エンジニアのキャリアステップの中でも、国内外で注目を集めているのがプロダクトマネージャーという職種。そもそもプロダクトマネージャーの役割や要件とはなんなのか?Engineering Backgroundを持った人物が発揮できる価値とは?
エンジニアのステップアップの道で注目を集めているのがプロダクトマネージャーという職種。とは言っても、決して新しい職種名ではない。その名の通り、マネジメントが一つのメイン業務ではあるが、具体的にどんなスキルが必要なのか。エンジニア出身であることが、プロダクトに対しどんな影響を及ぼし得るのか。
トップエンジニアとして、グリーでネイティブゲーム事業を牽引し、昨年9月にアドプロダクトマネージャーとしてスマートニュースにジョインした渡部拓也さんにプロダクトマネージャーの真髄を伺った。
― いまWEB・IT業界ではエンジニアのネクストステップとしてプロダクトマネージャーが注目を集めているかと思います。
エンジニアにはよく2つの道があるといいます。一つはスペシャリストになる道。そしてもう一つはマネジメントなど、合わせ技で新しい職種に行く道。後者の上位職種の一つがプロダクトマネージャー。
だからゲームなどのプロダクトによってはデザイン出身、アート出身、サウンド出身ということがあり得る職種。
これまでのプロダクトマネージャーは、文系でビジネス畑出身の「企画屋」のような方が多くWEBディレクターだったり、WEBプロデューサーといったものと大きな違いがなかったのかなと思います。
しかも会社によっても呼び名や役割は違うので明確なスキルセットというものもなく。宙に浮いた「言ったもの勝ち」みたいな職種名という印象がある人も多い。
― 一番大事な役割、あるいは渡部さんが最も重要視しているプロダクトマネージャーの仕事とは?
execution(実行力)です。ゼロトゥワンが評価される業界ではありますが、その中でもたゆまぬイノベーションをどう支えていくのかがポイントになるのではないかと思います。
― 渡部さんはどういった経緯で、スマートニュースの広告プロダクトマネージャーに?
僕はずっと現場でエンジニアとして働いた後、前職ではマネジメントまで経験しましたが、このままだとミドルマネジメントで止まってしまうのではないかという危機感が出てきました。
マネージャーとしての業務は自分のキャリアにとっても大きな経験でした。ただ「どの経験値を自分で取りに行きたいか」を考えたとき、プロダクトに紐付いた仕事にコミットして成果を出していかないとマズイなと思ったんですね。
― 具体的にマズイというのは?
マネジメント能力の発揮は所属している企業からの評価しか受けられないのではないかということです。プロダクトに紐付いたスキルを獲得してコミットしていなければ、業界内での評価、市場価値が高まらない、あるいは低くなってしまうのではないかと。
特にシリコンバレーを中心に海外ではそういった考えが主流です。GoogleだったらMapsやGmailを手掛けたプロダクトマネージャー、FacebookだったらMessenger…、といった感じで「○○を作った人」が評価される。僕自身もそうあるべきだと思っています。だからテック系の管理職の人はエクセルで評価シートを作っているだけじゃなくて、現場にもっと出てきたほうがいい。
― 単なる「企画屋」ではなく、エンジニアリングのバックグラウンドがあることは、プロダクトマネージャーとしてどんな価値を発揮できるんでしょうか?
私も試行錯誤している段階ですが、結果としてチームからイノベーションが生まれ、みんなが幸せに働けてプロダクトのクオリティと成果が圧倒的に高まればいい。そうシンプルに考えています。
― エンジニア出身者がプロダクトマネージャーになると、開発効率やエンジニアへの共感、リスペクトと言った面もメリットといえるのかと思います。
結局プロダクトを作っているのはエンジニアなので、エンジニアが一番プロダクトのことを考えなければいけない。その価値の発揮の仕方がプロダクトマネージャーにも応用できる。
ただ私の場合、あまり技術的な面で口を出すことはありません。もちろん同じ言語でコミュニケーションがとれたり、自分が手を動かしてチャチャッとツールを組んだりできるのは、コミュニケーションコストが低く、スピードが上がるので価値なのかなと思いますが。
本質的にはプロダクトマネージャーって無力なんです。例えば、秒間何億リクエストがさばけるサーバーを作っているわけでもないですし。ただ、あれをしよう、これをしよう、と言っているだけで、実際に自分では何も作っていなかったりします。
― エンジニアリングで口を出さないという話は意外です。
エンジニア出身のプロダクトマネージャーで気をつけたいのは、「自分ならできる」という前提の考えを持ってしまうことです
人間は過去の記憶を美化してしまう生き物。1週間悩んで仕様を考えたあとに、やっと手が動いてプラス1週間かかった経験は、いつのまにか「俺は1週間で作った」という記憶に書き変わっていたり、失敗以上に成功の記憶だけが残っていたり。過去の経験から離れ、冷静に目の前の事実を見ながら判断していくことが必要です。
― なるほど。ちなみにエンジニアの中でもスペシャリストではなく、プロダクトマネージャーに向いている人はどんな方だと?
ナイスキャッチ能力が高い人でしょうか。いろんなレイヤーでトラブルが起こるのは前提。俯瞰したマネジメントでトラブルの兆候に気づけるか、そしてこぼれ落ちるものをどれだけ拾えるか。
そして大前提はプロダクト・サービスが好きなエンジニアで、色々触っている人。技術のみでこの業界にいるわけではない、インターネットが大好きな人がプロダクトマネージャー向いているのは間違いないですね。
― 日本でも「○○のプロダクトマネージャー」がより高く評価されるようになる日も近そうです。エンジニアのキャリアプランをテーマにした面白いお話でした。ありがとうございました!
文 = 松尾彰大
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