2021.05.17
ライターじゃなくても知っておきたい、ユーザーの心をひきつける「言葉」の使い方|UXライティング入門

ライターじゃなくても知っておきたい、ユーザーの心をひきつける「言葉」の使い方|UXライティング入門

デジタルプロダクトのユーザー体験を向上させる「UXライティング」。そもそもUXライティングとは? マイクロコピーとの違いとは? 『UXライティングの教科書』監修者であり、コミュニティ「Microcopy & UX Writing Japan」の主催者、仲野佑希さんに解説いただいた。

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UXライティングの教科書 ユーザーの心をひきつけるマイクロコピーの書き方

UXライティングは、プロダクトを「心地よく使い続けてもらう」ための言葉

ここ最近よく「UXライティング」を目にするようになりました。まずはその定義から伺ってもよろしいでしょうか?

公式の定義があるわけではないのですが、UXライティングとは「デジタルプロダクトとユーザーの間のコミュニケーションを円滑にするライティング」と言えます。

たとえば、どんなに素晴らしいコンセプトのアプリでも、操作方法がわかりにくかったり、表示されるメッセージにイライラさせられたら、使うのをやめてしまいますよね。目的があってアプリを使っているのに、やりたいことに没頭できないからです。

そのためにUXライターがいます。ユーザー視点に立ち、インターフェースを使いやすく、わかりやすく設計する。プロダクトを「心地よく使い続けてもらう」ためには、つねに相手の状況を汲み取った言葉選びが大切です。わかりやすい比較でいえば、


・広告コピーライティング →  モノやサービスを「買ってもらう」ための言葉
・UXライティング → モノやサービスを「心地よく使い続けてもらう」ための言葉

とも言えるでしょう。

仮に、自転車屋さんに行ったとして。私はこのたとえが好きなのですが、コピーライティングが自転車を販売する「販売員」なら、UXライティングは、その自転車の乗り方を教えてくれる「インストラクター」のような存在です。

はじめて自転車に乗るときは不安でいっぱいですよね。そんな時にインストラクターがそばにいてくれて、乗り方のコツを1つずつていねいに教えてくれます。もし転んだとしても、どうすべきだったか、そして気持ちが折れないように温かい言葉をかけてくれます。少しひざを擦りむくかもしれませんが、またチャレンジしようという気持ちになります。そうこうしているうちに、いつの間にか自転車を乗りこなせるようになるものです。転ぶことも少なくなり、行きたい場所に行ったり、ツーリングを楽しめるようになります。

これこそが、まさにUXライティングがプロダクトで果たすべき役割ではないでしょうか。

オンボーディング、ボタン、フォームラベル、エラーメッセージ。ユーザーがやりたいことを実現できるように言葉でサポートする。それがUXライティングだと思っています。

もちろん、デジタル分野に限らず、フィジカルなライティングでも役立つ考え方です。

ユーザー行動に直接影響する、マイクロコピー

UXライティングは、マイクロコピーとセットで語られることもありますが、その違いとは?

『UXライティングの教科書』では、マイクロコピーを以下のように定義しています。


ユーザーインターフェースに付記するちょっとした言葉や短文のこと。これはユーザーが起こす行動に直接影響を与える。

・行動を起こす前にモチベーションを向上させる
・行動に伴って指示を与える
・行動の後にフィードバックを返す 

セットで語られることが多いのは、UXライティング=マイクロコピーを書くこと、というイメージが強いからでしょうか。間違いではありませんが、実際にUXライティングは、コピーを書くほかに、チームと連携をとったり、リサーチ、仮説検証に多くの時間を割きます。マイクロコピーが注目されやすいのは、“目に見える成果物”として、わかりやすいからだと思います。ボタンやフォーム、エラーメッセージに加えて、404ページやエンプティステート、プッシュ通知などもマイクロコピーです。ボタンに関していえば、「CTA(Call To Action)ワード」もそうですね。

あらゆる企業がA/Bテストツールを導入できるようになり、マイクロコピーの検証も格段にしやすくなりました。

たとえば、Netflixでは、お申し込みボタンの文言を10パターン検証しています。漢字の「閉じ開き」でもテストしているんです。

UXライティングとブランドボイス

もう一つ、UXライティングには「ブランドボイス」を担う側面があります。プロダクトが届けたい価値、体験、そのブランドらしさを言葉で表現していく。

プロダクトの個性やキャラクターを、デザインだけでなく言葉でも体現して、ブランドイメージをお客さんの頭のなかに育んでいきます。

Slackの個性の強さはよく知られていますが、人間らしさを感じさせるいろいろな工夫が仕込まれています。その一つがランダムなメッセージ。Slackの検索窓のプレースホルダーテキストでは、全部で20種類のバリエーションがありました。使いやすさを邪魔しなければ、大きな魅力になります。

このように、どんな距離感、語り口でコミュニケーションするか。UXライティングの世界では「ボイス&トーン」と言ったりもしますね。

ボイス&トーンが「らしさ」につながると。ただ「どれだけ効果的か」がわからず、実際にはそこの検討に時間を割いたり、落とし込んだりがむずかしい気もします…。

そうですね。マイクロコピーと違って、ブランドボイスの効果を定量的に捉えようとするのはむずかしいかもしれません。

ただ、Slackで興味深いと思ったのは、以前、サーバーがダウンしたとき、Twitterのタイムラインを見ていると、「いらだち」よりも「心配する声」が多かったんですよね。

どこか「人」として見ているような。そんなふうに思ってもらえるのは、Slackならではですし、ボイス&トーンがつくるキャラクターの影響もあると感じました。

企業が「効果のわからないものにコストをかけたくない」という気持ちは理解できます。

ですが、顧客担当者の教育にはお金や時間を投じるのに、同じ働きをするインターフェースの言葉にコストをかけないというのは、おかしな話です。

「ブランドボイス」のタネは、自分たちのなかにある

SlackやNetflixなどのUXライティングを見ていると、「ああいった表現、コミュニケーションができるといいな」と憧れます。ただ、難易度は高そうです。

そうですね。よく誤解されやすいのは、ブランドボイス、ボイス&トーンは「新しくキャラを立てること」ではなくて。Appleのような文章のスタイルをマネすることでもありません(笑)

ブランドボイスを定めるのは、ブランドの背後にいる人たちの「ありのままの姿」を言語化するためです。普段、お客さんとのやり取りで使っている言葉づかい、代表が社員に日々伝えているメッセージ、会社のミッションやビジョンを色濃く反映するものです。

なので、会社が創業してから現在に至るまでのパンフレットやドキュメントを掘り起こすことにも価値があります。自分たちがユーザーに届けたい価値は何か、何を実現したいのか。それらを、コンテンツの作成基準としてまとめたものが「コンテンツスタイルガイド」です。

コンテンツスタイルガイドは、書き手のための指針であり判断基準です。ですが、作ること自体が目的ではありません。たくさんのメリットがある一方で、チームに浸透しなかったり放置されてしまうという難しさもあります。

先日読んだ本で、HubSpotのBeth Dunnさんの書いた『CULTIVATING CONTENT DESIGN』のなかでは、意訳ですが「スタイルガイドを実際に読んで使っているのは、そもそもスタイルガイドを作成した人たちだけだ」とありました(笑)なぜなら「ルール」は楽しくないからです。

もちろんこの本には、その続きが書かれています。ブランドボイスを社内に浸透させるための様々なアイデアです。

たとえば、彼らは「社内向けニュースレター」に取り組んでいます。代表はもちろん、どんな立場にいる従業員でも、そのニュースレターに寄稿できる。普段から社内のボイス&トーンに慣れ親しむことで、サービス全体の「言葉」に反映される、というわけです。これは大企業ならではの取り組み、と言えるかもしれません。

コンテンツスタイルガイド

先ほどの「コンテンツスタイルガイド」は、海外のサービスだと当たり前に作成されているのでしょうか。

「当たり前」というほどではありませんが、ブランドとしての言葉遣いを大切にしている企業では作っているようです。一方、国内ではほとんどオープンにしているケースはありません。

たとえば、メール配信スタンドの Mailchimp のスタイルガイド。内容が充実しているので、良い例としてよく取り上げられています。

個人的にも日本語で読みたかったので、以前、許可をとって、翻訳家の方にお願いして日本語版を作りました。完全なものではありませんが、スタイルガイドづくりの参考になればと思い公開しています。

 

+++Welcome to the Mailchimp Content Style Guide(翻訳版はこちら

 

コンテンツスタイルガイドとは?(下記引用)

コンテンツスタイルガイドとは、ブランドが公開するコンテンツの作成基準を、ライティングチームや同僚が理解できるようにするためのものです。特に、あなたの会社に複数のライターが在籍している場合、文法や表記ルール、文章のスタイルを定めておくことは、次の3つの点で役に立ちます。

1.ブランドの「らしさ」に一貫性が生まれる
表現や言い回しに調和が取れていると、コンテンツはより研ぎ澄まされ、読者に信頼感を与えることができます。それはウェブページ 、ソーシャルメディア、ニュースレター、ブログ記事に限りません。アプリのユーザーインターフェースに表示するマイクロコピーを書く場合においても、スタイルガイドがあれば、プロダクトの個性や「らしさ」に一貫性を与えることができます。

2.ライティングの上での誤りを防ぐことができる
使ってはいけないスラング、避けるべき専門用語、または日付の正しい表記方法まで、スタイルガイドではっきりと基準を示せば、ライティングの上での誤りを防ぐことができます。また、特定の人々について書くときや、ソーシャルメディアへの投稿で注意すべき点など、シチュエーション別のガイドラインを設けることで、ブランドとしての振る舞いが明確になります。また、用語の表記揺れを防ぐためには、スタイルガイドの活用が欠かせません。

3.多くの時間を節約できるようになる
コンテンツスタイルガイドは、ライティングや編集を助けてくれる社内のガイドラインです。コンテンツを書くときに、進むべき方向を示すコンパスの役割を果たします。また、チームに加わったばかりのライターでも、疑問が沸いたときにすぐに調べることができるため多くの時間を節約できます。ただし、スタイルガイドはすべてを解決できる絶対的なものではありません。ブランドやチームの成長に応じて、常にアップデートしてください。

(引用) https://kotobaux.gitbook.io/contents-style-guide/

なぜ、UXライティングが注目されているのか?

ここ最近、日本でもUXライティングが注目されるようになったと感じています。その背景とは?

GAFAMのような海外のテック企業のトレンドは少なからず影響していると思います。とはいえ、日本では最初は「UXライター」「UXライティング」という言葉が、ある種のバズワードのような形で紹介されていたぐらいです。じゃあそれがどんな仕事なのか?コピーライティングと何が違うのか?UXって言葉に乗っかっただけじゃないかとか(笑)

そのようにして、みんな手探りのなかで解釈したり、いまの仕事と照らし合わせながら議論し始めた。それがここ1、2年の流れだと認識しています。これから時間をかけて「日本語のUXライティング」が、さらに深掘りされていくのだと思います。

なので、注目度に関していうと、国内外では大きな差がありますね。聞いた話になってしまうのですが、Booking.com はデザイナー6名に対し、UXライター1名を採用しているそうです。また、その比率をあげているようでした。

海外でUXライターの雇用が進んだのは、コミュニティの力も大きいと思います。英語圏とヘブライ語圏のコミュニティが最も大きく、英語圏はすでに1万6,000人規模のコミュニティもあります。立ち上がったのも2017年。コミュニティが成熟しています。私も何かやってみたいと思い、日本語のUXライティングのコミュニティを立ち上げることにしました。いまでは400名ほどの方が参加してくれています。『UXライティングの教科書』の著者のキネレットさんが言っているように、特別な才能がなくても、コピーライターでなくても、どんな人でも上達できるようになる。それがUXライティングです。私自身も知らないことがたくさんありますし、カッコつけるのではなく、それぞれが良い書き手になるためにシェアし合うことが大切だと思います。

まだまだ日本では「UXライターを専任で採用する」ケースは少ないと思います。UXライティングは、デザイナーやPMが担う領域というか。海外テック企業は、なぜ、UXライターを置くのでしょうか。

テック企業はどこよりもA/Bテストしていますし、マイクロコピーやUXライティングの採算性をよく理解しているからだと思います。たとえ小さなボタンでも、そこに投資するだけの価値がある。UXライターを置くかどうかの違いは、この気づきがあるかどうかの違いではないか、と。

何より、ブランドとしての存在感を高められます。「機能的にはほとんど同じサービス」があふれるなかで、どうやって頭ひとつ抜きん出るか。コンテンツ戦略としてUXライティングを取り入れれば、競合との「違い」を見せつけることができますよね。インターフェースのライティングは、もともとは誰かがやっていた職域ですし、UXライターは「なかった仕事」です。UXライティングを「価値」と捉える企業はUXライターを置くでしょうし、「コスト」と捉える会社は置かない。それはどの職業でも同じだと思います。大事なことは、「UXライター」にならなくても、UXライティングはあなたの仕事にきっと役立つということ。言葉を扱わない仕事はありません。それはUI/UXデザイナーかもしれないし、マーケターやカスタマーサポートの担当者かもしれません。

少し、質問から外れてしまったかもしれませんが、私はその価値を伝えられるようにしたいですね。日本国内でもこういった流れが加速していくといいな、と思います。

+++仲野さんが2021年4年に立ち上げた『KOTOBA UX』。
「Writing for Tech」を掲げ、UXライティングに関するトピック、インタビュー、事例などを紹介する。

デザインの「ダークサイド」を知ることで、UXライティングの真価がわかる。

今後、UXライティングが広まっていくなかで、より大切になる考え方などあれば、教えてください。

近年、「ダークパターン」が話題になっています。2021年の3月には、日経新聞で「ダークパターン」が紹介されました。そのなかで、消費者庁が法改正を進める方針であることも書かれていました。

ダークパターンとは企業がユーザーをだまして、不利な行動へと誘導するデザイン手法です。UXライティングと相反するものですね。たとえば、次のようなものです。

・サブスクが解約しにくいよう、いくつものページを遷移させる
・会員登録フォームで「メルマガを購読する」にデフォルトでチェックが入っている
・決済の直前まで手数料を伝えないもうひとつ。

似た手法とも言えますが「コンファームシェイミング」と呼ばれるものもあります。たとえば、ネットショップでポップアップが表示されて

デザイン「30%のクーポンをゲットしますか?」

 「はい」「いいえ」

と聞くとします。その「いいえ」の選択肢を、「いいえ、私はそのクーポンで損をしても構いません」のような文言にする。「あなたは愚か者だ」という言い方で、ユーザーを誘導するようなコミュニケーション。日本のサービスではあまり見られませんが、海外ではよく見られます。

こんなふうに、企業が承諾誘導の心理技術をマーケティングに利用するとき、どこまでが「マーケティング」として許されるでしょう。そして、どこからが「ダークパターン」になり得るでしょうか。

その境界線は非常にあいまいです。ユーザーの背中を後押しするくらいのつもりが、いつの間にかビジネス本位になっていたり、ユーザーを操作しようとしたり。対面の接客では考えられない行為をオンラインではしているかもしれません。善悪で語るのは簡単ですが、ダークパターンを知ることは、自身のライティングを考える良いきっかけになると思います。

「私はこんなこと絶対にしない」と思っていても、現場でコピーを書くときはもっと複雑です。たとえば、職場環境もそのひとつ。もっとメールの開封率を上げるよう求められたり、上司からの激しいプレッシャーにさらされるかもしれません。そうなったら、本来持っているチカラを、倫理的に問題のある方法で使うことだってあり得ます。

利用者は、言われたことや、されたことをいずれは忘れてしまうものです。でも、そのブランドに対して抱いた感情はずっと忘れません。

消費者がダークパターンを認知するようになれば、企業を見る目が変わります。企業は、顧客との関係性をもう一度考え直す必要が出てくるでしょう。マーケティングと称して人を操ろうとするのではなく、長期的な関係性を築いていくほうがうまくいく。UXライティングは、いわばその秘密兵器です。

(参照:日経新聞)ダークパターンとは 消費者惑わすサイト設計
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGD096Y40Z00C21A3000000/


仲野佑希さんが監修した書籍『UXライティングの教科書 ユーザーの心をひきつけるマイクロコピーの書き方』はこちら!

UXライティングの教科書 ユーザーの心をひきつけるマイクロコピーの書き方


取材 / 文 = 白石勝也


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