オリジナルの3Dキャラがつくれる『VRoid Studio』が話題。pixiv(ピクシブ)の新プロジェクトだ。ほぼ全員がUnity未経験ながら作り上げたり、内定者が即戦力として参画するなどユニークな開発チーム。優秀なメンバーがとことん“クリエイターの創作活動を楽しく”しようとする姿勢がそこにはあった。
誰でも簡単に3Dキャラクターがデザインができるーー。
そんな夢のようなツールが『VRoid Studio』だ。公開したのはピクシブ社。大きな話題となっているが、バーチャルYouTuber(VTuberの数は7月末時点で4475人)をはじめ、ネット上において「自分だけの3Dキャラ」を持ちたいといったニーズがいよいよ顕在化してきたといっていい。
事業責任者である清水智雄さんは『VRoid Studio』に注目が集まる背景について、こう語る。
「盛り上がっているものの、3Dキャラを作れる人はごくわずかな人だけしかいないのが現状でした。2Dのイラストを描くことに長けているクリエイターも、思い描いた通りに立体化することは難しい。習得するにも長い時間がかかってしまう」
ここを解決するのが、『VRoid Studio』というわけだ。
「現在、ユーザーの多くは2Dのイラストを描いている人たち。これからは、イラストは書けなかったけど3Dだったら描けるという人も出てくるはず。そこに対応したい」
高価な制作用ソフトも不要。3Dモデリング特有の知識や各ソフト上での複雑な操作を覚える必要もない。とことん3Dモデリングのハードルを下げる、いわばゲームチェンジャーといっていい。
「すごく驚かれるのが、髪の描写ですね。感覚的に描けることにこだわりました。ゲームキャラクターの3Dモデリングを12年間経験してきたデザイナーが、”髪のモデリングが一番大変”というほど、多くの人が苦戦するポイントでした。ここに応えられるような機能が開発できたのは、とても大きなことだと思います」
[プロフィール]清水智雄|VRoid Studio プロダクトマネージャー
プロダクトマネージャー兼UI・サービスデザイナー。pixiv SketchやAPOLLO、BOOTH、pixivFACTORYなどを開発。マストドンのインスタンス『Pawoo』やAIによる自動着色など、先進的なプロジェクトを幾つも立ち上げ導いてきた。
クリエイターをはじめ、3Dキャラをつくりたい人々から期待を集めるツールは、どのようにして生まれたのか。『VRoid Studio』開発チームはユニークな体制となっている。
「なんと言ってもほぼ全員がUnityに関しては未経験で。技術的なところでいうと、本当に触りながら何とか開発を進めていったという感じでした。必ずしもトップスピードではありませんでした」
pixivにイラストを投稿しているユーザーは学生が多い。『VRoid Studio』の事前登録者も学生が多かったそう。
「どうしても夏休みがはじまる8月までにはリリースしたかった。スキルアップもスピードも同時に要求される、難易度の高いプロジェクトでした」
ピクシブでは今まで2Dのクリエイター向けプロダクトは開発してきたものの、「3Dモデリングの技術をつかったプロダクト」はまったく新しい取り組みだ。
「新規事業を立ち上げるとき、実現可能性こそが大事。『VRoid Studio』でいえば、ドローツールはOpenGLで開発しており、直前に取り組んでいたプロジェクトでも同様の技術を用いていた。技術を応用できたのも大きかったと思います」
この開発体制のウラ側について清水さんはこう語る。
「春に内定者向けのインターンがあります。参加者のなかに『VRoid Studio』に興味があるといってくれた学生がいて。学生とは思えない技術力を持っていることに加えて、何よりも『VRoid Studio』への思いが強い。その彼がプロダクトの要、キャラクターの“髪のモデリング”を担ってくれています」
『VRoid Studio』を世のクリエイターたちに届けたい。思いに共感する優秀な仲間が集まっていったのだ。
続いて伺えたのが、ピクシブの新規事業立ち上げの要件について。
・クリエイターの創作活動をより楽しくしたり、支えることができるサービスであるか。
・いますぐにやる必要があるのか。
ここを基準にジャッジされる。3Dキャラクターがつくれるプロダクトの構想は以前からあった。
「pixivのユーザーさんに”魔法が使えたらなにをするか”を聞いていたんです。すると”自分が描いたキャラクターが動き出したりする世界を作りたい”と話す人が何人もいました。
また、Google, Apple, Facebook, MicrosoftがAR/VRへの投資をしていることから、停滞したスマホ市場に次のパラダイムシフトを起こすのはAR/VRだと考えていたんです。その時を迎える頃には、pixivも、クリエイターが3Dの創作を楽しんで表現できるプラットフォームになっているべきだという使命感がありました」
清水さんには、VR/ARの時代がくるという確信があった。そして、2017年末からVTuberの数が急に増え、視聴数も増加。VTuberブームが到来したといっていいだろう。
さらに3Dキャラクターの需要もさらに伸びていくと清水さんは考える。
「場所やコミュニティによって人格を使い分ける。それはTwitterなどのSNSですでにみんながやってること。これから1人1アバターではなく、1人Xアバター時代になる」
同時に、VR/ARの領域に関しては今後どうなるのか不透明なところも多いが、それよりも期待のほうが大きい。だからこそ思い切って踏み切ったという。
そして公開からあっという間に『VRoid Studio』で描いたキャラクターをTwitterなどへ投稿するユーザーが続出。開発チームへの期待もより大きなものとなっている。
VTuber市場を盛り上げる、さらなる起爆剤となるか。今後も目が離せない。
文 = 大塚康平
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