累計610万部突破した少女マンガ『となりの怪物くん』。菅田将暉・土屋太鳳主演で映画化もされた話題作。ティーンを夢中にさせたこのマンガ作品はいかに生み出された? 編集者である鈴木重毅(すずきしげき)さんの目線から「企画のウラ側」が語られた。
[1]少女マンガ誌『デザート』元編集長が貫くこだわり
[2]『となりの怪物くん』ヒット要因を編集者が解説!
[3]“シロウト”こそヒットを生み出す?読者目線の養い方
※本記事は、自分の企画で世の中を動かしたいプロの編集者を育成する『コルクラボ編集専科』(全6回)の講義内容をキャリアハックで再編集したものです。『コルクラボ編集専科』とは、コルク 佐渡島庸平さんが主宰する編集スクール。佐渡島さんだけでなく、出版業界・WEB業界の一流編集者たちが講師をつとめます。
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<<< [1]少女マンガ誌『デザート』元編集長が貫く、たった一人に強く刺さる作品へのこだわり
作品を作るときには「今これをやるべき理由」みたいなものが大事。作家や編集者が思うやりがいもその一つ。もう一つが読者側の状況。なので社会の状況や空気を捉えて、自分なりの問いと答えを提示することも大事だと思います。
今世の中はどういう空気になっていて、それが若い子にどんな影響を与えているのか。みんながどんな気分でいるのかを考えていく。
『となりの怪物くん』の企画は、2007年ぐらいに仕込み始めました。当時、ティーンの間で恋愛に対するポジティブな欲求みたいなものが非常に薄くなっている印象があって。
2000年頃は「付き合った経験が多い」人がたくさんいて、中には付き合った人数を競うって人たちもいた。その雰囲気がだんだん薄れていって、2007年頃には「何でわざわざ大変な思いして恋愛しなきゃいけないの?」って人たちが出てくるようになった。
そういった時代背景があったので、作者のろびこさんに「そもそも人はなぜ付き合うのか」、あるいは「付き合う良さって何?」ということをテーマにしてほしいとお願いし、それが『となりの怪物くん』誕生の一つのきっかけになりました。
僕がもう一つ大切にしているのは、「読み筋」というもの。読む時って、多くの人が「どんな話になるんだろう」って想像しながら読み進めるんですよね。だから、想像しやすい筋がないと、どのように読んでいけばいいのか分からなくなって読者に飽きられてしまう。
『となりの怪物くん』の場合はキャラクターたちが見たことのない新鮮なキャラクターだった分、筋は分かりやすくした方が良いと思い、最初『美女と野獣』を下敷きにしました。まあ、途中から全然関係なくなっちゃったんですけど(笑)
作家さんや若い編集者は、基本的に「全く新しいもの」を描きたい人が多い。それ自体は全然良いことですが、僕としては「入り口は普通でいい」と思っています。
入り口はすごい奇抜なのに、進んでいったら普通ってちょっとガッカリしませんか?それよりも、入り口は普通だけど中に入ったら思いがけず見たこともない世界が広がってるってほうが、ずっとワクワクしますよね。
みんなが読みたいのは、驚きたいのは“中身”。そういった意味でも、世界に入りやすくするためのわかりやすいストーリーラインを筋に入れることが大事だと思っています。
僕は、最終的に人が「どうやってその作品を話題にしてくれるか」が肝だとも思っていて。簡単に言うと、「自分の友だちにどんな風に説明するか」「説明しやすいか」っていうのをいつも考えています。
たとえば『となりの怪物くん』を読んだ人が、友だちに「すごい変わった男子なのに、すごいピュア」とか「ヤマケンっていう日本一気の毒な男の子がいるんだけどね」と一言で説明できるかどうか。「出口」を想像しながらコンテンツの解像度を上げていくんです。
作品のキャッチコピーも、どんどん変わっていきました。
最初は「この怪物に恋をしてはいけません」という表現だったのですが、次第にSNSなどで読者に「このマンガは変人ばっかり出てくるな」って言われるようになって。
5巻のカバーで、作者のろびこさんが「変人が多いって言われるけど、登場人物たちは誰一人自分を変だとは思わない」といった表現を使ったんです。
ちょうど僕も、同じようなことを思っていた。人が本気で恋をしたら、みんなどこかおかしくなるじゃん、と。それを肯定したいし、作品中でも必ず誰かが誰かを肯定している物語になっていた。
だから、キャッチコピーもそれが伝わるように「恋をするとみんな不器用になる」や「みんな不器用でみんなかわいい」といった表現に変わっていったんです。
そうやって「入り口」と「出口」を何度も行ったり来たりすると、だんだんコンテンツの理想の形がはっきりしてくる。解像度が上がって、結果的にものすごく強いコンテンツになっていくんですよね。
最後に…ちょっと想像してみてほしいんですけど、友だちになにかプレゼントをあげようと思ったとき、「何を贈るか」と「どう贈るか」ってあまり切り離して考えないですよね。
たとえば、皆さんの中の誰かがコルク 佐渡島庸平さんに誕生日プレゼントでメモ帳をあげようと思ったら…
「いつ渡せるかな?」
「今度この講義で会えるから、その時に渡そう」
「でもそこにはみんな来るから、みんなであげたほうがいいかな?」
「どうせみんな集まるなら、何かサプライズしたいよな」
「サプライズで演出を凝るんだったら、メモ帳一つってちょっと地味かな…」
こんな思考になるんじゃないかなと。
なんというか、プレゼントってこれはいつどうやって渡したらどう喜んでくれるかな、みたいなことも考えて選ぶ気がするんです。
つまり何が言いたいかっていうと、何かを作って届けるという行為は「プレゼントを贈ること」に近しいと思っていて。
この講義では「コンテクスト」って言葉がよく出てきますが、なんだか難しい言葉じゃないですか。だから僕は、コンテンツが「プレゼント」だとしたら、コンテクストは「贈り方」のことなんだろうなと置き換えて考えてみてます。
何をどう贈ったら、相手に喜んでもらえるだろう。そうやって、プレゼントを選ぶときのようにワクワクしながら考えてみるといいかもしれませんね。
▼トップ画像引用元
http://go-dessert.jp/kc/kaibutsu/index.html ©️ろびこ/講談社
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