2020.04.03
「社会実装」前提に研究開発を。LayerXの「ブロックチェーン基礎研究」について【寄稿:中村龍矢】

「社会実装」前提に研究開発を。LayerXの「ブロックチェーン基礎研究」について【寄稿:中村龍矢】

ブロックチェーン関連事業を手がけるスタートアップLayerXにて、この4月より執行役員に就任した、中村龍矢さん。LayerXの研究開発の取り組み方や、今後実現して行きたいことについて、寄稿いただきました。

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【プロフィール】中村龍矢 2017年2月にGunosyデータ分析部にジョイン。グノシーやルクラをはじめとするサービスのデータ分析および機械学習を用いたコンテンツ配信アルゴリズムの開発に従事。LayerXの創業時より参画し、ブロックチェーンの基礎技術の研究を行う。EthereumのPoSプロトコル Casperのコアリサーチャーを務め、日本拠点のチームとしては初めてEthereum Foundationのグラントプログラムに採択される。EthereumのプロトコルアップグレードプロジェクトEthereum 2.0では脆弱性を複数発見し、その解決策は公式の仕様に採用されている。また、CBC Casperの形式的検証に取り組み、その論文はCBC Casperに関する論文として世界で初めて査読付き国際学会に採択される。スマートコントラクト言語Vyperのコントリビューター。DEVCON, EDCONなどの世界的な開発者カンファレンスにて登壇。

データエンジニアからブロックチェーン業界へ

まず、LayerXについて簡単にご紹介すると、もともとニュースアプリサービスの「Gunosy」の子会社として設立されました。(注: 2019年8月にMBOを実施。)

私はLayerX設立前からGunosyに在籍しており、データ分析部にて各サービスのデータ分析や機械学習ロジックの実装に従事していました。

在籍前からもともと自分でスタートアップをやりたいと考えており、データ分析やエンジニアリングを経験したタイミングで退社して起業しようと事業を探しはじめていたところ、Gunosyの新規事業開発室が取り組んでいたブロックチェーンが目にとまりました。

その頃、私はブロックチェーンを「バズワードの一つ」くらいに捉えていましたが、Bitcoinの技術的な仕組みについて解説されている本 “Mastering Bitcoin” を勧められ読み始めました。何もないところから二桁兆円の時価総額がなぜ生まれたのか不思議で、仕組みを調べて行くうちにのめりこんでいきました。起業する前に、一度ブロックチェーンについてきちんと向き合いたいと思い、新規事業開発室に異動させてもらいました。

実際に異動してからは、新規事業開発室でブロックチェーン関連の事業を模索する中で様々な技術調査に取り組みました。現在、メインの研究対象の一つであるEthereumと出会ったのもこの時です。そのアイデアに感銘を受け、異動初日にEthereum公式クライアントのgethのコードを読み始めました。

異動して1ヶ月くらい経過し、子会社になることが決まったころ、技術に没頭していた私と、業界で有名な技術ブログZoomを運営していた須藤の二人で、今日まで続く研究開発チームが誕生しました。研究を通して社内に知見を溜めながら、新参であるLayerXの業界でのプレゼンスを高めるというのが元々の役割でした。

LayerXの研究開発: 事業が隣にあるという強み

次に、弊社の研究開発について具体的に紹介します。弊社のようなスタートアップでは、非常に少ない人数で国内外の大企業やアカデミアと差別化していかなければなりません。

弊社の場合は、先日のアセットマネジメント事業の合弁会社設立のリリースのように、実際にブロックチェーンを使ってビジネスをするチームが近い距離にいることで仮説検証サイクルが圧倒的に早い、というのが競争力になると思っています。

まず、研究開発として代表的な取り組みは自社ソフトウェアの開発です。弊社ではこれまでにZerochain(秘匿送金ブロックチェーン)やCordage(異なるブロックチェーンを接続するモジュール)などをオープンソースソフトウェア(OSS)として公開し、また現在開発中のものも複数あります。

先行する米中のテック企業がたくさんのブロックチェーンのプロダクトを出している中で、自分たちで作ることに意味があります。今日のブロックチェーン業界はまだ、ユースケースが徐々に見つかり始めている程度の初期段階であり、それぞれ適切なブロックチェーンの設計は異なります。一つの汎用性の高いプロダクトがそれらを吸収してくれることは現状なく、当面はブロックチェーンの設計に関して分化が進むだろうと予想しています。

そういった中、事業がいつも隣にある弊社で、実ビジネスで生まれた技術要件を実現するための研究開発をすることは極めて意義があると考えています。

当然、中長期ではブロックチェーン関連ソフトウェアがある程度収束していき、今自分たちが作っているソフトウェアが役割を終える時が来る可能性は十分にあります。最近でもPreferred Networks社が深層学習フレームワークを自社開発のChainerからFacebookが開発するPyTorchに移行するという発表がありましたが、こういった変化の速い業界ではソフトウェアの寿命は短いものと割り切ってもよく、むしろその短い寿命の中で価値を出せるよう出口戦略を考えることが重要です。

研究開発のアウトプットはソフトウェアだけではなく、学術論文にして学会での研究発表を行うこともあります。昨年度は、ポスター発表も合わせると4つの国際学会と2つの国内学会に参加し、先日のリリースにもあるように査読付き論文も2本発表することができました。アカデミアのコミュニティで研究発表を行うことで、社外の研究者の方との議論や査読を通して研究の質を高めることができます。

引き続き、実際のユースケースで発見されたリサーチ・クエスチョンをアカデミアに伝える、橋渡しの役割を担っていきたいです。

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「アウトプット」へのこだわり

形がなんであれ、研究開発の成果をアウトプットするということに強いこだわりがあります。会社の技術的なケイパビリティを高めるだけなら、「わざわざ自分たちでコストをかけて技術を開発しないで、論文を読んだりオープンソースのソフトウェアを動かしたりするだけで十分ではないか」と聞かれることがあります。確かに広く浅いキャッチアップのためであればそれでも良く、弊社も新しく出た技術を調査して社内勉強会で共有することが頻繁にあります。

一方、実際のビジネスで使える深い知識やスキルの習得のためには、それでは不十分と考えています。自分たちでより良いものを作ろうとして初めて、比較対象としての既存技術の強み弱みに気づき、英語で発信することで世界中の研究者・開発者から生の情報をもらえます。私達のような小さな組織がこそ社外を巻き込んでダイナミックにやった方が学習効率も良いということです。また、アウトプットを意識することでチームの生産性も上がります。

「タダで勉強しない」というのもポイントです。例えば、弊社が日本で初めてEthereum Foundationのグラントを獲得するきっかけとなったプロジェクトであるCBC Casperの定理証明器による形式的検証は、もともと社内で誰も定理証明器の経験がなく、勉強のついでとして始まったものです。いたずらに本を読んだりチュートリアルをやり続けるなどではなく、勉強しながらでも何か価値を出そうとする姿勢を大切にしています。

アウトプットにこだわるもう一つの理由は、弊社の行動指針の一つである「徳」にあります。弊社はブロックチェーン業界の様々なOSSを無料で使ってビジネスをしているので、自分たちも研究で得られた発見やソフトウェアを還元し、恩返しをしたい。ブロックチェーン業界自体の発展に貢献したいですし、それは将来的に自分たちのためにもなるでしょう。

こういった理念の元、昨年はEthereumのプロトコルアップグレードプロジェクトであるEthereum 2.0に、複数の脆弱性発見とその解決のための仕様変更という形で貢献をすることができました。研究の過程でEthereumのファウンダーのVitalikをはじめとするトップランナーとたくさんの議論ができたことは非常に良い経験になりましたし、将来的に数兆円もしくはそれ以上のアセットを乗せる可能性のあるシステムのセキュリティに携わる緊張感を味わいました。

これから実現したいこと

今回私が執行役員に就任することで、今まで以上に弊社の研究開発を加速させて行きたいと思っています。また、研究開発に限らず、社内随一のブロックチェーンオタクとして各事業でどのようにブロックチェーンを使うべきか考えることにも取り組んでいます。

業界全体は今、そもそもブロックチェーンはなんのためにあるのか、という自問の時期にあります。ブロックチェーンには暗号通貨・分散型金融などの新しい経済活動を支えるプラットフォームという面と、単純に機能的特徴の多いシステムという面の両面があります。技術の本質を理解し、正しい使い方を社内外で伝えていくことで、「すべての経済活動を、デジタル化する。」という弊社のミッションを実現していきたいです。


文 = 寄稿


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