カヤックが仕掛けた「退職者によるひとり会社説明会」をイベントレポート。衣袋宏輝氏が手掛けたプロダクトをエンジニアの視点から振り返った。本イベントレポートともに、そのイベント背景とその狙いをカヤック人事広報担当者に迫りました。
人材の流動性が高いWEB・IT業界は、他の業界に比べて「転職」に対するネガティブなイメージはそこまで強くはない。でも、いま会社を辞めようとしている人が「自社の会社説明会をたった一人で実施する」なんてことを実行に移す会社があるだろうか?
その企業こそ、「サイコロ給」や「社員全員人事」など、各所から注目を集める多様な制度を次々生み出している面白法人カヤック。前代未聞(!?)の「退職者による1人だけの会社説明会」をイベントレポート。
本イベントレポートともに、そのイベント背景とその狙いをカヤック人事広報担当者に聞いてみた。
[プロフィール]
面白法人カヤック
衣袋宏輝 Koki Ibukuro @asus4
音大、美大院を卒業後、インターンをきっかけにカヤックに入社。4年間で約30のプロジェクトに参加。デバイス部の部長を務める。コードアワード 2014 グッド・ユーズ・オブ・メディア、カンヌライオンズ・国際クリエイティビティ・フェスティバル PR部門 Bronze、OUTDOOR部門 Bronze、モバイル広告大賞 ベストキャンペーン&ベストアプリケーションなど受賞歴多数。2014年8月末日でカヤック退職。
「入社当初はFlashしか扱えなかった。振り返ってみるとWEBだがWEBにとどまらない仕事を数多く経験したことで、様々な技術や言語を扱えるようになった。いまではリアルなモノに絞って開発している」と語った衣袋さん。「WEB会社でやってきたWEBじゃないこと」をテーマにプレゼンテーションが行なわれた。
ウェブ、アプリ、リアルイベント、サイネージ、ミュージックビデオなどを手がけてきた中で、特に印象的だった3つのサービスの経験談とそのウラ側をエンジニア目線で紹介した。
▽声だけで走るクルマのレース「VOICE DRIVER CUP」
自動車会社のプロモーションとして「人の声で走るラジコン」をブレストを経て開発することになったという「VOICE DRIVER CUP」。WEB側ではFlash、配信はUstreamを活用し、現実に声でマシンを走らせるために様々な通信規格・バッテリーを試行錯誤しながら実現にこぎつけたという。
▽鼻焼肉
学生時代から注目していた「匂い」をWEBとリアルを掛けあわせて制作された「鼻焼肉」。ハッカソンでのつながりから生まれた企画案をカヤック代表の柳澤氏に直談判し、開発に至ったこのプロダクト。「いまとても盛り上がっている『デバイス×アプリ』にいち早く挑戦できた」という。また、「適度にオタクに見える」という理由で監督から指名され紹介動画に出演したウラ話も語ってくれた。
▽2020 ふつうの家展
三井不動産レジデンシャル・建築家ユニット「トラフ」、そして面白法人カヤックが今夏開催し話題となった『2020 普通の家展(Park Homes EXPO 2014)』で展示されたキッチン・テーブル・ドア周りの開発を担当した衣袋さん。
さっそくiOSアプリケーションの新開発言語Swiftを採用し、ドアはユカイ工学がリリースしているKonashi、Bluetooth Low Energy(BLE)などを活用。
ドアの開閉時に鳴る音の開発にはPureDataを開閉速度に応じて変化するようプログラミング。
「普通の技術は使用経験・レファレンスも多く開発が早い。それだけではできない部分だけネイティブに開発した」(衣袋氏)
多くの驚きあるプロダクトを開発してきた衣袋氏が説いたのが「プロトタイプの重要性」と「作り方を作る」という思想だった。
「新技術を使う割合が一定ライン(30%)を超えるとPJTが失敗する可能性が高まる」(衣袋氏)
新技術は絶対躓くもの。その前提を意識して、「興味関心があれば試す!」という姿勢で、会社の男子トイレにiBeaconを仕込んだり、錯視を使ったプロジェクションマッピングを体育館で試したり、振動スピーカーを窓に設置して花火の音を拾ったり…と仕事として使う前に様々な技術を実験してきたそう。多くの失敗を繰り返しながらも、試した量に比例し、アイデアの量・表現の幅が広がってきたという。
またロックバンドHaKUの「the day」ミュージックビデオ制作で、バンドメンバーをAA(アスキーアート)にトレスするソフトを自主開発したり、
暗殺教室の体験イベント『殺ジェクションマッピング』では主人公の触手が出てくるタイミングをMIDI(Musical Instrument Digital Interface)で自作してきた経験から、「普通の作り方をしても頑張ればできる。しかし、作り方から考えてみるともっとできることが増える。」
「カヤックを退職するが、これからも様々な案件をフリーで受けたりしながら開発に携わっていきたい」と語ってくれた。
日頃みている面白いプロモーション・ウェブサービスを開発者の視点で語ると、また違った興味深い見え方がすると感じられたイベントだった。
ところで、このカヤックの「ひとり会社説明会」は衣袋さんで3回目。本イベントを開催したカヤック人事広報にはどんな意図があったのだろうか?
カヤック人事・広報企画:
「カヤックが最も大切にしている言葉は「何をするかより、誰とするか」。この考えを求人に当てはめると、理想的には「こんな仕事をしたい人募集!」ではなく、「こんな私と働きたい人募集!」になるのではないかと思ったのがきっかけです。
コーポレートサイトで社員全員を紹介しているのも、「こんな社員といっしょに働きませんか?」と求職者の方に検討してもらうため。
『ひとり会社説明会』は社員自身がカヤックのコンテンツになっているから実現できるんだと思います。具体的には、①説明会で自分の仕事(+プライベートの活動)を2時間程度話せるネタがある②それが他の社員とかぶってない③他社の人が聞きに来たいと思ってくれる内容であること、ではないかと思います。
ちなみに今回、衣袋君に説明会をお願いしたら「実は、辞めて独立するんです!」という返事だったので、「じゃあ、解散ライブみたいに、退職前に説明会やることにしよう。それは(社員も含めて)聞きたいはず」という流れで実現しました。「カヤック社員も聞きたい説明会」っていうのも、すごくいいなあと思ってました。」
イベントには、カヤックで働くことに興味を持っている人、衣袋氏の手掛けた案件の開発側に興味のある人、カヤックの同僚などが訪れていた。まだひとり会社説明会をきっかけに入社した人はいないとの事だったが、企業のブランディングや採用広報に一役買っているのは間違いないだろう。WEB・IT業界では、より一層人材獲得競争が激しさを増しているなか、趣向を凝らした新しいリクルーティング手法が今後も生まれてくるかもしれない。
[取材・文] 松尾彰大
編集 = 松尾彰大
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