2018.03.27
「光本勇介」解体新書。ヒットプロダクトを生む7つの鉄則

「光本勇介」解体新書。ヒットプロダクトを生む7つの鉄則

株式会社バンク代表の「光本勇介」は人々の欲求を顕在化させ、ビジネスとして成立させる天才といっていい。『CASH』の“即現金化”はまさにそれだ。DMM.comによる70億円での買収も記憶に新しい。彼は世の中をどう見て、アイデアを形にしているのか。

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ヒットプロダクトを生む、光太勇介の7つの鉄則

パネル

※光本勇介さんのプロフィールはこちらから

#1 ネーミングにこだわる

cash.jpというドメインに400万円はすごく安い買い物

とにかくサービスのネーミングがわかりやすい。

これは光本さんがヒットさせてきた事業の共通項だ。即現金化できる『CASH』も、誰でもオンラインストアがつくれる『STORES.jp』も、届けたい価値がサービス名に集約されている。

こだわりはドメインにも見て取れる。たとえば『CASH』のドメインは『cash.jp』。リリース当初より「なぜ、cash.jpというドメインが取れたのか」という声があがっていた。

『cash.jp』のドメインは400万円で買ったんですよね。前例がないサービスは価値が伝えづらいので、説明コストを省きたくて。すぐ現金化できるという価値を一言で表現するためにサービス名は『CASH』で、ドメインも『cash.jp』にしたかった。いかに説明を省けるか、『STORES.jp』の時に痛感したことでもありました」

ドメインひとつに400万円。高いとみるか、安いとみるか。

「『cash.jp』というドメインに400万円はすごく安い買い物だと思いました。すぐ回収できると踏んでいたし、躊躇はなかったですね。実際、すぐに回収できました」

あとでCASH
(↑)2018年2月にリリースされた新機能「あとでCASH」もストレートなネーミング。アイテムを先に発送し、約1週間の審査期間を経て、買い取ってもらえる。買取額に上限を設けない。「より高くアイテムを売りたい」という声に応える。

#2 アイデアをとらえる

ほとんどのアイデアは運動してるときかシャワーを浴びてるときに浮かぶ
週5~6回はジムに通い、1時間ほど軽く汗を流してから出社するのが日課だという光本さん

『CASH』は「目の前のアイテムが 一瞬でキャッシュに変わる」というわかりやすさ、そして前例のない“ぶっとんだアプリ”として一日にして話題をさらった。

一体、どのような時にアイデアが湧くのか。意外なことに運動をしている時、もしくはシャワーを浴びている時がほとんどだという。

ランニングなど有酸素運動をしている時か、シャワーを浴びている時にほとんどのアイデアが浮かぶといっていいと思います。たぶん、その時間って暇なので自然と事業について集中して考えているんでしょうね。オフィスにいる時っていろんなことに意識が分散し、アイデアが湧きづらい。無心に近い状態のほうがいいのかもしれません」

事業、サービス、チーム…さまざまな問題について考え、アイデアが求められる経営者たち。光本さんは浮かんだアイデアを逃さないためにアプリに入力し、メールに飛ばす。実践するのはシンプルな方法だ。

「主にサービスに関するアイデアが多いのですが、Captio(キャプティオ)で自分宛てにメールを送っていて。アプリを開いて書く。1タップで送れて便利ですね」

そして事業のネタは、Dropboxにネタ帳としてストックする。

「ざっくりと“これはいけそうだな”という事業案を3軍、2軍、1軍…という分類でストックしています。それを定期的に見返し、すぐつくることもあれば、何年も眠っているアイデアもあります」

事業化する案と、しない案、その基準とは―。

「たくさん失敗をしてわかったことは、市場選択とタイミングが全てということ。いくらイケてるサービスでもタイミングが悪ければやらないし、収益が見込めない市場ならやらない。いけそうなものはすぐにつくり、世の中に出してみる。まず反応を見るようにしています」

#3 モックからつくる

ロジカルに説明ができない。そこに目を向けているかもしれない

アイデアを形にする、そのはじめのステップとして「モック」ありきだという。バンク社のデザイナーである河原香奈子さんがモックをつくり、触ってみるというやり方だ。大小含め、この1年間つくったモックは30個以上にのぼる(使用ツールは『AdobeXD』)

*関連記事... 『CASH』に秘められたデザインの仕掛け。デザイナー 河原香奈子

「1日、2日くらいでつくれる簡単なモックをもとに、とにかく触るようにしています。それで、いけそうだったらさらに作り込んでいく」

いけそうか、ダメそうか。その基準の“言語化”にあまりこだわらない。むしろロジカルに説明できるものではなく、感覚レベルにおいて「いい」と「よくない」を探る。

「こっちが勝手なロジックでつくってもユーザーには使ってもらえません。だから、開発前のユーザーヒアリングや市場調査はやらないし、そんなことをやっても事業はつくれないと思っています」

つくってみる。触ってみる。良いと感じたら、世に出す。シンプルな哲学が貫かれているといってもいい。

「いいアイデアって“いいアイデアを考えよう”と思って出てくるものではないですよね。世の中の人たちがどう生活をしているか。なにを欲しているか。純粋にそのサービスがあると本当に便利か。疑問や不満という感情に素直になれるか。ロジカルに説明できないことの方にわりと目を向けているかもしれないです。たとえば、与信がないとお金が借りられなかったり、借りられる額が決まっていたりする。普通に“少額でもすぐ現金が手元にほしい”という感覚ってあるよなって思ったんですよね。それが『CASH』の発想にもつながったと思います」

#4 アドバイスは受けない

事業を作る時、アドバイスをもらうことはない

とくに「ゼロイチで事業をつくる」という段階において、もうひとつ、徹していることがある。それは誰にも相談しないというもの。壁打ちはもとより、アドバイスをもとに事業をつくったことはほとんどない。

「事業をつくる時、誰かにアドバイスをしてもらうことはほとんどありません。なぜなら、相談しないから(笑)。たとえば、誰かにアドバイスを求められた時、アドバイスする側にまわることもあまり好きではなくて。そういう場面にはできるだけ出くわさないようにしてきました(笑)」

そこには「後悔しないために、自ら選択すべき」という自身の考え方もあるようだ。

「人の意見を聞いてしまうと“あの時、自分の考えを突き通していたらどうだったんだろう”と考えてしまう。後悔するくらいなら、自分の意見や考えを突き通す。自分がそういったタイプなんだと思います」

#5 チームを尊重する

会社では、できるだけフラフラし暇そうにしてるほうが貢献できる

同時に、組織として事業を成長させていく段階では「必ずしも自分の意見が合っているとは思わない」と語る。互いをプロフェッショナルとして尊重し、フラットにコミュニケーションを取っていく。

「バンクだとSlackに#ideaというチャンネルがあり、機能案だったり、新規事業だったり、アイデアを自由に投稿できるようになっています。自然とそうなっていって」

ほとんどの機能やアイデアがそこから生まれたそうだ。

「形になった状態で“やってみたい”という場合もあるし、なっていないこともある。どっちでも良くて、気軽に投稿できますね」

そして光本さんは組織において、自分の役割をこう見ている。

「本来は、できるだけフラフラしていて、暇そうにしている方が会社に貢献できると思っていて。いろんな予定が詰まっている時ってなかなか良いアイデアも出ないんですよね。小忙しそうにしているだけで、事業に貢献できていない時は、自分のことをすごくかっこ悪いなって思ってます」

#6 すべては社会実験

全ては社会実験 世の中に出してみて答え合わせ

事業にとってなにがベストか。常に主語は「事業」だ。仕組みをつくって仕掛けるというサービスとビジネス、その両方に魅了され、のめり込みつづけてきた。

「サービスづくりは“こういうものがあったらいいのに”と求めるものを形にすること。それで儲けるためにどういう仕組みで儲けようか考えるのがビジネス。この2つに魅力を感じてきました。その両方を掛け合わせていく」

どんな仕組みで儲けていくか。そこにあるのは、好奇心に従う“社会実験”だ。

「新しい仕組みをつくって世の中に仕掛ける。その化学反応を見るのが最高に楽しいんですよね。正直、『CASH』も想像以上の反響がありました。社会実験だと思っていて。世の中に出してみて、答え合わせをする狙い通りに使ってもらえても、想像とは違う使われ方をしても、どちらもおもしろい。いつもそこに魅力を感じているのかもしれません」

#7 プレッシャーは最高だ

プレッシャーがある状況は最高

一日にしてサービス停止し、2ヶ月後にリスタートした『CASH』。当時、かなりストレスフルな状態だったことは想像に難くない。何を感じ、思っていたのか。その答えは「刺激的だった」という一言に集約される。

「どんどんお金がなくなっていくので、とにかくヤバいという気持ちがありました。同時にアドレナリンがすごく出ているのが自分でもわかって。その2つが入り乱れ…いま振り返ってみると、すごく刺激的だったと思います」

そこからさらに続く、DMM.comによる70億円での買収。大きな期待、プレッシャーを感じる場面もあるはずだ。そういった状況とはどう向き合い続けているのだろう。

プレッシャーがある状況ってラッキーですよね。すごく最高。それは何かしら自分の中でハードルを乗り越えようとしているはずで、恵まれていると思います。最近、“憂鬱じゃなきゃ仕事じゃない”という言葉がすごく好きなのですが、本当にその通りだなって。人間ってやっぱり成長していかなければならないし、進化していかなければならなくて。どうせやるならできるだけ憂鬱なほう、大きなチャレンジに向かってるほうがいいかなって思います」




文 = 白石勝也
編集 = まっさん


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