2021.04.07
新人PM「あるある失敗」を回避せよ!『プロダクトマネジメントのすべて』共同執筆、小城久美子さんの視点

新人PM「あるある失敗」を回避せよ!『プロダクトマネジメントのすべて』共同執筆、小城久美子さんの視点

プロダクトマネージャー(PM)の必読書!新刊『プロダクトマネジメントのすべて』共同執筆者、小城久美子さんを取材。小城さん自身も経験した「PMのあるある失敗談」をもとに、新人PMがいかに最初の壁を突破していけるか、考えました。

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プロダクトマネージャーってなんだろう?

小城さんは、及川卓也さん率いるTablyにてプロダクトマネジメントの体系化、書籍執筆に携わり、個人的にもコミュニティづくりに取り組んできたと伺いました。そのなかでも、新人PMがぶつかりやすい壁も体系化されているのでしょうか?

そうですね。とくに今回出版した書籍『プロダクトマネジメントのすべて』では、プロダクトマネジメントをはじめてする人を想定しながら執筆したので、新人PMの方にとって役立つ心構えや考え方をまとめています。

プロダクトマネジメントのすべて 事業戦略・IT開発・UXデザイン・マーケティングからチーム・組織運営まで

まず大きく「そもそもプロダクトマネージャーの役割ってなんだろう?」という部分は多くの人が悩む部分だと思います。とくに手探りでPMをスタートした方だと、さまざまな場面で頭をよぎる問いなのではないでしょうか?

PMの仕事を一言でいうと「プロダクトを成功させること」に尽きます。

プロダクトの成功には2つの要素があります。

1.ユーザー価値と事業収益がバランスを取りながら最大化している状態
2.ビジョンが実現できている状態

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この2つを満たした「プロダクトの成功」を実現するために、PMはすべてのことに目を配り、こだわり抜くことが求められます。

プロダクトマネージャーの仕事は大きく2つ。「プロダクトを育てること」と「ステークホルダーをまとめ、プロダクトチームを率いること」です。

私は普段、プロダクトマネジメントに関するアドバイザリーをさせていただいているのですが、「仮説構築がうまくいかない」であったり、「ステークホルダーと意見がかみ合わない」であったり、さまざまなお悩みを伺います。

それらの悩みは共通している部分が多く、ある意味「PMにとってあるあるな失敗」。PMの心構えや考え方を体系化することで、少しでもそういった「PMあるあるな失敗」を回避いただけたらと思い、今回のような書籍をつくったり、noteで発信したりさせていただいております。

「自己流」のプロダクトマネジメントから抜け出そう

そういった「あるあるな失敗」に陥ったとき、どう対処したらいいのでしょうか?

まず私自身も当てはまるのですが、「自己流のPM」に陥ってしまうケースですよね。

「自己流のPM」と「一流のPM」に大きな差があります。図にしてみると、このような形です。

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「自己流のPM」は、自分の強みを中心に、伸ばせる範囲に手を伸ばしていく。それに対して、「一流のPM」は、プロダクトマネジメントの全体像を理解した上で、自分がやるべき仕事を担い、自分ひとりでは手の届かない仕事をチームに委任しています。

PMの仕事に必要な領域は、ビジネス、テクノロジー、UXです。そのなかでもPMの役割は、「3つの交差領域」であるといわれています。

全体像を理解した上で、自分の強みを活かし、弱みとなる部分は得意な人を巻き込んで、交差領域全てをカバーしていく。そういったあり方が、一番プロダクトをスケールさせていくPMです。

自分がバリューを出せるところは力を入れなくても出せたはず。まずは、自分ができてないことにこそ、目を向けてみましょう。

ステークホルダーの「共通解」を探して、迷宮入り

とくにPM1年目に、なかなか自分の意見を持てず、ステークホルダーとうまく議論ができないという悩みも多いです。

そうですね。いつのまにか、偉い人の顔色ばかり伺って企画を通すことを考えてしまう。そして、ユーザーに価値を届けることも、事業収益をあげることも二の次になる...これもあるあるですよね。私も似た失敗談があります。

その失敗を絵にしたものを「蛇足のだそくん」といって、登壇したときによくお話しています。

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最初は、左側のような魚のイラストだったはずなのに、より素敵なプロダクトにしていくために、「競合で人気だから」という理由でかっこいいひれを取り入れてみようとか、  「鼻をつけるともっと可愛いと思う!」というユーザーからのフィードバックを元に鼻や眉をつけたり...。

ステークホルダーの「共通解」、「最大公約数的なもの」をプロダクトに落とし込んでいったことで、社内承認は通りやすくはなるものの、最終的にはもはや魚でも哺乳類でもない何かになっていきます。

PMが向き合うのはステークホルダーの幸せではなく、ユーザーの幸せです。内向きになって自身の社内での立ち位置を案じたり、会社から与えられた目標の達成だけを目指すのではなく、「外」を向いて市場やユーザーときちんと向き合うことが重要です。

もちろんPMにとって、ステークホルダーをまとめ、組織を巻き込んで社内で推進するチカラも重要。ただ、社内に視点を寄せ過ぎず、目指すべきものをどうしたら外の人に受け入れてもらえるのかを考える「橋渡し役」になる。そのなかでユーザーの期待を超えていくようなものを、内側の人に協力を得ながらユーザーに提案していくスタンスがとても重要です。

プロダクトの解像度を上げよう

プロダクトを良くしていこうと議論していたはずなのに、いつのまにかよくわからないものになってしまう...。そもそもこういった事象が起きてしまうのはなぜなのでしょうか?

ひとつ大きな要因として「プロダクトを捉えるときの前提としている仮説がステークホルダーによって異なる」ことがあるのではないかと思っています。

そもそもプロダクトをつくるとき、私たちは多くの「仮説」を作ります。一気通貫したプロダクトは、すべての仮説がビジョンに紐づき、仮説が連鎖しているものです。

ただ、ステークホルダーやチームメンバーによって、前提情報や見ている仮説が異なると議論は平行線になりがちです。

そこで、仮説をつくり、管理するとき、大きく4つの階層に分解して捉えるとわかりやすいです。上から順に、プロダクトのCore、Why、What、Howから構成されています。階層の上にあるものが、その下の階層の前提条件なります。

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プロダクトをつくるとき、いつの間にかWhatの層だけで議論しがちです。でも、そもそもWhatの前提条件となるWhyの層が、チームやステークホルダー間でズレいるケースが往々にしてあります。

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見ているターゲットユーザーが違ったり、解決するべきペイン・ゲインの共通認識がなかったり...

そうなると、自ずとWhatの議論がかみ合わなくなり、プロダクトが発散してしまいます。

「だそくん」を生み出さないためにも、そのプロダクトが目指す姿やターゲットユーザー、なぜ自社が取り組むのかといったCoreとWhyの層の認識をチームで揃えていきましょう。

ビジョンは、必ずしもトップダウンで決まらない。

たしかに仮説を4つの階層で見ていくと、とっても分かりやすいですね。ただ、このなかでもとくに「Core」となるビジョンの部分は、難易度が高く感じられるのですが、どのように描いていったらいいのでしょうか。

そうですね。プロダクトの世界観となるミッションやビジョンはなにか。企業としてプロダクトに期待されている事業戦略はなにか。正直、ここを描くのは、PM1年目にとってかなり難しいと思います。

たとえば起業しようとしていて、「こういう原体験があってこういうものがつくりたいんだ」という思いがあれば、ビジョンを描きやすい。でも多くの場合、新しいプロダクトのアイデアは、Whatの部分「こんなプロダクトがあったらおもしろそう!」からスタートするのではないでしょうか。

そういうときは、いきなりビジョンを描こうとせず、まずWhyを整理していくことをオススメします。

どんなユーザーをどういう状態にしたいのか。
なぜ自社がやるのか。

そうすると、おのずとCoreの部分が見えてきます。プロダクトの仮説検証を繰り返しながら、4階層を徐々にブラッシュアップしていくイメージです。

ちなみに、各階層の抽象度を上にいったり、下にいったりしながら、それぞれの仮説を再検討していく作業を「リファイン」と呼んでいます。一つの階層を検討したあとに、そこより1つ上の階層と適合しているかを確認していく。各階層の整合性がとれていきます。

失敗は「その方向が間違っていたと分かる」重要な発見

最後に、PM1年目を過ごしている読者に向けてメッセージをお願いします。

プロダクトを作るうえで、失敗することってめちゃくちゃ大事だと思っています。

そもそも、誰もプロダクトの正解は分かりません。ユーザーも分からないし、会社の偉い人も分からない。その前提のなかで、プロダクトの成功を模索することがPMの仕事だと捉えています。

なので、PMになって、はじめてやった仕事がうまくことはほとんどないと思ったほうがいいと思います。でも、失敗したことは必ずしも悪いことではなくて、「その方向が間違っていたと分かった」という重要な発見だと思うんです。だから、ひとつひとつの失敗に心折れずに、成功につながる糧だと捉えて次のチャレンジをぜひしていただきたいです。

そして、もうひとつ、私自身の失敗経験から共有させていただくと、最初に「プロダクトマネジメントの白地図を描く」のをオススメしたいです。プロダクトマネジメントとはなにで、どう立ち回ることが自分の仕事なのか。全体像を体系的に理解することができると、より良いプロダクトマネジメントにつながってくると思います。ぜひ一緒に前を向いてがんばっていきましょう!


小城久美子さんが共同執筆した書籍『プロダクトマネジメントのすべて』はこちら!

プロダクトマネジメントのすべて 事業戦略・IT開発・UXデザイン・マーケティングからチーム・組織運営まで


取材 / 文 = 野村愛


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