noteでの「『あつまれ どうぶつの森』の世界観をつくるUXライティング」をはじめ、UXライティング解説記事が反響を呼ぶ「nao」こと宮崎直人さん。じつはユニコーンの仲間入りを果たしたテック企業「Paidy」で働くUXライター・コピーライターだ。彼が考える、UXライティングとは?そして、その鍛え方とは?
【前編】noteの「あつ森」UXライティング解説が大反響! naoさんに聞く、UXライティング力の鍛え方
【後編】「あと払い」をリードするテック企業「Paidy」が、UXライターを採用。宮崎直人が広げる言葉の可能性
もともと宮崎さんはコピーライターとしてキャリアを積み、現在は、Paidy(ペイディ)にてUXライティングにも実務で関わっていると伺いました。そもそも「コピーライティング」と「UXライティング」の違いとは?
ここは私のなかでは明確に分けられるのですが、まずマーケティングの「4P」における「Promotion」を担当する部分が、コピーライティング。「Product」を担当するのが、UXライティングだという風に捉えています。
「コピーライティング」は、プロダクトを利用する前に求められるライティング。初めて接触するプロダクト、サービスであれば、何も知らないわけですよね。なので、とにかく記憶に残し、興味を持ってもらわないといけない。そこで強い言葉だったり、印象的なフレーズだったり、訴求力の高い言葉を置いていく。
一方で「UXライティング」は、プロダクトを使い始める時、使っている時に、接触し続ける言葉なので「記憶に残さない」が大切になります。
UXライティングは、余計な感情を付加しない方がいい、と考えています。使っている時に情緒的、エモーショナルな言葉で、心をざわつかせたり、主張したりはいらない。
プロダクトを体験している時は「透明」であることが重要だと捉えています。
よく「コピーライティング」と言うと、何かエモいこと、かっこいいことを言わなければ…となりがち。でも、それは基礎的なUXライティングには求められません。
「長い」「何を指しているかわからない」「誤字脱字がある」そういったマイナスポイントが重なると体験は損なわれます。なので、まずは正しい情報を、正しい日本語で伝えていくことに専念するといいと思います。
海外サービスなど、ちょっとした言葉のユーモアがあったり、おもしろいフレーズがあったり、そういった事例もよく見るのですが?
UXライティングのなかでも、大きく2つに分けられ、こういった整理ができます。
・機能的UXライティング
・情緒的UXライティング
広告の世界でも「機能的価値」「情緒的価値」はよく言われるもの。たとえば、Slackは、UXライティングに長けた会社だといわれ、情緒的UXライティングが注目されますが、そればかりでもないんですよね。
具体的には、左側の登録フォームは機能的UXライティングで、シンプル。「メールアドレスを入力してください」とわかりやすく示され、余計なことはしていません。
まずは快適で、スムーズな体験を提供してから、プラスアルファとして、右側の未読チェック完了メッセージなど「情緒的UXライティング」を付加するやり方のほうがいいと思っています。
ただ、どうしても「情緒的UXライティング」に目が言ってしまいます。個性が出ますし、そこを目指したくなるというか。
そうですよね。ただ、やっぱりまずは「機能的UXライティング」が先だと思います。
先日見つけた『ジャンプの漫画学校講義録⑥ 作家編 松井優征先生「防御力をつければ勝率も上がる」』という記事が参考になるのですが、「防御力をつければ勝率も上がる」とあって。
Slackの情緒的UXライティングは、ここで言うところの「攻撃力」だと思うんです。ユーモアのあるコピーは才能、センスにかなり左右されるもの。
また、日本人だと「フランクな言葉で語りかけてくるプロダクト」に文化としても慣れていない。好き嫌いが分かれるところです。
なので、やっぱりここで言う「防御力」つまり、機能的UXライティングを高め、まずは100%の体験を目指す。勉強して訓練すれば身につくところなので、正しい日本語、正しい情報で、プロダクトの品質を上げていく。これらができた上で、120%を狙う時、情緒的UXライディングをやっていくといいと思います。
情緒的UXライティングの難易度が高い理由は、その他にもあるのでしょうか?
多くのプロダクトが、そもそも「ブランド」や「人格」として考え抜かれているケースが少ないですよね。たとえば、Appleはブランド・人格が丁寧に設計されていて「らしさ」を含む、情緒的UXライティング、言葉づかいに落とせている。そもそもブランドを定義するところから始めないといけないので、すごく大変な作業になるのだと思います。
まずは土台のところ「機能的UXライティング」が重要であると。そこを磨くために大切なことがあれば教えてください。
まずは「お客様はテキストを読まない」ということ。研究によって証明されていて、人間の脳は、ブラウザやスマホの画面で、文字を読むようにはまだできていないのだと思います。
2008年の調査ですが、Webユーザビリティの第一任者ヤコブ・ニールセンの記事「ユーザーはいかにテキストを読まないか」のデータがおもしろくて。横軸が「ページ内にどれくらいの文字数があるか」、縦軸が「どれくらいのパーセントまで読んだか」を示しています。
「200文字」でも40%、「1200文字」になると20%しか読まれていません。ここからスマホが出てきて、さらに文字は読まなくなっていると考えられます。Twitterにしてもどんどんスクロールしますよね。
なので、お客様は「読んでいる」んじゃなくて「見ている」。
京都大学大学院の下田宏先生の実験結果でも「人間が眼球を動かさずに認識できる文字数は13文字まで」とされています。
日本中のあらゆる人たちを対象にしてニュースを届ける『Yahoo!ニュース』のタイトルが少し前まで13.5文字だったことも頷けます(2021年6月時点14文字)。
パッと一瞬で判断できるのは13文字くらいまで。そう考えて時にやるべきことは、お客様の脳の負荷、ストレスを減らすこと。できるだけ、シンプルで短い言葉にしていく。「短いは正義」だと思います。
『言葉ダイエット』という本がありますが、「文字を削る」だけで一冊の本ができるくらいテクニックがある。
『言葉ダイエット メール、企画書、就職活動が変わる最強の文章術』より
また、先の『ジャンプの漫画学校講義録』のなかでも同じことが言われています。センスや才能が優位なエンターテインメント、UX的なところは逆のイメージがある世界の漫画家さんも「文字を減らす」ために惜しみなく、努力をしています。
そう考えるとテクニックを学び、短くするだけでも、お客様のストレスが減って、快適な状態でプロダクトが使ってもらえる。意識するだけで全然違ってくると思います。
なお、最近だと、そもそもスマホの画面が小さくなっていて。よく仕事をしていても「あと2文字削れませんか」とデザイナーから言われることもあって。「枠」のほうで文字が制限されることで、意外と短くできるので、あえて制限を設けていくのもいいのかもしれません。
UXライティング力を鍛えていこうと思った時、おすすめの勉強法はありますか?
仕事でやっていくのはもちろんですが、日々あらゆるところからインプットできると思います。とくにTwitterはネタの宝庫ですよね。もう日課というか、息をするくらい自然とスクショも大量に溜まっていって(笑)。
わかりやすく、「UXライティング」で検索するだけでも、多くのプロダクトの文言、コピーがスクショされていて、事例は集められると思います。
直接、UXライティングとは関係がないものでも、バズっているTweetは参考になります。たとえば、もう数年前ですが、セブンコーヒーが話題になりましたよね。おしゃれだけど、使いにくい、とテプラのシールが貼られたと。まさにUIのテキストの問題ですよね。
また別で、Twitterで見かけておもしろかったのが、「お米の炊き方がわからない」という人がいたこと。炊飯器には目盛りがありますよね。その目盛りにあわせて、お米を全部入れて炊いたら失敗した、と。あの目盛りって「水」の位置で。まずは計量カップでお米を測って入れ、目盛りにあわせて水を入れる。お米を一度も炊いたことがない人だとわからないんだな、困ることなんだなって。そもそも、お客様はその商品に対し、どういった認知を持っているかから知らないといけない。
お客様は何に困っていて、じゃあ、どこに、どういう言葉を入れたらいいか。WEBやアプリはもちろん、日常生活で触れる商品のネーミング、梱包、パッケージ…抽象化していくとあらゆるところにヒントはありますよね。
余談ですが、こんなふうにUXに目をこらし続けていくと、「あ、これはUXの問題だな」と気付けるようになってきて。勝手に「死神の目」と呼んでいます(笑)
漫画の『DEATH NOTE』の死神って契約すると、人間の寿命が見える、特別な目が持てる。それに近いカタチで、取り憑かれたように商品、サービス、エンタメ…いろいろと見ていくと、UXライティング的な視点が浮かび上がってきて楽しいです(笑)
noteで話題になった「『あつまれ どうぶつの森』の世界観をつくるUXライティング」もまさにそうですね。
そうですね。もちろん、ゲームを楽しみつつ、何かnoteに書けないかな、といった状態で「あつ森」をやっていたら、「死神の目」が働き、センサーにひっかかりました(笑)たとえば、キャラに名前をつける場面。やっぱり変えようと画面を戻ろうとしたら「考え直す」となっていた。一般的には「戻る」ボタンじゃないですか。もしくは「キャンセル」ボタン。その一言すら考え抜かれていて、あらためて「やっぱり任天堂はすごいなぁ」と思いました。
もちろんゲームなので、ブランドというか「人格」がハッキリしており、世界観そのものがサービスの本質。子どもたちに向けても語りかけますし、親御さんたちにも語りかけていくもの。どういう言葉を持つべきか、そこを練るために多くのリソースを割いているはず。
一般的なプロダクトとは根本的に違いますし、最終的なアウトプットだけを見てマネするのは本質的ではありません。ただ、一段階、抽象化し仕事に活かしていこうと考えると、勉強になるかと思います。
先ほどお話したように、UXライティングはただただ「サービスの受け手」になっていると気づけない。基本的にプロダクトに「溶け込んでいる」ことが多い。
そう思うと、デザイナーはデザイナーの、PMはPMの、そしてUXライターはUXライターの「死神の目」、要するに専門性を持った目で、世の中を見る。ここがセンスを磨くということにつながるのかもしれません。
【前編】noteの「あつ森」UXライティング解説が大反響! naoさんに聞く、UXライティング力の鍛え方
【後編】「あと払い」をリードするテック企業「Paidy」が、UXライターを採用。宮崎直人が広げる言葉の可能性
取材 / 文 = 白石勝也
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