フックアップ。それは、ヒップホップシーンに根付くカルチャー。成功者が"才能はあるのに世間に知られていない人”を引き上げる行為を指す言葉だ。「フックアップはビジネスシーンでも起きている」と話すのが、徳谷柿次郎さんと望月優大さんだ。彼らと一緒にこれからの生き方を考えていきたい。
「フックアップ」という言葉を耳にしたことがあるだろうか?
これは、才能はあるのに世間に知られていない人を成功者が引き上げる行為を指す言葉で、実はヒップホップシーンに古くから根付いている。全米で最も売れているラッパー EMINEMの才能を見出しフックアップしたのは、ラッパーであり、ヘッドフォンブランド「Beats」の開発者であるDr.Dre。そして、フックアップされたEMINEMはその後、50Centをフックアップ。50Centの1stアルバム『Get Rich or Die Tryin'』は全米で800万枚以上の売上を記録している。
「フックアップはヒップホップシーンに限った話ではなく、ビジネスシーンでも頻繁に起こっているのではないか」。
こう話すのが、以前CAREER HACKにも登場したバーグハンバーグバーグのジモコロ 編集長 徳谷柿次郎さんとスマートニュースの望月優大さんだ。
特に柿次郎さんは、逆境や理不尽、劣等感だらけの10〜20代前半を過ごしていたが、ある人によるフックアップを経て人生に活路を見出した。「フックアップされなかったら、"徳谷柿次郎”は生まれませんでした」と話す。また、「毎日いろんな人のフックアップに支えられて今がある」と話すのは、望月さん。実はお二人ともヒップホップファン。お酒を飲み交わし、熱く語り合うなかでたどり着いたのが今回のテーマだったというわけだ。
彼らの言葉からビジネスシーンにおける「フックアップカルチャー」を定義していくと同時に、20代における「人との出会い」や「つながり」について考えていきたい。
― 早速ですが、ご自身にとって「フックアップとは何か」というところから教えてください。
柿次郎:
僕の人生を大きく変えるキッカケをつくったのは、今働いているバーグハンバーグバーグという会社の社長 シモダテツヤによるフックアップです。
26歳の頃ですかね。大阪で新聞配達と牛丼屋のアルバイトに明け暮れながら、父親の借金を返済するという生活をしていたんです。でも、さすがにこのままじゃマズイと思い、48回払いでパソコンを購入。日記サイトを更新したり、SNSに没頭したりと、インターネットの世界にのめり込んでいきました。そのときに日記サイトを通じて声をかけてくれたのがシモダテツヤでした。突然、現バーグハンバーグ社長のシモダテツヤから「そのまま大阪でくすぶっていても仕方ないから上京しろ」と言われ、上京資金50万円を貯めるためのエクセルシートを渡されて…。とりあえず、50万円を貯めて上京してきました。
当時は必死だったのであまり記憶がないのですが、今思い返すと僕にとってのターニングポイントって間違いなくそのときなんです。環境に恵まれていなかった「徳谷柿次郎」という人間をUFOキャッチャーのように引き上げてくれた。だから、シモダには感謝しかありません。反抗期みたいな期間もあったけど、今では"マジ感謝”です。
― なぜシモダさんは柿次郎さんをフックアップしたと思いますか?
柿次郎:
これは僕の見立てなんですが、実はシモダもフックアップされた経験があるんですよね。彼の場合は、paperboy&co.(現GMOペパボ)の創業者であり、都知事選にも出馬した家入一真さんから「ウチで働かない?」と誘われて、当時社員20名以下だったpaperboy&co.に入社した経緯があるんです。
家入さんがシモダを、シモダが僕を引き上げてくれたように、フックアップって連鎖するものなんですよね。関係性で言えば、家入さんはフックアップおじいちゃん。つまり、シモダや僕が特別なんじゃなくて、誰にでも起こりうるわけです。
ただし、フックアップのチャンスを嗅ぎ分けられる嗅覚&行動力を持っているかどうかが大切。信頼できる人から、「こういうことやれよ」と言われたときに、行動をためらっていたらフックアップのチャンスは逃げていってしまう。僕の場合は、疲れて帰ってきて布団に入った瞬間にシモダから電話がかかってきて呼び出されてたんですよ。フツーだったら断るじゃないですか。嫁も「こんな時間に?」って眉間に江田島平八みたいなシワが入ってましたからね。でも、僕はフツーの人なら断るタイミングこそ行ってしまえ、と思った。理屈じゃないんですよね。意地というか、逆張りの発想というか。それがシモダの何かに触れたのかもしれません。
だから、「今日の飲み会来ない?」という無茶苦茶な誘いであっても、誘ってる側には何かしらの意図があるわけです。その意図を汲んで、素直に行動できるか。その嗅覚が優れていたから、僕はフックアップされたんじゃないかと思っています。
― 望月さんにとっての「フックアップ」についても教えてください。
望月:
若いころ僕は「自分の師匠はこの人」って人がなかなか見つけられないタイプでした。むしろ、上下関係に楯ついていくのがアイデンティティだったというか(笑)。
だから、僕がフックアップの本当の重要性に気づいたのも最近のことで、また、シモダさんと柿次郎さんのような縦の関係性だけがフックアップではないとも思っているんですね。
たとえば、柿次郎さんと僕。もともと縁もゆかりもないのに、今では週に何度も飲みに行くこともあるし、一緒に遠出することもある。ブログでバトンを回してもらったこともありました(笑)。これって僕にとっては柿次郎さんによるフックアップで、めちゃめちゃありがたい。縦というよりも横のつながりだから、「水平フックアップ」と呼んでいます。
人間関係って相手がコレコレをしてくれたから自分もコレコレを返そうという関係になりがちですが、それはフックアップの関係ではない気がする。僕は基本土日は家で静かに読書をしているようなタイプで自分から柿次郎さんを誘うことは少ないんですけど(笑)、「こういうおもしろい人と会えるから飲みに行きましょう」って柿次郎さんが何度も誘ってくれて、そのたびに愛を感じています。 柿次郎さんの"愛”は深いですよ。
柿次郎:
望月さんと出会ってから2週間で、3〜4回飲んでますよね(笑)。
僕の経験からすると「いいな」と思った人とは短期間で何度も誘い合う。そういう関係性をつくれると、長い付き合いになると思います。ただ、仲良くなってもフックアップ感が出てくるときと出てこないときがあるんです。大切なのは、一度、フックアップの関係性をつくってしまうことだと思います。「フックアップされたい」という人を見つけたら、自分から「拾ってください」と愛情表現していくといいと思います。
ー愛情表現ってどういうことですか?"媚びる”こととは違うんですか?
柿次郎:
あくまで個人のキャラクターによると思います。
たとえば、僕みたいなキャラクターの場合は社長からお酒に誘われたとき、気持ちよくお金を払ってもらうために、会計のときにわざと小銭の音を意識的に鳴らしながら「細かいのは出すんで…」と言うようにしてるんですね(笑)。すると「別にいいよ!払うから」と笑いながら出してくれたりとか。やり方を間違えるとただの失礼なやつなんですけどね。
払ってもらえたら、僕はお店を出たタイミング、帰り道の別れ際、翌日の朝イチに「ご馳走さまでした」と言う。やらない人が圧倒的に多そうな極端なことをやるように徹底しています。フックアップされるためにも、面倒くさいことを率先的にやっていくのが僕のスタイルですね。
― 柿次郎さんも望月さんも"フックアップされる側”から”する側”に移ってきていると思うのですが、お二人に「フックアップされたい」と思ったら何をすればよいでしょうか?
柿次郎:
可愛げを持つことですね。見た目がどうこうという意味ではなく、"浅瀬で溺れていること”が大切だと思うんです。人を助けるときって、相手がわかりやすく溺れていないと手を差し伸べられない。だから、浅瀬で「俺はこういう理由で困っているから助けてくれ」という、メッセージをきちんと出せる人はフックアップされやすいと思います。
僕自身、シモダに救い出してもらった恩があるので、次の世代にも還元していきたい気はあるんですよね。仮に僕と同じように大阪で苦しんでいる人がいたら、絶対に話は聞きに行きますし、都度都度「こういうことをやったらいいんじゃない」とアドバイスするでしょうね。
あとは「全部捨てて東京来たら?」「明後日、飲み会があるけど夜行バスで来ない?」と厳しいハードルの誘いがあったときに来れるかどうかって大事ですね。極論、行動力でしかないんですけど、溺れている理由が明確で行動力がある人はすごく拾われやすいと思います。特に、溺れ方がかわいい奴は面倒を見たくなる。
望月:
一方で、恥ずかしさやプライドが邪魔をしてなかなか浅瀬で溺れられない人が多いと思います。
その理由は、多くの人が「自分はイケてる」とアピールしないとフックアップしてもらえないと思っているからだと思うんですけど、それは違う。ラップにしても何にしても、イケてるかどうかは置いておいて自分が熱中していることを恥ずかしがらずに見せてしまう、その方がフックアップされる確率は格段に上がるんです。フックアップすること自体、愛を率直に伝えるという意味でとても恥ずかしい行為なので、フックアップされる側は恥ずかしいなんて言ってられない。ヘンにプライドが高いままだと、フックアップされにくいかもしれませんね。
― なぜお二人がこのタイミングでフックアップカルチャーを広めようと考えたのでしょうか?
柿次郎:
誰もがフックアップする側に立てる時代だと思ったからです。
望月:
そのとおりですね。でも、自分にはできないと思ってしまう人がまだまだ多い。知名度とか関係なく、誰にでも確実に影響力ってあるんですよ。「自分は別に有名じゃないし…」「特になんの力もないし…」と思って、何も行動を起こさないのはすごいもったいない。
Twitterのフォロワー数がわかりやすい例なんですけど、フォロワー数っていわば自分が人生をかけて溜め込んだ影響力。500人しかフォロワーがいなくても、その500人に向けて自分がすごく良いと思った人や物を思い切りフックアップすればいいんです。「届けぇーーー!」って。大事なのはその精神で。別に自分という存在を1億2000万人が知らなくてもフックアップはできるんですよ。
柿次郎:
漫画家・小説家などのクリエイターのエージェント会社「コルク」の佐渡島さんは、利他の精神を持つクリエイターや表現者こそが良い作品をつくれると言っています。
これって、フックアップする人、つまりフックアッパーにとっても同じです。フックアップする人や自分の周りに「喜んでもらいたい」と利他的な精神を持つ人がフックアッパーになりえるんだなと思います。
望月:
人は恥をかくのが怖い生き物です。自分のことをみんなが見ていると思って、恥をかくことに恐怖を感じて毎日を過ごしている。
一方で、自分がおもしろいと思うことを世の中に伝えたいという欲求は全員が持っている。でも、恥をかく恐怖に勝てない人がたくさんいるわけです。周りにスゴイ人がいたなら、「こいつスゴイよ」って言えばいい。フックアップの連鎖が生まれないときって、人間関係のパイプが詰まってる証拠なんですよね。詰まりがとれて、周りに誇りを持って「これはいいんだ!」と言えるようになると、気持ちがいいし、やみつきになると思います。
僕はフックアップ精神に火をつけたいし、フックアッパーを増やさないといけないと考えています。フックアッパーが増えれば、必然的に助かる人が増えるからです。だからこそ、「どうせ自分なんて…」と言わずにフックアップ力をひたすら高めておいてほしいですね。
今の時代、ソーシャルメディアも含めてさまざまなメディアがすごく発達していて、地球上の遠くのもの同士をつなげやすくなっている。だからこそ、恥を捨てて浅瀬で溺れかけている人を引っ張り出すような、個人やメディアによるフックアップも今後増えていくと思います。
そのためにも、自分がどういう風に生きれば、より多くの人に良い影響を与えられて、どんなフックアップができるかを考えることが大事です。そういう生き方をする人がひとりでも増えれば、「自分もフックアップしたい」という気持ちが伝播して、フックアッパー属性の人が増える。それによって、恥を捨てて自分の情熱を発信していけば、愛を持って拾ってくれる人がたくさんいる世界をつくれると思っています。
― ”フックアップされる”のを待つのではなく、自分が”フックアップする側”になる。必死に発信し続ければ、途中でフックアップされることもあるかもしれない。恥やプライドを捨てて、声高に叫ぶことを恐れないようにしたいと思います。今日はありがとうございました!
※今回の記事は、2016年6月21日に開催されたCAREER HACK BASEMENT #6の様子をまとめたものです。
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