2020.07.14
ネットビジネス 戦乱の世。メルカリの成功例に見る勝ち筋|尾原和啓[1]

ネットビジネス 戦乱の世。メルカリの成功例に見る勝ち筋|尾原和啓[1]

ネットビジネス史に学ぶ“勝ちパターン”とは? メルカリの成功例を基軸に、2020年6月27日に新刊『ネットビジネス進化論 何が「成功」をもたらすのか』を上梓した尾原和啓さんに伺った。

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ネットビジネス進化論 何が「成功」をもたらすのか

※本記事は、6月15日に実施した公開取材『ネットビジネス史から学ぶ“勝ちパターン”とは?』を編集したものです。公開取材の模様はYouTubeチャンネル「キャリアハック」でもご覧いただけます

【ダイジェスト版(6分)はこちら】

【ノーカット版(65分)はこちら

全3本立てでお送りいたします。
[1]ネットビジネス 戦乱の世。メルカリの成功例に見る勝ち筋
[2]「中国の最新テック」と、日本発ネットビジネスの戦い方
[3]「いいね」の次は何がくる? ネットビジネスの新潮流(7月16日 正午公開)

勝敗を分ける「タイミング」と「ディフェンシビリティ」

今回は尾原さんの新著『ネットビジネス進化論』を踏まえ、お話を伺います。まずいきなり結論のようですが、「勝つネットビジネス」の共通項があれば教えてください。

じつはシンプルで、変化のタイミングを見極め、正しく参入できたものが勝つんですよね。

『TED』でも語られた内容ですが、IT企業400社で、タイミング、お金、チーム、アイデア…何が成功要因に関わったのか?調べていくと「タイミング」が1位、43%という結果になったそうです。

つまり、ネットビジネスはテクノロジーの進化、ユーザーの価値観の変化、この2つのタイミングにより、有効だったゲームが有効じゃなくなる瞬間がくる。そこをとらえられるかどうか。

もうひとつの成功要素は、日本だとあまり語られない「ディフェンシビリティ」が挙げられます。日本語で言うと「防御性」、つまり「競合がやりたくてもできない部分があるから、あり続ける」と。負けないための仕組みがあるか。

プロダクトそのものだけ見ると、ネットビジネスはやろうと思えば誰でも簡単にパクれるし、パクられます。日本でいえば、『メルカリ』と『フリル』もそうでした。機能だけ見れば、ほとんど同じフリマアプリだったわけです。ただ、『メルカリ』が素晴らしかったのは、資本の使い方やオペレーションの作り方だったわけです。

簡単にパクれるビジネスだと『Uber』と『Lyft』のように、殴り合いを続けているわけですが、ドライバーとユーザーは得ができますが、会社としては永遠に儲かない。シリコンバレーでの投資、シリーズ以上なら「ディフェンシビリティ」の有無は必ず見られます。

相互ネットワークを制すものが、ネットビジネスを制す

そのディフェシビリティを得るために重要なこととは?

『ネットビジネス進化論』でも書いた「相互ネットワークエフェクト」がわかりやすい一例だと思います。

ここで言う「相互」は「買い手」が「売り手」を呼び、「売り手」が「買い手」を呼ぶこと。相手がいるからもう一方が集まる。その「ぐるぐる」を作ったもん勝ち、という話です。

相互ネットワークエフェクトとして、日本のネットビジネスで最強なのが『ヤフオク』です。

「買い手」からすると「売り手」が多い方が、買い手が分散するので安く買えると思えます。一方で「売り手」からすると「買い手」が一人でも多い方が入札が増え、1円でも高く売れると思えるわけです。つまり「一定数の買い手が集まっているところで売った方がいい」となる。

また「売り手」としては、他のサービスで同時出品しづらいですよね。他で売れてしまうと、競り落とした人に「すみません、他で売れちゃったので売れません」となると悪評のレビューにつながるので。

その結果、世界のどの国を見ても、最初にネットオークションで1位になったところがシェアの9割を占めている。

たとえば、アメリカだとダントツのシェアトップ『eBay』ですが、日本では見る影もありません。日本では『ヤフオク』が圧倒的1位。『楽天オークション』、DeNA『ビッダーズ』と続きますが、この2つを合わせてもシェアは約10%しかない。これは『ヤフオク』の相互ネットワークエフェクトが最大限に効いているからです。

『メルカリ』のライバルは『ヤフオク』じゃなかった。

ひとつ大きな疑問があります。最強の相互ネットワークエフェクトを発揮している『ヤフオク』があったのに、なぜ『メルカリ』は大ヒットしたのでしょうか?

単純に言うと、似ているようで「全く違うものを売っていた」からだと思います。

オークションは「1円でも高く売りたい」と思う人が売る場所ですよね。

ただ、『メルカリ』はどちらかというと「早く売りたい人」が集まる場所です。また、「コミュニケーションとしての売り場」の独自設計がある。そこには創業者である山田進太郎さんの哲学がふんだんに盛り込まれています。

『メルカリ』の平均滞在時間は30分くらいと言われています。これが意味しているのは単に「買いたいから来る場所」ではなく、「自分に似た人がこんなものを出品しているのか」と眺めて楽しむ、いわば女性誌を読むのにも近い感覚の人も多くて使っている、ということ。『メルカリ』の独自性でいうと、売る中でコミュニケーションを楽しみたい人も来るんです。

『メルカリ』と『フリル』の差は、もちろん資本の使い方の差もありましたが、『メルカリ』は「コミュニケーションとしての購入」を強化したことが素晴らしかったのだと思います。

同時に、さっき言った「早く売りたい」「早く買いたい」という相互ネットワークエフェクトも効いている。「買い手」からすると「売り手」が多い方が早く買える。「売る手」からすると「買い手」が多い方が早く売れる。

そして、『メルカリ』はスマホ初期にかなりアクセルを踏み、首位のポジションを確固たるものにしていきました。まさにテクノロジーによる進化があったわけですよね。スマホが普及したことで、出品の手間が圧倒的に楽になり、そのテクノロジーの転換点のタイミングに合わせてチューニングをしていった。

同時に、ミレニアム世代を中心とする人たちのなかで、たくさんものを買って所有するより、必要なもの、好きなものだけ囲まれて暮らす価値観も浸透していきました。使わなくなったものを置いておくより、売れるものはどんどん売る。

1回しか使わないものなら中古で買う。そしてまた売った方がサステナブルで。こういった価値観が浸透していったのも「タイミング」だったと思います。

こうしてシェアで7倍、8倍と差がついてしまうと「とりあえずメルカリ」になる。わざわざ「2番手」に出品するインセンティブがなくなってしまうわけです。

人間の根っこは意外と変わらないもの

『ネットビジネス進化論』にも「探索型」というキーワードが出てきます。いわば「探すのが楽しい、というところから購買が生まれていく」と。ここ最近、とくに「探索型」の購買が注目されるようになった背景はあるのでしょうか?

じつは、この「探索型」の購買は、今に始まったことではありません。根っこの人間心理は意外と変わらない。ただテクノロジーが面倒臭さを取り払ってくれて、人間の根っこの部分が出てきているだけ、とも言えます。

わかりやすい話だと『楽天』のショッピングモールは20年近くありますよね。たとえば、自宅用に作業用デスクを買おうと思ってショップを見てみる。ショップのページって印刷してつなぎあわせると、長いもので5メートルくらいになります。そこで5万円くらいするデスクがバンバン売れるわけです。一見するとおかしく聞こえるじゃないですか。

じつは、あのページ、日本固有のものとして元Googleのマリッサ・メイヤーに見せたことがあるんです。僕がGoogleにいた時、楽天にお連れして。

(*)Googleの元副社長(当時、検索製品およびユーザーエクスペリエンス担当)。当時、マリッサ・メイヤー*は「世界中のカッティングエッジを知らなければ新しいプロダクトは作れない」とプロダクトマネージャー約30名と世界8か国を3日ずつ滞在するツアーを実施していたという。そこで各国のユニークなプロダクトに触れていたそうだ。

わざと長いページを印刷し、巻物みたいにして見せたんです。当時流行っていた「バケツに入ったプリン」と一緒に。彼女はそれを見て一言「ウィンドウショッピングね」と言いました。

インターネット上で大量の画像が見れて、その「絵面」だけでも楽しい。ネットでも「探索型」の買い物ができる、ということを象徴するエピソードですよね。『楽天』はその先駆けだったわけです。

なので「検索型」と「探索型」というと新しく聞こえますが、昔からリアルでも「探索型」のウィンドウショッピングはやっていたし、それがネットになり、『楽天』でもやっていたわけです。さらにテクノロジーが進化によってスマホでできるようになった。その代表が『メルカリ』でした。

誰もがスマホでサクサクとキレイな画像をアップでき、家にもWi-Fiがあるのでパケ代を気にせず使える。「ウィンドウショッピングは楽しい」という人の根っこは変わらないけど、テクノロジーが追いつき、何かをスイッチングさせてしまう。そのタイミングを掴んだ者が「権力」の一等地にいるわけです。


取材 / 文 = 白石勝也


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