2017.11.22
仮想通貨だけじゃない! ブロックチェーンを活用した海外サービスの事例とは? Omise 宇野雅晴

仮想通貨だけじゃない! ブロックチェーンを活用した海外サービスの事例とは? Omise 宇野雅晴

クラウドストレージ、メディア、ゲーム、ギャンブル(未来予測)…ブロックチェーンを活用した様々なサービスが誕生している。その潮流について、海外ブロックチェーン事例について詳しい宇野雅晴氏(Omise)が語った。

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[プロフィール]
Omise Japan株式会社
Business Development Manager 宇野 雅晴

神戸大学卒業。博報堂プロダクツにてダイレクトマーケティング領域で、営業やプランナーなどに従事。特にデジタル領域における施策を展開。2015年10月にOmiseに参画。日本市場の責任者・ビジネスディベロップメントとして事業拡大を進行中。同社では2017年7月に「OmiseGo」という分散型の決済プラットフォームで、ICOによって2500万ドルを調達して話題となった。「銀行口座を持たない人でも手数料0でネットワーク上における資金のやり取り」を目指す。

ブロックチェーン、その可能性とは?

※2017年11月14日に開催された「Japan Product Manager Conference 2017」よりレポート記事をお届けします。

ブロックチェーンについて毎日のようにニュースを目にする昨今。どうしても動きの活発な「仮想通貨」まわりに目がいきがちだ。

ただ、ブロックチェーンを活用した新サービスは、その他にも続々と登場している。今回は、海外事例をメインに、その新たな可能性について触れていきたい。

取り上げるのは、タイに拠点をおくフィンテックスタートアップ「Omise」宇野雅晴氏による講演。同氏は「サービス設計における示唆になれば」と海外ブロックチェーン実例について語った。

ブロックチェーン関連用語・概念を総ざらい

まず宇野氏が解説したのは「ブロックチェーン」「ビットコイン」「ICO」「トークン」といった用語に関する定義について。

「噛み砕いた説明」という前置きのなか語られた概念について、総ざらいとして見ていこう。


ブロックチェーンとは?

「中管理者のいない、P2Pでやり取りができる分散型台帳」と捉えていただければいいと思います。

これは「お金」で考えるとわかりやすいです。たとえば、これまで多くの方は銀行にお金を預けていました。それは「銀行」という中央の管理者に信用があるからですよね。同時に預金額は記録、つまりデータでしかない。故意であろうが過失であろうが、管理者は預金額を書き換えることも物理的には可能です。

これを「分散型」で管理していくのが、ブロックチェーンというわけです。ネットワーク上にある「台帳」なので、取引履歴がすべて残ります。また、ビットコインのように充分に分散されたものであれば、ゼロダウンタイム(サービスを停止しない状態)で進んでいくため、365日24時間、いつでもやり取りができます。

blockchainとは

そして、ブロックチェーンの特徴は「データの改ざんが難しい」ということ。仕組みとしてはP2Pネットワークを用いたデータベースを用いており、それぞれのノードが同一性のデータを持っています。仮にデータの改ざんをしようとすると、その半数以上のデータベースを書き変えないといけない。これが、データの改ざんは不可能ではないが、難しいとされている理由です。

補足として「トラストレス」という言葉の説明をしておきます。これは、中央管理者に対する「信用」を必要としないという意味。ブロックチェーンに関する記事などでよく出てくるので覚えておくといいかと思います。


ICOとは?

続いてICOについて。噛み砕くと「ブロックチェーンによりトークン(デジタル・アセット)を発行し、資金調達を行うクラウドファンディング」に近いものと考えるとイメージがしやすいかと思います。「アイデアを提出し、お金を集める新たな仕組み」といってもいい。

icoとは

元々は分散型のシステムを開発するための事業資金を調達するための仕組みでしたが、最近ではトークンの役割が既存のポイントなどと変わらない仕組みで発行され、単純に資金を集める手段としても使用されているのが見られます。

やり方としては、

▼ブロックチェーン上で「トークン」を発行
▼アイデアやプロジェクトの支援者に「ビットコイン」などの仮想通貨を送ってもらう。
▼その支援者に、自らが発行したトークンを返す。
▼集めた仮想通貨を、法定通貨に替えるなどして自分たちの事業資金にあてる

というのが大枠の仕組みです。大きな問題としては法整備がまだまだ進んでいないということ。それにより詐欺まがいのものも数多くあるため、もし購入するのであれば細心の注意が必要です。

2017年、ICOはかなりバズったということもあり、昨年比でいえばICOの件数は4.4倍、調達額33.9倍の32億5700万ドル(2017年10月時点)という数字となっています。

icoの状況



トークンとは?

ここまで「トークン」という言葉を多く用いてきましたが、そもそもどういった意味なのか。英語の意味として「代用通貨、記念品、引換券」を示しています。「交換可能な価値」のように言われているものです。

仮想通貨は世間一般的には「コイン」と呼ばれています。ただ、仮想通貨は、ブロックチェーン上で発行されたデジタル・アセットであり、「トークンである」と認識いただいてて相違がないと思います。

また現在「Ether=ETH」は取引所に上場しており、通貨のように使われていますが、もともとネットワーク使用料用(スマートコントラクト)に開発されていたもの。

もう少し整理すると、この図のようになります。

トークンの状況


もうひとつ補足として、トークンの種別についても見ておきましょう。現在、まだ明確な定義はないものの、整理のために下記のような分類が言われています。

トークンの分類


ブロックチェーンのサービス事例とは?

続いて、宇野氏が語ったのは、これまでに登場してきたブロックチェーンを活用したサービス事例について。


「まだまだアイデアベース、実験段階のサービスが多く、実際には、どこが成功するかわからないのが現状」


こういった前提の上で、サービスを紹介をしてくれた。

※サービス事例であり、推奨するものではありません。トークン購入には株式と同等のリスクが伴います。



分散型クラウドストレージ
サービス事例…STORJ、Filecoin、Maidsafe、IPFS、SIO

分散型のDropboxだと捉えてもらっていいと思います。「個人が所有するPCやMacの空きストレージを貸し出す」ということをイメージしてみてください。

その分散された空きストレージに対し、データを預けたい人が、充分に暗号されたカタチ、細切れなキャッシュでデータを預けていく。

トークンの扱いとしては、ストレージを借りる側の人は「使用料」として支払う。空きストレージを貸す側人は、その報酬としてトークンを得られるという仕組みです。

これもサービス主体者がいない分散化された状態で、しかもプロトコルによって記述されているので、自動的にすべて走っていくというものです。


自律分散型投資ファンド(DAO配当券)
サービス事例…The DAO(ハッキングされ、すでに停止されている)

もうひとつ、ブロックチェーンを使った「自律分散型の投資ファンド」があります。たとえば、これまでスタートアップ企業が資金調達をしようと思ったとき、ベンチャーキャピタルにプレゼンし、価値が定められ、資金を得るというカタチでした。

この一連のプロセスをブロックチェーン上でやろうとした試み。

もう停止していますが、「The DAO」というサービスを例に見ていきましょう。起業家たちは「The DAO」上に自身の事業アイデアを投稿します。それを「キュレーター」と呼ばれる人たちが承認を行う。トークン保有者による投票が行われ投資してもいいか、判断していきます。

プロジェクトにおいて利益が出た時には、配当が自動的に分配され、「DAOトークン」が「Ether=ETH」に変換される。管理者がおらずルール(プログラム)だけが存在し、自動的に運営されるVC要らずのファンド…という構想でしたが、ハッキングされて停止となりました。


未来予測市場(DAO配当券)
サービス事例…augur、GNOSIS

もうひとつ「未来予測市場」というものがあります。これは「ギャンブル」をイメージしていただくといいでしょう。ギャンブルに関しては各国で法規制がありますが、「未来がどうなるか」ということに関して参加者が予測を行います。その予測の結果に応じて配当支払いが行われます。

ギャンブルには必ず「胴元」がいます。賭け事は胴元への信用がベースにありますが、時に不正分配があったり、不当に利益を抜き取るといったリスクもゼロではありません。言葉はよくありませんが、胴元がいないことで「中間搾取」が排除でき、配当の不正分配を防げる。誰でもが公正に未来の予測に「賭け」を行なえて、配当を得られるというものです。


会員券・プリペイド型
例:マーケットプレイス内通貨、ファンクラブ、スポーツクラブの会員券

これはみなさんの生活において、一番身近な例かもしれません。たとえば、企業が発行している会員券、チケット、優待券、ポイントなどトークンで発行するものを指します。

暗号通貨の世界では「管理者が存在せず、真に分散化されているサービス設計においてトークンが使用されるべき」というような言説もありますが、このように自社の価値やポイント、プリペイド、会員券をトークンに置き換えるものが多くなっているように思います。なぜなら、そのほうがサービス設計しやすいからです。

噛み砕くと、たとえば、企業が発行している独自の「ポイント」があったとします。これを自社で発行したトークンに置き換える。もしそのトークンが取引所で上場すれば、自社サービスの外でもつかえるようになったり、世界中でも利用できるようになったりします。トークンの価値があがれば、トークンを所有しているだけで、ユーザーは利益を手にすることも可能です。

また、トークンの価値が上がることにより利益が得られるのでそのサービスに対するコミットメントや、良くしようというインセンティブが働きます。そのサービスの価値が無くなればトークンの価値も無くなってしまうからです。


メディア
例:steemit

こちらも、まだ成功するかどうかはわからないですが、個人的にはすごくおもしろいと思っています。信頼のおける記事が上位に表示されるよう、ブロックチェーンによって、メディアのあり方を変える可能性のあるプロジェクトです。

これまでのメディアは、メディア運営者が存在していました。その人たちが、どのコンテンツを、どの位置に表示させるか、ある種、コントロールをしていたわけです。

その点、この「steemit」は、投稿者が記事を書く。投稿するごとにトークン=報酬を得られて、評価が集まると、さらに報酬がもらえるという仕組みです。

さらにおもしろいのが、評価者側も「一番はじめにいい記事を発見した人」に多くの報酬が支払われ、信頼を得ていくというもの。

「いい記事を掲載させたい」という投稿者、「いち早くいい記事を見つけよう」という評価者、その双方に対して「正」のインセンティブが働く。トークンという報酬を与えることで、メディア・コンテンツにおける自浄作用を働くように設計されています。


ゲーム
こちらはまだ目立った事例はないのですが、ゲームの世界でもブロックチェーンは活用が進んでいくと思っています。

そもそもゲームの世界には「コイン」や「アイテム」がデジタルデータとして存在しており非常に相性の良い領域と言えます。たとえば、あるゲームタイトルで「銃トークン」「盾トークン」「薬草トークン」などをつくり、それを別のタイトルでもつかえるようにしてみる。相互作用、P2Pでユーザー同士による価値交換が活発に行われるかもしれません。

こちらもトークンの取引所で取り扱えるようになればさまざまな可能性が広がります。メディアへの記事投稿で稼いだトークンを、ゲームのほうの切り替えたり、その逆だったり、経済圏がサービスを超えて広がっていく可能性があります。

ブロックチェーンと親和性の高い領域は?

「中央管理者を排したP2P経済圏は確実に広がっていく」という宇野氏。最後に、ブロックチェーンを活用したサービス開発におけるポイントを語ってくれた。


マーケットプレイスは親和性が高い

マーケットプレイスは、これまでは中央にサービス主体者がおり、「バイヤー」と「セラー」を結びつけていました。サービス主体者は「手数料」というカタチで利益をあげていたが、その存在そが不要になるかもしれません。手続きは全て可視化、自動化され、信用するしかなかったサービス主体者がいなくなる。つまり、トラストレスな社会がくるかもしれません。


サービス開発者たちに求められるのは「報酬」「外部連携」をどう設計するか?

もし、ブロックチェーンを使った新たなサービスをつくろうと考えている方がいれば、核となるのはトークン発行における「報酬」をどう設計するか。どういった価値を付与できるか、しっかりと設計することだと思います。また、経済圏が広がっていくため、外側にあるサービスとの連携、ネットワークとの結びつきを考えていく。そうすることで新しいサービスが考えやすくなるのではないでしょうか。ぜひいいアイデアや構想がある方は意見交換させていただき、シナジーを生んでいければと思います。


(おわり)


文 = CAREER HACK


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