2019.09.27
「声の社内報」としての活用も! Voicy	緒方憲太郎と考える音声コンテンツの可能性

「声の社内報」としての活用も! Voicy 緒方憲太郎と考える音声コンテンツの可能性

ボイスメディア「Voicy」が堅調にサービスを育てている。画面という視覚から、音声という聴覚へ。情報摂取の有り様を変えることを目論む彼らに、音声コンテンツの現在地と展望を聞いた。

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「見直し」と「再定義」が進む音声メディア

音声メディア業界は、カルチャーやビジネスにおいて先行するアメリカ、そして多大なユーザーを擁する中国など、話題に事欠かない盛り上がりを見せている。

日本でも新規参入のプレイヤーが増え、「スマートフォンひとつで手軽に配信」という利便性を武器に、ユーザーを呼び込むサービスが増えた。だが、2016年9月にサービスをリリースした「Voicy」は、それらとは一線を画す。放送ユーザーは審査制で、「チャンネルはむしろ絞っている過程にある」と、Voicy代表取締役CEOの緒方憲太郎さんは話す。

Voicyは大きく2つの事業を手掛ける。ボイスメディア「Voicy」の開発・運営と、主に企業向けの音声配信インフラの提供だ。主軸を置くボイスメディア運営では、企業が音声によるオウンドメディアを持つという新しい展開も増え、いわゆる「声の社内報」のような活動も見られるようになった。緒方さんは「新たな“金の卵”ではないか」と期待を寄せる。

「見直し」と「再定義」が進む音声メディアの世界。向き合い続ける緒方さんに、その視線の先を語ってもらった。

《目次》
・人類が生み出すコンテンツで、最も多いのは「しゃべる」こと
・聴取データを見て気づいた、意外なニーズ
・常にパーソナリティ優先。人間味をそのまま届けたい
・相棒のようになるパーソナライズを
・アートとデザインの観点から、新しいビジネスを組み上げる
・「声の社内報」で生きる、音声のあたたかい商品性

人類が生み出すコンテンツで、最も多いのは「しゃべる」こと

僕らが目指すのはライフフィット・メディアです。生活の手を止めないと情報を得られなかった時代は終わると考えています。「画面だけで情報摂取していた時代があったなんてクレイジーだったね」と言われるくらいに。

人間が生活導線で触れ合うデバイスたちが、情報を人間に「届ける」ならば、音声は見過ごせないフォーマットといえます。ただ、単に面白いコンテンツやユーザーを増やしたい、話題になるようなメディアにしたいという思いだけではありません。一時のブームは作れても、そのフォーマット自体がずっと残っていくようにしたいと考えているからです。

僕自身にとっての「面白い」を定義すると、文化を作っているかどうか、人を動かしているかどうかだと思っています。それを聞いて自分の生活が変わったり、意識が上がったりするのは面白い。それによって、感情が揺れたりしても面白い。もちろん、世の中的に言う“Funny”や“Interesting”な価値を否定するわけではありません。

社会に価値を生み、存在感が出せるか。あるいは、存在する意味があるか。その点は、Voicyにとっての「面白い」にもつながるのかな、という気がします。

そもそも人間のコミュニケーションにおいて、最も接触するのは「しゃべる時間」といえます。文字を書く時間、動画を作っている時間と比べても、しゃべる時間のほうが長い。地球上にあふれているコンテンツとしては、音声が最も多いはずなんですよね。

だから、そのうちの1%を有効に活用するだけで、おそらく文字よりも動画よりも音声コンテンツは多くなると思うんです。「面白い1%」を、どのように社会へ直訴していくのかを、サービス体験、テクノロジー、世界観、カルチャーのそれぞれから考えていきたい。

ただ、みんなが始めるようになるには「順序」があるとも思っているんです。まずはブログがあったから、Twitterが書きやすくなったように。音声コンテンツにおける順序とは何か。それも考えるべきテーマの一つです。

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聴取データを見て気づいた、意外なニーズ

実際に「Voicyで生活が変わった」という反響も耳にします。あるパーソナリティは過去放送分を含め、1日に合計2000時間ほど聞かれ、ユーザーあたり一日の平均利用時間が44分というデータもあります。メディア業界全体で見ても、この数値は現状でもなかなか高いのではと実感します。

この数値から「人間が音声コンテンツに触れ合う最大限の時間が40分なのか」といえば、そうではないはずです。もっと面白いコンテンツが増えたり、コンテンツを聴く時期や時間帯を提案したりすることによって、時間はもっと増えるはず。まだ開発のしがいがある部分だと正直思っています。

聴取データを見て、意外だったこともあります。いわゆる「すきま時間」で別の作業をしながらとか、身も蓋もなく「通勤時間」が人気なのだろうと考えていたら、Voicyのピークの一つは「就寝前」なんです。あとは「メイク中の時間」のニーズもすごく大きいですし、子育て中のお母さんからも人気があります。そのあたりは想定と違ったことですね。

なので、今はユーザー数や接触時間に一喜一憂するよりも、「このデータはコンテンツに比例するのか?それとも人間の生活に比例していくのか?」といったことを考えながら推し進めていく必要があると考えています。どのように世の中にあるべきか、どうすれば習慣化が促せるか。それに向き合い続け、サービス体験を作っているのが現状です。

常にパーソナリティ優先。人間味をそのまま届けたい

音声コンテンツのマーケットでも、Voicyが特殊だと感じられるのは、リスナーのことをほぼ見ていない点です。Voicyは一貫して「パーソナリティファースト」を掲げて開発してきました。

音声に限らず、これまでのコンテンツは発信者が多大な手間をかけ、受信者がラクに楽しむという図式でした。Voicyでは発信者がとにかくラクに、思ったことをそのまま喋ればコンテンツになるようにして、「発信してよかった、嬉しかった」という体験が作れるように開発を振り切っています。発信者が楽しいと思えることや、今まで表に見せたことのない人生の面白みを言葉に載せてくれるのが、リスナーを得る一番の施策だと考えているんです。

とにかく簡単に発信できる。その強みを磨くのは「人間味をそのまま届ける」という体験設計に基づいているからです。番組としての構成なんて考えなくてもいいから、思考回路を切り出すように、今の感情をそのまま出すだけでも面白いものです。ただ、それは誰にでも出来る類のものではないとも自覚しているがゆえに、100人ほどの申し込みに対して、2人から3人ほどのペースでチャンネル開設に至っているんです。

つまり、まだ業界全体としても、コンテンツのパーソナライズに足りうるデータが十分に貯まっていないので、僕らにとっては「面白い」といえるコンテンツを中心に載せている媒体なのです。今までに聞いたことのないもの、パーソナリティの人間臭さがより出たものも放送できるようになればいいとも考えます。チャレンジングなメディアだと捉えています。

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相棒のようになるパーソナライズを

パーソナライズは、ちゃんと因数分解することでポイントが2つに絞られるはずです。

まずは、より良い社会や未来につながるように、本人が知り得ない情報や、習得したほうがいい情報を提案するパーソナライズと、「あなたが求めているものはこれでしょう?」とレコメンドして、どんどん甘やかすようなパーソナライズがあります。

今は後者の「甘やかし型」パーソナライズが多く成り立っているせいもあって、自分がヘビーローテーションした物をより目にするようになっています。ただ、もうソファは買ったのに、さらにソファのCMが出るって、やっぱりおかしいですよね?

パーソナライズをもうひと段階高める上では、「ユーザーをどのように幸せにするか」を考えることが大事です。多くのことを知れるのか、素敵な時間を過ごせるのか……それを提供側が定義しなければいけません。Voicyにとってのパーソナライズは、面白いコンテンツをたくさん勧めるのではなく、その人の相棒になるようなパーソナリティとの出会いをつくることを促したいですね。言い換えれば、精度を高めたマッチングに近いと思っています。

音声コンテンツにとっては、「面白い」と感じられるまでの導線設計が最も大変なんです。ただ、たとえば僕が「すごく面白いから、これ聞いてみない?」と勧めたら、おそらく10分くらいは聴いてもらえる。いきなりコンテンツだけを勧めても、10分聴き続けるのは結構つらいんですね。

そして、自分では探しえないような潜在的な思いを、パーソナライズですくい取り、コンテンツを届けていく。音声だからこその体験を、より理解しなければいけないでしょう。

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アートとデザインの観点から、新しいビジネスを組み上げる

僕はもともと「ビジネスデザイナー」を生業としていたのもあって、ビジネスを作り上げるのにも「アート」と「デザイン」をとにかく意識しています。

その違いは、構成物を作るのがアートで、それを作ることによって人をどのように動すのかがデザインだと捉えています。まず市場に問いかけるのがアートで、市場が固まってきた時により飛躍させたいからデザインが必要になるわけです。

そして、メディアビジネスのように、ある程度の固着化が進み、グロースできる手段がわかっている状態ではなく、真っ白なキャンバスにイチからビジネスを描いていく場合は、「何が美しいのか」を考えていく必要があります。

たとえば、サッカーが今のようなルールになったことはロジカルに説明できないでしょうし、ユーザーヒアリングをもとに11人制にしたわけでもないはず。おそらく、サッカーのことを深く考えた人が色んな経験を踏まえて、「11人なら一番面白くなるから、騙されたと思ってそのルールでやってみようよ」と伝えたんだと思います。

つまり、全くゼロからものを作る時に、データとユーザーはどれぐらい正しい方向へ導いてくれるのか、という係数を見ていくイメージです。塩分が多く含まれているものが美味しいというデータがあっても、それはユーザーにとって本当にいい結果に届いているのか。

スマホアプリも勃興期には、ターゲティングを重視するよりも、どんなアプリでもいいからガンガン出ていた時代がありました。新しい文化を作るのであれば、まずはアートの域にまで考えられるプレイヤーがそもそもいないといけないと思っていて。音声コンテンツの領域では、それがVoicyでありたい。

世の中には二つしか情報収集の方法はありません。手で作ったものを目で入れるか、口で作ったものを耳で入れるか。耳だからこそのマーケットを生み、その喜びを感じてもらうことが勝負どころだと考えています。

だから、今は日本中の、世界中の、どの会社よりも「音声」にちゃんと向かい合い、面白いコンテンツになるように考え、次の音声フォーマットを見せていく会社でいたいと思っています。ただ、この考えがベースだと数字を成すのにも時間がかかるし、どんどん開発できるわけでもない。「ベンチャーなのにスピード感が出ない」という焦りも生まれるので、今後はラボ機能と実動部隊を分けた方がいいのかもしれませんね。

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「声の社内報」で生きる、音声のあたたかい商品性

ビジネスとしてみた場合、声は「あたたかい商品」だと捉えています。しゃべる人の感情や頭の中身、心理が入ってしまうところが面白い。そして、それを曝け出すことによって、受け取った人は発信者を身近に考えられたり、自分ごとに近づいたりするんですよね。受信者がそのように反応すると、今度は人と人が繋がる機能が生まれることもわかりました。

声でつながると、お互いに「理解者」であることの空気ができるんです。つまり、価値観やその人への理解が、繋がりの源泉だとも薄々わかってきた。Voicyのコンテンツはとにかく炎上しないのですが、それは理解者だけが最後まで付き合っているからなんですね。繋がりを意識する中で、発信者と受信者が一緒になってコンテンツを作っている感覚が生まれていくのでしょう。

自分の理解者や同じ価値観を持った人たちだけのグルーピングができていくところに、音声コンテンツの大きな価値があると考えています。その喜びをパーソナリティさんにも感じてもらいたいと思って、オフイベントを開催したり、サービスの中でもリスナーを感じられるような仕組みを作っていくようにはしました。

そこで、出てきたのが「社内報」としての活用です。僕自身がVoicyを社内向けに使っていたんですね。ニュアンスを含めて、文字で書いて社内に説明するのは、実は非常にハードルも高く、難しい。でも、「録音しながら思ったこと」であれば、かんたんに伝えられる。

社員には一緒に試行錯誤しながら会社を作っていることの世界観を共有して、僕と一緒に悩み、一緒に喜んでほしいと思っています。そのニュアンスが一番に伝えたいことで、情報は二の次。それに、社内だけに届けたい話って、いっぱいあったんですよね。「実は今日、投資家から詰められてツラかった」とか(笑)。

でも、そういう話こそが、社員にもすごく刺さるんです。社長が悔しがっている姿なんて、表にはなかなか出ないじゃないですか。これは社長からのメッセージだけでなくても、社内メンバーからの発信でも効果があると実感しました。そして、声の社内報だと、発信者は簡単にコンテンツがつくれ、結果的には人と人、人と組織が繋がる効果も期待できる。

今は数社のトライアルから始めていますが、各社でさまざまな反響をいただいています。Voicyにとっては、新たな“金の卵”になる可能性があると確信しています。声は、話している内容だけでなく、感情的な情報も乗って流通していくのがユニークなところです。文字で伝える2Dの世界と比べれば、まさに3Dな表現といえます。その良さを最大限にレバレッジできるサービスであり、会社であれたらいいなと思っていますね。

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編集 = 白石勝也
取材 / 文 = 長谷川賢人


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