事前登録・カード不要の「あと払い」ができるPaidy(ペイディ)。2021年4月時点、想定時価総額は1439億円とユニコーンの仲間入りをした。同社のなかでも、異色なキャリアの持ち主が宮崎直人さん。社内唯一のUXライター・コピーライターだ。テック × 言葉の可能性を広げていく、彼のキャリアを追った。
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【後編】「あと払い」をリードするテック企業「Paidy」が、UXライターを採用。宮崎直人が広げる言葉の可能性
前職では楽天で働き、Paidy(ペイディ)に2021年2月、UXライター・コピーライターとして入社したと伺いました。どのようにして今に至るのか、経歴から伺ってもよろしいでしょうか?
そうですね。ファーストキャリアとしては、日本経済社という日経グループの広告会社に新卒で入社しました。ただ、はじめからコピーライターだったわけではなくて。もともと志望していたのですが、はじめの配属は営業。1年くらい経って、運良く大規模な組織再編があり、希望を出してコピーライターになることができました。
当時は、新聞、雑誌、たまにテレビなど、いわゆるトラディショナルな広告のコピーを書いていました。キャリアの岐路としては、2015年頃。少しずつデジタルプロダクトのマーケティングに携わるようになっていって。
具体的には、メルマガを作ったり、キャンペーンのLPを作ったり。コンバージョンが重視される、いわゆるデジタル寄りのプロモーションを一手に担当させてもらえた。ここで「生き方が変わっていくかもな」と、感じるようになりました。もともとは「コピーライターは広告業界で生きて行くのが当たり前。キャリアアップするにしても、電通か、博報堂に行くぐらいしかない」と思っていたのですが、それだけじゃないぞ、と。
コピーライターであった自分に「デジタル」という新しい「タグ」がキャリアについた。もともと理系出身でもあり、テクノロジーにはすごく興味があったんですよね。
さらに「ずっと広告会社で、クライアントワークをやっていくのか。むしろ事業会社に入って、そこで仕事したほうがいろいろと早いはず」と思うようになって。
たとえば、メルマガ1本つくるにしても、わざわざ外注はしないですよね。営業担当者を通してコミュニケーションするのも大変。すぐとなりの席に、言葉に強いプロがいたら、パッと話しかけ、作れたほうがいい。1本のメルマガでも売上に直結する成果に結び付けられたりもする。
テック業界でも、自分が役に立てる。生きる場所があるかもしれない。そしてテック業界は、これからの領域。新しいことにチャレンジでき、市場価値も高まるはず。
ちょうど同じくらいの時期に、テクノロジー企業でも「コピーライター」を募集しはじめたんですよね。そのなかの1社、楽天に入社をしました。
楽天に入社し、同じような「コピーライター」はいたのでしょうか?
大きい会社なので確信はないですが、おそらく楽天として初の採用枠で。いわゆる「コピーライター」で「テクノロジー領域」となると、私ひとりだった気がします。
もともと楽天社内に「UXライティング」のノウハウはあったのでしょうか?
それでいうと、特になかったと思います。もちろん、UIデザイナー、PM、マーケターが実務として「ライティング」はしていたものの、専門的な担当者はおらず、当然、UXライティングという言葉も浸透していなかったと思います。
私自身も、WEBやアプリのライティングも担当するなか、手探りでいろいろ検索していった。そういったなかで、UXライティングという領域があるらしい、と知っていきました。
当然、楽天としても、コストをかけて採用するので、期待してもらっているところもある。求められていたのも、まさにUXライティングに関わる領域、いわゆる「機能的UXライティング(※前編参照)」のところが大きかったと思います。
初のポジションだと前例、ロールモデルがないので、関わり方も難しいような…。
それがそうでもなかったんですよね。コピーライターという肩書はわかりやすく、「文章に関わることは、あの人」となりやすい。それぞれの専門領域があるなか、よく声をかけてもらえたし、一つひとつのプロジェクトで信頼を得ていく、という働き方をしていました。
UXに関するインプット量、キャリアの変遷を伺ってきましたが、コピーライター、そしてUXライティングに特化されてきたことが伺えました。
自分で自分のハードルをあげるのはあまりよくないですが、「UXライター・コピーライター」を名乗るからには、人よりもやりきって初めて名乗ることができるんだろうなと個人的には思っています。
よく、UXライターの役割として、たとえば、Figma(フィグマ)でデザインの大枠をデザイナーがつくり、そこに文字を入れるだけ、みたいに思われがちですが、それは本質ではなくて。
言葉がきっかけだとしても、「本当にその場所で良いのか」「そのタイミングで言葉を出すのがいいのか」という体験そのものにも、説得力のある意見ができるようにならないとダメ。書くだけじゃない。めんどくさいと思われたとしても、良くないものは良くないと言わなきゃですよね(笑)
そう考えると、PM、デザイナー、エンジニア、マーケター、UXライター…と、それぞれ職種は違うかもしれませんが、ゴールは一緒。「お客様の役に立つこと」だと思います。
GoogleのUXライター、UXライティングの手法を解説している「How Words Can Make Your Product Stand Out」という動画でも、UXライティングの3原則を「clear(明快)」「concise(簡潔)」「useful(役に立つ)」と置いていて、まさにその通りだと思って。
キャリアの話にもつながりますが、「役に立つこと」こそ、その市場価値を定める、最高の方法なんですよね。クールでかっこいい言葉を書くわけでもないですし、他人から注目される言葉を書くわけでもない。ただただ、シンプルに役に立つことを書いていく。こういった自分のキャリア観と、仕事内容が一致したのは、すごくラッキーだったと思います。
市場としても、デジタルプロダクトのコモディティ化が進むなか、UXが勝負になってきている。当然、求められる人材も変化していきます。
海外のテクノロジー企業だと、会社によって呼び方は少し変わりますが、いわゆるUXライターを積極的に採用していて、この流れは日本にも来るはずです。
最後に、楽天からPaidy(ペイディ)に転職されたわけですが、これからやっていきたいことがあれば教えてください。
まずはプロダクトをしっかり成長させていくこと。よい体験を届けていくことだと思っています。早く、深くやっていくために、UXライター・コピーライターとして入社している。今の上司は元Netflixで、UXライティングにも理解がある人なので、結果を残して期待に応えたいですね。
また、私個人として、会社のなかにUXライティングに強い人、プロがいた方が絶対良いと思っているので、それを証明したい。職種の可能性も広げていきたい。市場というと大げさですが、食いっぱぐれないよう(笑)UXライターを積極的に雇うようなテック企業が、さらに増えていくように自身が活躍していくと同時に、発信も続けていければと思います。
【前編】noteの「あつ森」UXライティング解説が大反響! naoさんに聞く、UXライティング力の鍛え方
【後編】「あと払い」をリードするテック企業「Paidy」が、UXライターを採用。宮崎直人が広げる言葉の可能性
取材 / 文 = 白石勝也
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