どんどん「デザイン」に期待される役割が広くなっている昨今。例えば、UIデザイナーであっても「サービスロゴや企業ロゴも考えて欲しい」とオファーされるケースも。どのように考えていくのがよいのか。経営層やPMと並走できるのか。緻密にデザインされたプレイド社のロゴ刷新プロセスを参考に学んでいきましょう。
※本記事は、PLAID、STANDARDのデザイナーを兼務する鈴木健一さんよりご寄稿いただきました。鈴木さんによるnote「ロゴマークの刷新を通じた自社理念の強化と共有へのトライ」の 前編、及び後編をもとに、改めて寄稿用に構成・執筆いただいた内容となります。
[目次]
・はじめに|企業ロゴとプロダクトロゴの違い
・企業ロゴは、理念や行動規範を表現する
・デザインプロセス
・キーワード抽出(理念、行動規範から)
・キーワードを”モチーフ”に
・スケッチとブラッシュアップ
・ロゴタイプ(文字)部分のデザイン
・さいごに
デザイナーの@kenichisuzukiです。 KARTE(*)というプロダクトを提供する株式会社プレイド(PLAID, Inc.)で働いています。
この記事ではプレイドのロゴ刷新を例に、企業ロゴにおけるデザインのポイントについてご紹介いたします。
(*)... KARTEは、ウェブサイトやスマートフォンアプリの顧客行動や経験、感情の変化をリアルタイムに解析・可視化。顧客の目線から顧客中心の体験を創るサービス。
ロゴを考えていく上で注目したのは、企業名とプロダクト名が異なるという部分。それぞれのロゴに別々の意味付けができるという点を踏まえ、「誰に」「どんな意味を想起させられるか」という観点で、ロゴの役割を整理していきました。
プロダクトロゴは「理想像を顧客やエンドユーザーに伝える」という役割のもとロゴの刷新をしました。それに対し、企業ロゴでは「プロダクトを提供していく内部のメンバー」が「目指す理想のために重要視する理念や価値観、行動」を想起してもらう。ここを目標に、刷新の準備を進めていきました。
デザインしていく前に、企業ロゴがどのような機能を持つべきか分析するところから始めました。企業ロゴは、CI(Corporate Identity)と言われる事もあります。
良い企業ロゴには、次の要素が表現されています。
MI(Mind Identity)... 会社における理念や思想
BI(Behavior Identity)... 社員が大切にしたい価値観や行動規範
これら2つの要素を想起してもらう手段として用いられるのが「VI(Visual Identity)視覚表現」です。
MIとBIの意味をVI(ロゴマーク)に込められることができなければ、ただの飾りになってしまいます。そうならないためにも、まずは理念や行動規範を理解していく。その上で、役員との対話は欠かせませんでした。
キーワード抽出(理念・行動規範から)
まず、CEO倉橋やCTO柴山と一緒に、改めて企業理念や行動様式について話し合い、キーワードを抽出していく作業から進めていきました。
MI(Mind Identity)理念からキーワードを抽出
私たちが外部向けのミッションとして考える「データによって人の価値を最大化する」という理念。これを紐解くことで、我々がやろうとしていることのキーワードとなる「限りなく深いレイヤーの問題を解きにいく」を見出しました。ここに至る経緯を紹介します。
私たちが目指しているところは、データを一部の会社が独占するものではなく、あらゆる人にとって価値あるものにしていくということ。数字だけが並ぶような淡白なデータを、より人が扱いやすい直感的なデータに変換していく。コミュニケーションの分野で、そのデータを活用していくことを理想としています。
しかしそこには「インターネットの構造的欠陥」があると考えました。インターネットは、もともと静的なファイルの送受信や文書の閲覧が目的でした。そこからコミュニケーションツールとして役割が進化します。ですが、今のインターネットはデータを扱いやすく整理できていない状態になってしまっている。
私たちは、こうした状況を「表層に現れていない深いレイヤーにある問題」であると捉えました。ここを自分たちが解きにいくことで新たな価値を世の中に提案していきたいと考えていることに、改めて気づくことができました。
次に、内部向けのミッションとして考える「やりたいことで圧倒的な価値を生み出す」という理念。ここからは、「信じた世界観に狂気的に向かう姿勢」「仕事の目的と自分の人生の重なりを増やす」というキーワードを見出しました。
役員が社員に求めていたのは、他者の意思決定を鵜呑みにしすぎないこと。自分が信じる理想のために狂気的になることで圧倒的な価値を生み、そこから新たな活動につなげていって欲しいということ。最終的に、自分達が理想とするものを信じることで「仕事の目的と自分の人生との重なり」が増えていく状態にしたい。言い換えると「メンバーそれぞれの人生を豊かなものにしたい」という意思も込められているということを知ることができました。
BI(Behavior Identity)行動規範からキーワードを抽出
次にミッションを追求していく上で重要となる3つの行動規範を聞くことができました。
Backcasting:目的志向
目的のためなら、途中の失敗や衝突もいとわず進んでいく姿勢を重視するというもの。長期視点で設定した大きな目的から逆引きし、妥協せず着実に進んでいく姿勢です。
Deploy Driven:出して学ぶ
不確実性が高い世界だからこそ、世の中に出して学ぶ姿勢を貫こうというもの。行動しなければ成功は生まれることはありません。悩んで動けなくなるより、動きながら学び、考えていくという姿勢を重視しようというものです。エンジニアリングで馴染みがあるDeployという言葉から着想を得ています。
Unlearning:学びの棄却
人はだれでも間違うし、過去の経験にとらわれること、バイアスが存在することを認識した上で、必要であれば過去に得た知識や経験すら捨て去って進んでいこうという姿勢です。「学びほぐし」や「学習棄却」とも呼ばれるものです。
3つの行動規範を元に、大きな目的を定め、そこに到達するために行動しながら学んでいく。必要であれば学びを棄却しながら進んでいく。これらの行動がチームとしても個人としても重要になっているという構造を見出しました。
ここから「3つの行動様式の存在」「理想から逆引きする姿勢」「バイアスや不確実性と付き合う姿勢」を見い出しました。
キーワードを”モチーフ”に
ここまで分析してきたMIとBI。そこから抽出したキーワードをまとめます。
・限りなく深いレイヤーの問題を解きにいく
・信じた世界観に狂気的に向かう姿勢
・仕事の目的と自分の人生の重なりを増やす
・3つの行動様式の存在
・理想から逆引きする姿勢
・バイアスや不確実性と付き合う姿勢
このステップでは、「これらをどのようなモチーフで表せるか?」を検討していきました。決定した構成要素は、氷山、赤色、重なり、3つのもの、矢印。それぞれデザインにしていく上で、どのような意味を持たせるかまとめていきました。
限りなく深いレイヤーの問題:氷山
氷山は海面上に出ている部分は一部で、大部分は海中に沈んでいるという特徴を持ちます。目に見える現象の裏には想像もしない本質が隠れていることを表すモチーフとして用いられています。ここに、顕在化している課題ではない深層課題に取り組む姿勢という意味をつなげたいと考えました。
信じた世界観に狂気的に向かう姿勢 :赤色
赤色は暖かさや愛情、情熱を感じさせる色ですが、同時に恐怖を感じさせる面も持ち合わせています。これまでも企業ロゴでは赤を用いてきましたが、大きな目的に向かって向かい続ける狂気性を明示的に意味付けしたいと考え、要素として残す形としました。
「仕事の目的と自分の人生の重なり」を増やす&3つの行動指針 :3つの要素同士の重なり
仕事と自分の人生との境界が重なり合って曖昧になっていく様と、活動していく上で重要視する3つの行動様式を表すモチーフとして、「3つの要素」「要素同士が重なる様」をモチーフにできないかと考えました。
理想から逆引きする :矢印
大きな目標から逆引きする、その上で目標に向かって進むという行動をストレートに表すため、矢印のモチーフが利用できないかと考えました。
スケッチとブラッシュアップ
これらのモチーフを踏まえ、具体的なロゴマークの検討を進めました。3月に実施したKARTEのVI設計時と同様、スケッチを元にいくつかの方向性を見出していきます。フィードバックを元に絞り込み、精細化していくプロセスを辿りました。
絞り込む過程では、4つのテーマをベースに考えていきました。
Forward Future:狂気的に前進する様
Empowerment Customers:利用者に顧客視点を与え、伴走する様
Backcasting:理想とする世界観から逆引きする様
Deep Issue:限りなく深いレイヤーにある、本質的なイシューを追い求める様
4つのテーマを作った後に、カラーも検討。役員からのフィードバックとブラッシュアップをひたすら続けました。
これらのプロセスをへて、ようやくロゴが完成。
最終的なロゴでは、「3つの矩形」の「重なり合い」により「ビジネス×デザイン×エンジニアリングの3領域に特化したメンバーのコラボレーション」を表現。「赤く染まった氷山」が形成される様は、深層課題の解決に向かって狂気的に前進する組織」という意味に結びつけました。
ロゴタイプ(文字)部分のデザイン
ロゴタイプ(文字)の部分についてもお話しさせてください。ここでは、「完全に決まりきらない、バランスしない」という部分を表現しました。
これは、言語化した理念や行動様式の中で、ロゴマークで表現できていなかった「バイアスや不確実性と付き合う姿勢」を表現するため。具体的には、字幅、重心に対して若干の変更を加え、形状として少しアンバランスになるよう調整しています。
他にも、プロダクトロゴと企業ロゴで同じ骨格の書体を用いて、理念の一貫性という意味を繋ぎたいという狙いがありました。
理念や行動規範を言語化し、それらからモチーフを発想してスケッチ、ブラッシュアップする。これらの作業を経てロゴが完成しました。特に、理念や行動規範からキーワードを抽出していくという作業は、企業ロゴのデザインには欠かせないプロセスだと考えています。
企業が成長していくにつれメンバーも増えていきます。情報量やコミュニケーションの経路も同時に増えていくことになるでしょう。企業ロゴには理念や行動様式の共通認識を作っていく力があります。さらにはチームのコラボレーションを加速させていくこともできるかもしれません。
私たちのデザインプロセスがみなさまの企業ロゴ制作のご参考になれば嬉しく思います。
今後もこちらのブログにて、さまざまなデザインプロセスをオープンにしていく予定ですのでご覧いただければと思います。
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