2020.07.16
「いいね」の次は何がくる? ネットビジネスの新潮流|尾原和啓[3]

「いいね」の次は何がくる? ネットビジネスの新潮流|尾原和啓[3]

SNSの登場、そして「いいね」によって「承認」の欲求は満たされやすくなった。その先に人々は何を欲するのか。ネットに何を求めるか。キーワードは「所属」と「自己実現」。2020年6月27日に新刊『ネットビジネス進化論 何が「成功」をもたらすのか』を上梓した尾原和啓さんに伺った。

46 0 3 0

ネットビジネス進化論 何が「成功」をもたらすのか

※本記事は、6月15日に実施した公開取材『ネットビジネス史から学ぶ“勝ちパターン”とは?』を編集したものです。公開取材の模様はYouTubeチャンネル「キャリアハック」でもご覧いただけます

【ダイジェスト版(5分)はこちら】

【ノーカット版(65分)はこちら

全3本立てでお送りいたします。
[1]ネットビジネス 戦乱の世。メルカリの成功例に見る勝ち筋
[2]「中国の最新テック」と、日本発ネットビジネスの戦い方
[3]「いいね」の次は何がくる? ネットビジネスの新潮流

「所属」と「自己実現」を充足させるテクノロジー

とくに前々回のお話で、ネットビジネスで勝つために「テクノロジーの進化」と「ユーザーの価値観」の変化、この2つのタイミングが重要とありました。とくに「ユーザーの価値観」でいうと、どういった点に注目していますか?

まず有名な「マズローの5段階欲求」があり、諸説ありますが、説明原理としては納得感が高いですよね。

生理的欲求
安全欲求
社会的欲求
承認欲求
自己実現

この「5段階欲求」で「所属」「承認」「自己実現」をみていくと、SNSの「いいね」などによって「承認」の欲求を満たすテクノロジーは発達してきました。

ただ、承認欲求だけ肥大的に満たされるようになってしまった、とも言えます。

バランスとしてみると「所属」と「自己実現」が空いている。そこを充足させるテクノロジーが現れてくるはずです。

まず「所属」ですが、昔は「村」や「町」が自分の所属を決めてくれましたよね。ただ、現代だと満たしづらくなっていて。「会社には俺の居場所がない」とか「家族といても居心地が悪い」とか。

以前、オードリーの若林正恭さんとお話させてもらって面白かったのが、彼は「ラジオが主戦場」と言っていたんですよね。そこにはリスナーがいて「所属」を提供してくれるから、と。

インフルエンサーでいうと、ゆうこすさんも近いのかもしれません。「ぶりっ子」を「媚びること」ではなく「モテ」として定義し、相手に対しても、自分に対しても明るく、前向きでいること、として肯定した。「モテ」を意識することはわるいことじゃない。そこに罪悪感に抱いてしまっていた女性たちに「それでいいんだよ」と伝えた。自分に対しても明るくいられれば、周りに対しても明るくいられるよ、と発信し続けていきました。だから、ゆうこすさんはすごく輝いていますよね。「居場所のなかった女性たち」に「所属」を提供しているのかなと思います。

ブランドが「所属」を感じさせてくれるものもありますよね。かっこいい文脈でいえば、D2Cの『Glossier(グロッシアー)』のようなインスタで250万人もフォロワーがいるようなサイトが出てきたり。『Allbirds(オールバーズ)』のような環境にやさしいシューズが売れていたり。「自分のあり方」を認めてくれるブランドが売れています。

僕は「赤いマフラー」を1年中巻いているのですが、世の中からすると「何だ、あいつは」みたいに居場所が無いやつです(笑)

でも、楽天を覗けば、中二病感があり、すごくかっこいい赤いマフラーをたくさん売っている店がある。「ああ、俺と同じように赤マフラーを探し求めている人がいるんだ」と「ありのままの自分でいい」と認めてもらえる「所属」の場所だったりもするんですよね。

僕らは「明日のなりたい自分」を買う

それは「自己実現」にもつながっていくものでしょうか。

そうですね。たとえば『モレスキン』というノートのブランドがありますよね。

フランスのサロンでピカソのような有名人が使っていた、とされる伝説のノートです。あれはイタリアの文具店が「このままいくと文具の安売り屋になってしまう」と「物語」と一緒に売りはじめ、世界的なブランドとして知られるようになった、と言われています。

つまり「モレスキンを使うことでどこでも自分らしさを失わず、発想をメモし続ける」そんな「なりたい自分」という価値を買っているわけですよね。

ノートの質だけで見れば、コクヨの100円のノートのほうが使い勝手はいい。インクだって染みない。僕は筆圧が強いので、モレスキンのノートだとすぐぼろぼろにしてしまうのですが、それでも使いたい。

どこでも旅しながら、自分らしさを失いたくない。自分に対するコミュニケーションなんですよね。「明日のなりたい自分」を買うわけです。

インフルエンサーの話に戻ると、なぜ、西野亮廣さんが会員6万人ものサロンを運営できるのか。それは西野さんの冒険を共にする最前列のチケットを、月たった1000円で買えるからですよね。西野さんは仲間を巻き込みながら、毎晩キャンプファイヤーをしているようなもの。多くの人は「所属」と同時にやはり「なりたい自分」を買っているのだと思います。

「明日のなりたい自分を買っている」は、比較的お金に余裕があるから出来るようにも思うのですが…?

本当にそうでしょうか。昭和初期、小津安二郎や黒澤明の映画を見てみるといいかもしれません。日々、苦しい時の方が、ほんのちょっとの夢を買いたいもの。

自分に置き換えてみてもいい。モレスキンのノートが高いといっても500円くらいです。たくさん書かなければ、3ヶ月は持ちます。それほど収入がなくても「自分には、自分で綴っている物語がある」と思いながら生きていける。そこに払う500円は決して高くありません。

いい例かわかりませんが、パチンコ屋さんにお金を払っている人は、必ずしもみんながみんな生活に余裕のある人ではありません。人は夢を買いたいもの。そういった人たちの物語を吸収して20兆円産業になったのがパチンコ屋さんだと僕は捉えています。

もちろんパチンコ屋さんは悪ではない。ただ、たとえば、生活の中でヘルシーで、持続できるレベルのもの、少しの人生のうるおいを与えてくれるものを、テクノロジーの力で買ってもらう。ここは伸びていく領域だと思います。

退屈を埋めるYouTube、所属をくれるインフルエンサー

インフルエンサーが満たしてくれる「所属」の欲求、すごく興味深いです。それはYouTuberとは全く違うものでしょうか?

そうですね。まずテクノロジーが「あり方」を規定する、という部分も大きいです。

YouTubeは、PV数当たりの収入を手にするゲームですよね。どうしても薄く広く見られた方がいい。さらにスマホで気軽に見れるようになりました。つまりYouTubeは「隙間時間」や「退屈を埋めるもの」。なぜ、ゲーム実況が生まれたか。毎日気軽に配信できるし、見る方も毎日気軽に見ることができるからですよね。

ゲーム実況は、ある種のトラブル発生装置でもあります。何かにチャレンジし、アクシデントが起きる。その時、人間の個性が出ます。

HIKAKINさんはコツコツやる人ですが、ときとぎ「やらかし」ますよね。その時の対応が誠実なので、微笑ましさに変わる。トラブルを通じてその人の人生が毎日味わえる。毎日動画を出し、PVを稼がないと儲からないYouTubeのビジネスモデルの重力から生まれた、コンテンツのスタイルとも言えます。

それに対し、インフルエンサーは「1万人」の敵を作ろうが「1000人」が月1000円を払ってくれれば月100万円になる。なので、狭くても、味方がい続けてくれる方がずっと大事なわけです。

しかし、過去を懐かしむタイプのファンだと変化できにくくなって物語が続かない、未来の自分に対して冒険を応援してくれて月1000円を払い続けてくれる人がいるか。この「未来の自分に対する冒険の同伴者」が、さとなおさん(佐藤尚之さん)が著書『ファンベース』が言っていたファンの定義です。

これは、ビジネスモデルがテクノロジーとプラットフォームにより規定され、そこに最適化が起きて生まれたもの。プラスアルファとして「受益者側」が「提供者側」の価値観にフィットすれば、ビジネスとしても爆発する、という話です。

「小さな経済圏」は変わらない人間の根っこ

たとえば、インフルエンサーによる「小さな経済圏」は一般人にも染み込んでくるようなものになるのでしょうか?

よく誤解されるのですが、小さな経済圏も、もともとあったものですよね。

たとえば、昔は「町のタバコ屋の看板娘」がいたわけです。日々多少の罪悪感を持ちながらタバコを買う時、町のあの娘さんから「はい、どうぞ。今日も●●さん元気ね」「いやータバコを吸いすぎちゃったよ、●●ちゃんに会いたいから」みたいなことを言って。「バカね。1日1箱にしておきなよ」という会話が、タバコの価値以上に嬉しいわけじゃないですか(笑)

ただ、この30年くらいは効率性と工業、主義の社会であり、「小さな経済圏」より「大きい経済圏」の方が効率的だったからやっていただけで。

それがようやく「ID」と「決済」が世界にしみ込んで、誰に対してもすぐにお金を払えるようになった時、もう一度「タバコ屋の看板娘」のような小さな経済圏の中で、僕らは安らぐことができるはずです。

余談ですが、僕は新型コロナウイルスの影響で60日間以上シンガポールで、ほとんど外出できなかったんです。外出して友人と会ったら罰金4万円、みたいな世界で。

リアルで人と会うのはテイクアウトの時だけになっていった。すると味はそこそこでも、愛想のいいおじさんのところに行くようになりました(笑)会うたびに日本語を少しずつ覚えてくれて。「あのおじさんのところで買ってあげたい。あいつ来ないじゃないかと思われたくない」と通うようになりました。

こういった「感情価値」によって、1日、たとえば、40人がお弁当を買ってくれれば生きられるわけです。10年自分を支えてくれる40人の人がいれば、一生食っていける可能性さえある。テクノロジーがそれを実現しやすくしてくれる。つまり人間の本質、何を楽しいと思うか、何をいいと思うのか、この根っこの部分はやはりあまり変わらないのだと思います。

オンラインネイティブ世代たちが主役の時代へ

最後にこれからネットビジネスのど真ん中で戦っていく若い世代へのメッセージをお願いします。

僕はハックという言葉が大好きなんですよね。最適化のために工夫し、失敗も含めて試す、という意味がそこには込められているから。まず個人としてラーニングすることで、どんどん自分も最適化し、新しい自分に出会える。このハックも楽しんでほしいです。

そして僕の中で「ハッカー」という言葉は世の中の歪みを見つけたら、楽しんで直さざるを得ない人たちのことを指します。難しいパズルやクイズを解き、世の中の歪みを直せたらおもしろいよね、こう考える人たちが僕の中のハッカーです。

僕からするとインターネットは、みんなに力をくれるもの。だから、その力を使って世の中の歪みを直した方が楽しい。

そして、インターネットは遠くにあるものを「つなげる力」があります。世の中の歪みを直す、ハッカーほど人を集めるられるものもありません。それなら楽しんで歪みを直していこうぜ、と伝えたいです。

ネットの時代は、失敗がたくさんできます。そして失敗すればするだけ、仲間もできる。いい仲間と何回も失敗していたら、タイミングがいつか来ます。しかも好きでやっていたら、長く続けられるはずです。

タイミングを引き寄せ、歪みを直し、世の中を良くしてみんな笑顔にしていく。そうすれば、ほんの少しの「ありがとう」で充分おつりがくるはずです。

このハックを楽しんでいただければと思いますね。僕自身も楽しみながら、歪みを直し、未来を開いていけるように頑張ります。

(おわり)


取材 / 文 = 白石勝也


特集記事

リモートワーク時代の戦い方

新型コロナウイルスの影響によって進むリモートワーク。とくにテック企業でいち早く導入され、日々アップデートされている。リモートワークが当たり前となるなかで、いかに働き方を変え、さらに組織として戦っていくか。各社の取り組み、工夫、リモートワークのやり方などに迫ります。

AFTER 2020

時代は平成から令和へ。そして訪れる「2020年以降」の世界。2020年からの「10年」をいかに生きていくか。より具体的に起こすべきアクションのヒントを探る連載企画です。お話を伺うのは、常に時代・社会の変化を捉え、スタートアップと共に"一歩先”を見据えて歩まれてきた投資家のみなさんや、未来を切り拓く有志者のみなさん。それぞれが抱く「これから10年間で現実的に起こり得ること」と「新しい生き方」の思索に

お問い合わせ
取材のご依頼やサイトに関する
お問い合わせはこちらから