2014.11.04
無駄だらけの金融業界にメスを入れる|ZUU 冨田和成が見据えるヒューマンテクノロジーの未来。

無駄だらけの金融業界にメスを入れる|ZUU 冨田和成が見据えるヒューマンテクノロジーの未来。

「金融業界の無駄をなくし、適正な競争とより良いサービスを生み出したい」と語るのはZUU・CEO 冨田和成さん。IT×金融の領域で、メディア運営と金融アドバイザーの比較マッチングサイトの開発を手掛ける人物だ。フィンテックスタートアップの戦い方、市場に与えるインパクトの大きさについて伺った。

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テクノロジー×金融業界のスタートアップ

テクノロジー×〇〇の領域で異業種にイノベーションをもたらすスタートアップにフォーカスを当てる本企画。

今回お話を伺ったのは、超巨大産業である「金融」の領域で急成長を続けるZUUの代表取締役社長兼CEOの冨田 和成氏。新卒で入社した野村證券でリテール営業、プライベートバンカー、東南アジア事業企画に携わった根っからの金融マンは、なぜスタートアップを興したのか?

「金融業界の中にどっぷり浸かっていたからこそ、業界の無駄や変えていくべきものが見えてきた」と語る冨田氏。夏野剛氏をはじめ、エンジェル投資家を中心に約1億円を資金調達した注目のスタートアップの狙いに迫った。


【プロフィール】
株式会社ZUU 代表取締役社長 CEO
冨田 和成 Kazumasa Tomita

一橋大学在学中にソーシャルマーケティング関連事業で起業。卒業後、野村證券株式会社に入社。支店営業にて同年代のトップセールスや会社史上最年少記録を樹立し、最年少で本社・超富裕層向けプライベートバンク部門に異動。シンガポール駐在とビジネススクール留学、タイ駐在を経て、本店ウェルスマネジメント部で金融資産10億円以上の企業オーナー等への事業承継や資産運用・管理のコンサルティングを担当。2013年3月に野村證券を退職後、4月株式会社ZUUを創業。

金融のプロが見つけた業界の課題とは

― ご経歴を拝見しました。野村證券で数々の最年少記録を打ち立ててこられたそうですね。そんな冨田さんがなぜ、スタートアップとして同じ業界で起業しようと?


もともと大学時代に、ソーシャルマーケティング関連事業での起業経験があり、野村證券に入社してからも、いつか独立してインターネットやテクノロジーを使った事業を生み出したいと思っていたんです。

野村證券では、飛び込みのリテール営業から富裕層、超富裕層向けのプライベートバンキング事業、海外支店、事業戦略、ビジネススクール留学など本当に様々なことを経験する機会を頂きました。

国内でも最大級の証券会社で取扱高の低いところから高いところ、そして国内外、商品組成や事業企画までひと通り体験すると、金融業界というものを俯瞰して見れるようになったんですね。すると、業界の粗…といいますか、とても無駄で非効率な部分が目につくようになってきたんです。


― 金融業界の非効率な部分とは?


一言で言うと、情報の非対称性から生まれる圧倒的な売り手(金融機関側)優位の状況です。

どんな人でもインターネットから情報を得られる、さらには購買行動もネットで出来る時代になったにも関わらず、金融商品は未だに売り手優位での対面販売が多数を占めています。消費者は高い手数料を取られ続けているということなんですね。

そこで私たちがまず始めたのが、この情報の非対称性を解消していくこと。金融をよりわかりやすく伝えるためのZUU onlineを始めとした金融×ITのメディア事業をスタートしました。500名以上の専門家が、読者にわかりやすく金融商品やトレンド、ノウハウをお伝えすることで、まずは金融商品に興味を持っている方のリテラシーレベルを上げていこうと。

金融業界に適正な競争の場を

― ZUUが狙っているのはオンラインにおける金融商品の購買を増加させることなんですか?


いえ、それだけではありません。情報の非対称性を改善するだけでは問題は解決しないことがわかってきたんです。ネット生保やネット証券、ネット銀行はまだまだ一般の人が当たり前に使うという状況になりきれていません。そもそも金融機関と消費者のマッチングがリアルでもネットでも全く最適化されていない。

リアルの金融機関は飛び込みや荷電など、かなり非効率的な営業活動に多大な時間を費やしています。一方で、消費者はニーズに合致する優秀な担当者を選ぶことができないんですね。なぜなら選ぶ場さえないから。

私たちが目指すのは資産アドバイザーと消費者のマッチングプラットフォームの構築です。正直、今の金融業界はかなりイビツですよ。プラットフォームができれば、人で選ばれる時代になる。そうなると当然、競争が始まりますよね。つまり商品・サービスの質は向上し、手数料などの料金が下がってくるはずなんです。


冨田和成


― 既存の業界にとっては耳の痛い話ですね。


彼ら自身が一番危機感を感じているのも事実なんですよ。

日本の資産アドバイザーは、営業とアドバイスをひとりが両面で担当するスタイルが一般的です。しかし、資産"アドバイザー”のプロであるならば、顧客のニーズを満たすアドバイス、コンサルティング業務に集中すべきなんですね。プラットフォームができれば、それが可能になる。

また、日本の証券業界を例に挙げると証券サービスを受けている人口って2~3割程度なんです。しかも手数料を払っている過半数は65歳以上の高齢者の方々。つまり直近10年以内には必ず大きな変革が待ち受けている運命なんですね。

日本人の個人金融資産は1,600兆円と言われていますが、多くは全く動いていない休眠資産。これをどれだけ活用できるか次第で、この市場はこれまで以上に大きくなる。国家レベルのインパクトも莫大です。

顧客にも既存のプレイヤーにも求めれられているのが、新しい出会いと適正な競争を生み出す金融プラットフォームなんです。


― 冨田さんが指摘する業界構造は、日本だけの問題なのでしょうか?


私も日本だけだと思ってました。先入観にとらわれていたんですね。しかし、各国の金融業界や商品、学術論文などの情報を見れば見るほど、世界中で解決されていない問題だと気づいたんです。

手数料の割合などの小さな違いはありますが、アメリカ、欧州、アジア全体を見てもこの問題は顕在化しています。しかし、決定的な解決策はまだ生まれていない。ZUUは日本だけでなく、世界で戦えるプラットフォームの構築を目指しています。

ヒューマンテクノロジー(HuTech)の時代を予見する

― FinTechの魅力の一つでもありますが、桁違いの規模に驚きます。次に、テクノロジーの活用という部分にフォーカスを当てさせてください。冨田さんはZUUの構想でテクノロジーがどんな場面でより必要になると考えていますか?


ネット上で出会い、直接のサービスはリアルで提供されるこのプラットフォームは、ECとO2Oの延長線上にあると思っているんです。

ECはまず目に見えるモノ、商品から普及していきましたよね。Amazonや楽天、ZOZOTOWNは多くの人が利用しています。次の段階は比較サイトや口コミサイトというようなサービスコマース。そして最終的には人個人が選ばれるヒューマンコマースの段階がくると思っているんです。


冨田和成


個人が比較される時代になると彼らを何らかの形で「評価」をしなければなりません。実績や資格、例えば相性などの多様な指標から独自のアルゴリズムで評価モデルを作っていく必要があります。まさに今ホットなデータマイニングの最先端の実験の場がここにはあるんじゃないかって思っているんです。プラットフォームが現実となる頃には「アドテク」なんかに並んで、「ヒューテック」って言葉が生まれているかもしれませんね。


― それでは最後に、冨田さんが考える既存業界を革変する人材の要件を教えてください。


既存業界で壊されてないものを技術的なイノベーションによってぶっ壊したいというメンタリティ、野心は大切なポイントかと思います。「既存権益が牛耳ってる業界は絶対に許せない!」と思う感じですね(笑)。まぁZUUのモデルでは、既存の金融業界は「敵」というわけではないのですが(笑)。

まだ設立して1年半ですが、これからより一層アクセルを踏んでいきます。よろしくお願いします。


― 金融業界という巨大産業にメスを入れて新しい風を生み出すというお話、とても刺激的なインタビューでした。今後も期待しております。ありがとうございました!

[取材・文] 松尾彰大


編集 = 松尾彰大


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