スタートアップで働くエンジニアにとって必要なスキル・素養は何だろう?高度なプログラミングの技術?コミュニケーション能力?あくなき向上心? 不動産ベンチャー“お部屋探されサイト”iettyのCTO戸村憲史さんにお話を聞きました。
【Profile】
株式会社ietty
取締役CTO 戸村憲史
1984年生まれ。東京電機大学情報デザイン学部卒業。2007年SEとして株式会社CSK(現:SCSK株式会社)入社。2013年4月株式会社ietty入社。現在はCTOとしてiettyの開発全ての責任者として従事。
SIerからWebベンチャー・スタートアップへ。
エンジニアにおけるキャリアの選択肢のひとつになっているが、「一体どんなエンジニアが活躍できるのか?」というのは気になる部分。そこで、SIerから不動産ベンチャー“お部屋探されサイト”iettyにジョインし、CTOを務めている戸村憲史さんにお話を伺った。
戸村さんは前職で大手SIerに勤め、受託開発をメインで担当。顧客要望のヒアリング、設計、開発、納品と上流から下流工程まで経験。同時に「起業してWEBサービスに携わりたい」という思いを捨てきれず、「Startup Weekend 」などの勉強会に頻繁に参加。そういった縁もあり、設立もないiettyにCTOとしてジョインした。
「ユーザーの反応がダイレクトに返ってくる。システムの使い勝手を不動産屋の担当者にヒアリングしたり、ユーザーテストの様子をチェックしたり、その声をヒントにデザイナーを含むチームでスピーディーにサービス反映できる」
と、Webサービスを提供する事業会社ならではの醍醐味を語ってくれた戸村さん。同時に、自身の経験から感じたという「スタートアップに必要なエンジニアのスキル」とは?
― 本日は「スタートアップのエンジニアにとって必要なスキル・素養とは?」というテーマなのですが、どういったものが必要だとお考えですか?
もちろんプログラミングなどのスキル面も大事ですが、その前に、自分たちで考えて「良い」と思ったものを作る、そこにモチベーションが持てるかどうかが大事だと思います。意志をもって作ることで自然と責任感も芽生えるんですよね。実際、開発の現場から「これを作りたい」とあがったものは質が高くなることが多いんです。しかもスピーディーにできる。
私はCTOとしてメンバーから上がってきたアイデアをジャッジする立場ですが、GOかNGかの基準は、そのメンバーが「どれだけ自身で意志を持ち、細かいところまで考え抜いたかどうか」を見るようにしています。「○○さんが作った方が良いと言っていたので……」など考えが浅そうだと思ったら、案自体は良さそうでも、再考を促すこともあります。本人がどれだけ腹落ちしているか。
iettyの特徴の1つである、不動産屋さんの営業マンと、エンドユーザーによるチャット機能なども、まさに現場の意見から生まれたアイデアでした。一方で「電話でやりとりできる機能があった方がよくない?」という意見を採用して開発したものの、実際に運用してみるとあまり使われることもなく、逆にユーザー登録率が下がってしまった。そういった時には「やっぱりいらないよね」とすぐに廃止を決定する場合もあります。そのあたりは結果重視で、ドライな判断も求められますね。
― 他にスタートアップのエンジニアとして求められる要素は何でしょうか?
やはり事業会社としてのサービスが好きだということと、「ユーザーに良いものを届けたい」という想いがあること。技術に強ければいいという人よりも、少々古い技術しかできなくても、ユーザーのことを考えながら、どうするべきか判断して開発できる人の方が、スタートアップの場合はやっていて楽しいと思います。私も開発会社のSEから事業会社に行きたいと思った一番大きな理由は、ユーザーの声に触れながら開発に携わりたいというところでしたから。
その上で、自分で情報収集して勉強を続けられる人が良いですね。通勤時間の30分とかでも良いので、本を読んだりする時間を作れるかどうか。私も以前は自宅とオフィスの距離が近すぎたので、あえて本を読む時間を作るための少し遠くに引越ししたりしました。毎日少しずつの積み重ねが、大きなスキルアップにつながるので、そういう成長マインドは持っていてほしいですね。
― スキル面よりもマインドが重要になるということですね。…あえてスキルの面でいうと?
一般的なプログラミングスキルは必要ですが…そうですね、加えてヒューマンスキルで、個人的にも、開発部としても、いろいろな職種のみんなが話しかけやすい、相談しやすい雰囲気づくりは重視しています。それは前職の先輩から学んだことで「エンジニアとして最終的に生き残れるのは、仕事を頼みやすい人材」という話がありまして、人間同士の関係づくりは大切にしています。
― …実は先ほどiettyのとある女性社員さんから聞いたのですが、社内の女子飲み会で「お兄ちゃんにするなら誰がいい?」という話題で戸村さんが圧倒的人気だったそうです(笑)
それは初耳です…(笑)。お兄ちゃんにしたい理由の一つかになるかわかりませんが、画面に向かって作業に没頭中のエンジニアって、ちょっと声をかけづらかったりしますよね。普段からこちらから話しかけておくと、何かあった時に相談してもらいやすいというのはあるのかな(笑)。
あと、今は開発部と他の部署のオフィスフロアが離れているので、社内コミュニケーションにはSlackを使っていて。開発部に問合せ・質問があった時は、できるだけ1分以内に誰かがレスポンスしようと「Slackの見張り係」を決めているんですよ。週替わりの当番制で。
「調査して後ほど返信します」とレスポンスがすぐあるだけでも、問合せた人にとっては安心感が違ったりするじゃないですか。一度でもスルーされた感触を与えてしまうと、次から問合せしにくくなってしまう。対面でもSlackでも「話しかけやすいエンジニア」であることは気をつけてますね。
もちろん業務の上でエンジニアとして大事なスタンス、そしてスキルもあると思っていて。スタートアップに限ったことではないですが、キレイなコードを書く、それができるように自分たちで環境づくりをするということ。
最近はじめた取り組みで、「午前中はコードをきれいにする時間」ということにしています。スタートアップだと、やるべき案件が目の前にあると、少々コードが汚くなっても、スピードを優先してどんどんプログラムを書いていってしまいたくなるんですよね。しかし、それを積み重ねていくと、だんだん複雑なコードになっていってバグが生まれやすくなり、いざバグが起きて調査をするとなった時に「ソースコードが汚ねぇ!」って阻害要因になったりしますし、エンジニア自身にとっても、汚いコードのまま次の仕事に進まなくてはならないのは、小さなストレスが溜まっていくものなんです。優先度は高いけれど、緊急度が低い仕事ってどうしても置き去りになってしまうので、半ば強制的に午前中はコードをきれいにする時間にすることで、逆に午後は新しい機能の開発にドンドンとりかかってもらうようにしています。
それと2人1組でプログラム開発をする「ペアプログラミング」をとり入れています。ペアを組むことによって、励まし合うとかモチベーションコントロールの側面もありますが、お互いの得意な技術や言語を伝えあったり、バグを早い段階で発見できたりといったメリットがあります。どちらが上司で部下ということではなく、相棒のような関係でコミュニケーションをとりあいながら行う開発手法です。
― プログラミングのスキルということだけではなく、ヒューマンスキル、エンジニアとしてのスタンスや姿勢、考え方など多面的に伺うことができました。自身がどんなタイプのエンジニアを目指すのか、キャリアを選択するのか、参考になるお話だったと思います。本日はありがとうございました!
文 = 鈴木健介
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