2020.10.30
Retty、東証マザーズ上場。代表 武田和也さんと振り返る「10年」の歩み

Retty、東証マザーズ上場。代表 武田和也さんと振り返る「10年」の歩み

2020年10月30日、飲食店口コミサービス『Retty』が東証マザーズに上場を果たした。Rettyの創業は2010年11月。代表 武田和也さんと「Retty 10年の歩み」を振り返るーー。

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目次
・10年を振り返って|このサービスは絶対に成功する、疑いは微塵もなかった
・2020年~|コロナ禍での「上場」について
・2010年~2011年|創業1年目のピンチ、口座残高は10万円に
・2012年~2013年|マーケティングの主戦場の変化
・2014年~2017|2年連続の大型資金調達、そしてマネタイズ
・2018年~2020年|ゴールは「無い」

10年を振り返って|このサービスは絶対に成功する、疑いは微塵もなかった

このたびは上場、おめでとうございます! 振り返る前に、いきなり結論のようですが、あえて1つ、ここに至るまで、武田さんが経営者として大切にしてきたことがあれば、そこから伺ってもよろしいでしょうか?

ありがとうございます。創業当時は、本当に何もない状態だったのですが、自分でも不思議なのが「このサービスは絶対に成功する」と、始めから今まで、全く疑ったことがないんですよね。確信度が高いというか、思いの強さというか。創業当時も、今も、そこは変わっていない。

もちろんビジネスの方向性など、小さな転換はたくさんありました。ただ、いわゆる大きなピボットはしていなくて。さまざまな問題はあったし、今でも課題は山積みですが、「食」の領域で、というのも、ブレずにやり続けられました。

これは、すごく大事だと思っていて、社長が迷っていたらダメなんだろうなって。一つのことに集中して向かい続けると、自然とまわりが応援してくれたり、関わってみたいと思う人が増えたり。それが事業と組織を大きくしてくれる。すごい面白いですよね。

もし起業を考えている方、挑戦しようとされている方がいたら、10年間を振り返って伝えられることは、この「向かい続けること」かもしれないです。もちろんピボットを否定しているわけではなく、あくまで僕の「10年」で言えることですね。

Retty 過去取材はこちら
2013年3月29日掲載|《Retty》に学ぶ、世界で戦えるWEBサービスのつくり方[1]
2013年4月1日掲載 |《Retty》の資金調達に学ぶ、世界で勝つ視点[2]
2015年1月9日掲載 |スタートアップが考える理想のチームづくり|Retty CEO 武田和也

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2020年~|コロナ禍での「上場」について

なぜ、飲食業界が苦境に立たされているこの時期の上場だったのでしょうか?

一番の理由は、会社として足元がしっかりしてきて、今後の成長が見込めるようになったからですね。付け加えると「モバイルオーダー」のような新しい市場が立ち上がりつつあり、チャンスが出てきた。

僕らとしても飲食店のみなさまを支援させていただけるサービスが仕込めていて。中長期的な成長も見据えられている。

もちろん、1年ズラすとか、もっと前に…とか、いろいろと選択肢はあったと思うんです。ただ、管理体制が整ってきたこのタイミングで上場し、さらなる成長を実現していく。それが会社にとっても、飲食店であるみなさま、ユーザーである皆さまにもいいことだと思い、上場を決めました。

一方で、新型コロナの影響は決して小さくはないのでは…とも思います。

そうですね。わかりやすいところで『Retty』でも、もともと月間閲覧ユーザー数は2019年5月で約4,800万だったのですが、2020年5月は約3,000万になりました。ただ、またそこから急激に回復し、2020年8月は4,390万(前年同月比103.9%)にまで戻っています。

また、ビジネスの柱でもある有料店舗数*も、2020年7月より増加し、9,678店まで増加しています(2020年8月末時点)。

*「Retty」を通じた、オンライン販促支援を店舗向けに提供(Fun Relationship Management)。毎月定額のサービス利用料を得て、集客支援・販促ツール提供を行う。低い利益率、高い廃業率などの飲食業界における課題解決に寄与している。

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コロナ禍はかなり厳しい状況、いわゆるハードシングスと捉えていますか?

確かにハードシングスですが、大なり小なり、会社をやっているといろいろな問題は必ずありますよね。1~2年といったスパンで見ると売上げにも影響はあります。ただ、中長期で見たら、必ずしもそうではないのかなと。より会社を強くしてくれる存在かもしれない。新しいチャンスも生まれていく。そのように捉えています。

具体的に、この半年で動かれたことがあれば教えてください。

2020年5月末頃より全社で『サバイバル100日プラン』というものを作り、実行してきました。どういったものかというと、営業日100日間で、どう既存ビジネスを立て直すか、デジタル化の波も含めて新しいチャンスにどれだけ仕込めるか。キャッシュを含め、会社が安定的な状態にしていくか。こういった戦略を含めて「5つの指針」をまとめて、実行してきました。ちょうど2020年9月で「100日」が終わったところですね。

全てやり切れば既存ビジネスの回復と、中長期の仕込みができる、という内容で。みんなで「あと90日、80日、70日…」とカウントダウンし、一体感を持ちながらヒリヒリしながらやれて、すごく良かったと思っています。

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2010年~2011年|創業1年目で最大のピンチ、口座残高は10万円に

あらためてここで創業から振り返っていければと思うのですが、10年振り返って一番大変だった時期でいうと?

いっぱいあってちょっと難しいですが(笑)振り返って大変だったと思うのは、やっぱり一番最初なんですよね。

ちょうど10年前、2010年11月に創業したのですが、仲間もいない、人もいない、お金もない、作り方もわからない、開発ができない。創業すぐにピンチ…ってなかなかないですね、「あ、いきなりやばい」みたいな(笑)

2012年10月に1億円を調達したのですが、その直前は資金がショートしそうになっていました。口座の残高も10万円を切りそうになっていて。

調達できる可能性はあったのですが、今思うと本当に危ない状況でした。お金は調達するか、借りるかしかない。準備できることは全部する、という感じでしたね。

+++創業当時の様子

2012年~2013年|マーケティングの主戦場の変化

2012年の調達後、2013年にかけ、サービスが順調に成長したように見受けます。

2012年10月、先のシリーズAのタイミングは、SNS経由での集客・口コミを多く獲得できる、いわゆる「これからを見せる調達」だったと思います。実際、ソーシャル × 〇〇という「新しい市場」が重要度を占め、好調に、店舗情報・口コミが獲得できていたと思います。そこが伸ばせたら、自ずとユーザー数もついてくる、という見立てでした。

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当時は、SNSを上手く使ったサービスが、まだ新しい市場だった時期ですね。

そうですね。2011年~2013年でいうと、たとえば、SNSでサービスを拡散させていく戦い方が強かった時期だと思います。

たとえば、今では禁止されていますが、当時は「サービス側のユーザーが行なった投稿を、Facebookにも自動ポストできる」という機能もあって。今、思うとすごいやり方ですが、広く拡散される。その仕組みを活用し、僕らもユーザー数を増やすことができました。

ただ、海外の怪しいFacebookアプリなども多く出てきて、Facebook側が投稿を制限していって。マーケティングの主戦場も大きく変わっていった。

Rettyとしては、その直前からSEOに力を入れていけたのは、良かったところだと思います。とくに2013年6月にサイトリニューアルを行い、同年10月には月間閲覧ユーザー数が100万を超える規模へ。地道にためてきた店舗情報、口コミがGoogleから評価され、爆発的に検索流入が増やせました。

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当初、SEOへの注力は想定していなかった?

SEOが重要であることはわかっていたのですが、SNSだけでもっと爆発的に広げていける、と思っていましたね。今でも、口コミを書いてくださる方、Rettyを知っていただく導線として、SNSはすごく大切ですし。

一方で、多くの人はお店を「検索」で探す。明らかに、僕らのようなサービスにおけるマーケティングの主戦場がSEOに変わっていった。この波に乗っていくのが、スタートアップとしては正しい泳ぎ方だったと思います。

2014年4月、月間閲覧ユーザー数は300万人を突破して、口コミの投稿者数は累計で約5.1万人、口コミ数で約87.9万件を突破しました。日本にある飲食店は「約70万件」と言われるなかで、ざっくりですが、1店舗に対し、1つは口コミがある、という状態にできた。便利なサイトとして使える規模になり、Googleからの評価も得て、閲覧者を増やせたのだと思います。

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2014年~2017|2年連続の大型資金調達、そしてマネタイズ

創業から約4年で店舗情報・口コミを集め、それに伴い、順調に閲覧者も増えていった、と。

そうですね。2014年12月には月間閲覧ユーザー数が約500万人になり、1年間で5倍になりました。

Rettyのようなビジネスモデルって店舗情報・口コミを増やし、そこから月間閲覧ユーザー数が増えて初めて飲食店の方々に送客など価値提供ができます。

積み重ねによって成り立つビジネスなので、マネタイズまでがすごく長い。ただ、積み上がれば、あまり減らない。ユーザー数の曲線を見ても、一時的な上下はありますが、伸ばし続けられましたね。それがこのビジネスの面白いところでもあると思います。

一方で、ビジネスとして成立するまで、耐えに耐えてユーザー数をどこまで伸ばせるか。なかなか、そこまで至れない?

そうかもしれません。少し別の観点で見ると「旅行」や「人材」など別領域に比べると、意外と競合が多くなく、数えるほどしかないんですよね。それは、ある程度の規模にならないと売上げが立たない構造だからだと思っています。そこに行くまでに、いわゆる胆力が求められる。Rettyとしては、そこが強かったところかもしれません。

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その後、2015年に約10億円、2016年に約11億円と調達しています。かなりの規模での調達、当時プレッシャーなどは?

もちろんありましたが、確実にユーザー数が増えていく未来が見えていて。4~5年は売上げが立たないビジネスの構造なので、1年~1年半くらいのスパンで資金が必要。サービスを伸ばすために使わせていただいて。

あとは、ナショナルクライアント向けのブランディング広告、いわゆるタイアップ広告と店舗向けの集客支援、2つをビジネスの柱として動き出すこともできていたので、やるべきことをやる、というマインドだったと思います。

2015年5月、月間閲覧ユーザー数が1,000万人を超えたくらいで、ようやく飲食店の方々に対し、ビジネスが展開できる、と考えていました。

ただ、正直、1,000万人規模のユーザーがいても、ビジネスとして成立させるには、まだまだ。比較的、広告ビジネスは好調で単月黒字は見えていましたが、もうひとつの柱である集客支援をいかに実現させていくか。飲食店の方々への認知も足りていなかった。ここを成り立たせるためにも、ユーザー数増に注力をしていきました。

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月間閲覧ユーザー数の推移でみていくと、2016年5月に2,000万人突破、2017年5月に3,000万人突破、そして、2018年11月に4,000万人突破・・・と毎年1,000万人ずつ増え、飛躍的な成長ですよね。

この時期は、ひたすらグロースに注力していました。基本的には口コミがどんどん増え、Googleからの評価をされ、検索の順位も上がり、月間閲覧ユーザー数も増える、という好循環があったことは間違いないですね。

別の動きでいうと、2017年の夏くらいにタイへと進出しています。日本での展開と似た歴史を辿っており、まずは口コミを増やすための土台づくり、コミュニティーをつくり、ちょうど今のタイミングで月間閲覧ユーザー数を急速に伸ばせています。もちろん日本のほうがマーケットが大きく、利用者の人口でも差はありますが、期待いただければと思います。

+++2017年7月 オフィスを五反田から麻布十番に移転。写真は移転記念パーティの様子

2018年~2020年|ゴールは「無い」

2018年5月にヤフーとの戦略的パートナーシップ構築、 2019年5月に月間利用者数4,800万人突破、そして2020年につながっていくと。2020年8月には『Retty Order』も発表されていますが、コロナ対応でのプロダクトという位置づけでしょうか?

じつはコロナ前から準備はしていて。たまたま2020年の8月に、開発パートナーとなる飲食店様の募集を発表し、コロナに対応したように見えた、というカタチですね。

むしろ『Retty Order』は進めていた開発を一旦ストップし、まずは4月に店舗向けのテイクアウト専用プランを優先的にリリースしました。そこから『Retty Order』の開発を再スタートさせて、今秋リリース予定であることを発表しました。結果的によりコロナ禍で求められる状況になりました。

いわゆるデジタルを活用し、オフラインとオンラインが融合して、より利便を高めていく。モバイルオーダーの市場は中国ではすでに立ち上がっているので、昨年は何回も足を運んで、リサーチを行いました。自分で体験したことで得られたことも非常に多かったと思いますね。

+++Retty Order』自身のスマホから注文できる新しいモバイルオーダーシステム(今秋リリース予定)

たまたま、というのもすごいですね。ここまでお話を伺い、いかに一歩先の打ち手を打つか。今を「通過点」と捉え、先を見据えられるか。そこが武田さんが実践されてきたことなのかなと思いました。

それはあるかもしれないですね。

なんというか、どこか飄々とされている感があるというか(笑)冷静でいらっしゃるイメージです。それは先を見ているから?

飄々としているってすごく言われるんですよね(笑)あまりよくないですよね。

もちろんいろいろ焦るんですけど、やるべきことを一つひとつやっていく。あとはすごい究極的なことを言うと、この日本において食いっぱぐれることはなかなか無いので、やれることは全部やればいいと心から思えているので。そう考えると平常心は保てるのかもしれないですね。また、本当に大変な状況にある飲食店さんたちのために、僕らは何ができるか。自分たちが落ち込んだり立ち止まっているわけにはいかないですよね。

最後に伺わせてください。先を見据えていらっしゃる印象、とお話したのですが、武田さんが最終的に見据えているゴールとは?

もちろん会社のビジョン、『食を通じて 世界中の人々をHappyに。』が会社の存在理由なので、それがゴールになると思っています。達成できるまで、いろいろな小さなゴールはどんどん現れるのかなと。また、もし仮にビジョンが達成されたとしても、また次のゴールがあるはず。そう思うと本当のゴールは「無い」のかもしれませんね。

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取材 / 文 = 白石勝也


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