「彼女、彼氏とキスをする」「仲間とダンス」「話題の曲でクチパク」など中高生の間で流行っている10秒動画コミュニティ『MixChannel』。このサービスが大ウケする理由とは?プロデューサーである福山誠さん(Donuts)にインタビュー。話はスクールカーストやヤンキー文化という部分にまで広がった。
突然ですが、みなさんは高校時代「イケてる側のグループ」に属していましたか?それとも「パッとしないグループ」に属していましたか?こういった、学校の見えない階層(スクールカースト)って、10代の頃を振り返ってみると大なり小なり「あったなぁ…」と思うもの。
そして時代は2015年。
いまの中高生、特に「イケてる側のグループ」の間で大ウケしている(と思われる)のが、10秒動画コミュニティ『MixChannel』というアプリです。…正直、三十路を迎えた私、筆者は、はじめて見た時「なんだ!このノリは!?」と、ぶったまげてしまいました。みなさんはどう受け止めるでしょう?
「スマホで10秒のショートムービーがつくれて、シェアできる」と、これだけ聞くとよくあるアプリに感じますが、使われ方がかなり特殊です。
高校生カップルがイチャイチャしながらキスしたり。仲間たちと楽しそうに踊る動画をアップしたり。シェアしあって大盛り上がり。
…どれも恋人や友だちがいないと出来ないじゃないか!?そして、そこまでオープンにしていいのか!?
まさに「学校でイケてる側グループのノリ」が、ダイレクトに反映された世界…?
アプリの枠を飛び越え、コミュニティを生み出し、ムーブメントになっている『MixChannel』。一体どんな発想から生まれたのか?プロデューサーである福山誠さん(Donuts)にお話を伺いました。
― 『MixChannel』すごく面白くて、ついつい見入ってしまうのですが…もし高校生の頃に見ていたら「リア充どもめ!」と妬んでいたのではないかと(笑)
たしかに(笑)ただ、そういう「妬み」や「憧れ」も人気の背景にあって。
リア充をどう定義するかによると思うのですが、中高生のコミュニティで、本当に最上位にいる子たちって『MixChannel』には、そこまでハマっていないと思うんですよ。たぶんインスタとかやってる(笑)「モデルをやっています」とか「クラブで遊んでます」とか、そういう子は「完全に住む世界が違うなぁ…」と。
『MixChannel』でいえば、学校のベストカップルに選ばれたり、文化祭のコンテストでミスターやミスに選ばれたり、そういう身近にいるような人気者がトップに出てくるイメージですね。
どんなサービスでも、身近にいる人気者が「おもしろい」と思うものから火がつくことって多いですよね。ブームが起こる構図として「憧れ」や「嫉み」みたいな部分も含め、若者文化にはわかりやすさがあると感じていて。
― 福山さんが高校生だった頃の感覚も『MixChannel』に反映されているのでしょうか?
たしかに…あまり考えたことはなかったのですが、参考になることは多かったかもしれません。
田舎の県立高校で、ヒエラルキーの最上位にヤンキーがいたんですけど、徒党を組んで「自分たちがメジャーなんだ」というポジションを作ったり。きっちりとした階層があって、社会の縮図になっていたような気がします。
おもしろいのは、メジャーなグループにいる人が、他のグループの人に注目して、グループに入れてあげたりすること。「もっと引き上げてやろう」みたいな。
じつは『MixChannel』でも同じようなことが起こっていて、人気の出てきた投稿者が、別の投稿者を紹介したりするんですよ。それが、紹介した側の満足感にもつながるんでしょうね。そんな投稿者間でのコミュニケーションがあったりします。
― 高校時代から俯瞰した目線で、コミュニティを見ていたのでしょうか?
ふわっと全体を客観視する、性格のわるい奴だったかもしれません(笑)割りといろんなコミュニティの人と話せて、広く友だちがいて。ヤンキーとも、オタクとも、話せるみたいな。
今、思ったのは、僕がヤンキーだったらこういうサービスになっていないでしょうし、逆にいじられる側の下位グループにいたら、上位グループを目の敵にして作っていなかった…と、なんかわざわざ中間のグループにいたって言うのも、それはそれでイヤらしいですね(笑)
― (笑)ただ、そういった分析あっての『MixChannel』なのかなとも思います。
どうなんですかね、斜に構えた高校生だったことは確かなんですけど…結果論的なところもあって。どんなコミュニティも、時代に関わらず、似た構図になっていると思いますし。
実際、企画した当初は「若者向け」「人気者になれる」の大枠があっただけで、やりながら方向性が見えてきた部分もあります。だから、同じ考え方で次もヒットさせられるかと言うと、全然そんなことはないと思っていますね。
― Donutsが手がけた『単車の虎』もそうですが、若者文化やコミュニティから切り口を見つけて、ヒット作を生み出すって凄い上手いという印象がありました。
どんな市場があるか?マーケットインの発想から考えるアプローチは前提としてあるんですよね。ただ、定性的な情報、断片的な情報など「裏」はかなり大事にしているかもしれません。
『単車の虎』で言うと、代表の西村がつくったので、予想の話になってしまうんですけど、データだけでは見えないディティールにすごくこだわっているというか。
たとえば、「ヤンキー人口は何百万で、こういう地域にいて、所得はどれくらいで、デバイスはAndroidが多くて、こんな絵柄が好き」ってデータから探ることはできると思うんです。
もちろんそれはやるんですけど、西村は『チャンプロード』というヤンキー雑誌を毎月買って読み込んでいたらしいです。そのうち、ヤンキー的なカッコ良さがわかってきて、刺繍やパーツなどディテールが反映されていく。やはりこういった工程を踏まないと、刺さるものはなかなか作れないんじゃないかと思います。
― 『MixChannel』だと、どのようにしてディテールを探ったのでしょう?
ユーザーヒアリングとかはもちろんですけど、じつは家内が高校で教師をしており、たまに文化祭や体育祭を見に行かせてもらったりするんですよね。
応援団をやる子たちは美男美女で、度胸もあってタレントとして優秀だなーとか。それを見て「わぁ〜!」って声援を送る子たちがいる。その横には「俺たちのほうがもっとイケてるのに」みたいなグループがいたり、「ボクらには無関係です」みたいな顔をしているオタクっぽいタイプの子たちが関係ない話をしていたり(笑)そういう光景を見ながら「なるほどな~」みたいなことはありますね。
あとはTwitterですね。「こんなツイートをするんだ」とか「こういうのにRTがほしいんだ」とか。今って「カップル」を「CP」って略したりするんですけど、そういうディテール、こだわりにも目線を合わせるようにしています。
『MixChannel』って、ユーザー自身が遊び方を見つけて、それがムーブメントになることが大事なんですけど、「この遊び方、ムービーの使い方がイケてるからもっと目立たせよう」と運営側のセンスもかなり問われるんですよね。
― アップされる動画のクオリティが高いことにも驚かされました。
動画の質をあげていくために、あえて「何でもできちゃう」みたいなところを優先していて。簡単でできあがりが気持ちの良いUXというより、わかりにくいぐらいが丁度いいと思っていて、コンテンツを見て「すげーな」みたいになって「どうやって作るんだろう」と、ちょっと友達に聞いたりしながら自分も作ってみるという流れが理想なんです。だから最初は凝った動画が全然あがってこなかったんですけど、「これがイケてる動画です」という風に教科書的な動画を目立たせて、コンテンツが溜まるまで地道に頑張っていくという(笑)こういうプロセスで、「動画をつくる」ということ自体が流行るようになっていってきました。
― 投稿者に高いハードルを与えているともいえますよね。でも“諦めさせない”ことも大事で。そのバランスってどう決めるんですか?
一定の人が諦めてしまうのは、もうしょうがないんですよね。『MixChannel』の設計上、上位10%のセンスのある人、おもしろい人が、人気になってトレンドをつくっている状態であれば成立するコミュニティで。トラフィックもそこがほとんどを占めています。だから万人受けさせる必要はなくて。
椅子取り合戦のイメージで、上位に表示される枠を取り合うんですけど、その時、無作為に選んだ100人のユーザーに参加してもらうより、フィルタリングしたハイセンスな10人に戦ってもらうほうが、ゲームを閲覧するオーディエンスにとってもおもしろいじゃなないですか。
『MixChannel』が「動画コミュニティ」であり、「動画を見るメディア」にもなり得るのは、そういうスパルタなところがポイントになっているのかなと思います。
これも「どんなコミュニティにするのか?」が根本にあったことが大きくて。コミュニティをつくったり、維持したり、色んな手法、色んなやり方があって、随時取り入れるんですけど、より深いところに突っ込んでいく。
「不特定多数の人に見られる」って別にオンラインに限ったことではなくて、社会におけるコミュニティの構図そのものですし、その中で「見られて気持ち良い」「反応を得たい」って絶対にありますよね。
― 『MixChannel』を見て“なんだこいつら”みたいなネガティブな感情を持つ人もいると思います。ただ、そういう「気持ち」にタップしていて。
ある意味で「嫌われるサービスである」ことも必要だと思うんですよね。
― 強烈に受け入れられるということは、嫌いな人が一定数生まれるということでもありますよね。コミュニティを生み出す、ムーブメントをつくる、その企画のヒントが伺えたと思います。本日はありがとうございました!
[取材・文]白石勝也
編集 = 白石勝也
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