「志がどれだけ高くても、センスがあっても、技術がなければいいコンテンツは作れない」。こう話すのは、『NAVERまとめ』編集長の桜川和樹さん。約15年にわたりインターネットの最前線でコンテンツを仕掛け続けてきた桜川さんに、クオリティを上げるための技術とスタンスを学びました。
[連載]
[1](前編)ものつくりは「技術が8割」|LINE 桜川和樹のWEB編集論
[2](後編)ものつくりは「技術が8割」|LINE 桜川和樹のWEB編集論
※本記事は、自分の企画で世の中を動かしたいプロの編集者を育成する『コルクラボ編集専科』(全6回)の講義内容をキャリアハックで再編集したものです。『コルクラボ編集専科』とは、コルク 佐渡島庸平さんが主宰する編集スクール。佐渡島さんだけでなく、出版業界・WEB業界の一流編集者たちが講師をつとめます。
*「コルクラボ編集専科」の記事一覧はこちら
WEB編集者の桜川和樹さんを講師に迎えた『第3回 コルクラボ編集専科』。
講義後半、話は「コンテクスト」の作り方、つまり「コンテンツが世の中にはまるよう設計する技術」へと展開していく。桜川さんは、コンテクストを作るにはまず「メディアの特性」と「受け手のメディア環境」を知ることが大切だと教えて教えてくれた。
メディアというのは乗り物。どの乗り物に乗るかによって、コンテンツの作り方は変えなければなりません。特に今はスマートフォンの時代。SNSだったりLINEだったり、スマートフォンはコミュニケーションのために使われることが大半のデバイスです。
つまり、どんなコンテンツもスマートフォンで日々行われているコミュニケーションの感覚にフィットした伝え方、作り方をしなければならない。
コミュニケーションって、分解すると「アクション×リアクション」のこと。スマートフォンに乗せるコンテンツを考えるとき、アクションだけでなく、いかに「リアクションをデザインできるか」が非常に重要になってきます。
たとえばウェブのインタビュー記事で、聞き手が登場して相槌をうったりツッコミを入れたりする手法がありますよね。これは読み手の感情に寄り添いつつ、理解をうながす役割がある。
また、近視眼的で読み飛ばしができないのもウェブの特徴。たとえば雑誌だったら、自分の読みたいページにすぐ行けますよね。スマートフォンは雑誌のように俯瞰的に読まれることはなく、一言一句読まれてしまうので、少しでも違うなと思われたらすぐに読み手が離れていってしまう。だからこそ、リアクションを設計して没頭させることが重要になる。
さらに、「受け手を取り巻くメディア環境を知る」というのも大切です。
たとえばファッション雑誌の変遷を見ると分かりやすいのですが、2009年~2014年頃にかけて、表紙のタイトルが「限定的で、断定的で、具体的な」表現に変わっている雑誌がありました。
(2009年)「撮った プライベート服、オシャレアイコンの1週間コーディネート」
(2014年)「可愛くなったのはワンピとコートとブーツのおかげです」
この5年間でスマートフォンとSNSの普及率が急激に増え、情報の消費量や発信量も一気に増えています。こうした受け手の環境変化によって、雑誌も「瞬間的に判断されるコンテンツの一つ」として、WEB的な見せ方に変わってきたのではないかと思います(詳細は過去のブログ記事で紹介しています)。
また2019年になると、ある雑誌では表紙に「週末デニムと和スイーツ」という特集名が大きく書かれ、スタジオで撮ったパキッとしたモデル写真ではなく、部屋の中で自然体に笑う日常を切り取ったような写真が使われていました。これはインスタグラムの影響があると考えています。この頃から、空気感や身近感、自然体であることが重要になってきたのかなと。
いま世の中の人たちはどういうメディア環境に親しんでいるのか。何を心地いいと感じているのか。そこに合わせて自分たちのやり方を変えていくことも必要なのではないでしょうか。
よく、「編集力=イタコ力」と言われることがありますが、これっていかに受け手の気持ちを自分の中に取り入れて、その人たちに伝わるように届けられるかということ。要は、どれだけ「世間」を自分の中に取り込めるかだと思うんです。
僕が普段メンバーに言っているのは、世間で流行っているもの、ウケているものをよく見ようということ。ウケているということは、やっぱり時代の空気感や共感性をちゃんと抑えられているということで。
Twitterで話題になっているものは批判も含めてチェックして、これってこういうことを考えている人が多いからヒットしたんじゃないか、物議を醸しているんじゃないかと確かめていく作業が必要なんじゃないかと。
また、世間の声といった定性情報だけでなく、「データ」もぜひ活用してほしいです。毎日細かくチェックするというよりは、自分なりの仮説を裏取りする感覚でデータを見るのがいいかなと。僕が普段使っているのはこのようなデータです。
たとえば反響のある記事をみつけたときに、Googleでそのキーワードの検索回数や関連ワードがどうなっているか。データと突き合わせながら自分の感覚をチューニングしていくんです。
あと、WEBメディアのViewランキングなどはずっと見ていると変化がたくさんあって面白いですよ。
一つ事例をあげるとすれば、2012年の夏頃のこと。当時、あちこちでファッションイベントが開催されるようになって。急にその波が来たなという印象があったのですが、その半年くらい前に『NAVERまとめ』のViewランキングを見ていたら、ファッション系の記事がよく読まれるようになっていたんです。
これは憶測ですけど、リーマンショックから数年経って、なんとなく世の中が少し活気づいてきた。ファッションにお金を使う余裕も出てきた頃だったんじゃないかな、と。
データから世間の動きを読み解く力も、ぜひ身につけておくといいと思いますね。
「マインド」と「センス」は、「技術」と違って教えられるものではないのですが、センスを磨く手がかりはあると思っていて。
話していてセンスがいいと感じる人って、共通して「具体化と抽象化」が上手です。たとえばこんなことがあったよって具体的な話をしたときに、それってつまりこういうことでしょ?と、的を射たたとえ話ができる。
「ボキャブラリーがある」というのは、実は言葉を多く知っているということではなく、具体と抽象の行き来が上手ってことなんだと思います。
たとえば「斬新」という言葉に代わる表現を考える時、多くの人は「新感覚」「斜め上」など「斬新」をより具体化して考えてしまう。
でもセンスがある人は、「斬新」を一度「これまでの常識とは一線を画していること」といった概念に抽象化して、そこからじゃあ芸人風に言うと「クセがすごい」かな、IT風に言うと「2.0」かな、といったように、別の視点で具体化ができるんです。
なので具体と抽象を行き来する思考のトレーニングを繰り返していくことは、センスを磨く手掛かりになるのではないかなと思います。
最後にお伝えしたいことがあります。「ビジネス書を読んで分かった気になったけど、結局何も行動しない」ということってよくありますよね。今日お伝えした技術もそれと同じ。知っているだけでは、やっぱり意味がないんです。
大事なのは、ここで学んだことをこの先どれだけ実践できるか。愚直にやり続けられる人って、たぶん100人いたら2人くらいの世界なんじゃないかなと。技術が身につくかどうかは「自分次第」ということも、ぜひ肝に銘じてもらえたら嬉しいですね。
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[1](前編)ものつくりは「技術が8割」|LINE 桜川和樹のWEB編集論
[2](後編)ものつくりは「技術が8割」|LINE 桜川和樹のWEB編集論
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