「子どもが30分泣きやまないんですけど、大丈夫ですか」。子どもについての質問や悩みを小児科医に相談できるサービス《小児科オンライン》には、子育ての不安が多く寄せられます。このサービスを生み出したのは現役小児科医の橋本直也さん。なぜWebサービスをつくったのか?原体験となるきっかけ、思いを伺いました。
赤ちゃんを産み、育てていく。
その一瞬一瞬は何ものにも代えがたく、うれしい時間。少しずつ子どもの表情が豊かになったり、自分の足で立てるようになったり、言葉を発するようになったり。
同時に不安や悩みも生じるもの。とくにはじめての子育てで戸惑いをひとりで抱えているお母さんであればなおさらです。
そういったお母さんたちのためのサービス《小児科オンライン》が2016年5月31日にリリースされました。平日の夜18~22時、LINEや電話、Skypeなどで小児科医に心配・悩みなどを気軽に相談できるというサービスです。
とてもユニークなのは「現役小児科医」である橋本直也さんが、エンジニアをはじめとするWebの専門家たちと同サービスを運営しているということです。サービス開発には元ノハナのエンジニアである田中和紀さんも参加。「子育て中のお母さんたちの孤立化」という社会課題をテクノロジーで解決していくサービスとしても注目度が高まっています。
橋本さんは大学を卒業後、2年間の研修医期間を経て、3年間小児専門病院で勤務し、小児科医に。そもそもなぜ、現役小児科医がWebサービスをつくったのか?橋本さんが、小児科オンラインを立ち上げたきっかけ、そして、サービスに込めた思いを伺いました。
<プロフィール>
株式会社Kids Public 代表取締役/医師
橋本 直也
小児科医。聖路加国際病院での研修を経て、国立成育医療研究センターにて小児科研修。その後東京大学大学院にて公衆衛生修士号を取得。健康な子どもたちが健康なままでいられる社会の実現のために小児科医ができることを模索。2015年に株式会社Kids Publicを設立し、ITを使って人と人を繋ぎ、子どもたちの健康に貢献することを目指す。
―橋本さんは小児科の専門病院の国立成育医療センターで3年間働かれていたとのことですが、実際どのようなお仕事をされていたんですか?
小児科医として、さまざまな小児科の専門分野で働きました。なかでも印象に残っているのが、救急外来です。喘息発作の子、ジェルボールの洗剤を間違って飲み込んでしまった子…。本当にたくさんの子ども達がやってきました。でも、関わるなかで「病院にいるだけでは、病気になった子どもを待つことしかできない」ということに気づいたんです。
―「待つことしかできない」とはどういうことでしょう?
そもそも子どもが病気にならないように、小児科医側から働きかけていくことが大事なんじゃないかと思いました。たとえば「親がタバコを吸っていると、子どもの喘息が悪化する可能性がある」「子どもはジェルボールタイプの洗剤を誤飲してしまうことがある」など。小児科医が働きかけることで、親の”知らなかった”が原因で起きてしまう事態を防ぐことができるんじゃないか、と。
救急外来で特に印象に残っているのは、お母さんが手を上げてしまった子どもを診たときです。お母さんの不安は、時として「手を上げる」という行動に表れることがあります。その背景にあるのはいろんな原因でお母さんが社会的に孤立してしまうという状況です。
もともと子どももお母さんも健康だったのに、社会の枠組みによって最終的に追い詰められて手を上げてしまったわけです。だから、お母さんを責めて「なんでやったんですか」というよりも「どうしてお母さんが孤立してしまったのか?」を考えていくことが僕は大事だと思いました。現場を知る小児科医が関わっていかないと延々とこういう子たちは病院に来てしまう。
子どもたちの健康は、親の行動や社会的な要因に大きく影響を受けています。病院に来る前段階から、小児科医が関われば、子どもの健康を守ることができるんじゃないかと思いました。
ーそこからすぐにWebを活用しようと思いついたんですか?
最初は、Webサービスをつくるとは全く考えていなかったんです。まずは研究しようと思いました。公衆衛生学といって、子どもの健康に影響を与える社会的な要因を学ぶ分野があります。それを学ぶために、大学院に進みました。
ちょうどそのとき、大学院の仲間がWebメディアを立ち上げたんです。僕もライターとして加わっていたんですけど、記事がたまにバズって全然違うところから「君の記事読んだよ」って反応が来たとき、すごくおもしろいと思いました。ITを使うとこんなにもいろんな人に影響を与えることができるのかと、身をもって感じたんです。
また、仲間が立ち上げたメディアは、専門知をわかりやすく噛み砕いて、いろんな人に知ってもらうためにつくったメディアだったんです。自分の思いを基点にビジネスを展開する様子を目の当たりにして、僕自身も、子育てに不安を抱えたお母さんたちに影響を与えられるものを自分の手でつくりたいと思いました。
―医者としてやれることをやろうとは、また別の発想ですよね?
医者ってやっぱり職人なんです。病気になったら病気を診る職人なんですよね。ビジネスの人は社会と関わるいろんなノウハウを持ってるんですよ。たとえば、どういうふうにユーザーを獲得するか、どういうふうにバズらせるか、どこにニーズがあって、どういうふうにアプローチするのか、とか。ビジネスの考え方をうまく応用すれば、子育ての悩みを抱えたお母さんたちとコミュニケーションが取れるんじゃないかと思いました。
―実際にはどんな相談内容が寄せられているんですか?
相談内容の3分の2は子育ての不安が寄せられています。たとえば、「子どもが30分泣きやまないんですけど、大丈夫ですか」とか、「昼間に他の先生にこんな風に説明を受けたんだけど、どう思いますか?」とか。急ぎではないんだけど、お母さんが不安に思っていることがほとんどです。どんなに小さな悩みでもなんでもいいんです。ひとりで抱え込まずに聞いてほしいですね。
―LINEやSkypeなど、お母さんの使い慣れた方法でやるからこそ聞けることもあるのかもしれないですね。運営はどのようにされているんですか?
現在、小児科医師12名でシフトを回しています。18時から22時の間、パソコンの前で医師にスタンバイしてもらって、予約が入り次第対応しています。対面ではないけれど小児科外来とほぼ同等のつもりでやってもらっています。
―最後に、橋本さんの今後のビジョンについて教えてください。
より多くのお母さんたちに、小児科オンラインを届けていきたいです。現在サービスは初月無料で、以降月額980円なんですけど、それは本当にやりたいことじゃない。自治体や企業との連携で、実際にこのサービスを利用される親御さんからはお金をとらないモデルをつくっていきたいです。そこを見据えながら、今はまずはサービスとして実績を積み、信用を得ていくフェーズだと思っています。不安を抱えたお母さんに寄り添いたい。そして、誰もが子育てにおいて孤立しない社会をつくっていきたいですね。
―小児科オンラインは、お母さんの子育ての不安を受け止め、寄り添うサービスですね。子どもが健康でいられる日常をつくるために、子どもの一番近くにいるお母さんをひとりぼっちにさせない。ひとりでも多くのお母さんの手のひらに、このサービスが届き、子どもの健康が守られてほしいと思いました。本日はありがとうございました!
4月から新社会人となるみなさんに、仕事にとって大切なこと、役立つ体験談などをお届けします。どんなに活躍している人もはじめはみんな新人。新たなスタートラインに立つ時、壁にぶつかったとき、ぜひこれらの記事を参考にしてみてください!
経営者たちの「現在に至るまでの困難=ハードシングス」をテーマにした連載特集。HARD THINGS STORY(リーダーたちの迷いと決断)と題し、経営者たちが経験したさまざまな壁、困難、そして試練に迫ります。
Notionナシでは生きられない!そんなNotionを愛する人々、チームのケースをお届け。