2016.01.22
「デザイナーがプロダクトマネージャーになるのは必然」トレタCCO 上ノ郷谷太一

「デザイナーがプロダクトマネージャーになるのは必然」トレタCCO 上ノ郷谷太一

トレタのCCO、上ノ郷谷さんへのインタビュー。DTPデザイナーからWEB業界に飛び込んだ彼のキャリア、その選択のきっかけ、to Cからto Bへ。そしてデザイナーがプロダクトマネージャーになるというキャリアステップの可能性などについて伺いました。

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【プロフィール】
トレタ CCO(最高クリエイティブ責任者)、デザイン部部長
上ノ郷谷太一 Taichi Kaminogoya

1979年大阪生まれ。DTPデザイナーを経て、2005年より Six ApartでMovableTypeのローカライズ、UIデザインに関連する機能などの仕様作成に関わる。その後、Peatixを経て、2013年よりクックパッドで国際展開に関するサービス、アプリケーションのデザインのほか、コーポレートロゴのデザインなどブランディングを担当。2015年3月、トレタにCCOとして入社。

※こちら2016年1月に取材した記事となります。2019年2月に上ノ郷谷太一氏はトレタ社を退職済みです。[2019/03/06/17:00 編集部追記]

DTPからWEB・ITへ

― まずご経歴から伺いたいと思います。上ノ郷谷さんのファーストキャリアはDTPなんですね。


大阪にある会社でDTPデザイナーとして、広告や冊子を作っていました。当時いた会社では制作した印刷の確認が就業後にあることが多く「夜中まで残らなきゃいけない、けど取り急ぎやることはない」みたいな時間が結構あったんです。

当時はブログブーム。空いた時間を使ってブログテンプレートを作って公開したりしていました。その個人的な活動がSix Apartへの入社につながった形です。

でも職種はデザイナーではなくウェブマスターという感じだったんです。自社サイトの制作、運営や製品のローカライズ、製品企画、機能仕様設計、もちろん絵も描いて、フロントエンドの実装まで。幅広く担当していました。

Toreta CCO 上ノ郷谷

言語化できないデザインは、デザイナーの首を締める

― プロジェクトマネージャー的な立場を経験した後、Peatixを経てクックパッドへ。


デザインとプロジェクトマネジメントの経験を活かしてもっと挑戦したいと考えてのことです。当時のクックパッドはグローバル展開を一気に進める最中で、海外向けのレシピサービスのウェブやアプリのプロジェクトを担当しました。それと同時期に携わったのが、コーポレートロゴのリニューアルです。(※)
※クックパッドの新しいロゴに込めた思い|クックパッド開発者ブログ


― まだ入社まもないタイミング。ユーザーにも会社のメンバーにも親しまれてきたロゴを変えるのは大変ではなかったですか?


所属した会社の中で最も規模が大きく、ユーザー数も莫大。歴史ある会社だったのでやりがいと同時にプレッシャーもありました。ただ、どんな規模の仕事でも皆平等に任せてもらえる社風だったことと、もともとロゴをデザインした経験が何度もあったことを上司や同僚が知っていたというのもあると思います。

― ロゴデザイン変更というのは、説明や説得が特に難しいのではないかとも思います。


デザインというのは、感覚に流されたフィードバックや決定が起こりやすいものです。でも伝えたいことがあって、それが伝わるためにあるのがデザインです。ですので私は常にデザインを言語化することを意識しています。

スタッフ全員が自社のサービスに強い思いを持っている会社で、その思いをもらさず込めたかったので、ロゴタイプは既存のフォントを使わずに描き起しました。なのでなぜこの形にするのか、ちゃんと自分の中で整理して決めた上でないと、「だからこの“o”はこんな風に丸いんです」だったり、「引いて見たときに視認しづらいから“a”はこの形じゃないと」と説明できません。「この形にする理由」っていうのを常に考え、言語化して残し、説明しなきゃいけない時も必ず言えるようにしていました。

感覚的なフィードバックしか得られず四苦八苦するのはデザイナー側の問題です。何となく「気持ちいい」とか「かっこいい」ではなく、みんなが同じ意図を汲み取れることがデザインする上でとても大事で、それは「アート」との違いだと思っています。

to Bプロダクトに対する問題意識

Toreta CCO 上ノ郷谷

― 2015年の春にはトレタにCCOとして入社されます。to Bプロダクトを手掛けるスタートアップにCCOとして、入社したきっかけから伺えますか?


たまたま代表の中村(中村仁氏)とCOOの吉田(吉田健吾氏 元paperboy&co. 常務取締役/元ブクログ代表取締役)と一緒に食事をした際に、トレタのデモを見せてもらって。トレタの思想やデザインへの姿勢に共感したのがきっかけです。

もともと中村、吉田とは10年来の知り合いでした。吉田とはいつか一緒に何かできたらなと思っていましたし、中村の経験やデザインに対する志の高さに感銘を受けたというのがとても大きいです。

自分自身でもto Bサービスに対する問題意識を持っていました。ユーザー側は、「仕事道具だから決められたものを使わなければいけない」という状況に置かれているのに、サービスを提供する側は「これぐらいでいいじゃん」みたいな感じであんまり深く考えられてないというか。

使う側のコスト、そのプロダクトを使ってサービスを享受するお客さん、みんなが幸せになってない状況があるんじゃないかって感じがしていて。その点、トレタはto Cのプロダクトみたいな細やかさと、特定のユーザーが使うto Bプロダクトならではの気配りも感じるデザイン思想が行き渡っていました。

ユーザーにどういった価値を届けるかを常に考えるというやり方が、自分がこれまでto Cで経験したきたことをトレタなら活かせる、デザインに対する誠実な気持ちを持っている代表の元でならデザインでドライブする会社・チームを作れるんじゃないか、そう考えて入社を決めました。

トレタに入社してからは最初の一歩としてデザインチームを立ち上げました。現在は自分を含め4人のチームです。トレタはiPadアプリのイメージが強いかもしれませんが、ウェブ版や各ツールなど、小さなプロダクトがいっぱいあるんです。今後もサービスの価値を高めていくために増えていくので、トレタとしてのクオリティを確保するために、デザインのワークフローや、デザインリソースの整理なども行ないました。メンバーも増やしていきたいですね。

「デザイナー → プロダクトマネージャー」がアリなワケ

― 現在はCCOだけでなく、トレタのプロダクトマネジメントという役割も創業者の中村さんから引き継がれたと伺っています。


私が入社したとき、すでに中村が経営面の仕事の比重が大きくなり、プロダクトに深く関わるのが難しくなってきていました。そんななか少しずつプロダクトでの判断や、いろいろなチームとの接点となる役割に私が関わることになっていって、という感じです。でも私はデザイナー出身者がプロダクトマネージャーの役割を担うようになっていくのは、ひとつの自然な流れだと思っています。

というのも、プロダクトマネージャーの仕事として、製品企画、ロードマップ策定、ユーザー体験のデザイン等がありますが、それは同時にデザイナーが担う仕事の一部でもあるからです。

デザインというユーザー視点でのモノ作りに深く関わりつづけるポジションの人がやることで、エンジニアやセールスとのコミュニケーションも円滑になる。さらに、先ほども話したように、考えや思想を言語化できるデザイナーは、それをみんなに伝えることができるはずです。結果として、会社全体がデザイン中心に回り出す(=ドライブする)組織になっていくと考えました。

チームのデザイナーにも機能1つであっても、デザイナーがプロダクトに関わる際はそのプロダクトの責任者であるという意識をもって、ユーザーの課題解決に取り組んでほしいと話しています。そうでなければ、きっとたくさんの人を巻き込んで進めるのは難しいからです。

B to B to Cこそ最大の魅力

― to C畑だった上ノ郷谷さんからすると、トレタ、to Bサービスの仕様検討・デザイン面での違いを感じることも多いのではないかと思います。


まずトレタのプロダクトに関わるものとしてまず気をつけたのは、とにかくたくさんコミュニケーションをとるということです。前任は創業者ですし、一緒に働くエンジニアやセールスの人たちは、「上ノ郷谷って決断力はあるのか」「その決断が正しいのか」そんな不安がきっとあったと思います。

信頼して任せてもらえることが大事だと考えて、とにかくデザイナーとして、機能の仕様やデザインを考える工程を全て見えるようにしました。絵はもちろん、その機能がどういった価値を提供できるものなのか、ユースケースや、あるといいけど今回はやらないこと、などです。それだけでなくデザインのワークフローを繰り返していくなかで何度も重ねる失敗も記録しています。これもデザインの言語化と近い話です。

Toreta CCO 上ノ郷谷

そして製品に関わるさまざまなチームとの話す場も積極的につくりました。特にプロジェクトマネージャーやエンジニアとは機能をどうそぎ落し、どう成長させていくかという考えををしっかり話して、実装の計画を立てるために密にコミュニケーションをとっています。もちろんエンジニアのコードを書く時間を必要以上に奪ってしまわないようにということも気をつけています。みなさん経験豊富ですし、私も信頼してプロダクトについて考えることを何でも話します。それこそ最初のころは「トレタって文化の置き換えのなかで実はユーザーの課題を増やしてしまっているんじゃないか?」ということについても話したりしました。

それを積み重ねることで、デザイナーだからといって、「トレタとユーザーの接点」だけ考えているんじゃないことを理解してもらう。中村の代わりになろうと思って動くのではなく、デザインでドライブさせるプロダクトマネージャー像を自分で実践してきた感覚です。

一方、to Bのサービスの仕様検討・デザイン面での違いについて意識していたのは、「時間」です。to Cとは違いto Bは使ってもらう時間さえ導入店さまにとってはコストです。具体的な例を挙げると「短い時間で確認できる情報を増やす」などです。トレタを導入いただくことで、どれだけ「時間」を生み出せるかということを常に考えながらゴールを明確にしていっています。


― 最後の質問です。以前中村さんに取材させていただいた際、「to C出身者こそ、to Bで活躍できる」ということをおっしゃっていました。to C出身デザイナーからみたto Bの面白いところ、魅力を挙げるとすれば?


ユーザーが明確で反応をきちんと受けられることですね。こんなにわかりやすくユーザーの課題を意識しながらモノづくりできて、その効果を実感できる環境はto Cだとなかなかありません。

ユーザーの理解を深めるために導入店さまを訪問することが多く、お話しを伺う方はれっきとしたトレタのユーザーです。そしてそのユーザーは仕事の道具としてトレタを使ってくださっているので「使わなくてもいい状況」みたいな環境ではなく、成果にも直結しています。ですのでいただくフィードバックも本気です。

導入店さまにとってのコストを最小化し、利益を最大化させる仕事をサポートする。もっと言うとお店のお客様にも快適な体験を提供して、幸せにする。だから「B to B to C」なんですよね。そういう仕事に携われるのはすごく魅力的です。


文 = 松尾彰大
編集 = 田中嘉人


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