少女マンガ誌『デザート』元編集長の鈴木重毅(すずきしげき)さん。『好きっていいなよ。』『となりの怪物くん』などヒット作を担当してきた。彼はいかに作品を世に送り出してきたのか。その極意に迫ったーー。
[1]少女マンガ誌『デザート』元編集長が貫くこだわり
[2]『となりの怪物くん』ヒット要因を編集者が解説!
[3]“シロウト”こそヒットを生み出す?読者目線の養い方
※本記事は、自分の企画で世の中を動かしたいプロの編集者を育成する『コルクラボ編集専科』(全6回)の講義内容をキャリアハックで再編集したものです。『コルクラボ編集専科』とは、コルク 佐渡島庸平さんが主宰する編集スクール。佐渡島さんだけでなく、出版業界・WEB業界の一流編集者たちが講師をつとめます。
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>>> [2]『となりの怪物くん』ヒット要因を編集者が解説! キーワードは「時代感」「読み筋」「読者の声」
少女マンガの編集一筋、21年ーー。
鈴木重毅さんは、少女マンガ担当の編集者となった当時をこう振り返る。
「正直、最初の2年間はかなり戸惑いましたね。ただ、担当するうちに少女マンガって本当に素晴らしいジャンルだと思うようになりました」
当然、10代女子たちの気持ちが100%わかるか?といえば、そんなことはないはずだ。そんな世界で、なぜ21年間も続けられたのだろう。
「とにかく少女マンガってすごいなって。人と人の関係性が育っていく様、絆が深まる様をものすごく丁寧に描くジャンルなんです。このおもしろさをもっとたくさんの人に知ってほしい。ただただ、そういった思いで仕事と向き合ってきました」
20年以上にわたる編集者人生で、彼はいかにヒット作品を世に送り出してきたのか。そこには「熱量のこもった作品」を世に送り出し、広めていく編集の極意があった。
講談社時代、いわゆる「社会的少数派」の主人公が登場する作品も多く担当してきた鈴木さん。『オッパイをとったカレシ。』では性同一性障がいを取り上げ、『10代でママになった女の子』では10代で出産した方々の実話が元になっている。2019年7月から新連載の『ゆびさきと恋々』でも聴覚障がいがテーマだ。
こういった作品を多く担当してきた背景について語ってくれた。(注:今回のコルクラボ編集専科では「マイノリティー」を題材にした企画が課題になっていた)
「マイノリティ」と言い切ることには抵抗があるのですが、いわゆる「マイノリティ」をどうにかしたいとか、社会を変えたいとか、そういった意識は全くありませんでした。
それより、みんなが日ごろ全然気にしていない、見ていない場所に、「こんなすてきな人がいて、こんなすてきな世界がある」ということを、作家さんと一緒に思えたのなら、それが作品になったときに必ず伝わると思っているんです。
たとえば、『10代でママになった女の子』は全て実在する10代で出産した方々にお話を聞いて作品にしました。実際、14歳のママ、15歳のママに会ってみて、非常に魅力的なお母さんになっていた。子どもに対する愛情も深いものがあるし、育てていくことに覚悟もある。勉強もしている。こんなにもすてきな人が親だったら僕はうれしい。そう思えたのでマンガにした、という感じなんです。
「マイノリティ」や「障がい」といったテーマになると、すぐに「感動もの」「重たいもの」「試練みたいなもの」を期待されるし、思い浮かべやすいですよね。ただ、僕の場合は「自分たちの心が動かされたもので、たくさんの人の心を動かしたい」と。それが僕なりの王道なんです。
センセーショナルか、インパクトがあるか、売上がどうか。僕にとってそんなことはどうでもいい。読んだ後に心が前向きに変えられているかどうかのほうが大事かなと。
「こんなの作ったから知るべきだ、変えるべきだ」という風にぶつけても、そもそも興味を持ってもらえるわけではなくて。
僕や、僕と一緒にやってくださっている作家さんの場合、「こんなにもすてきな世界があるよ、こっちのほうがよくない?」という風に表現していく方が、大袈裟にいえば社会の変え方なのかもしれない、と思います。
アンケートやマーケティングなどでいろんな読者像を調べはするんです。だけど、コンテンツを作る時、僕はもっと深くイメージを持てるほうが重要だと思っています。
すごくたくさんの人にウケたいと思っても難しいですよね。100万部売りたいけど、100万人にとって良いものはなんだろう?と考えると、とても難しく、漠然としてしまう。
ひとつ『やさしい子供のつくりかた』という携わった作品を例にお話させてください。この作品はありがたいことに4話目から完結まで、ずっとアンケート1位だったんです。
『やさしい子供のつくりかた』は、10代を振り返ったとき「あの時、こんなことを知ってたらもっと人生が楽だったのに」ということを、10代の自分たちに言う。作者の丘上あいさんと、それをひとつの基盤にしていました。そのことがすごく良かったのかなと思っています。
目の前にすごく傷ついている誰かがいるとする。「あなたを励ますために、今日は、誰にも言わなかったとても大事な話を初めて打ち明けます」という話の方がその人の力になるし、結果的にそういった話のほうが、多くの人に届くのではないでしょうか。
自分がイメージできる誰かひとりの力に絶対なるんだ。その時にしか打ち明けない大切な話をするんだ。こういった方が僕自身、なんだかすごいパワーになると信じているというのもあるのかもしれません。
特に少女マンガで大切なのは、「普段見過ごしちゃうこと」に光を当てて、今を生きている、その世界を肯定してあげることのような気がしています。
たとえば、自分に「優しく接してほしい相手」がいたら、自分もその相手に「優しくしてあげればいい」って思いますよね。でも、普通に過ごしていると忘れちゃう。なぜだか冷たくしたり、距離をとったり。
忘れてたけど、何でそんな簡単なこと忘れてたんだろう。ああそうだな、とても大事なことなんだなって。マンガを通じてそこに気づけるだけで、すごく生きるのが楽になると思うんです。
ただ、題材を選ぶ時に関しては、基本的にできるだけ作家さんの人生に少しなりとも関わりのあるものを選んでもらうようにしています。
少女マンガの連載はうまくいくと、12巻か13巻くらい。だいたい4~5年はかかることが多いんですよ。
4~5年間ずっと毎月同じクオリティ、同じテンションで描けるかどうか。やっぱり縁もゆかりもない題材、人生に何も乗っかっていない題材だと続かないと思うんです。ずーっと長い間、「ああ、これこそが自分が描くべきものだった」と思えないと、とてもじゃないけど4年も、5年も、描けないですよね。
僕たちにとっても、やるべき根拠があるか、挑戦する甲斐があるかどうか。ここを大事にしたいなといつも思っています。
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