「子育て」というライフイベントを迎えても、健やかに働き続けたいーー30代になり、そんなふうに考える方も多いのではないでしょうか。今回お話を伺ったのは、産休・育休から復帰後、未経験からUIデザイナーになったユーザベースの進藤かさねさん。いち早く戦力になるために、不断の努力を重ねた彼女の軌跡をお届けしたい。
20代から、30代へ。「子育て」というライフイベントを迎えて、今後の働き方やキャリアを見つめ直す人たちも多いのではないでしょうか?
わたしの周りにも、産休・育休に入る友人たちが増えてきて、時折こんな不安の声を耳にします。
復職したとき、自分は戦力になれないかもしれない...
新しい仕事にもチャレンジしたいけど、むずかしそう...
同じように不安を抱えながらも、新たな一歩を踏み出した方がいます。ユーザベースで、UIデザイナーとして働く進藤かさねさん。経済情報プラットフォーム「SPEEDA」のトップページのリニューアルなど、大きなプロジェクトにもアサインされ、社内でも信頼を集めています。
もともと仕様設計や要件定義など、プロジェクトマネージャー的な役割を担っていた彼女。UIデザイナーのキャリアをスタートしたのは、産休・育休から復帰した後でした。
なぜ彼女は、UIデザイナーとしてのキャリアに未経験から飛び込むことができたのだろう?そして、限られた時間のなかで、どうスキルを磨いていったのだろう?
2人の子育てをしながら、未経験でUIデザイナーになった彼女の奮闘の日々に迫りました。
ー 産休・育休から復帰後、未経験からUIデザイナーになられるまでの経緯からお話し伺いたいです。
もともと産休前までは、ユーザベースに子会社化する前の株式会社ジャパンベンチャーリサーチ(現INITIAL)という会社に所属していました。経営層とリサーチャー、エンジニア、私で10人程度の少人数の組織だったので、PM的業務から事務作業、ちょっとしたデザイン作業など...幅広い業務をしていました。
UIデザイナーにキャリアチェンジしたのは、産休・育休から復帰したタイミングです。産休前までの働き方は遅くまで残業していてタフなのもあって、同じ仕事ができるんだろうか...そもそも私はここで戦力になれるんだろうか...と自分のキャリアに悩んでいました。
そのときにちょうど、B2B SaaS事業でCTOをつとめている林尚之さんから「SPEEDAのデザインをやってみませんか?」と声をかけてもらったんです。
じつは、ずっとWebデザイナーには興味があったので、すごく嬉しかったですね。でも、デザイナーとしてのスキルや経験はなかったですし、自分から「デザイナーになりたいです」と希望を伝えたことは一切なかったので、お声がけいただいたときは、本当にびっくりしました。
ー そうだったんですね!デザイナーとしてのキャリアがないなかで、林さんが声をかけてくださったのはどうしてだったんでしょう?
ご本人に伺ってみないと実際のところはわからないですが...産休前にやっていた業務を林さんに引き継いでいたことは影響しているかもしれません。
ほんとにちょっとなんですけど、デザインやフロントのコーディングの作業も必要に応じて調べつつなんとかやっていたので、「いまスキルや経験値が高くなくても、本人のやる気次第では任せられるんじゃないか」と思ってもらえたのかも。
ー なるほど、その時々で任された仕事をこなしていた進藤さんの「適応力」みたいなものも見ていたのかもしれないですね。とはいえ、ほぼ未経験の状態からのチャレンジ、不安はなかったですか?
めちゃくちゃありました!デザイナーとしてのキャリアもスキルもない自分が、本当にデザインを仕事としていいんだろうか...という不安はすごくあって。何度も「私でいいんでしょうか...?」と確認してましたね。
ー 不安はどう払拭されていったんですか?
周りの人に相談するなかで、背中を押してもらったことは大きかったとおもいます。たとえば、産休前の職場の同僚たちに「やってみたら?」と背中を押してもらったり。他にも、当時、「SPEEDA」の日本事業を統括していた太田智之さんとお話した際に、「やりたいなら、やってみたらいいじゃん」と声をかけてもらって。まずはやってみなきゃわからないよな...! といい意味で肩のチカラが抜けた気がします。
あとは、ユーザベースで組織の指針として掲げている『The 7 Values』というのがあるんですけど、その中の指針のひとつ「迷ったら挑戦する道を選ぶ」には突き動かされました。
ー 実際にデザイナーとして職場復帰されて、どうでしたか?
もうほんとうに壁だらけでしたね...。当時の状況からお話しすると、もともとSPEEDAのデザイナーは1名のみ。私の職場復帰のタイミングで、その方は別のプロダクトの担当に異動になってしまい、私ひとりでデザインを担当することになりました。
約2ヶ月間の引き継ぎ期間を経て、さっそく独り立ち。最初は「やらねば!」精神で突き進んでいたものの...デザイン作業が思うように進まず、期待に応える成果物が全然出せない状況が続いていました。
子育てのため、仕事ができる時間に制限があるので、時間でカバーするパワープレーもできない。今までのように仕事が回せず、自身のスキルの低さに愕然としました。
ー とくにどういった業務に苦戦しましたか?
グラフィックの作成は、本当に苦労しましたね...。例えば、セミナーやイベントの告知用のグラフィックとか、facebookの広告に使うグラフィックとか。
前任の方がつくっていたアウトプットと自分のアウトプットには、明らかにクオリティの差を実感していましたし、結果にもつながってこない...。全然いいアウトプットが出せなくて、申し訳ない気持ちと、「私はいったいどうしたらいいんだろう...」と迷いの森に入り込んでいたような気がします。
ー 迷いの森から抜け出すには、なにかきっかけがあったんですか?
ちょうど悩んでいたタイミングで、現在ユーザベースのSaaS Design DivisionでCDOを務めている平野友規さんがユーザベースにジョインしてくださったんです。
平野さんはご自身でもデザイン会社を持ち、デザイナーとしてのキャリアも実績もある方。そんな平野さんがジョインして早々、とあるプロジェクトでお仕事をご一緒することになって。デザイナーとしてのスキル・知識はもちろんのこと、プレゼンの内容・仕方、プロジェクト内での立ちまわり方まで、全てが目からウロコでした。
「この人についていけば間違いない!」と思い立った私は、平野さんを勝手に師と仰ぎ、相談しまくるようになりました。
ー デザイナーひとりで四苦八苦していた状況から、師匠が現れて、学びを得られる環境になったんですね。平野さんからもらった言葉で、あえて心に残っていることはありますか?
平野さんにはたくさんアドバイスをいただきましたが、なかでも一番ハッとさせられたのは「進藤さんって、結局なんのデザインがやりたいの?」という問いをもらったことですね。
もともとデザイナーひとりの状況だったので、やらなければならないことも、やりたいこともたくさんあったんです。なので最初は、プロダクトのUIデザインも、グラフィックも、印刷物もいろんなことに手を出してしまって。全部やろうとして、結局中途半端な状態だったんです。
あれもこれも色々業務をやるのはいいけど、結局自分は何のデザインがしたいのかー。平野さんから考えるきっかけをもらったことで、『UIデザインがやりたい!』と、UIデザイナーに振り切る決意ができました。
UIデザインやるぞ!と決めてからは、自分がやるべき事がものすごく明確になりました。アウトプットも、そのためのインプットもUIデザインに絞れたので、成長するスピードを徐々にあげられたと思います。
ー 働く時間も限られているなかで、進藤さんがデザイナーとしてアウトプットの質を高めるためにやっていたことはなんですか?
業務も業務外のも含めて、とにかく平野さんにアウトプットを見せまくって、フィードバックをたくさんもらいにいっていました。ひとりでデザインをしていたときは、何がダメなのかさえ気づけなかったので...。バシッとフィードバックをもらって、自分が気づけていないこと、足りないものを探っていました。
また、途中からは、スキルセットや経験値の高いデザイナーがチームにジョインしてくれたこともあって、平野さん以外の人からもFBを貰える機会が増えました。
ー なるほど、とことんフィードバックをもらいまくると。
そうですね。自分で気付いて学んでいくことも大事ですが、やはり周りにフィードバックをもらえる人がいるなら、遠慮せず頼っていったほうがいいと思います。
とはいえ、他のデザイナーも業務があるので、私のフィードバックが負担になりすぎないように、できるだけ事前準備した上で見せるようにしていました。
あとは、感謝はしつこいくらいに伝えることですね。フィードバックが貰えることを当たり前に思わず、最終的なアウトプット、アウトカムまで報告するのは心掛けています。
ー 最後に進藤さんと同じように子育てをしながらこれからのキャリアを悩んでいる方に、是非メッセージをいただきたいです。
メッセージなんて大変恐縮なんですけども...あえて言うとしたら、「悩んだら、相談してみよう」ですね。
私自身、もともと行動しながら考えるタイプではあるんですけど、復職するときは自分のキャリアに悩んで。自分にできるのか、やっていいのか、不安がすごくあったんですけど、周りに背中を押してもらったことがすごく大きかったんです。
もちろん最終的に決めるのは自分。でも、なかなか自信がもてないときってあるじゃないですか。同僚だったり、家族だったり、身近な人から「やってみたら」の一言にすごく背中を押してもらえることもあると思います。
ー たしかに、周りに相談して、背中を押してもらうのも大事ですね。
本当にそう思います。復職した後も、相談できる人とのつながりはとても大事だと思います。ユーザベースには、子育てをしながら働いているワーキングペアレンツのコミュニティ「Career Juggling」というのがあって、気軽に相談できたり、情報交換できるんです。
子育てと仕事の両立に悶々としていたときに、駆け込み寺のように私は参加していて。話を聴いて共感してもらえたり、似たようなことで悩んでいる人がいるんだと思えるだけでも、「よし、また頑張ろう」っていう気持ちにさせてもらっていました。
社内でコミュニティがある方は参加してみるのもひとつですし、なくても同じように子育てと仕事を両立しようと試行錯誤している方はきっとたくさんいらっしゃると思うので、身近なところから共有しあえる人を見つけるといいのではないかなと思います。
取材 / 文 = 野村愛
4月から新社会人となるみなさんに、仕事にとって大切なこと、役立つ体験談などをお届けします。どんなに活躍している人もはじめはみんな新人。新たなスタートラインに立つ時、壁にぶつかったとき、ぜひこれらの記事を参考にしてみてください!
経営者たちの「現在に至るまでの困難=ハードシングス」をテーマにした連載特集。HARD THINGS STORY(リーダーたちの迷いと決断)と題し、経営者たちが経験したさまざまな壁、困難、そして試練に迫ります。
Notionナシでは生きられない!そんなNotionを愛する人々、チームのケースをお届け。