較的早いタイミングで旅行のマーケットは回復していました。経済が苦しくなり、現実が厳しい状態だと、逆に気晴らししたい。非日常を感じたいとニーズが高まったのかもしれません」

新型コロナの場合も近しい状況が訪れる。その見立ては現実となった。実際、7月22日より「Go To トラベル」がスタートし、旅行市場は爆発的な回復を見せた。

+++「オンライン、デジタル化していく中で、むしろリアルな体験が持つ価値も相対的に上がるはず。旅行自体がなくなることも、まずないだろうと。実際、2020年7月以降、『こころから』では爆発的に国内旅行の近距離、近隣県への旅行予約が跳ね上がりました。多くの人たちの鬱憤がたまっていた、がまんしていたのだと思います」

独自の「Go To トラベル価格表示」のウラ側

2020年3月以降、大手旅行代理店をはじめ、従業員を休業にするなど、事業が鈍化していたタイミング。彼らは虎視眈々と準備を進めていた。

他があまり動けていない時期にこそ、ゴールを想像してものづくりができるか。意識的に動いた、と有川さんは語る。

「旅行市場が回復するタイミングで、いかに一気に事業を伸ばせるか。再び伸びはじめたタイミングで何をどう打ち出せるのか、ひたすら考えていました」

他では実装が難しく、且つユーザーにメリットがある部分はどこか。ひたすら考え続けたと有川さんは振り返る。

そのひとつが、Go To トラベルを活用することで、実質いくらで宿泊できるのか、わかりやすい価格表示の方法だった。

「価格表示の仕組みは、僕らのサービスの明確な強みのひとつになったと思います。シンプルに、泊まりたい宿の検索結果、一覧画面でも“いくらお金を払えばいいのか”を表示するというもの。ここは他のサービスとの差別化につながったと思います」

一見すると難しくはない価格表示のようにも感じるが、大規模サービスとしては反映しづらい状況にあったのでは?と有川さんは分析する。

「Go To トラベルキャンペーンによる割引がクーポンとして使えるようになっていて、決済画面ではじめて実質価格がわかるOTAが多いような状態でした。ホテルや宿を探している途中だと、結局いくらで泊まれるのか、いまいち良くわからない、という状態でした」

大手がこういった仕様にしてくるはず、というのは事前に予測していたことでもあった。

「じつは、過去の“ふっこう割”の時も同じだったんですよね。大規模なサービスになればなるほど、開発工数が大幅にかかるので、既存のクーポンのシステムを転用するような形になる。であれば、僕らは後からの値引きでいくら、はなく、そもそもこの価格というのがわかりやすいようにしておく。それらをゼロから作ることにしました」

わかりやすい価格表示は間違いなく、旅行に対して強く求められているもの。そのことを意識して注力したという。

「Go To トラベルは、実質は35%値引きなのですが、最大の“割引額”が決まっており、さらに宿泊数により金額が変わる、という複雑なものでした。時期によって適用エリアが変わるケースもあって。そういった裏側に複雑なルールがあることを気にしないでも利用できるように機能をつくり、ユーザーが見たときにひと目でわかるようにしました」

国が推し進める事業としては、これまででは考えられないスピードで決まり、実行されたGo To キャンペーン。そのスピードに対応していけるのも、スタートアップの強みだ。

「Go To トラベルに関して、旅行会社であっても、情報を知るタイミングは、一般のみなさんとほぼ同じ。なので、ある程度、予想した上でデザインだけ作っておいて。発表された瞬間に仕様を決めてつくりはじめ、その日の夜、もしくは翌日にリリースする。もっといえば、今まさに作っている途中のものなので、仕様もあってないようなもの(笑)こういった対応をしていきました。」

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『こころから』スマホ版トップ。現在、約95%がスマホ経由での利用。「検索窓」と「ホテル検索」をハイブリッドした独自の検索UIとなっている。「国内OTAはエリアを絞っていくカタチで、海外OTAは検索窓のみというUIが主流。一長一短があるので、組み合わせたUIが作れないかと模索して今のカタチになりました。テーマにしているのが、行き先がハッキリ決まっていなくても、旅行を探し始められること。また、海外旅行の事業についても大きく成長させることを意識してつくっています」

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先に「理想形」をビジュアルに落とす

『こころから』は「Go To トラベル」の説明ページからしても、わかりやすさが際立っていた。こういったページにせよ、価格表示にせよ、いかに「ユーザーにとってわかりやすい」をカタチにしているのか。彼ら独自のものづくりのプロセスがある。

「まずシステム的な要件など制約を抜きにして考えて、ベストな理想的なモノをビジュアルから作るようにしています。価格表示も、国としての方針が出てきた段階で、すぐ僕がワイヤーを作って、デザイナーと“こう見せたい”をすり合わせる。そこからプロダクト開発のチームで話し合い、実現したいことと難易度との折り合いをつけていく」

実装するか否か。この時の判断軸も、速やかに行なっていったという。

「まずどうにかして最低限、必要なものだけを実装するのか。それとも数日遅れてでも十分なものを実装するのか。一つひとつに優先度をつけ、開発に落とし込むといった作り方をしていきました。何も考えずに状況にあわせようとするだけだと、だんだんユーザーにとって使いにくいものになってしまう。

一方で、当然時間をかければいいものはできるが、国の方針も、新型コロナの状況も変わっていくもの。これらのバランスをとることが大切だったと思っています」

そして最後に伺えたのが、2度目の「緊急事態宣言」が解除されたその後について。

「あらためてになりますが、徹底的に"ユーザーにとって一番かんたんな予約サービス”として勝負していきます。OTAの分野では、ここ数年海外のサービスが猛烈な勢いで日本でのシェアを伸ばしているような状況です。

そういったなか、後発として出てきた僕らがどれだけ戦えるか。『ズボラ旅』の時から変わらず、いろいろなことが決まっていなくても、「どこかいきたい」と思ったタイミングで旅行を探し始められる、というのをテーマに、旅行予約という購買行動に対して様々な角度からアプローチをしていく。

たとえば、SNSと相性のいい診断型のUIであったり、独自の仕組みでおすすめの旅行先が出てきたり。日々さまざまな切り口から、旅行予約の新しい形を実験し続けています。海外発のサービスに負けない、この国の旅行文化に根付くような新しいサービスのあり方を模索していきます」


取材 / 文 = 白石勝也


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