シリコンバレーをはじめ海外のTech界隈で語られる「エクスポネンシャル」。直訳すると「指数関数的」を意味するが、これまで支配的な地位を築いてきた業界内の企業に対し、新たな競争を迫る「前例なきディスラプション」を前提とする概念だ。その知られざる側面を語る佐宗邦威氏、講演を受けたレポートをお届けする。
※10月に開催された「WIRED CONFERENCE 2016 FUTURE DAYS」講演よりお届けいたします。
「海外に取材に行くと、エクスポネンシャルというキーワードをやたらと耳にするんですよ」
10月の晴れた午後、虎ノ門ヒルズ内のカンファレンスルームに集まった聴衆は、雑誌メディア『WIRED』 にて編集長を務める若林恵氏がこう切り出すと、瞬く間に静まり返り、彼の話に熱心に耳を傾け始めた。
若林氏が言及した「エクスポネンシャル」という概念は、上述の通り、シリコンバレーをはじめとする海外のTech界隈では一般に知られつつある概念だ。
最近では、世界の四大会計事務所(BIG4)の一角を占めるDeloitte社のメンバーファームとして知られるデロイトトーマツコンサルティングが「デロイトエクスポネンシャル」を設立したことからも分かる通り、我が国においても、その重要性は確実に認識されつつある。
参考:https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/about-deloitte/articles/news-releases/nr20160920.html
(注)エクスポネンシャルは、直訳すると「指数関数的」を意味する。人工知能やロボティクス、量子コンピューターのような「ムーアの法則」で定義された進化速度をはるかに上回るペースで進化するテクノロジーは、「エクスポネンシャル」な成長をもたらすディスラプティブなテクノロジーとして注目を集めているのだ。
実際、WIRED編集長の若林氏も、
「企業のマネジメント層に対し、『エクスポネンシャル』という概念についてのブリーフィングを行う機会が増えてきている」
と述べており、我が国においても、「エクスポネンシャル」という概念に対する関心が著しく高まってきていることは明白だ。
今後、ますます重要性が高まるキーワード「エクスポネンシャル」を理解することは、分野を問わず、すべてのビジネスパーソンにとって、大きな意味を持つだろう。
そこで、今回は、人類の課題を解決するための教育機関「シンギュラリティ大学」で学んだ数少ない日本人のひとり、佐宗邦威氏の講演「Exponential or Die|エクスポネンシャル・オア・ダイ」を踏まえてつつ、今、最も注目すべき概念である「エクスポネンシャル」について紐解いていく。そして「エクスポネンシャル」な成長を遂げる組織に必要な要素について考察したい。
《プロフィール》
佐宗邦威/共創デザインファームbiotope創業者。イリノイ工科大学Institute of design修士課程修了。グローバルトレンドリサーチや人間中心デザインの方法論を活用した新規事業のインキュベーション担当。主な著作として「21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由」がある。
改めて、エクスポネンシャルとは、直訳すれば「指数関数的」という意味だ。指数関数のグラフが急上昇するカーブを描くように、飛躍的な発展を遂げる企業のメカニズムを説明する際に用いられる概念である。
デジタル化されたテクノロジーは「指数関数的」な成長を遂げる傾向があるが、元々の規模が小さいため、初期フェーズにおいては、多くの場合、人々の目にとまることはない。
シンギュラリティ大学が言うところの「長い失望の期間」だ。しかし、倍々の成長を10回繰り返せば、元の値の1000倍、20回繰り返せば100万倍、30回繰り返せば10億倍に達するように、積み重なった「指数関数的」な成長は、カオスと期待を超えた爆発のきっかけとなり、結果として、途方も無いインパクトを我々にもたらす。投資の世界における「複利」の概念と同じだ。
エクスポネンシャルが本質的に意味するところについては、シンギュラリティ大学の創設者として知られるレイ・カーツワイルが、対義語Linear(線形的)と対比した上で、以下のような説明を行っている。
「人間の直感がLinearであるのに対し、人類やテクノロジーの進化は、歴史的にExponentialである」
また、シンギュラリティ大学の卒業生であり、今回講演を行った佐宗氏も、私見と前置きした上で、エクスポネンシャルの本質について以下のように語っている。
「Exponentialとは、人間の線形思考を捨て、進化論の視座で歴史を捉えることである」
ちなみに「エクスポネンシャル」な成長が期待されるテクノロジーとしては、代表的なものとしてゲノム解析、ナノテクノロジー、太陽光発電蓄電、脳波解析が挙げられる。
エクスポネンシャルの意味について説明した後、佐宗氏は、個人・組織というフレームワークを活用しながら、入念な要素分解を行なった上で、「エクスポネンシャル」という概念についての網羅的な説明を開始した。その説明は素晴らしく明快で示唆に富むものであった。
とりわけ、組織論の文脈における「外部資源の活用」という観点からの説明に著しい感銘を受けたので、今回は、佐宗氏の発言を踏まえつつ、「エクスポネンシャル」な成長を実現する組織を形作る上での「外部資源の活用」の重要性に焦点を当てながら説明を試みたい。
企業の存在意義は、外の世界から学びを得ることで、より早く規模の大きな学びを得ること
まず、ご紹介させて頂きたいのは、佐宗氏が引用したDeloite Center for the edgeのJohn Hagel III世(ジョン・ハジル三世)の発言だ。
「企業の存在意義は、20世紀型の規模の経済による効率性ではない。それは、より早く規模の大きい学びを得るためである。今の時代の大企業が、自分の組織以外の外の世界に学びを求めるのは自明のことである」
佐宗氏も語っていたことだが、Deliitteのような伝統的な企業に所属する人物が、このような先進的な内容を含む発言を行なっていることは注目に値する。もしかすると、21世紀における企業の役割は、知を集める「プラットフォーム」としての機能を提供することにあるのかもしれない。
ちなみに、企業の存在意義については、同日に開催された講演「会社よさらば:脱中央型自律組織・論」においても、ブロックチェーンを活用した分散型自立組織の観点からの言及がなされており、大変参考になる。イベントレポートが以下のリンクから閲覧出来るので、興味のある方は参考にして欲しい。
参考:https://careerhack.en-japan.com/report/detail/733
あらゆるリソースを「外部調達」することが、フレキシブルなアクションを可能にし、「エクスポネンシャル」な成長をもたらす
また、元Yahoo!のバイス・プレジデントであり、シンギュラリティ大学のプログラムの統括を担当するSalim Ismail(サリム・イスマイル)も、「エクスポネンシャル」な成長を遂げる組織の特徴として、「外部資源の活用」を「社内資源の活用」と並列して語っている点があると佐宗氏は語る。
同氏によれば、今後、「エクスポネンシャル」な成長を実現する企業を形成するためには、
「自社の持っているアセットを最小限にし、クラウドや知恵やお金を含むあらゆるリソースを外部調達することによって、フレキシブルなアクションを常にできるようにしておく」
ことが重要であるとのこと。一方で、外部資源をフレキシブルに活用し、「エクスポネンシャル」な成長を実現するために最も重要なことは、「アポロ計画」のような野心的なミッションをデザインし、発信することであることにも言及していた。
Yahoo! JAPANが運営するコワーキングスペース「Lodge」が目指すオープンなコラボレーション
少し本題からズレるが、「外部資源の活用」という文脈で言えば、最近、Yahoo!Japanが自社オフィス内にコワーキングスペース「Lodge」をつくり、社外との有機的なつながりを意図的に創出することを目指している点に、シンギュラリティ大学が主張する「エクスポネンシャル」な組織の兆しを感じた。実際、コワーキングスペース「Lodge」のウェブサイト内には、以下のようなコンセプトが掲げられている。
「オープンなコラボレーションを生むため、利用者同士を結びつけるコミュニケーター制度を導入。情報交換や新たな協業を生み出していける仕組みを作りました。Yahoo!Japanとの事業に親和性を感じる方、地方創生を目指す方、スタートアップ企業の方、何か面白いことがしたい方、ここはそんなあなたに来て欲しい場所です」
参考:https://lodge.yahoo.co.jp/#Concept
非常に居心地の良い空間なので、カフェに訪れるような感覚で、一度足を運んでみることをオススメする。
Peter Thiel(ピーター・ティール)が語る「分野横断的」な思考の重要性
さらに言えば、組織の垣根を超えるのみならず、分野の垣根を超えることも、「エクスポネンシャル」な成長を実現する組織をつくるためには、言うまでもなく重要な要素であり、佐宗氏もシンギュラリティ大学の特徴として、「文化横断のTechnologies(AI、Robotics、AR/VR、DNA、Energy、Space)」を挙げていた。
また、分野横断的な思考の重要性については、シリコンバレーを代表する大物投資家として知られるピーターティールが、以下のように語っている。
「人文科学を専攻すれば、世界について多くのことを学ぶことができる。しかし、仕事に必要なスキルは学べない。一方、エンジニアリングを専攻すれば、技術については多くを学べるだろうが、そのスキルを、なぜ、どのように、どこで応用すべきかは学ぶことができない。最も優秀な学生、社会人、思想家とは、これらの問いを首尾一貫したナラティブに統合する人である」
参考:https://gist.github.com/harperreed/3201887
これからの時代においては、組織横断的かつ分野横断的なマインドを持つ人材こそが、差別化された価値を生み、「エクスポネンシャル」な成長を組織にもたらすのではないかと個人的には感じた。シンギュラリティ大学もそのような資質を持つ人材の応募を心待ちにしていることだろう。
参考:佐宗氏のプレゼンテーション資料の一部はこちらで閲覧可能
http://www.slideshare.net/sasokunitake/wired-conference-exponential-or-die-for-slideshare
最後に、佐宗氏のビジネスパートナーであり、シンギュラリティ大学のティーチングフェロー兼日本アンバサダーを務めるジョバン・レボルド氏からシンギュラリティ大学についての説明があった。
今回は紙面の都合上、掲載することができなかったが、シンギュラリティ大学についての説明と、シンギュラリティ大学で開催される10週間のプログラム「グローバルソリューションプログラム」への登竜門となるコンテスト「グローバルインパクトチャレンジ」への参加方法についての説明がなされた。興味がある方は、応募してみると良いだろう。
文 = 勝木健太
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