思いきった若手の人材登用で知られるアドウェイズ。20代で役員に任命されたり、いきなり新規事業に新卒社員を抜擢したり。同社成長の裏側には人材登用・育成に対する独自のスタンスがあった。常に人材が不足しているWeb業界、どう「人」と向き合うか。アドウェイズ代表岡村陽久氏に伺った。
― アドウェイズでは、海外事業や新規事業をどんどん20代に任せていますよね。29歳で執行役員になった山田翔さんがいたり。本日はその人材登用・育成の秘密に迫りたいと考えています。まず、岡村さんはどういった若手を優秀だと思いますか?
それで言うと「そもそも全員が優秀だ」という考え方があるんです。どのような人にも「強み」や「個性」があるので、それを必ず引き出したり、活かしたりしていく。そういう覚悟で向き合っているつもりです。
自分で言うなと思われるかもしれませんが、私は人よりも「人を信じる力」がある方だと思っていて。たとえば、他の会社だったら「ダメ社員」とレッテルを貼られるような実績が出せていないメンバーがいたとして、何の根拠もないのですが、本当に心の底から「必ず輝けるところがあるはず」と信じられるんです。「このメンバーは絶対に優秀なんだ」って言い切れる。そういった勘違い力にすごく自信があります。
― 何かそう思えるようになったきっかけなどあったのでしょうか?
じつは強烈な体験が前職時代にありまして。
訪問販売の会社だったのですが、完全な歩合給制でかなり厳しい営業会社だったんです。売れていない営業はどんどん辞めていくという会社でした。もう15年以上前のことなのでお話しすると、全く売れていない営業メンバーはコストにしかならないので、会社としても辞めてもらうような方針がありました。
具体的には、営業車に乗って2人1組でエリアをまわるのですが、一週間以上、全く売れていない営業メンバーは、まわりに何もない畑の真ん中にポンと降ろされてしまう。「ここで営業をお願いします。5時間後に迎えにきますので」と。まわりに民家がないので営業できないわけですね。やはり売上はゼロのまま。そうすると自然と会社をみんな去っていくしかなくなって…酷い話ではありますが、それくらいシビアな営業の世界でした。
そういった環境のなかで、後輩だったAくんも同じように売上をあげることができず、来る日も来る日も、畑のド真ん中に降ろされて。それなのに彼…ぜんぜん辞めなかったんです。すごい精神力ですよね。「なんで売上がゼロなのに会社に残り続けるの?」と質問をしてみたんですよ。そうしたら「夢があるんです。僕はF1が大好きです。お金を貯めて絶対にF1のレースが見たいです。だから営業で稼がないといけないんです」と言っていて。
その話を聞いて、すごく意志がありそうだったので、営業のコツを教えてあげたら、少しずつ売れるようになっていって。1年くらい経って係長に昇格したんです。あとから「あの時はありがとうございました。F1のレースを見に行くことができました」と報告してくれて、それがすごくうれしかったんですよね。
Aくんはもともと人と話すと緊張してしまって普通に会話することも難しいタイプで、営業には向いてなかったと思います。でもすごいですよね。気持ちひとつで頑張って。その時に思ったんです。こっちの常識で勝手に判断しちゃいけない。本人の意志がある限り、可能性はある。可能性のない人なんていない。「この人は優秀じゃない」なんていうレッテルを勝手に貼ってはいけないですよね。何かしらに化けますよ、絶対。
― ただ…やはり「輝ける場所」が見つからず、ドロップアウトしてしまう人もいるわけですよね。どうすれば「輝ける場所」が見つかるか。それはマネジメントの役割か、それとも本人の努力次第なのか。どう思いますか?
正直、どっちでもいいと思っていて。本人に何かしら強い意志があれば、会社がどうであれ何かやり遂げるでしょうし、本人に強い意志がなかったとしても会社が個性を引き出してあげて、輝ける場所が見つかるまで付き合ってあげればいいだけで。理想としては、会社としてやらせたいことと、本人がやりたいことが一致することですけどね。
― アドウェイズでは、みなさんが個性を活かして活躍しているイメージがあります。
アドウェイズが特別ということはないと思います。どの会社も、社会全体でも、もともと持っている際立った才能や個性で勝負ができてるのは2割~3割くらいですよね。多くの人は自分の才能や個性はなかなかわかりません。でも、必ず活躍はできるし、輝ける場所があると思っていて。
そういう人たちが輝けるためにも、アドウェイズ全員で大事にしているのが、『なにこれ すげーこんなのはじめて』という会社のスローガンですね。とにかく「みんな、もっとおもしろいこと言っていこう」というのは意識しています。その人のまだ見えてない本性であったり、個性だったり、そこから生まれる何かを本能的に求めているのかもしれません。
― どんな人にも個性・可能性があるとして…それをちゃんと花開かせられる人もやはり一握りだと思うんです。それができる人たちに共通点はあるのでしょうか?
ある意味で賢くない。「俺はこれで勝負していくんだ」って勘違いできる人だと思います。勘違い力が高い人ですね。「おくりバント」というアドウェイズの子会社があるんですけど、高山洋平という男が社長をやっているのですが、すごく高い勘違い力を持っています。おくりバントの創業時、いきなり内装費に300万円を使ってしまってみんなを驚かせた人物で。まわりから見たら「経営ができるのかだろうか?」と思うわけですが、本人は本気だし、「やれる」と思い込むことができています。盛大に勘違いしている。
― 「自分を信じる力」があるということでしょうか?
自分を信じられるだけの力があるかどうか、そう思うとおそらくないのだと思います。経験も、スキルも無いなかで挑戦ができる。だから「根拠もないのに勘違いできる」ってすごい能力だと思っています。
高山はパソコンさえうまく使えなかったのですが、中国アドウェイズで営業のトップになりました。そこから支社長のようなポジションで実績をあげ、子会社の社長になって、今だと業界でも有名人になって。人の懐に入って誰とでも仲良くなれる、そこに特化して活躍してくれています。ある意味、現実を目の当たりにしたらできない理由、やらない理由だらけじゃないですか。そんな厳しい現実が見えてしまったら「あ、これは絶対に無理だな」と尻込みをしてしまう。でもいい意味で現実が見えていない、「絶対にやれる」と勘違いできる能力がある人は何かしら結果を残すと思っています。…ただ、高山が優秀な人材かどうか、その点に関しては世の中の評価に任せたいと思います(笑)
― いろんな個性を束ねるのはすごく大変だと思います。なにか気をつけていることなどありますか?
個性もそうですし、その人の価値観を否定しないことでしょうか。一昔前だとお金をたくさん稼いで、いい車に乗って、高級ディナーを食べて…そういった価値観でみんな成功したいと思っていましたが、今はそうじゃないですよね。いろいろな価値観でみんな働いている。自分と価値観が違うと、相手のことを否定したくなる時があって。「あなたは間違っている」と言いたくなるかもしれません。でも、どちらに正解も間違いもない。相手の価値観が理解はできなくても、応援はできるはず。私もいろいろな社員の話を聞きながら「こういう価値観もあるんだ」と勉強をしているところです。
― 岡村さんご自身の「働くモチベーション」でいうと何ですか?
前職、訪問販売をやっていた頃は昇進という名誉・地位がモチベーションでした。会社をつくった時も同じですね。売上や社員数など、わりとわかりやすい指標をどんどん伸ばしていって。
でも、ある時、「売上をあがったけど、これは何のためだろう」と思うようになっていきました。そこから少しずつ「人が成長するってことに喜びを感じるんだ」と自分で気づくようになりました。
それで経営理念を「人儲け」にして。会社なので売上はすごく重要ですが、それ以上に、人が成長していることを「人儲け」と呼び、みんなが「入社して良かった」「成長できた」“人が儲かった”って思えたほうが幸せだ、そんな風に価値観が変わっていきました。
100億円を儲ける会社は世の中にたくさんありますが、入社したらめちゃくちゃ優秀になれる会社はそう多くないですよね。100億円儲けて40億円税金払うより、世の中に優秀な人材を輩出するほうがよっぽど価値があると私は思っています。
― 最後にこれからのWeb業界を生きていく若い世代に何かメッセージがあればお願いします。
この業界、すごく伸びていますよね。伸びている業界は往々にして人が足りない。ちょっとした経験があるだけでも転職に困らないんですよ。売り手市場ですし。アドウェイズの社員でも「少し年収がアップする」とか「他でちょっとやってみたい仕事ができた」とか軽い理由で転職する人もいて。それを否定するつもりはないのですが、きちんと1社で腰を据えて自分の力をつけ、何か成し遂げてから次に進んだほうが絶対にいいと思います。「おれがこれをやったんだ」といえるものを持って、ピークで転職したほうがいい。それはすごく感じますね。
― どこでも活躍できる力をまずはしっかりと身につける。これはWebの業界に関わらず、20代でキャリアを考えていく上で、ものすごく大切なところと言えそうですね。本日はありがとうございました!
文 = 白石勝也
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