2013.04.01
ラーメン屋を目指すな、カップヌードルを生み出せ―《Retty》の資金調達に学ぶ、世界で勝つ視点[2]

ラーメン屋を目指すな、カップヌードルを生み出せ―《Retty》の資金調達に学ぶ、世界で勝つ視点[2]

《Retty》は世界で戦うことを前提にしたサービス。そう語る代表の武田和也さん。VCからの資金調達も好調で、大きな期待を集めている。VCは何を高く評価したのか。そのポイントとプロセスから『世界で戦うために重要な視点』に迫るインタビュー第二弾!

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▼インタビュー第1回はこちら
《Retty》に学ぶ、世界で戦えるWEBサービスのつくり方[1]  から読む

世界のトップを狙う「ビジョン」が、VCを動かす。

― VC3社から1億円の資金を調達したことでも話題になりましたが、VCから信頼を得るためのポイントがあれば教えてください。


本当のところはVCで担当してくださっている方に聞かないと分からないのですが…。

一つ言えるとすれば、「世界でトップになるという志があり、語れる」ということ、この部分は評価していただいたのかもしれません。


― ビジネスモデルが優れていたり、収益性が見込めたり、もっと現実的な判断基準なのかと思っていました…。


もちろん、成長が見込めるビジネスであることは大前提です。VCの方と「何年でどのくらい儲かるか」と数字もつめるのですが、本当に大事なのはモデルじゃないと個人的に思っています。

世界でトップを獲るようなサービスを生み出す。小さなヒットではなくて、満塁ホームランを狙う。

大事になるのは、「自分たちは満塁ホームランを狙っている」というビジョンだと思うんです。

VCの方によく話を聞くのは、「ビジョンがあるかないか」でアウトプットが全く違ってくるということ。ここの差は、単純に能力だけでは埋められないそうです。

大きな投資になればなるほど、VCの方とのやり取りには非常に多くの時間が必要になります。僕の場合、毎週マーケティングの資料を作ってプレゼンして、指摘をいただき、また作り直す。この繰り返しが半年以上続きました。

たぶん、そういったやり取り一つをとっても、大きなビジョンが無いと心が折れてしまうんだろうと思います。

「なんとなく作ったサービスがヒットして、いつのまにか伸びた」というだけでは続けられないんだな…そう思うくらい、僕自身も大変でしたね(笑)

大きなビジョンを叶えるために、資料ひとつも妥協しない。そういった起業家の本気度が伝わるかどうかが、すごく重要な気がします。


目指すべきは、「うまいラーメン」ではなく「カップヌードル」。

― 出資を受ける事業会社の立場として、どのような視点でパートナーとなるVCを見ているのでしょうか。


僕たちがVCを見ていた視点で言えば、担当の方がWEBの知見をお持ちか、その人の人的ネットワークは有効か、というところが大きかったですね。スタートアップがVCと組むメリットの一つは、彼らのWEBに対する知見や有効な人的ネットワークを、自分たちのサービスに活かせることだと思っています。ですので、僕たちより圧倒的にWEBに詳しい方と組みたかったんです。

そういう意味で言うと、VCという「会社」ではなくて、担当してくれる「人」を見て決めることがポイントかもしれません。

純粋に「この人と一緒に仕事をしたい」と思えるかどうか。投資は、長い付き合いになるので、結婚に例えられることが多いですよね。お互いの良いところも悪いところも見た上で、同じゴールを長期的に目指せる存在になれることがベストかなと思います。


― 《Retty》が描くゴールとは?


どれだけたくさんの人たちの課題を解決できるか。世界でスケールさせる可能性を追い求めていけるか。ここに尽きると思います。

出資を受ける少し前だと思うんですけど、VCの方におもしろい質問をされたんです。

「武田くん、好きなラーメンってある?」と。

で、僕は普通にお気に入りのラーメン屋の名前を答えたんですよ。そこで返ってきた答えがものすごく印象的でした。

「武田くんには、うまいラーメンではなく、カップヌードルをつくってもらわないと困る」

例えばうまいラーメン屋がチェーン展開して1万人に愛されたとしても、世界で10億人が食べるカップヌードルほど、大きな影響を与えたことにはならないですよね。



WEBサービスを立ち上げて起業するということは、新しい価値を生み出して、世界のスタンダードとなるものを作っていくということ。ラーメンとカップヌードルの例えを使って、僕に起業家としての心構えを説いてくれたんだと思います。

この言葉には僕自身もすごく共感していますし、やっぱり、こうした同じビジョンを共有できるパートナーを見つけるのが一番だと思いますね。


― もし、VCの担当者と目指しているゴールが違ったら、どういった問題が起こるのでしょうか?


例えば「もっと早くマネタイズしてほしい」と言われて、サービスを成長させる上でやるべきことの順番を間違ってしまうことがあるかもしれません。

ユーザーの集客に集中しなければいけないタイミングなのに、限られたリソースを使って飲食店向けに営業するとか。スタートアップにおいては、あとでやればいいことを先にどんどんやってしまうのが、最もよくないことだと思います。

スピードがすべてを握っている業界だからこそ、自分たちが持つリソースをどこに投下するか。この判断のミスは致命傷になりかねません。

あと1万日働ける。そう考えた時に今何をすべきか。

― 最後の質問になるのですが、日本発で世界を見据えたスタートアップを志す方にアドバイスがあればお願いします。


例えば、今30歳前後の人が60歳くらいまで働くとして、ざっと計算しただけでも、あと1万日くらい働けるんですよね。

まだ先がある。そう考えた時に、この1年で何をしておくべきか?先を見据えて、今、キャリアに対してどんな投資をするか、じっくり考えてみる時間を作ってもいいのかもしれません。

僕自身、以前は広告代理店で働いていたんですけど、会社を辞める時に、とにかく起業しようとだけ決めていて。「何で起業するか」を考えるためだけに、1年間アメリカに行きました。

英語もろくにできないままアメリカに行って、ひたすら起業に向けて勉強する毎日。

「英語がしゃべれない」という小さな問題で足踏みするのではなく、これから働く60歳までの1万日のために、今、絶対行くべきだと思ったんですよね。そして、行ってみて本当に良かった。これは間違いないです。


― 企業に向けた準備とは、具体的にはどんなことを?


ちょっとインターンのようなこともしましたが、基本的にはスタバとホテルを往復して、ひたすらアイデアを練りました。

ソーシャルを活用したビジネスで何が考えられるか。「ソーシャル×○○」という軸で、もうほとんど出し尽くしたと思います。留学、人材、ファッション…あらゆる分野を分析して40以上はビジネス案ができました(笑)



アメリカにいるとWEBのトレンドが見えてきて、サービスの流れが分かるようになるのも面白かったですね。住んでみた空気としか言えないのですが、日本とは情報の鮮度が違う。

どのタイミングで、どのサービスが出てきて、日本にどう上陸するか、感覚がつかめるようになってくるんです。

もちろんWEBに集中して情報を集めているので、当時はすごくアンテナが高かったのかもしれませんけどね。

会社で働いていると、1年なんてあっという間に過ぎます。

でも、人生で働く残り9700日をパワーアップして過ごすために、この300日をどう使うか。まったく別の環境に身を置いて、何かに集中してみるのもいいんじゃないかと。実体験から、そう思いますね。


― なるほど、この先への投資として、何をするか考えるためだけに1年を使う、と。二の足を踏んで何もしないくらいなら、環境を変えてでも前に進むことのほうが大事だというのはよく分かる気がします。本日は貴重なお話、ありがとうございました!《Retty》のこれからにも注目していきたいと思います!


ありがとうございました。



(おわり)


編集 = 白石勝也


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