2020.07.15
「中国の最新テック」と、日本発ネットビジネスの戦い方|尾原和啓[2]

「中国の最新テック」と、日本発ネットビジネスの戦い方|尾原和啓[2]

オンラインが「日常」に溶け込む中国の最新事例、そして日本発ネットビジネスの戦い方とは。2020年6月27日に新刊『ネットビジネス進化論 何が「成功」をもたらすのか』を上梓した尾原和啓さんに伺った。

0 0 1 3

ネットビジネス進化論 何が「成功」をもたらすのか

※本記事は、6月15日に実施した公開取材『ネットビジネス史から学ぶ“勝ちパターン”とは?』を編集したものです。公開取材の模様はYouTubeチャンネル「キャリアハック」でもご覧いただけます

【ダイジェスト版(5分)はこちら】

【ノーカット版(65分)はこちら

全3本立てでお送りいたします。
[1]ネットビジネス 戦乱の世。メルカリの成功例に見る勝ち筋
[2]「中国の最新テック」と、日本発ネットビジネスの戦い方
[3]「いいね」の次は何がくる? ネットビジネスの新潮流(7月16日 正午公開)

全ての人が「ID」と「お金を渡せる接点」を手にする

2020年代、これからのネットビジネスを考えていく上、日本でも進む「キャッシュレス経済」は重要テーマですよね。そもそもなぜ「キャッシュレス経済」が大きなインパクトを生むのか、伺ってもいいでしょうか。

キャッシュレス経済について「コンビニでQRコードが使えて便利」と捉えると「QRコードよりも、SUICAの方が便利じゃない?」など的外れな話になってしまいますよね。

そうではなく、キャッシュレス経済で本質的に大事なのは、全て人が「ID」と「お金の受け渡しの接点が持てる」ということです。

たとえば、中国だと街頭にある屋台でもQRコード決済が当たり前になっています。いわゆる楽器演奏の「流し」のお兄さんへの投げ銭もQRコード。昔は小銭がないふりをすれば逃れられましたが、今は逃げられません(笑)

誰にでも商いのチャンスが開かれている、ということでもあります。経済活動の側面から見ても中国は人口がどんどん増えていきますから、人口を支える飲食店やサービスも栄え、国としても豊かになっていく。QRコードをひとつ構えて、個人が努力して美味しい屋台を出せば、人気が出て、お金持ちになれるかもしれない。ラッキンコーヒーのように1年で4000店舗を出す。そんなチャイナドリームがまだまだあり得る国なんですね。

そして「ID」の側面から見たネットビジネスで言うと、中国ではいま「occasion economy」にシフトしています。その時、その場所でこそやれる、つまり「occasion」に最適化したサービスがどんどん日常に浸透してきています。

たとえば、街なかで『WeChat』を開き、スクロールすると、近所にあるお店のアプリがズラッと並びます。さらに「ちょっと時間が空いたから映画でも見よう」となったとします。

・近くの映画館の空き状況がすぐわかる
・何割引きで行けるか見れる
・その場で空席を予約できる
・映画館にQRコードで入場して鑑賞する

これが数クリックで出来てしまいます。しかも隣の空席を『WeChat』で送れるので、映画館の中の席でも待ち合わせができます。友だちもQRコードを送って、1クリックするとマップが出て、どこに向かえばいいかがすぐわかります。入場券もQRコード、その席に座ったらとなりに僕がいる。これがもう日常なんですよね。

屋台やカフェのテイクアウトも事前予約で、自分好みにカスタマイズした注文も事前にできます。「あと25人であなたの順番です」が把握できて、あと3人くらいになるとプッシュでも教えてくれる。

すべてに摩擦がない、つまりフリクションレスが進んでいる。じつは日常生活のなかで、やりたいことってそれほど多くの選択肢があるわけではありません。だから、occasionに合わせてメニューを出しておけば、あとはクリックして選択するだけ。摩擦なく実行できる社会が中国だと実現されつつあります。中国はリープフロッグ、いわゆる「蛙の一飛び」でそれが実現されていて、この波は東南アジアでも進んでいる。

ちなみにアメリカで言われているのは「intention economyからattention economy」です。「intention economy」は「やりたい時にすぐやれる」つまり、Googleですね。そして「attention economy」は「attention」なので、注意を引きつけること。たとえば、ついついTikTokを見てしまって、ランチに行く場所を決めたりすることですね。「味」はどこもそこまで変わらないなら、映えるところを選ぼう、と。

ただ、こういった「intention」や「attention」より大事なのが「occasion」だったりするわけです。友だちとご飯を食べにいくとして「待ち合わせまでの1時間」、TikTokにアップするような奇抜なことがしたいわけじゃないですから。

「感情価値」で勝負せよ

日本だと「occasion economy」もさることながら、キャッシュレス決済もかなり進んだとはいえ、まだまだこれからと言えそうです。

そうですね。ただ、「occasion economy」ってかっこよく聞こえるじゃないですか。でも、考えてみてください。日本だったら、コンビニに行けばほとんどのことが解決できちゃうよね、という話でもあるんです(笑)コンビニが便利すぎる。全く並ばずにあれほど美味しいデザートがパッと買える国なんて日本くらいですよ。

リアルの小売店舗が日本は素晴らしく良くできているので、わざわざネットやスマホによって便利にする必要がなかった、とも言えます。利便の「差」が少ないわけです。それ故の不幸といいますか、進化が遅れてしまいました。

言い換えると、サービスの質が相対的に高いので、生半可な勝負では、フランチャイズに勝てません。たとえば、コーヒーにしても、セブンイレブンの100円コーヒー、とてもおいしいですよね。あのコーヒーに勝とうと思ったら、スターバックスくらいブランドを作り込んで300円プラスして払ってでも買いたくなる「価値」を作らないといけません。たとえば、コミュニケーションや、買った自分がうれしくなる何か。

至るところで言われていますが、「機能価値」では勝負ができない。飲食店にしても、数年でどのお店でもいわゆる「大ハズレ」はなくなりました。「機能価値」で差がつかないと「感情価値」や「物語」で差をつけないといけない。コミュニケーションを通し、本当に自分にあったものを提供してくれるもの、自分にあった場所を提供してくれるものが選ばれるようになります。

機能でつながるのではなく、物語でつながる。感情でつながることのほうが大事になる。それをすごくわかりやすく、山口周さんの著書『ニュータイプの時代』では「役に立つより、意味がある」として説明されているので、ぜひ読んでみることをおすすめします。


取材 / 文 = 白石勝也


特集記事

お問い合わせ
取材のご依頼やサイトに関する
お問い合わせはこちらから