2020.02.12
成田修造 クラウドワークス|CEOが自信喪失、組織崩壊の危機。そのときNo.2は「コーチ」になった。

成田修造 クラウドワークス|CEOが自信喪失、組織崩壊の危機。そのときNo.2は「コーチ」になった。

上場の追い風とは裏腹に、クラウドワークスが直面していたのは組織崩壊の危機。そして、社長の孤立。当時、26歳 副社長の成田修造さんは、その危機とどう向き合ったのか。彼がNo.2として果たした役割とは。

0 0 4 29

全2本立てでお届けします!
[1]クラウドワークスが狙う副業市場、新規事業『クラウドリンクス』の勝算
[2]CEOが自信喪失、組織崩壊の危機。そのときNo.2は「コーチ」になった。クラウドワークス 成田修造

上場後、狂い出した組織の歯車

2011年に創業、約3年でマザーズに上場したクラウドワークス。

上場の追い風を受け、オフィスを移転。採用強化も加速させた。

まさに”これから”というとき、組織の歯車は狂いだしていた。

当時の状況を、CEO吉田浩一郎さんは過去の取材でこう語っている。

「2015年1月、上場直後のことです。その時、私は会社で完全に”孤立”をしていました...(中略)...全く社内からは賛同を得られなかったですし、むしろ信頼が底に落ちました。『今の事業にこんなにリソースは必要ないのに100名も採用すべきではない』『ガーデンプレイスのような坪単価の高い場所に引っ越すべきではない』『新卒採用の意味がわかっていない』などなど。私への非難はあげたらキリがない」
引用)クラウドワークス 社長 吉田浩一郎が「孤立」の先に見つけた希望

クラウドワークスに起きていた「組織崩壊の危機」と「社長の孤立」。

当時26歳、副社長となって1年目の成田修造さん。

この状況をどう捉えていたのだろうか。

「上場したことで、環境は急激に変わりました。社員数が3~4倍に増え、事業も単一から複数に。吉田もそうですが、僕も、他の役員も、うまく方向性が一致せず、苦悩する日々が続いていたと思います」

組織に歪みが出ていたのは事実、と語ってくれた。

社員が離れ、孤立化していく吉田さん。成田さんは何を考えどう行動していったのだろうか――。

+++大学時代のインターンがきっかけで、創業期のクラウドワークスに執行役員として新卒入社した成田修造さん。入社3年目、25歳のときに取締役兼COOに抜擢される

意思決定のたびに、社員から批判が飛び交った

上場直後、2015年は会社として経験したことのないフェーズに入っていました。わずか1年で社員数は29名から100名以上に拡大、資本家との対話、事業の多角化など...。急激な環境変化にともない、組織としても変革するべきタイミングを迎えていました。

いままでは、経営陣がそれぞれの組織コンセプトを作り、伝播し、それによって事業成長できていた。けれど、規模の拡大の伴い、それぞれが言いたい放題、考えたい放題の状態に。社長の吉田が意思決定するたびに、批判や非難が飛び交うようになっていました。

何をどのように決めていくことが自分達として正しいスタイルなのか。何をすれば一番効果が出るのか。決断の拠り所となる基準が作れていなかったんだと思います。

お互いが失敗を取り上げて、揚げ足取りみたいな感じで責め合う...そんな空気も蔓延していました。

副社長1年目。組織マネジメントも新規事業も、散々だった

崩壊寸前の組織を目の当たりにしながら、自分は副社長として何をするべきなのか、いまの自分になにができるのか、正直なところ最初は頭を抱えていました。

新規事業を色々トライしたものの、なかなか芽が出ない。組織マネジメントも、ほとんどはじめての経験。社員や経営陣をうまくまとめきれず、僕自身も空気に飲まれ、対立したり...自分自身のことさえコントロールしきれず軸がブレていたこともあった。

吉田との関係も、疎遠になった時期がありました。どういう会社を作っていくべきか、お互いの目線が合わなくなっていたことも...。どうすれば自分の考えが伝わるのか、逆にどうすれば吉田や他の経営陣の考えを調和できるのか。自問自答する日々が続きました。

+++

「吉田さん、得意なことやりましょう」

手探りで自分のできることを探していくなかで、少しずつ見えてきた自分の役割。それは、自分自身が吉田を理解し、吉田の強みや役割を理解し、それと経営陣の考えの一致とズレを整理して、会社の方向性に筋をつけること。

まず自分達が今何に迷っていて、何が問題で、何がずれているのか、一つひとつ整理し、それに対して一個一個対応していきました。コンサルティング会社に入ってもらい、徹底的に議論して自分達を見つめなおすことも実施しました。

コンサルティングプロセスでは、これまでの意思決定や組織作りに対してそれぞれの意見や想いを出してもらい、経営陣からも不満爆発(笑)。色んな考えを知れてよかったと思いますが、吉田だけでなく自分にも白羽の矢が立つこともあったので、なかなかに辛い議論でした(笑)

そして経営陣で決めたことが、吉田やこの会社価値観を明確にして、それを組織全体へと伝播させること。当然、それをやることで「価値観に合わない」人も出てくると思うのですが、恐れずにやろうと。そうしないと、これ以上大きな組織や事業は作れないんじゃないかと思ったんですよね。

苦しんでいた当時、我々は色々やろうとしすぎていたと思うんです。マイクロマネジメントをして組織に深く介入しようとしたり、新規事業を立ち上げようとしてみたり、不確実性の高い大きな投資をしてみたり。手探りであるがゆえに色々なことに手を出し、その良し悪しに組織が一喜一憂する。そして、無理に頑張ってやろうとすることで、組織がついてこず崩れる、みたいな状況も当時は続いていたように思います。

経営においては、全てがパーフェクトである必要はなく、得意なことに集中したほうが、世の中に価値を届けられますよね。たとえば吉田でいえば事業の価値を世の中に届けたり、外に出てコネクションを広げたり。そういうことは、吉田だからできるところ。吉田のもつ高い目線や行動力、変化力が、会社のコアだとも思っていました。そして自分は戦略作りや組織全体を動かしていくようなことが得意。そういった強みを組み合わせて、会社のコアにできたら強いと考えました。

だから、「吉田さん、得意なことやりましょう、吉田さんの考えてるコアなものを会社の強みに変えていきましょう」っていう話は繰り返し伝えていきました。

苦しんでいた当時、「寄り添っていた」というつもりはありません。経営陣同士が目線をあわせ、それぞれが強みを伸ばしていくこと、経営者のコアな価値観を組織としての強みに変えていくことは、会社が成長するために必要なことだと思っていたので、自然とそういう動きをしていました。

+++「一時期、吉田は現場のマネージから離れ、海外に行きました。ネットワークを作りに行くとか、思い切って行動していく。ここが吉田のいいところ。ただまあ別に海外にまでいく必要はなかったかもしれませんが(笑)」と成田さん。

社長とマネージャー陣が、本音を言い合える場づくり

吉田とのコミュニケーションを続けながら、やるべきことを見直した結果、まず取り組んだのはミッション、ビジョン、バリューの刷新。吉田が目指す世界観と、私や経営陣が目指す世界観を統合しながら、つくっていきました。

これまでは7つだったバリューを、3つにし、「CW3」と命名してストレートに会社の目指す行動指針を明文化。バリューに沿う形に組織も再編成して、抜本的に組織改革をおこないました。

あとは、吉田からの全社へのメッセージ量も意図的に増やすようにしました。クラウドワークスには毎週の全社朝会や、四半期ごとの全社キックオフの場で、経営陣からメッセージを伝える機会があります。それまでは下手をすると3カ月に1回程度しか吉田から全体へのメッセージはなかったのですが、その頻度を週1回に変えて、とにかく全社員の前で話す機会を意図的につくるようにしました。

+++

また、とにかくマネージャー陣が吉田と意思疎通できる機会も増やすべきだと思って、3ヶ月に1度、吉田とマネージャー陣で合宿形式で集まり、会社の方向性について議論する場を作りました。これは今でも続く「マネジメントキャンプ」と言われるイベントですが、毎回30〜40人のマネージャーが集まって、喧々諤々と議論をしていく。

私や吉田が考えていることをちゃんと現場のマネージャーレベルが理解できるようにしていく。逆にマネージャーたちも何を考えているのかを経営陣に伝える。

さらに、会社として、何を大事にするのか?ということも明確にしました。我々は社会のインフラになることを目指していること。そのためにも「大きな成長」を第一義に考えていくこと。成長の手段も社内新規事業やM&Aなど、多面的な方法を考えていること。こういったことを一つ一つ明確化し、まとめたのが「ミッションカード」です。これは、吉田が四半期に一度刷新し、全社員に配賦するなど、力を入れているコミュニケーションツールで、今や我々の文化の一つになっています。

必要だと思ったことを、一つ一つ進めていった結果、ミッション、ビジョン、バリューが言語化され、ミッションカードが作成され、会社として大切なものがクリアになっていったように思います。そして事業についても、M&Aや新規事業など様々な取り組みにコミットする時間が増加。結果として、以前の記事でも取り上げていただきましたが、エンゲージメントスコアがトリプルAになり、業績も上がり黒字化することができました。

+++「副社長など肩書きはあまり気にしていません」と成田さん。「ただ、世の中を第一線で良い方向に変える人、そういう組織であることは、誰よりもこだわっていたい」

「変化」こそが自分のアイデンティティ

この過程で私が特に意識していたのは、会社の成長に誰よりコミットし、あらゆる状況に対してカメレオンのように変化していくこと。そして「成果につなげること」です。各人の意見やアイデアの良し悪しをちゃんと見極めて、会社として一本の筋を通していく。そして、市場の評価、組織エンゲージメントにつながる具体案に落とし込み、実行する。

時には会社の経営トップとして必要な立ち回りをすることもあるし、社長の意思を伝達することに徹することもある。そうかと思えば、会社全体の「あるべき姿」や「事業のつくり方」を組織内に染み込ませることもあるし、投資家や社外に向けてビジョンや戦略を伝えることもある。現場の事業開発にハンズオンで入っていく必要もあります。もちろん全てできるわけではないので、その時々によって変化するわけですが、必要に応じてこれら全部をやる覚悟が重要だと思っています。そのためにも、常に自分をアップデートする。その努力が苦にならないくらいタフにならないと…と思っています。

もちろん、努力を積み重ねて、変化することは大変だと思うこともありますけど、変化をやめて自分が自分でなくなってしまうほうが怖い。成長しないことは簡単なんですけど、アップデートをやめた時に自分が得るであろう喪失感は容易に想像できます。そんな後悔だけは絶対したくありません。変化をやめたら、自分じゃない。

そして、クラウドワークスが目指すものって、50年、100年先の未来を変える可能性を秘めていると本気で思っていて。せっかくやるなら、自分が死んだ後も残る会社をつくりたい。それが私の原動力だと思います。

+++

>>> [1]クラウドワークスが狙う副業市場、新規事業『クラウドリンクス』の勝算


編集 = 野村愛
取材 / 文 = 田尻亨太


特集記事

お問い合わせ
取材のご依頼やサイトに関する
お問い合わせはこちらから