グリーベンチャーズなどから1億円におよぶ資金調達でも話題になったグルメ系ソーシャルサービス《Retty》。グローバルトレンドを狙えるサービスとして期待が高まっている。その代表である武田さんの話から「世界で戦えるWEBサービスに必要な条件」を探った。
最近では「世界で戦う」ことを前提とした日本発のWEB系スタートアップが数多く立ち上がり始めている。しかし、海外でスケールしているものが多くないのも事実だ。
そのような中、いま急速な成長を見せているのがグルメ系ソーシャルサービス《Retty》である。
日本で有名なのは匿名レビューによるランキング形式の『食べログ』だが、《Retty》は友だちや知人のレビューでお気に入りの店舗が探せる。インタレストマッチによって嗜好にあった店と出会える仕組みだ。
サービスローンチからわずか1年弱でユーザー数10万人を突破し、これからの1年で100万人を狙っている。2012年10月にはVC3社から1億円の資金を調達したことでも話題になった。
グローバルトレンドへの成長も期待される《Retty》。代表である武田和也さんにインタビューし、「世界で戦えるWEBサービスに必要な条件」とは何か探った。
― 《Retty》は海外展開を見据えてスタートしたと伺いました。サービスを企画する時に押さるべきポイントがあれば教えてください。
まず新しいサービスは何かしら「課題が解決できるもの」であることが必要だと思います。そこで大事になってくるのが、「どんな課題を解決するべきか」という視点。「課題の設定」に特に気をつけることが重要なのではないかと思いますね。
ひとつポイントを挙げるとすると、「テクノロジーの進化によって解決できるようになった課題」を設定すること。
生活をする上で不便に感じることであったり、僕らの身の回りに「課題」と呼べるものって、実はたくさん転がっていますよね。
で、その中から何らかの課題に目をつけるわけですが、そこで漠然と「こんなサービスがあったらいいな」という視点で起案してしまうと、なかなか前には進みません。そうではなくて、「今の技術があるからこそ解決できる課題」を探すところから始めたほうがいいと思います。
― 《Retty》は「お店がみつかりにくい」という課題を解決してくれるサービスですよね。
そうですね。大切なデートや接待でお店を探している時、信頼できる知り合いに「どのお店がいい?」と聞くほうが早いじゃないですか。何より、行ったことのないお店でも、知り合いがオススメしてくれたお店なら安心して行けますよね。
この「良いお店を見つけづらい」という課題は、最近出てきたものではなく、あくまで昔からあった課題です。
ただその解決策として「知人や友人のレコメンド」という選択肢をとることができるようになったのは、スマートフォンとソーシャルメディアが爆発的に普及した、“今”の時代だからこそ。つまり、「良いお店を見つけづらい」という課題は、今ようやく真に解決できるようになった課題だと言えるわけです。
もちろん本質的に重要なのは、最先端のテクノロジーを駆使することではなく、それによってユーザーのニーズを満たすことです。
どの課題にスポットをあて、どんな技術で解決するか。そのタイミングとバランスの見極めがカギになると思います。
― ワールドワイドで勝負しようと考えたとき、「日本ならではの強み」が活かせるのは、どういった領域だと思いますか?
日本が文化的に世界をリードしている領域、ここに勝ち目があると思っています。
《Retty》で「食」をテーマに選んだのも、日本の食文化が先端をいっているからです。実際、どの国に行っても「日本のレストランが一番だ」という話をよく聞きますよね。
食文化の進んだ日本の人たちの場合、舌はもちろん、目も肥えていますから、単に「料理がおいしい」というだけではお店に足を運びません。
店長の人柄や、音楽や家具を含めたお店の雰囲気、スタッフの気くばり、もちろん料理のクオリティも含めて、総合的に評価してから行くお店を決めるのが当たり前になっていますよね。
言い換えるならば、消費者・ユーザーの“課題認識のレベルが高い”んです。「もっといいレストランや飲食店はないか」と常に貪欲に探している。これは、世界的にみても圧倒的に先に進んだ状態だと言えると思います。
日本のこの状況を解決すべく、僕らは《Retty》を立ち上げたわけですが、だからこそ、数年後、海外でグルメの文化水準があがった時に、《Retty》を必要としてくれるユーザーが各地で必ず現れるはずだと考えています。
かなりの田舎で外食の文化がないという都市でもない限り、「良い飲食店を見つけるのが難しい」という問題は世界各地で共通しています。日本で成功したパターンや条件を当てはめて海外に仕掛けていく、というのが、《Retty》の当面の戦略ですね。
― ここ数年でソーシャルをつかったビジネスが増えていますが、ビジネスとしてスケールしているものはそれほど多くありませんよね。
ソーシャルの特性を活かしたビジネスを利益につなげるうえで、どんなことがポイントになってくるのでしょうか?
僕ら自身に関して言えば、そもそも「マーケットがある領域に焦点を当てる」ことを意識しました。マーケットそのものを生み出そうとするのは、本当に至難の業ですから。
今、注目を集めているコミュニケーション系のサービスは、Facebookのようなインフラにならない限り、マーケットが無い領域で勝負をするサービスだと言えると思います。
SNS系のサービスの中でビジネスとして成立しているものとなると、基本的にはメジャーなプラットフォーマーが中心です。こうした状況を見ていても、マーケットそのものを生み出すことの難しさを痛感します。
ですので、あくまで一つのポイントとしてではありますが、「マーケットが明確に存在している領域」を見定めることが、やはり重要になってくるのではないかと思います。そのマーケットの中で今までクリアできていなかった問題を解決するほうが、ビジネスとして形になりやすいのではないか、と。
― ソーシャルネットワークやインタレストグラフといったものを、問題解決の“手段”として活用する、ということですね。
そうですね。それで効率よく問題解決できて、効果を出すことができれば、これまでにあったものの代替サービスとして、広く支持されるようになると思います。そうすることでビジネスとしてもスケールしていくはずです。
― 《Retty》もソーシャル系のサービスに位置づけられるわけですが、《Retty》では今後どのようなビジネス展開を考えているのでしょうか?
ユーザーの抱えている課題を解決するだけでは「便利になったなぁ」というだけで終わってしまいます。
そこで、お店側の「リピーターを作れていない」という課題を解決することで、利益を生み出す仕組みを考えています。
いま、都市部では飲食店の新規出店が増えていますよね。効率よく安定した収益を出すためには、リピーターの獲得が必須になってきます。そのリピーターのクチコミから、また来店者が増えていく。この「サイクル」や「つながり」を、僕らが価値として提供できればと。
直近でいえば、《Retty》でお店をみつけてネットで予約したら、お店側からお金をいただく。こういったモデルは実現できるかもしれません。
これまでお店側は集客のために、多くの場合クーポンなどを利用していました。でも、実際そのクーポンによってどれだけ集客できてリピーターが増えたか。効果が厳密に測定できているわけではないんです。
今、テクノロジーの進化によって、情報が可視化され、あらゆる領域で効果の測定ができるようになってきています。
これはすべての業界で共通していると思うのですが、効果測定ができるようになった以上、今後はより効果が出たものにだけ報酬を支払うという「コミッションモデル」へとシフトしていくでしょう。
実際にレストラン予約という分野に関しても、アメリカでは『オープンテーブル』というレストランのオンライン予約サービスがあり、そのサービスを通じてどれだけ集客効果があったか、すべて可視化されています。結果、多くのお店とユーザーの支持を受けていて、今ではほぼ全ての席を『オープンテーブル』経由の予約で埋めるレストランもあるほどです。
すでに日本の飲食店でも『オープンテーブル』を活用しているところが増えてきていますし、この流れは日本にも広まってくるでしょうね。《Retty》もその中で存在感を発揮していければと思います。
(つづく)
▼インタビュー第2回はこちら□ラーメン屋を目指すな、カップヌードルを生み出せ―《Retty》の資金調達に学ぶ、世界で勝つ視点[2]
編集 = 白石勝也
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