2019.10.30
『家、ついて行ってイイですか?』は、人生ドラマをどう拾っている? 高橋弘樹Pに聞く取材の極意

『家、ついて行ってイイですか?』は、人生ドラマをどう拾っている? 高橋弘樹Pに聞く取材の極意

テレビ東京系列にて毎週水曜よる9時放送中の『家、ついて行ってイイですか?』。主役は街にいる普通の人々。それでも、気になって観てしまうのはなぜ…?番組プロデューサーの高橋弘樹さんに「いかに面白い話を引き出すか?」など、番組を作るためのポイントを伺った。

ストーリーテリングが、事実を「面白く」する

「テレビ東京なんですけど、ちょっとお話伺ってもいいですか?」

カメラを手にした彼らは、終電を過ぎた駅前に現れる。上野、新宿、北千住、横浜……あちこちの街で、足早にどこかへ向かう人や、諦めたように座り込む人に声をかける。

「タクシー代をお支払いするので、家、ついて行ってイイですか?」

突然の来訪者によって明かされる「素のままのお宅」。彼らはそれを「その人の人生ドラマが散りばめられた宝箱」と呼ぶ。2014年に放送を開始したテレビ番組『家、ついて行ってイイですか?』は根強い人気を誇り、今年で6年目を迎えた。

この番組の演出・プロデューサーを務めるのが、テレビ東京の高橋弘樹さんだ。街角へ立つ70人あまりのディレクターが集めた素材をチェックし、自ら編集を施した上で、一つひとつを送り出している。

先ごろには自身の経験論をまとめた著書『1秒でつかむ 「見たことないおもしろさ」で最後まで飽きさせない32の技術』を刊行。それらの技術を駆使し、いかに「市井の人」を主役にしながらも、目が離せない番組を作るのだろうか。

インタビュー中、僕が話した何気ないエピソードにも「えっ、それはなぜですか?」と、間髪入れずに逆質問が飛んできた。この「なぜ?」を聞き出す力も、たしかに関係がありそうだ。高橋さんは「ストーリーテリングこそが、事実を面白くする武器です」と言う。

意図的に身に付ける“超普通”

──まずは取材体制について教えてください。ディレクターたちには、取材や聞き方の指示はしているのでしょうか。

いっぱい細かくお願いはしていて、今もマニュアルは更新しながらまとめています。

ただ、根本的なことを言うなら、まずは「違和感を探してください」と伝えています。普通とはちょっと違うところを観察して、違和感を発見したら、それが生まれた理由を探る。

そして、違和感を探すためにも「普通という感覚を身に付けましょう」ともお願いしています。今、世間はどういう流れにあるのか、押さえておくべき教養は何か……多くの人にとっての「普通」とは何かを、ディレクター自らでしっかり捉えておくんです。

──「自分は普通」と思っているだけでは勘違いしてしまいそうです。どのようにすれば身に付けられるのでしょうか。

日々いろんな人と接している中で、相手の考え方に寄り添ったり、旅行中に人間を観察したり。新聞を読んで、ニュースを見て、ノンフィクション作品を感じて、機軸になる世の中の流れの「一般」を身につける。地道な作業ですけど、それを徹底していくのがいいのかなって。日々そこは意識をしてもらうようにしていますね。

──意図的にやらねば「普通」は身につけられないと。

そうですね。人って、自分と似た人とつるむものです。「同級生」といえば同じ学歴くらいの人だし、地元が茨城なら茨城在住の友達が多い。僕は東京都民ですが、そうなると東京在住の友達がやっぱり多い。でも、そこに北海道から沖縄の人まで含めた「普通」を作るためには、いろんな情報を吸収しなきゃいけません。

自分が“超普通”になるって、難しいですよ。でも、その超普通を考えて、勉強しているからこそ、ずれている違和感に気づけるんです。

ただ、僕が言う「普通を作る」とは、そのディレクター自身の生活全てを「普通」にしてほしい、というわけではありません。あくまで自分の中に仮想の「普通」を設定して、自分の価値観が「普通」からどれほど離れているのかを客観視することです。

客観視した上で、自分は取材対象にどんな興味を抱くのか。その興味を自分だけに留めず、多くの人にも抱いてもらうためには、どのような補足が必要になるのか。膨大な事実の中から、ストーリーを発見する人間には、そういう目線が必要なのだと思うんです。

──「普通」を軸に置いたきっかけは?

そもそもテレビがマスメディアだから、というのはあって。「所詮はテレ東」とか言われたって、メディアの特性はマスですよね。自分が面白いと感じるだけの企画では視聴率がついてきません。かといって、自分を抑制しては面白い企画にならない。

深く人に刺さるコンテンツは、どこか狂っているものです。その狂気は絡み合う「熱量」と「欲望」で構成されています。自分の欲望を肯定して、会社や社会が求めるものとすり合わせながら、昇華していく過程が企画作りでは大切なんです。

僕の場合なら、「自分の欲望」と「マス」をいかに掛け合わせるかを考えなくてはいけない。そうやって視聴者の平均値を知り、少しはみ出ている部分に対して、「なぜ?」を感じ取る。そこを掘っていくと、ドラマが隠れていることが多いですね。

冷蔵庫の上に鉛筆削りが置いてあることに気付けるか

──普通によって「違和感」を拾うという、具体例があれば教えてください。

「憂鬱」という漢字を東大生が書けても、そこまで驚かないですよね。でも、多くの人は書けないと思うんです。書ける人は、「憂鬱」という漢字を書くための動機があったはず。

昔にちょっと気分が沈んだ時期があったのかもしれないですし、漢字に対する強い思い入れを持っているのかもしれない。それが、ドラマの出発点になります。

違和感は、見た目では分からないことが多いです。その時に置かれているシチュエーションだったり、話を聞いていた時に出てくるニュアンスだったりに表出してくるんです。特に観察するのは「部屋の配置」と「しゃべり方」ですかね。

たとえば、家へついて行くと、冷蔵庫の上に鉛筆削りが置いてある。しゃべり終わった後、すぐに自分で笑いを入れて、相手のリアクションを防御してくる。そういう小さな違和感を逃さず、絶えず観察しないと。

相手が無意識でやっているようなことだからといって、因果関係や動機がないわけではありません。その動機を再発見するのが、取材者の楽しみでもありますよね。

とくに気になるのは、生きてきた人生で、ちょっと普通じゃない選択をしているとき。先日も「大学で経営学を学んだ」という人がいました。「普通」の目線ではアメリカ留学でMBAを取得したとか、日本なら一橋大学卒だったとかがありそうですが、彼は台湾の大学へ進んでいました。それはなぜなのか。

時々の選択は、その人の人生観そのものだと思います。だからこそ、ストーリーやドラマがある。

──『家、ついて行ってイイですか?』は市井の人が主役です。有名人を超えていくためには、やはりストーリーが最も効きますか?

そう思います。その事実を面白くする武器が「ストーリーテリング」です。作り手が、素材の意味や魅力を引き出し、解釈をして、ストーリーとして構築する力ですね。

事実は、ストーリーになって初めて、共感や拒絶、感動、号泣、応援したい、励まされたいといった、さまざまな感情を視聴者に伝えます。それは時に、視聴者が人生や社会を考える意識を育む一助となったりもする。

ストーリーテリングは、フィクションのための技法と思われているところが結構ありますが、ノンフィクションにも有効です。ただ、その技法があまり蓄積されていないからこそ、僕らはチームで共有していくことを大事にしていますね。

ディテールこそが取材対象者の魅力を表す

──「ノンフィクションのストーリーテリング」の難しさは、作り手の筋書き通りにならないところにあると思います。現場で必ず守っていることはありますか?

『家、ついて行ってイイですか?』はドラマでなくてノンフィクションですから、再現映像も撮れませんしね。そうすると、いま撮れる映像だけで伝えなければならない。たいていの場合、過去は言葉でしか引き出せない。だからこそ、映像が浮かぶレベルにまで、引き出す言葉の感覚を高めていく意識は欠かせません。

たとえば、

「深夜1時にそばを食べている男」

と、

「深夜1時に、10歳ほど年上の彼女と、新橋の富士そばで食べている、メガバンクに勤める30代前半のサラリーマン」

では、後者のほうが映像が浮かびませんか?

観る側として考えても、「夜に食事をする男と出会った」だけでは違和感が起きない。エンターテインメントとして興味を持たせるためにも、言葉を聞くだけで画のイメージが浮かぶぐらいまで、取材するディレクターには具体的にコメントを引き出してもらうようにお願いしています。ディテールこそが雄弁に取材対象の魅力を表してくれますね。

もっとも、演出の狙いで意図して抽象化することはありますが、基本的には具体性が大切です。

──逆に、現場でやらないように決めていることは?

観ている人に、なるべく補助線を引かせないこと。徹底的に分かりやすくします。分かりにくい言葉は言い直したり、ひと考えしないと理解しにくい表現は外したり。僕らが作る番組は、まず娯楽であるべきで、想像力を鍛えるトレーニングではないですから。

ただ、こちらも意図的に「わかりにくさ」を使う場合はあります。あえて「これは何だろう?」と思わせておいて、後から回収する手法ですね。

編集の本質は「ストーリー作り」

──実際に番組が出来上がるまでは、どういった制作過程を踏みますか?

まずは取材した各ディレクターが録画データをまとめます。それを試写して、ディレクターとの議論を経て、僕が編集し直します。ほぼ毎週木曜日と金曜日を、最低でも40時間、なるべくぶっ通しで編集作業に当てていますね。

番組を自分で作っていると、「神は細部に宿る」と感じることが幾度もあります。たとえば、取材対象者が「初めて打ち明けた本音」を語ったあと、無言のシーンを3秒残すのか、3.5秒残すのか。このたった0.5秒で、視聴者の心を打つ度合いは、まるで異なる。

──ディレクターとの議論をはさむ意図は何ですか。

現場にいた人の感覚を最も大事にしたいからです。ただ、経験の浅い人もいますし、取材対象者が語った言葉が額面通りでないことも多い。意図的に逆の意味の言葉を使ったり、キャラクターとして嘘を混ぜてきたりすることもあります。

その意図なり嘘なりを描かないわけではなく、分かるように描いていくのもストーリーテリングの一つ。編集の本質は「ストーリー作り」に他なりません。その描き方を見極めるためにも、現場のディレクターとは議論します。

たとえば、ディレクターが「酔っ払って笑っている女性」を「明るい人」のように描いてきたとします。でも、僕がやや度を越して明るいと感じれば、そこには何らかの悲しい理由があるんじゃないかと思う。もちろん、僕の思いすごしかもしれません。

だから、ディレクターが描いたストーリーだけでなく、議論した上で素材までをちゃんと探ると、その答えが隠れていたりすることもあるんです。

面白い話は「状況の設定」と「絶対的な肯定」で引き出す

──『家、ついて行ってイイですか?』では身の上話を明かしてくれる人も多いです。相手から面白い話を引き出すポイントはあるのでしょうか。

主には2つあって、まずはテンションの上がりやすい状況を設定すること。お酒でべろべろのときはもちろん、お風呂上がりやお祭りの最中みたいに、アドレナリンが出ていそうなシチュエーションを作る。特に深夜は、自分語りしやすくなる時間帯です。

取材で夜中にどうしても撮りきれなかった場合は再取材することもあります。特に印象深かったのは、廃ホテルに住んでるおじさんを撮影したときのこと。本当に彼が幽霊的な何かだったんじゃないかと思って、昼間にもう一度伺って本当に住んでいることを確かめる取材もあわせて放送したりしました。

しかし、根本的には「一期一会」の空気があるからこそ、話しにくいことも話してしまえる空気があるのかもしれません。

もう一つは、取材対象者の味方になり、絶対的に肯定していくこと。どれほどポンコツな失敗だったり、結果が出せていなかったりしても、その人の頑張りや生き方は否定しません。これは番組を立ち上げた時から徹底しているルールです。

ディレクターは取材対象者を徹底的に愛し、その上でロケをして、いろいろな興味を持って突っ込んでほしいんですね。このルールが守れている以上、取材対象者からすれば、自分の欠点や秘密をさらけ出したとしても、「この番組やメディアは絶対的に私の味方で、魅力を引き出そうとしている」と感じてもらえると思うんですよね。

時には批判的に描くことはあっても、最終的にはその人の選択や人生を肯定する。そのためにも、相手の魅力を引き出すスキルを身に付けなきゃいけません。

──その両面が、相手からドラマのある選択を引き出すためにも必須だと。

「この番組はドラマチックな人ばっかりよく捕まるねぇ」と言われるんですが、ほとんどの人は同行NGなんですよ。一日中ロケしたって見つからない日も多いです。

だからこそ、「家について来ていいですよ」とOKしてくれる人は、どこかで胸の内を話したかったり、知ってほしい気持ちが湧いたりしたタイミングなんだと思います。すると、必然的に何かを「持っている」人に出会う確率も、普通の平均値よりは高くなるのかもしれません。

──自分の家にいるからこそ、話せてしまうこともありそうです。

やっぱり「家」には、その人らしさがいちばん表れます。

どの場所で、どのぐらいの広さで、家賃がいくらのところに住むか。部屋のどこに、何を置くか。そして、誰と住むか。全てがその人の選択で成り立っているわけですから。

この番組はスタジオではなくて、取材対象の家だからこそ引き出されるものがある。僕らが他人の家から生まれる違和感を「なぜ?」と聞いていくことによって、その人自身にしかないストーリーが語られていきます。

家は、マジでその人の生き様そのものなんですよ!


編集 = 長谷川純菜
取材 / 文 = 長谷川賢人


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時代は平成から令和へ。そして訪れる「2020年以降」の世界。2020年からの「10年」をいかに生きていくか。より具体的に起こすべきアクションのヒントを探る連載企画です。お話を伺うのは、常に時代・社会の変化を捉え、スタートアップと共に"一歩先”を見据えて歩まれてきた投資家のみなさんや、未来を切り拓く有志者のみなさん。それぞれが抱く「これから10年間で現実的に起こり得ること」と「新しい生き方」の思索に

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