2017.06.12
クックパッドから独立。ホリデー 友巻憲史郎が下したMBO決断のウラ側

クックパッドから独立。ホリデー 友巻憲史郎が下したMBO決断のウラ側

クックパッドの新規事業としてスタートした、おでかけ情報サービス「Holiday」。事業の発足から3年、MBOというかたちで独立した。この決断のウラには一体どんな背景や思いがあったのか。ホリデー株式会社の代表取締役となった友巻憲史郎さんに話を聞いた。

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新規事業の終点「MBO」からのスタート|ホリデーの決断

もしあなたが社内で新規事業を立ち上げることになったら、何を目指すだろうか?

サービスローンチ、グロース、マネタイズ…とマイルストーンを設定して、いつかは自社の収益基盤に、という目標が考えられるだろう。しかし、「会社の外に出る」という選択肢があることも忘れてはいけない。

2014年にクックパッドの新規事業としてローンチされた「Holiday」は、2016年12月にクックパッド社からMBOという形で独立。以前CAREER HACKで取材した事業責任者 友巻憲史郎さんが代表取締役に就任した。

MBOを振り返り「もともと視野に入れている選択肢のひとつだった」と振り返る友巻さん。

一般的に考えれば、クックパッドにいたほうが資金力や人材の面で有利のように感じる。それなのになぜ友巻さんは恵まれた環境を捨て、いばらの道を歩むことにしたのか。MBOという決断のウラにある本音に迫ってみたい。

※ サービス名を「Holiday」、会社名を「ホリデー」と表記。

MBOはホリデーの将来にとってベストな選択


― まず、単刀直入に聞きます。今回MBOに至った理由を教えてください。


クックパッドの新規事業として約1年間走らせたあと子会社化をしているんですが、実はそのタイミングでMBOの話は出ていたんです。少しずつ交渉を進めていたのですが、クックパッドの経営陣が交代したことで後ろ倒しになってしまって。僕たちとしては、やっとMBOにこぎつけたという感覚です。


― それは事業開始当初からMBOを目指していたということですか?


そういうわけではないんです。クックパッドに入社した当初は、社内の新規事業としてスケールさせていくつもりでした。ただ、そのころクックパッドの経営方針が、さまざまな領域で独立性のある子会社を増やしていこうというものだった。

子会社の独立性は親会社との資本構成によって決まりますが、事業内容やメンバーのモチベーションによって最適な形式は異なります。「じゃあ、ホリデーにとってベストな独立性はどれくらいだろう?」と協議していくなかで、MBOという選択肢が出てきたんです。大きな理由としては、将来的に上場できるような資本構成にしておこうという話がありました。

そして僕自身も、MBOという選択肢を提示してもらったことで、できるなら独立性の高い環境で挑戦したいと思ったんです。


― 今回のMBOは以前から見据えていたことだったわけですね。独立したことに対して不安や恐れはありますか?


クックパッドという後ろ盾がなくなったいま、これまで以上にユーザーと真摯に向き合わなければならないと気が引き締まる思いです。ユーザーにしっかり価値を提供できなければ、事業自体が維持できなくなってしまうわけですから。


― ちなみに、現在クックパッドとの関係は……?


たまに心配されることもあるんですが、めちゃくちゃ良好です。仲がギクシャクしたとかはまったくないです(笑)いい師弟関係が続いていて、今でも技術やサービスについてアドバイスをもらうこともあります。ホリデーのメンバーはみんな、クックパッドが大好きなんですよ!

クックパッドで再確認した Holiday の価値


― スタートアップとして起業するのではなく、クックパッドの新規事業や子会社として事業を進めてきたからこそ得られたことは何かありますか?


一番大きな収穫は、ユーザーファーストのサービスづくりを間近で見られたことです。ユーザーファーストと口で言うのは簡単ですが、いざ重要な意思決定をするときにそれを貫き通すのはとても大変なことだと思います。でもクックパッドは、たとえ短期的な成長や利益拡大と相反する選択だとしても、絶対にユーザーへの価値提供を最優先するんです。

クックパッドの徹底したユーザーファーストの姿勢を目の当たりにしていたからこそ、ホリデーもユーザーの価値を第一に考えたサービスづくりを根気強く続けてこられたんだと思います。もし、スタートアップとして始めていたら、心が折れて自分が正しいと思うやり方を曲げてしまっていたかもしれません。


― 前回のインタビューでも「ユーザーファーストを徹底しているクックパッドだから入社を決めた」とお話しされていましたね。


もともと、クックパッドのようなユーザーファーストの価値提供ができるサービスを作りたいと思っていたという背景もあります。HolidayがメディアではなくCGMの形にこだわっているのもそのためです。

正直なところ、コンテンツの数やPVのことを考えたら、メディアとして作った方が効率はよかった思います。でも「おでかけ」や「休日の過ごし方」に正解はありません。たとえ同じ場所でもいろいろな切り口がある。だから、ユーザーの主観で作った多様なコンテンツが集まらないとやる価値がないんです。

クックパッドが、CGMという形で大きな価値を提供し続けているのを間近でみて、自分の考えは間違っていなかったと再確認することができました。


― 逆に、会社に入ったからこそ感じる不自由さや制約はありましたか?


スピード感や予算などに関して会社側が主導権を握っているので、自分の意志だけでは事業を動かせないという制約はありました。もちろん、十分理解したうえで入社したのでストレスを感じることはありませんでしたけどね。

組織としてのルールがあるので、一般的なスタートアップのようにものすごくチャレンジングなことができる環境ではなかったです。でも、書類ひとつとってもきちんと確認してもらえる環境が、むしろありがたかったと思います。事業の成長と直接関係のない部分をサポートしてもらっていたから、僕たちはサービスのことだけに集中できたので。

サービス面も実務面も、クックパッドでの3年間があったから今のホリデーがあるんです。

MBOを経て感じた"代表取締役"としての使命感

― Holidayはこれからどんなサービスになっていくのでしょうか?


これまでは投稿ユーザーへの価値提供を第一に考えていたので、コミュニティ色の強いサービスでした。その甲斐あって多様なコンテンツを集めることができたので、今後は検索ユーザーへの価値提供も同様に重視していきます。

リニューアルにともなって「みんなでつくるおでかけガイドブック」というコンセプトを打ち出し、おでかけに関する情報の「発信」と「取得」どちらもできるサービスだということを明確にしたんです。

※2017年6月12日、iOSアプリのリニューアルβ版を配信開始。7月に正式版をリリース予定。


― その事業展開の方法は、クックパッドのそれと類似していますよね。


はい。クックパッドはもともと、レシピブログとしてスタートしていて、十分なコンテンツがたまったころに現在のような検索体験を追加しています。Holidayもこの流れを踏襲するかたちで事業展開を進めていくつもりです。


― Holidayが提供したい価値はどんなものなのでしょうか?


ひとつは、ユーザーのおでかけ体験をより充実させる多様なコンテンツを提供していくこと。もうひとつは、蓄積したデータを使ってGoogleではできない検索体験を作っていくことです。コンテンツとデータというふたつの側面からユーザーに価値を提供していきたいと考えています。



― MBOを経て代表取締役になったわけですが、意識はどのように変化しましたか?


これまでクックパッドにいかに守られてきたかというのを痛感しています。子会社のころから経営者としての自覚は持っているつもりでしたが、ぜんぜん足りていなかったです。それこそ、バックオフィスは頼りっきりだったので、これからは自分たちで整備していかなければなりません。

事業に関しては、自分たちで主導権を握れるようになった反面、本当に価値あるサービスを作らなければならないという危機感も生まれました。結果を出し続けなければ、事業そのものが続けられなくなってしまいますから。僕自身はもちろん、メンバーの意識もガラッと変わっているのをひしひしと感じています。

MBOに先駆けて、オフィスだけ先に移転したんですが……。クックパッドの洗練されたオフィスで働いていたのが、急に雑然としたマンションの一室になって。だからこそ、この6人でサービスを作っていくんだと実感できて、いい意味での緊張感が生まれました。

いまはとにかく、事業を一歩一歩前進させ、しっかりと結果を出すことだけ考えています。謙虚な姿勢を忘れず、多くの人から学びながら個人としても経営者としても成長していきたいです。


― データ活用も視野に入れているとは、今後の事業展開が楽しみです。クックパッドとホリデーの魅力的な師弟関係はユーザーファーストを徹底する価値観が共通しているからこそ、成立するのだと感じました。ありがとうございました!

・前回のインタビュー→クックパッドの新規事業を新卒が立ち上げたワケ|Holiday 友巻憲史郎


文 = 近藤世菜
編集 = 大塚康平


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