2016.08.29
トップクリエイター3名が「UI/UX」の本質を突く! 灰色ハイジ×中村洋基×伊原力也が語ったコト

トップクリエイター3名が「UI/UX」の本質を突く! 灰色ハイジ×中村洋基×伊原力也が語ったコト

トップクリエイターたちは「UI/UX」をどう捉える?ユーザーにとっての素晴らしい体験を探求し、新しいクリエイティブを仕掛けるクリエイター、灰色ハイジさん、中村洋基さん、伊原力也さんが語ったUI/UX論をお届けします。

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灰色ハイジ×中村洋基×伊原力也が語る「UI/UX論」

ことにWeb業界では、「UI/UX」という言葉はすでに馴染み深いものになった。同時に、UI/UXはデザイナーだけのものではなく、プロダクトに関わる多くの人たちも無視のできないものになっている。

真にユーザーにとっての素晴らしい体験を届けるクリエイティブとはなんだろうか?

先日開催されたイベント「Design Jimoto in 渋谷(※)」にゲストスピーカーとして3人のトップクリエイターが登壇した。そこで語られた話のなかに、UI/UXの本質を紐解くヒントがあった。

[登壇者]
LiB Planner, UI/UX Designer 灰色ハイジ
PARTY Creative Director / Founder 中村洋基
株式会社ビジネス・アーキテクツ シニア・インフォメーションアーキテクト 伊原力也


(※)「Design Jimoto」とは、各地域に存在する社会的な課題をデザインの力で解決しようというコンセプトのもと、Adobeが主催するイベントです。今回のイベント「Design Jimoto in 渋谷」では、渋谷を拠点に活躍する企業や教育機関から6チームが参加し、アドビのUI/UXデザインツールAdobe XDを使ったライブデザインが行われました。その様子はアドビ公式ブログからご覧いただけます。

世界観を構築するポイントは"積み上げ"|灰色ハイジ

灰色ハイジ

キャリア女性向けに転職サービスなどライフキャリア支援事業を行うスタートアップLiBでUI/UXデザインを手掛ける灰色ハイジさん。同社の複業可能な独自制度を活用し、フリーランスのデザイナーとしても活躍している。

ハイジさんはこれまで、サービスの世界観を描く仕事や、プロモーションのためのイベント企画を手がけてきた。広告分野のUI/UXデザイナーとして、多方面から評価され、知名度も高いハイジさんが、スタートアップの事業会社という異なる環境に飛び込んだ理由は何だったのだろうか。

ものづくりの大きな流れのなかで、これまで私が関わっていた広告・プロモーションは最後の段階です。だからひとりのデザイナーとして、開発の段階からユーザーが直接触れるものを作りたいという気持ちがあったんです。

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ブランディングを意識したサービス開発の一歩@haiji505

そんな思いを持って入社したLiBでは、企画からデザイン、開発まで、すべての工程に関わっている。ハイジさんいわく、UI/UXデザインという自分のベースがありつつ、その前後の企画や開発の段階まで、全体を見渡せることが、業務効率を上げ、さらにはアウトプットのクオリティを上げることにもつながると言う。

実は、いま私が所属しているチームにはディレクターがいないんです。エンジニアもデザイナーも、みんながディレクターであり、プランナーであるという考え方でやっています。スタートアップだと人数が少ないので、間にディレクターをはさむより直接やりとりした方が効率がいい。それに、自分たちで課題を発見することで、誰かから降りてきたミッションではなく、主体的に関わっているという意識が持てるようになります。

また、広告・プロモーション分野で培った、世界観を構築したり抽出したりする経験は、サービス開発の分野でも活かすことができた。

入社してすぐ取り組んだのは、すでに開発中だったサービスの「クリエイティブブリーフ」作り。なぜなら当初、サービスに関してマーケターとエンジニアの間に具体的なビジョンや世界観の共有がなく、人によって目指しているものが違うという状況だったからだ。

クリエイティブブリーフには、そのサービスが目指すビジョン、そして現実的な数値目標、それを叶えるためのKPIや競合の状況などの項目を作りました。そしてそれぞれの項目をディスカッションしながら埋めていき、サービス開発に関わる全員がビジョンや目標を共有できるようにしたんです。

特にスタートアップのような、リソースの足りない企業では、ビジュアル面のデザイン改善は必要性がなかなか伝わりにくく、かつブランディングに特化したチームを作ることも難しい。しかし、広告やプロモーション分野出身のデザイナーだからこそ、世界観の構築がサービス運営にどれだけ重要か身を持ってわかっている。

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ブランディングを意識したサービス開発の一歩@haiji505

ハイジさんいわく、スタートアップで世界観を構築していくためには、まず数値改善のタイミングで提案すること、そして小さなところからコツコツ積み上げていくことが大切だという。

たとえば、メルマガのトップバナーひとつとっても、女性が楽しみながら転職活動ができるように、あえて働く女性のビジュアルは使いません。やっぱりサービスのユーザーには前向きでいてほしいですから。すごく細かい話ですが、こういう小さなものをコツコツ積み上げていくことが、世界観の構築につながるんです。

ハイジさんのように、広告業界からスタートアップへというデザイナーのキャリアパスは、これまで決して多かったわけではない。ただ今後、クリエイティブ分野とサービス開発分野の人材の流動性は高まっていくだろう。そのなかで自分の価値を発揮するために必要なのは、培った経験を異なる環境でどう活かせるか、試行錯誤していくことのようだ。

バズるコンテンツの方程式|中村洋基

中村洋基

デジタル技術を活用したデザインを手掛けるクリエイティブ・ラボPARTYの創業者であり、クリエイティブディレクターでもある中村洋基さん。数多くのインタラクティブキャンペーンを手がけてきた中村さんだが、最近ではレディー・ガガの等身大試聴機「GAGADOLL」、トヨタ「TOYOTOWN」トヨタのコンセプトカー「FV2」が話題となった。

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WebサイトのUI/UXデザインには、 2つの種類がある。

● ポータル型:ユーザーに体験してほしいことが複数あるため、情報の順位付けをする
● 一直線体験型:ユーザーに体験してほしいことはひとつしかないので、そこに注力する

そして、これまで中村さんが手がけてきた広告やプロモーションは、スペシャルサイトやキャンペーンサイトといった「一直線体験型」のものばかりだ。今回中村さんは、この「一直線体験型」のコンテンツを作る際、効果的なメソッドのひとつとして「驚きのあとに納得がある」という表現方法を紹介した。

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先日、他愛もないツイートをしたら、なぜか30,000回もリツイートされてました。なんでだろうと考えたんですが、ツイート文が“フリ“になって、画像が“オチ”になっていて、その距離感の問題なのではないかな、と考えました。

人が「よい」と思うコンテンツに共通する要素を分析してみると、 まず驚くような表現が立ち現われて「えっ?どういうこと」という謎かけのようなものが、「ああ、そういうことね」という納得、オチのコンビネーションがある。すると、人はいいモノを見たと感じる。海外のCMなどで有名な「タグライン型」という手法です。

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中村さんが制作したバナーの一例

中村さんは自身が昔手がけたバナー広告の例をいくつも出した。 特徴的なのは、ユーザーがなにかインタラクション、操作をしたときに「驚き」が訪れる。

スクロールするとか、オンマウスするとか、クリックするとか、そのインタラクションの瞬間に「驚き」を仕込むのが、共通するコツです。

「驚きのあとに納得がある」というメソッドが活かせるのは、主に広告やプロモーション分野だろう。ただ、ユーザーにどんな体験をさせれば、より効果を得られるか、”バズった”コンテンツやヒットした映画など、さまざまな側面から探っていく姿勢はUI/UXデザイナーに求められる資質かもしれない。

"いいとこ取り"の働き方を実現しよう|伊原力也

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株式会社ビジネス・アーキテクツでWebサービスやスマートフォンアプリの設計を行っている伊原力也さん。これまで、FUJIFILMやNTTデータなどのWeb サイト制作を手がけてきた。

今回伊原さんは、デザイナーが自身のキャリアを思い描くなかで陥りがちな「受託側か事業側か」というジレンマに対して、どちらかに一方に特化するのではない両軸の働き方を提案した。

実際に伊原さんは現在、受託案件を2件担当しながら、週2日事業会社に常駐するという「受託側も事業側もどちらもやる」という働き方を実践していると言う。

ただ一般的に「受託側」と「事業側」と言うと、仕事のスタイルや進め方などさまざまな点が異なるため、どちらか一方に特化しているデザイナーが多い。伊原さんも、「受託側」と「事業側」の違いについて下記のようにまとめている。

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そんななか、なぜ「受託側」と「事業側」、どちらかに偏らない両軸の働き方を選んだのか。

新しい世界観を短期間で吸い取れたり、さまざまな業界に関われたりする受託側のおもしろさは、やっぱり他には代え難いんです。ただ、納品したらそれで終わりというのはUI/UXデザイナーとしてどうなんだろうと思うところがありました。UI/UXというのは継続てきに改善していくものですから。一方で事業側であれば、自分のデザインがよかったのか、悪かったのか、ユーザーの評価はどうだったのか、追い続けることができる。だから、受託側も事業側も”いいとこ取り”したいと思ったんです。

確かに、それぞれにメリット・デメリットがあるからこそ、両軸の働き方は単純におもしろく、さらには自身のスキルやキャリアアップにつながるだろう。また伊原さんいわく「受託側」「事業側」それぞれの経験は、互いに活かすことができるのだと言う。

とはいえ、この"いいとこ取り"の働き方は、結果的に仕事量や業務時間をむやみに増やすことにはならないのだろうか。

僕は、毎日17時に帰ってます。休日稼働も家に仕事を持って帰ることもしません。両軸の働き方と同じくらい、早く帰ることも僕にとっては大切なことです。以前は会社に泊まるようなこともしていましたが、双子の子どもが生まれたのをきっかけに、子育てに主体的に関わるべきだと考えるようになりました。

伊原さんが"早く帰る"ために実践しているのは、「やらないものを決める」ことと、「やりかたを調整して加速する」ことだと言う。

まず「やらないものを決める」ことに関して、実際に伊原さんが"やらない"と決めたのは「相性が悪い案件」「資料作り」「フィニッシュワーク」の3つ。

僕は、コツコツ積み上げてロジックで解決していくのが得意なので、面白おかしく考えたり、突飛なアイデアを出したりすることが必要な案件は明示的に回避しています。資料に関しては、クライアントが社内の承認を得るために必要なものは、外部の人間である僕が作るより、内部の人に任せた方が効率的だからです。そして、フィニッシュワーク、つまりビジュアル面のデザインはアートディレクターに任せています。基本的に、自分が得意なこと以外は、それが得意な人にお任せするというスタンスですね。

また、「やりかたを調整して加速する」ために、ワークフローとミーティングの時間の使い方を変えたと言う。

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一般的な「要件定義 → 調査分析 → 設計デザイン → 実装」というワークフローでは、要件が変わってしまうことや、設計してから気付いたことに、効率よく対応できません。そこで、要件をホワイトボードに書き、プロトタイピングツールで作っていくことで、臨機応変に対応できるようにしています。ミーティングも”決める“ということに注力して、時間をムダにしないように意識していますね。

「受託側」と「事業側」、それぞれの“いいとこ取り”ができる両軸の働き方の実現のためには、"やらないこと"を決め効率のいい"やりかた"を実践するという工夫が必要のようだ。

一見、難しいことのように思えるが、多くの業界でUI/UXデザイナーの需要が高まっていくなかで、自分の真価を発揮するためには、最も近道な方法だと言えるかもしれない。

(おわり)


文 = 近藤世菜
編集 = 大塚康平


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