社員100人から、時にはダメ出しをもらいながら企画! 若き女性プロデューサーのアプリ企画奮闘記をお届けします。今回注目したのがエキサイトで働く井上佳央里さん。企画したのは誰でもラジオ配信ができる『Radiotalk』。リリースまでの失敗談、カタチにするまでの執念とは?
女性プロデューサーを大特集!
今回取り上げるのは井上佳央里さん。インターネット総合サービスを運営するエキサイトに新卒で入社。現在6年目、社内でも注目される若手プロデューサーだ。
入力インターフェイスとして「音声」への期待が高まる昨今。音声コンテンツへの接触時間増も見込まれている。
そんな中、2017年8月に彼女がプロデュースしたアプリ「Radiotalk(β版)」がリリースされた。誰でもカンタンにラジオ配信できるプラットフォームとして注目を集めている。
じつはこのアプリ、2016年に始動したエキサイトの「社内ベンチャー制度」から誕生したもの。彼女がリリースまでにもらったフィードバック・ダメ出し・激励は、じつに社員100人にわたり、すべての見解にアンサーを持っているという。
なぜ、彼女は「自分で企画したアプリを世の中に届ける」ということに、そこまでこだわれたのか? そして社内ベンチャーの可能性とは? プロデューサーやプランナーを目指す方々に、彼女のチャレンジの物語をお届けしたい。
ー『Radiotalk』話題ですね! 過去には「エキサイト翻訳」や「エキサイトブログ」などの主力サービスにもプロデューサーとして携わっていたと伺いました。…輝かしいキャリア、すごいですね。
いえいえ、ぜんぜんそんなことはなくて。ずっと失敗つづきですよ。やっと一つ、自分の手でサービスがカタチにできて…ようやくスタートラインに立てたかどうか。
ー失敗つづきだった話…ぜひ伺いたいです(笑)
いっぱいありますよ(笑)
たとえば、1年目のときは、ただただ浮足立っていて。空回りばかりしていましたね。「プロデューサー」という肩書きに見合う仕事は全然できていませんでした。自分の役割さえ把握できてなくて。
ちょっと数字見て、エンジニアさんやデザイナーさんに、小さな改修の話をさせてもらうだけ。進行管理がやっとで、企画なんて夢のまた夢。「…企画が出せないプロデューサーなんてどんな存在価値があるんだろう」とずっと歯がゆい思いがありました。
ーそこから…ドカンと成功を…
できませんでした(笑)3年ほど「エキサイト翻訳」を担当させてもらえたのですが、「さらにマネタイズできるサービスを考えてやるぞ!」「他社の翻訳サービスにないメリットを!」って息巻いてまた空回りして。
英会話サービスとか、人に翻訳が依頼できるサービスとか…でも結局、新規の企画を考えたところで、立ち上げにはなかなか至れなかったんです。ユーザーの抱えるニーズをまだ見抜けていないくせに、マネタイズできるサービスってなんだろう? って市場ばかり意識して。
どんなに机の上で考え、理想的な数字がおけたとしても、成功するわけじゃない。なのに顧客の声を聞くより先に、PL表とにらめっこするところから始めてしまっていたんですね。
事業を数字で管理する視点だってもちろん大事。ただ、ちゃんと成果が伴う企画を出していくためには、それ以上に地道に、人の心に響く課題解決を、泥臭く見つけ抜くしかない。私もまだまだ勉強中ですが、ここに尽きると学びました。
ーそこからどう「企画」の力をつけていったのでしょうか。
社内でも学べることは多いのですが、社外でも通用するレベルになりたい。そう思って外に出るようにしました。
新卒入社ということに加えて、私の場合どうしても、まわりが見えにくくなっちゃうこともあって。自分では「なんて最高の企画なんだ」と思っていても、異業種も含めて外を見てみたら、もっと面白い企画を考えている人が山のようにいて。
じつは電通の阿部広太郎さんが主催している「企画でメシを食っていく」という講座に通っていたことがあったんです。ものすごい衝撃を受けましたね。広告コピーを1日に百本書く人とか、1週間で企画書だけじゃなくてプロダクトまで完成させてきちゃう人とか、嫉妬する企画を出してくる人ばっかり。企画の量、質ともに圧倒的な差を感じました。
その時、講座で講師をしてくれたのが、佐藤ねじさんで。
[参考]
教えて、佐藤ねじ先生! しゃべる名刺、本能寺ストーブ...中高生も爆笑のアイデア発想教室 https://careerhack.en-japan.com/report/detail/760
アイデアの発想術、もうそのままマネしていました(笑)。ねじさんはいつでもアイデアをメモしては、「毎週末の夜に必ずメモを見直して、いい企画を選んで別のノートにストックしていく」ということをやられていた。私も以前は「毎日1枚、企画書を書いて帰る」ということをルーチン化したことがありましたが、ハードルが高くて3ヶ月も続かなかったので、殴り書きのメモに変えて、見直しの時間をカレンダーに設定して続けています。
ー当然、サービスのプロデュースには、デザインなども知識が必要に?
そうですね。アプリやWebサービス制作に興味がでたのも就活中のことでしたし、最初はまったくの素人でした。
入社してすぐの研修でHTML・CSS・Javascript・PHP程度の基礎を学べたり、ドットインストールやSlideShareなどであらかたの仕組みは掴めたりするのですが、実用には日々アップデートされた情報収集が必要という感じです。
デザインは『ノンデザイナーズ・デザインブック』とか、デザイナーの先輩に薦められた本を読んだり、OSごとにデザインガイドライン( iOS:Human Interface Guidelines Android:マテリアルデザイン )があるので、理由がない限りは合わせるようにしています。あとパーツごとに、他のイケてるUIを見つけてはストックする。
ーここに至るまで、いろいろな失敗や紆余曲折が合ったんですね。
そうですね。起業して成功している元エキサイトの先輩を見て、「もう遠い存在だ…」って思っちゃうことが悔しかった。新卒入社の後輩でも、自分より結果出している人が何人もいて、焦る気持ちもありました。
あと他社の人から「新卒入社だから視野が狭い」とも思われたくない。そういった気持ちもどこかにあったかもしれません。
ーそして社内ベンチャーでチャンスを掴んだ、と。
ずっと、人を笑わせることを仕事にしたいという夢があって。中でも好きなラジオは自分にとっても老後まで聴きつづけられるように、もっと盛り上げたいと思っていたんです。
そんなときに社内ベンチャー制度ができて、これはやるしかない!と。もちろん翻訳やブログなど既存の便利なサービスもやり甲斐は感じていますが、どうしてもゼロイチで成功させたかった。
ー『Radiotalk』のアイデアはどこから?
もともとユーザー投稿モノが好きだったんですよね。小学3年から新聞や雑誌に投稿を始めて、5年生では掲示板に書き込んだりして。社会人になってからはラジオ番組へのネタ投稿を続けていたのですが、方法がいまだにメールなので、もっといいソリューションはないかなと考えていました。
さらに、2016年から『Exciteブログ』を担当しているので、その課題と向き合ったことはきっかけの一つになりました。スマホシフトしたことで、ブログを書く人はPC、見られるのはスマホから、となっていて。ただ、入力のところからスマホネイティブ世代に馴染みやすいものにしていく。そう考えると、年齢が下がるほど利用者の割合が上がる「音声入力」には可能性があるんじゃないかと。
その2つが噛み合ったというカタチですね。
ー出たアイデアはスムーズにカタチになっていきましたか?
…じつはそこも大変で(笑)ベンチャーを作る規模の事業計画なんてやったことなかったので。Radiotalkの前身となるボツ案は10案以上あると思います。
ーどのようにして企画の精度をあげていったのでしょう?
とにかくたくさんの人の声を聞こうと思って。社内プレゼンは全社員が招待されて、かつ社内SNSに動画が公開されます。そこから社員100人ほどからフィードバックやアドバイスをもらいました。
ー100人!なかなかそこまでやり切れる人は多くない気がします。当然、ダメ出しというか…
たくさんありますね。それが嬉しかったです。逆に全員が賛成するサービスなんて誰にも刺さっていないとも言えますし、これだけのリアクションをもらえていることに感謝しています。
じつはエキサイトって社内にたくさんのノウハウやナレッジがあって。歴史が長い分、起業して出戻りした社員もいれば、伊藤忠商事の関連会社なのでベンチャーキャピタル(伊藤忠テクノロジーベンチャーズ)に出向する社員もいます。クライアントの候補なども数珠つなぎに紹介してもらってフィードバックをもらっていくことができました。
社内ベンチャー制度は、最後のステップで事業計画書を書く必要があって。私は書いたことがありませんでした。たくさんの人に助けを借りて、なんとかカタチにできた。本当に協力してもらったみなさんには感謝しかないですね。
ー最後に、今回のプロジェクトでぶつかった「壁」について教えてください。
それでいうと…一番リアルな答えとしては「今」かもしれないです。リリースするまでってゴールが明確ですし、そこに向かって全力で走ればいい。リリースした8月から9月が検証期間だったのですが、会社にも成果を認めてもらえて、先日、事業化が決まりました。本当の勝負はここからだなって。
あらゆることの決断はすべて自分。本番のリリースに向けた仕込みとして分析や追加開発、アライアンス営業、プロモーション計画を進行させつつ、β版の運用やカスタマーサポートも欠かせません。そのために、開発には本業が他にある「応援エンジニア」に4人も入ってもらって、企画でも3人手伝ってもらって。草ベンチャーのマインドで乗り越えないと進めません。
ー大変さは伝わりつつ…表情をうかがっていると楽しそうでもありますね。
そうですね。自信を持って「楽しい!」って言えますね。エキサイトは上場企業で大手と思われるかもしれませんが、このアプリはあくまでベンチャー。挑戦者の気持ちです。まずは本番に向けて、応援者を増やす、ここが当面の目標です。
また、応援してくださる方々にちゃんとお金で返していきたい。お金を稼げるサービスに成長させていく。野望としては「これ一本で会社にできる」と手応えをもって『Radiotalk株式会社』を作りたいですね。Radiotalkのビジョン「暮らしにエンターテイメントを」をより広く実現したいです。これから勉強しなきゃいけないことばかりですが…(笑)
ー社内ベンチャーって、ただ制度があるだけで活用されない事例も耳にします。参加する側がどう向き合うか、ここも大切だったりしますよね。井上さんのひたむきさ、諦めない姿勢に勇気をもらいました。今日は、ありがとうございました!
文 = まっさん
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