『SHOWROOM』代表 前田裕二さん、nanapi創業者の”けんすう”こと古川健介さんが示した、運命に屈しない生き方をするための指針とは? 人生の岐路に立ったとき、逆境に陥ってしまったとき、そして前を向いて歩んでいきたいとき、ぜひ彼らの言葉を思い出してください。
人生の岐路に立ったとき、思い出してほしい言葉がある。
逆境に陥ってしまったときに、思い出してほしい言葉がある。
それでも前を向いて歩んでいくために、思い出してほしい言葉がある。
彼の名前は、前田裕二。ライブ配信プラットフォーム『SHOWROOM』の代表であり、DeNA入社時にファウンダーの南場智子さんが5年かけて口説き落としたという人物だ。
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2017年6月30日に出版した著書『人生の勝算』を引っさげ、MOA大学でトークイベントが開催された。対談相手は、nanapi創業者の”けんすう”こと古川健介さん。
『人生の勝算』を読むと「前田さんって超人?」「すごすぎて話がピンとこない」という印象だと思うんですよね。でも、それだと参考にならないと思っています。だから今日は、前田さんが全然超人じゃなくて、普通の人でも学べることがあるってところを引き出したいと思います。
注目のトークイベントは、けんすうさんのこのひと言で幕を開けた。
(※)MOA大学とは「学びを遊びに」を合言葉に、クラウドファンディングで誕生した未来の学校。次回のMOA大学は落合陽一氏、ダイノジ大谷伸彦氏ら6名の講師陣を迎え7月23日に開催予定。
前田:
『人生の勝算』では、書きたかったことの一部がカットされてるんですね。大人の事情で「コレはダメでしょう」と(笑)。このあたりを話したら価値になるかもしれませんね。
けんすう:
カットされたお話のなかで、一番おもしろいのはどのあたりですか?
前田:
たとえば、小学校の頃のエピソードですね。ノンフィクションなんですけど、なんだか、事実を語れば語るほどウソっぽくなってしまうのでは、という懸念もあったので。具体的には、小学校2年の頃に半年くらい住む家がなかったこととか、小学校4年でバイトしようとしていたこととか……。
けんすう:
漫画だったら設定詰め込みすぎですね…(苦笑)。
タイトルにもある”人生の勝算”が見えてきたのはどのタイミングなんですか?
前田:
小学校5年の終わりくらいです。それまでって生きるモチベーションが全然なくて、グレていたんですね。
あるとき、自分の過ちによって兄貴をものすごく怒らせたことがあったんです。兄貴にとってはとても悲しかったようで、怒るだけでなく、泣いていた。
この出来事は僕にとっても衝撃的で。それからは”兄貴が悲しまない生き方をしよう”と思って、路上での弾き語りを始めたんです。
けんすう:
でも、弾き語りで稼げる人って、そんなにいないですよね。
前田:
もちろん、最初は稼げなかったです。ですが、稼ごうと思ったら戦略が必要なんだ、とやっていて気付きました。たとえば、通りすがりの人に対して、聞きたくもない曲を唄って、自己満足している人たちは原則稼げないです。自己表現としてやるか、対価を得るためのパフォーマンスとしてやるか。
けんすう:
小学生の頃からそんなことを考えるの、すごくないですか?
前田:
考えざるを得なかったというか、稼がないとお腹が空いて耐えられなかったので(笑)。きっと、制約があったからこそ頑張れたのだと思います。そういう意味では「制約の多さ」という観点だけ切り取ると、超人的と言えるかもしれませんね。このなかにもっと高みを目指したいと思っている人がいるならば、何かしら自分に対して制約を課し続けると早く成長すると思います。
けんすう:
前田さんみたいな、特殊な環境で育っている人は、高いモチベーションを維持できるかもしれませんが、普通に育ってしまった人はどうすれば良いと思いますか?
前田:
難しいですが、僕だったら逆に「普通の環境で育ってしまったこと」をコンプレックスとして捉えてエネルギーに転換します。
例えば、DeNAで『Mirrativ』という生放送・実況配信サービスを牽引する赤川という人間がいるんですけど、僕は彼の働き方や仕事に対する姿勢、熱量の高さが非常に好きです。良い意味で「普通からの脱却」という、コンプレックスをひしひしと感じるんですよね。ひとつおもしろいエピソードがあります。実は彼も、僕と同様、学生でDeNAを受けている頃の最終面接が南場だったらしいんですが、赤川は南場から「キミ、ご両親元気?だよね〜?だと思ったよ、あんま苦労してなさそうだよね〜」って言われたらしいんですね。
南場の意図としては、“インターネット業界は、モンスターみたいな人達がうじゃうじゃいる所。そのなかでやっていく覚悟はあるのか”を確認しようとしていたと思うんですけど、その後、赤川は凄まじいモチベーションで仕事をバリバリこなし、最年少執行役員になりました。今は、新規事業『Mirrativ』を大きなサービスにすべく奮闘中で、着実にサービスを成長させています。
僕の勝手な解釈なんですけど、赤川は「不幸や逆境を経験しなかったこと」をコンプレックスに感じていて、「生まれもってハングリーなやつらに負けるか」とモチベーションの源にしていると思うんですよね。僕が逆の立場だったら、そうやって自分を震い立たせるかな。
けんすう:
前田さんにとってモチベーションってなんですか?
前田:
経営者として心が折れそうになる瞬間って何度もあると思うんですけど、僕の場合、そのとき頭によぎるのは「景色」なんですね。たとえば、小学校時代の教室の風景。
小学校6年のとき、同級生のなかに塾に通っている超優秀な女の子がいたんです。その子が算数の時間に、授業では習わないような素数の話を黒板に書いていく後ろ姿を見て、愕然としたことがあって。「これは必ずしも、努力だけの差じゃないぞ」と。同時に、与えられた環境の違いが知識レベルの差を生んでいることに、どうしても納得がいかなかったんです。
だから、今僕が「深夜2時、代官山のスタバが閉まる。正直眠いし帰って寝たい」というときに「いやいや。もうちょい頑張ろう。渋谷のスタバに移動して、朝5時までやろうかな」という気持ちにさせてくれる元気の源は、まあ色々あるんですが、たとえば小学校時代のあの子の後ろ姿なんですよね。「ここで休んだら、普通に恵まれた環境が与えられた人たちに負けてしまう」みたいなことを考えて。
何が言いたいかというと、自分が頑張れるモチベーション設計がきちんとできている人って強いと思うんです。それを持っていないと、深夜2時の時点で帰ってしまうんじゃないか。成功とは、こういった積み重ねや習慣の結果でしかないですから。
けんすう:
元々、人に負けたくないという気持ちは強いんですか?
前田:
特に「他の人に負けたくない」というわけではないんです。むしろ、「自分自身に与えられた運命に屈したくない」という、そういう感覚です。人と戦ってもキリがない。自分は、自分の運命に打ち克つ。そう考えて毎日頑張っている気がします。
たとえば、自分は何らかの事情で塾に行けなかったとしても、塾に行っている人たちよりも圧倒的に高いアウトプットを出す。海外に行けなかったとしても、海外経験がある人よりも英語が話せる。つまり、相対的に不利な前提条件、ディスアドバンテージがあったとしても、後天的な努力で必ずや勝てるということを示して正当化したいんですよね。「親が早めに亡くなってよかったんだ」「塾に行けなくてよかったんだ」って後付けで言いたいがために。
きっと、本当はそんなことないんだろうなと薄々わかってる。親は生きていて欲しかったし、塾も行きたかった。それでも、自分は自分の運命を正当化するために頑張る。そういった運命正当化の旅をしているような感覚です。
逆にお聞きしたいんですけど、けんすうさんのモチベーションって何なんですか?
けんすう:
たぶんちょっと捻じ曲がっているんですよね(笑)。たとえば、英語を勉強するときのモチベーションって「海外で活躍したい」とか「外国人と話したい」とかだと思うんですけど、僕はそれだとあまり頑張れないんです。
でも、最近は頑張れているんです。TOEICの点数を取ろうとしているんですけど、TOEICで900点とって喋れないとなると「TOEICムダじゃん」て言えるじゃないですか。それを言いたくて(笑)。
最終的な「主なる目的を入れ替える」ことが楽しいんじゃないかな。「目的のための手段」ではなく、「手段のための目的」のほうが頑張れることに気付きました。”僕変わっていますよアピール”みたいで恥ずかしいので、普段はほとんど言わないんですけどね(笑)。
前田:
自分のモチベーションだと思っていても、意外と芯を食っていないこともあるんですよね。
けんすう:
そうなんですよね。そこ見つけないと、頑張ろうと思っても頑張れない自分を責めちゃうことはありますね。自分のモチベーションってどうやったら気付けるんですかね?
前田:
自分に向き合う時間をとることは有効な手段だと思います。僕、実は今も毎日日記書いてるんですよ。Evernoteにメモして、自分の感情が動いたことをちょっとでも書いて、夜に読み返すことでモチベーションの源をイメージしているところはあります。
けんすう:
それならすぐにできそうですね。
前田:
けんすうさんもおっしゃってましたけど、三日坊主にならないための秘訣は習慣化してしまうこと。日記を書くことを歯磨きと同列にしてしまえば、やらなきゃ気持ち悪いですからね。
最後に、「挑戦への一歩を踏み出すために何をすべきか」という話で幕を閉じた。
前田:
そうですね…そういう意味では、僕いつも一歩踏み出すときに、「一歩踏み出すぞ」とは思ってない。そういうのって何だか緊張しませんか?
多分すべて、気付いたらやっています。そういう意味では「一歩踏み出す勇気」と考えている時点で、踏み出す勇気をもてない方向にいっちゃってる感じがします。「一歩踏み出す」っていう発想じゃなくて、考えた時点で、ワクワクして手が動いてしまうわけで、挑戦は気付いたら既に始まってる。踏み出す勇気、と構えずに、ワクワクする目の前のことにどんどん熱狂していって欲しいなと思います。
けんすう:
僕の考え方は、ゼロを真ん中において、成功したらプラスで、失敗したらマイナスじゃないですか。でも、プラスでもマイナスでもインパクトが大きければ同じだと思っています。100億円稼ぐのも、100億円損するのも、インパクトは同じじゃないですか。だから、インパクトが大きい順にやったほうがおもしろいと思っています。
お互い「人間としてのタイプは違う」と認めつつも、「いつか一緒に事業をやりたいですね」と結んだお二人。一見”世界が違う”ような印象を受ける前田さんの言葉も、けんすうさんのモデレーションを通じ、自分事として落とし込むことができたのではないだろうか。お二人のメッセージは、未来を担う若者たちの行き先を明るく照らしてくれるはずだ。
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