近年よく耳にする、『HRBP(Human Resource Business Partner)』という言葉。HRビジネスパートナーや人事ビジネスパートナーという名称を目にしたことがある人も多いのではないでしょうか。今回は、HRBPとはどのような存在なのか、これまでの人事や、CHO・CHROとの違いなどにも触れながら、解説していきます。
HRBPは『Human Resource Business Partner』の略称で、文字通り「経営陣のビジネスパートナー」的ポジションを担います。
一般的には、経営者のビジネスパートナーとして組織の成長を促す「戦略人事のプロ」とされています。経営と現場の橋渡しを担いながら、人事課題の解決に取り組む職種です。その範囲は、採用活動・研修・制度設計と多岐に渡り、人事全般をデザインしています。
HRBPは、1997年、アメリカのデイビッド・ウルリッチ教授が提唱した4つの人事機能の一つ。「営業部門といった現場に近い場所で、人や組織の課題に対し人事の視点から問題解決を図る機能」と定義付けられています。
日本では、2010~20年ごろ、コロナ禍という突発的な事態やDXの進展、AIの急発展といった企業を取り巻く環境の変化に伴い、人事戦略の見直しが要されたことで注目を集めました。環境を把握し、柔軟な人事戦略を立案する役割として、カゴメやDeNA、富士通、ベネッセホールディングスといった大手企業を筆頭に導入が進んでいます。
少しイメージが湧きにくいかと思いますので、これまでの人事・CHO・CHROと比較しながら、特徴を見ていきましょう。
◇これまでの人事との違い
これまでの人事の仕事は、事業部門における採用や育成、評価制度の一切を管理・運用すること。一方のHRBPは、部門の掲げる事業戦略を人材戦略に落とし込む点が仕事の特徴です。経営目標の達成や業績向上を目指し、人事制度・給与制度・人材育成・採用制度にイノベーションを起こす役割が期待されています。
◇CHO・CHROとの違い
日本語では人事最高責任者と訳されるCHO(Chief Human (Capital) Officer)・CHRO(Chief Human Resource Officer)。同義語として扱われることが多いため、本記事ではCHROに統一して説明します。
CHROは、人事領域を管轄する経営幹部です。企業の経営責任を負い、人事マネジメントや経営の戦略立案・意志決定を行ないます。一方のHRBPは、事業・人材の2領域を包括的に担当し、経営層の方針に沿った戦略を組織やチームに伝達し、実施する役割を持っています。経営的視点をもって人事戦略を考える点では共通していますが、より現場に近い立ち位置で課題に取り組むのがHRBPと言えます。
経営視点・現場の人事視点の双方で戦略を策定するHRBPの職務においては、マネジメントや人事業務の経験は必須であるように思えます。とは言え、「HRBPになるためのキャリア」は明白ではなく、HRBPの役割やその分必要なノウハウも企業によって異なります。そのため、個々人が、HRBPとして企業を支援するために必要なノウハウを学びながら成長を続けることが最も重要なポイントと言えるでしょう。
前述してきたように、仕事内容が多岐にわたるHRBP。必要なスキルにはどのようなものがあるのでしょうか。
1)経営視点
従来の人事と異なり、経営者や事業責任者のビジネスパートナーとなるHRBPには、同等の議論をするためのビジネス感覚として、経営視点が必須になります。具体的には、戦略的思考力などが挙げられるでしょう。複雑な問題や状況に対して戦略的にアプローチし、成果を出す力です。人事戦略を組織の成長に結び付ける役目を担うHRBPが経営視点で物事を考える上で、重要なスキルと言えます。組織の成長に必要な育成計画といったリソースや手段を、最適な形で計画する能力が必要です。
2)コンサルティングスキル
HRBPは、組織の課題やニーズを把握し、経営層や管理職に対する助言を行う役割です。職務を全うするためには、現状を正確に把握するための分析能力・課題解決のための仮説・検証力といったコンサルティングに関するスキルが求められます。
特に現状把握に際しては、所属する業界・企業の事業領域をはじめ、企業文化への理解も求められます。特に、近年の事業環境は目まぐるしく変化しています。常に最新の情報を集め、事業に対する理解や洞察力を磨くことで、経営者・現場からの信頼に繋がります。
また、社内コンサルタントやアドバイザーのような立ち位置として信頼を得るため、適切な調査や聴取を行うファシリテーションスキルも重要です。発言に耳を傾け、具体的な質問で会議を調整し、論理的かつ活発な議論を通して合意形成を実現させます。
3)リーダーシップ
一般的な人事業務の処理能力が備わっているだけでなく、マネジメントを行う立場として、優秀な人材を見極める判断力が求められます。適正に人材育成を行い、周囲のメンバーを牽引する存在として、リーダーシップも非常に重要と言えます。
4)人事知識
HRBPは、現場と経営層との間で橋渡しをする役割を担う「戦略人事のプロ」。そのため、労働法や労働倫理・採用・評価・報酬・労働関係といった人事領域における幅広い知識が必須となります。ビジネスにおける目標達成に必要な人材育成など、人事政策や手続きの維持・改善に関する知識も同様です。
HRBPが人事の専門家として知っておくべき知識例は以下になります 。
労働基準法、労働安全衛生法、労働組合法、雇用均等法、個人情報保護法、雇用保険法、労働契約法、労働者派遣法、健康保険法、厚生年金法、採用ノウハウ、人事・評価制度、雇用契約、労働時間・労働条件、労働者の権利 など
(引用)エンゲージ採用ガイド「HRBPとは?従来の人事とは何が違うの?今知っておくべき採用ワードを解説」
多くの人事知識、そして経験が必要だと認識しておきましょう。
5)コミュニケーション能力
最後に、コミュニケーション能力です。幅広い職種で必要とされますが、HRBPにとっては特に重要なスキルの一つだと言えます。その理由は二つ。一つは、情報収集のためです。経営陣と連携し、事業戦略と連動した人事戦略を考えるという職務の上では、現場の情報収集が日々欠かせません。待ちの姿勢ではなく、自ら働きかけて、情報収集を行う必要があります。そして二つ目に、関係構築のためです。情報収集を円滑化するためにも、社内で「HRBPになら相談できる」という意識が浸透するほど、信頼を構築する必要があります。また、HRBPは、組織の異なる部門や経営層・管理職と連携し、協力関係を構築する役割を担う職種です。社内の様々な場所で、積極的にコミュニケーションを取り、良好な関係を構築するスキルが求められます。
既存の人事とは異なる役目を持ち、変革者であるHRBP。職種として導入することで、企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
・戦略人事を実行できる
・従業員と組織のパフォーマンスを向上できる
・社員の離職率低下
・エンゲージメント向上
・優秀な人材確保
・経営者や事業責任者の負担軽減
・社内での潤滑油
・従業員の不安解消
・モチベーション向上
・経営層への不信感解消
先述してきたように、HRBPには、テクニカルなものを含め多くのスキルが求められます。そのようなスキルを持つ人材・ポジションを社内に設置することで、多くの課題解決が見込まれるはずです。
次に、実際にHRBPを企業に導入する際の方法とポイントについてお話します。
1)ビジョンと目的の明確化
まずは、組織のビジョンや戦略を今一度確認し、組織の目標達成を第一にとして、HRBPに求める役割・責任を明らかにしましょう。「どのような成果を求めるのか」「企業のビジョンや戦略に合った手法なのか」など、考えるべき要素は多くあります。これらを考えながら、HRBPの導入を入念に検討しましょう。
2)HRBPの役割を決める
次に、求める役割や責任を定めます。「人事戦略のプロ」として、組織の人材戦略を実現し、組織の成果に貢献するという大きな役割があります。しかし、人材戦略・人事戦略は企業ごとに異なるため、正解はありません。
・各組織のビジョンや目標・戦略に基づいて適切な人材戦略を策定する
・組織の成長に必要な人材ニーズを把握する
・戦略的な採用やキャリア開発プログラムの設計、人材の獲得、育成を行う
上記は一例となりますが、自社の事業戦略に沿って、導入前に、具体的な役割を定めておくとよいでしょう。
3)成果の測定と改善
ただ導入するだけではなく、「成功」を定量的に測定できる仕組みも必要です。導入によって何がどのように改善したのか、新しい取り組みこそ、振り返って効果を適正に把握する必要があります。また、検証後も組織でHRBPの導入を続けていくため、改善が必要な点がないか洗い出しを行う意味もあります。
最後に、実際に導入した企業の例を見てみましょう。
■DeNA
DeNAがHRBPを導入したのは、2014年とされています。人材の登用・マネジメント強化・チームビルディング・事業課題解決のための壁打ちなど、人事と経営をつなぐ戦略人事としての役割を担っています。DeNAのHRBPは、「戦略人事を実践するHRゼネラリスト」とも呼ばれ、チームで戦略人事を設置することで、アウトプットの質を高めている点が特徴的です。
(参照)https://hr-trend-lab.mynavi.jp/column/management-strategy/6224/
■LINE
LINEのHRBPは、社内の人・組織に関する課題解決に関する企画立案とマネジメントを担っています。事業領域ごとにカンパニーが存在するLINEは、部門ごとに1〜2名のHRBPがアサインされています。そのため、組織ごとの相談に対し、それぞれが情報を集めて分析を行い、連携して施策を設計します。個別具体的な対応を可能にしていることで、退職を検討していた社員との面談にたどりついたという実例もあるそうです。
(参照)
https://line-online.me/articles/l000717.html
https://www.kaonavi.jp/dictionary/hrbp/
組織開発が主軸でありつつも、決して限定的にはなりすぎず、課題解決のためにできることは積極的に手掛けていく点が、LINE社におけるHRBPの特徴です。
大手企業を中心に導入が進んでいると解説したHRBPですが、最近は中小企業でも導入されているケースがあります。少子高齢化が進んでいる昨今、人材獲得競争はさらに激化しています。採用力の向上、ひいては企業の競争力強化のため、HEBPの役目はますます拡大していくと考えられます。
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