メルカリにて配送サービス全般に加え、「メルカリポスト」「メルカリ教室」など数々の提携・事業開発を担ってきた石川佑さん。2021年10月には新会社「メルロジ」Head of Strategy & BizDevへ。彼が思うBizDevにとって大切なこととは――。
もともと新卒で京セラに営業職として入社した石川さん。じつはメルカリに入社するまで、いわゆるBizDevの経験はない。一体どのようにして、そのキャリアを切り開いてきたのだろう。
「20代を軸に考えると、何かプロフェッショナルな領域を極めるより、いろいろなドメインの知識、経験を重ねてきたと思います。とりあえずやってみるだけやってみる。無鉄砲なところはあったのかも。意識的には“怖いものなし”だった気がします(笑)」
1社目である京セラでは、ソフトバンクグループ向けのスマートフォン端末の提案営業を。そして、2社目となるDeNAではECモールで事業者向け企画営業、さらにモール全体のカテゴリー戦略立案を担う。さらにKDDIへの転籍を経て、ショッピングモール「Wowma!」(現:au PAY マーケット)立ち上げ、編成業務、一部PMも担当した。そして28歳でメルカリにBizDevとして入社をする。
「とりあえず20代は何でもやってみる時期だったな、と思います。当時は考えてもみませんでしが、メルカリに来て思うのは、それら全てが活きてるんですよね。前職時代、まさか自分がサイトリニューアルを任されたり、アプリの編成業務を担当するとは思っていなくて。ただ、そこで学べたデザイナーやエンジニアとのコミュニケーションはすごく役に立っています」
大手企業を相手にした商談、モノをつくり、ネットで売り買いするインターネットビジネスの基本、そしてPM…それらがBizDevとしての礎に。この“キャリアを絞らない”スタンスには、稲盛和夫氏のある言葉が影響している。
「もともとビジネスが好き、稲盛和夫さんが好きで京セラに入ったところもあるのですが、稲盛さんが言う“能力を未来進行形でとらえる”が好きなんですよね。今持っている能力で何ができるか、できないかは考えない。考えるのは、事業にとって何が必要か。能力は努力して追いつけばいい。幸い、この考え方でやってきて、いろいろとチャンスをもらえたので、あまり迷わずにやってこれたのかなと思います」
その一方で、とくに新人時代や転職したての頃は「自分にしか出せないバリュー」について、徹底して意識したと振り返る。
「自分にしか出せないバリューが何か。まずはそこで勝負する。ここは徹底的に意識してきたかもしれません。京セラ時代でいえば、体力とコミュニケーションに多少は自信があったので、誰よりも汗をかく。ひたすらソフトバンクショップをまわって、ショップスタッフと仲良くなり。現場情報を足で稼いで仕入れて、本部の人たちにフィードバックする。そうすることで信頼を得て、成果につなげていきました」
社会人3年目、DeNAへの転職まもない時期でいえば、あまりに優秀なまわりのメンバーに衝撃を受けたと振り返る。
「中途の人はもちろん、新卒の人たちもずば抜けて優秀で。特にインターネットに強いわけですよね。メーカーのいわゆるものづくりから、いきなりインターネットの世界に放り込まれたので衝撃でした。ここでもインターネットの話では勝負できない、と早めに見切りをつけて。ただ、「ものづくり」のことはわかる。はじめはECコンサルだったので、事業者さんと商談するわけですが、他のメンバーが「既にあるものをどうECサイトで売るか」を提案するなか、僕は「そもそも売れるものをどうつくるか」から提案できたんですよね。原材料、原価、工場、製造プロセスなど物流を感覚的に理解していたからこそ「売れるもの」の話ができる。ここが成果につなげられた要因として大きかったと思います」
こうしてDeNAを経て、2017年10月にメルカリにBizDevとして入社した石川さん。そもそもなぜ、BizDevだったのだろう。
「もしかしたらPMとしての選択もあったのかもしれませんが、自分なりの強み、発揮できるバリュー、好きなことを考えた時、DeNAでもやってきた外部との提携、外部リソースをつかって事業をグロースさせるところにすごく興味があって。PMはどちらかというと日々細かくいろいろな指標を見ていくと思うんですけど、関係構築しながら商談をして大きく事業を動かしていきたい。そのほうが性格的にも向いているかなと思いました」
そこからいくつもの事業開発、そして、一部撤退も経験していくことにーー。
「まずメルカリに入社して2ヶ月くらいほどでライブコマース「メルカリチャンネル」における法人チャンネル開放を、篠原孝明(現 ソウゾウ Head of Product)と2人で任されることに。彼がプロダクトを、僕がビジネスを見ていくと」
ここでの経験が、石川さんのBizDevとしてのキャリアを方向づけていく――。
「本当にゼロから事業をつくる経験ができたかなと思います。スキーム…といえば聞こえはいいですが、たとえば、規約の叩きをつくって法務と連携して詰めていったり、審査フローをかためていったり。そもそも参画いただく企業が1社も決まっていなかったので、一社ずつ代表や責任者の方にアポイントをいただき、商談機会をいただくところからやっていきました」
そして、わずか1ヶ月半で11社の参画を取り付け、2017年11月30日、無事に「メルカリチャンネル」法人チャンネル開放を迎えた。
いわば初の事業開発だったわけだが、そこでのおもしろさについてこう語る。
「そもそもメルカリは、取り引きのコミュニケーションが命のプラットフォームだと個人的に思っていて。ライブコマースは、そこが最大限に活かせると考えていましたね。売り方のコツはもちろん、ユーザー側のUI、リアクションをどう見せるか。その両方がやっていてすごく楽しかった。当然、ライブなので、その時、そのタイミングで買わないといけない。理由付けも大事だったので、そのあたりをも徹底的に考え抜いていきました」
同時に「一人称で事業をつくる」という、ある種の覚悟にも向き合っていく。
「メルカリとして、それまでずっとCtoCにこだわってきた世界観があったわけですよね。そこにいきなり企業ロゴが入ってきて、toBの世界観を混ぜてしまっていいのか。心理的なハードルがあったし、まして入社2ヶ月の自分が決裁もなくやっていいものか。じつはすごく不安でした」
それは、大企業でのキャリアをメインに歩んできた石川さんならではの戸惑いもあったのだろう。
「その不安を解消したくて、当時のマネージャーに「自分が何をやろうとしているか、経営陣に見てもらって意思決定をもらいたい」と言ったんですよ。すると、ストレートに「あなたは、たとえば、山田進太郎が「やっていいよ」と言うからやるのか。許可がないとやれないのか」と言われて。「そんなことより、石川さんがどう思うかが大事。自分自身が1番楽しいと思うようにやればいい」と。その言葉でようやく吹っ切れました。それでいいんだ、とことんやってやろう、と」
そして約2年間、メルカリチャンネルは運営され、法人チャンネルの参画企業数も着実に増えていった。ただ、その成長速度は理想に及ばず、チャレンジは幕を閉じることになる。
「2019年7月にメルカリチャンネルはクローズしたのですが、理由はシンプルに流通総額が伸びなかったから。当時、メルカリチャンネルの流通総額はメルカリ全体で見れば、ごく一部でしかないわけです。それが仮にライブコマース市場で日本トップクラスだったとしても、メルカリの成長速度、マーケットプレイスの規模からすると小すぎる。それなら潔く1年半で撤退を決める。これがたぶんメルカリです」
そして、決して綺麗事だけではない、BizDevという仕事において「クローズの責任を持つ」側面もそこにはあった。
「今だからお話できる部分として、機能としても、サービスとしても、まだまだ不十分な中でのクローズだったので悔しい思いは今も忘れていません。さまざまな企業を巻き込むからには、上場企業としても、個人としても、必ず成功させる。成功確度を高めていく動きを僕なりに学んだつもりですし、覚悟を持って走っています」
そして、2021年12月。今でも毎月のように目にするメルカリに関するさまざまな企業、サービスと提携。その実績の表面だけを見れば、優れたアライアンスの戦略に目がいく。ただ、それらは一つひとつの積み重ねがあってこそだと石川さんは語る。
「事業上のメリット、企業の戦略的なところはベースにあります。ただ、お互いの人間性を知っているか。最終的には「この人が言うんだったら仕方ないな」もビジネスには必要だと思っています。お互い“人”なので、誰に協力したいか、必ずありますよね。外から見るとかっこいい戦略、打ち手がスマートに進んでいっているように見えるかもしれませんが、ナカで、もがいてる身からとすると泥臭い、1歩1歩の積み重ねしかないですね」
その後、配送サービス全般からメルカリ教室、メルカリポストなど、オフラインを中心とする事業開発を率いてきた石川さん。たとえば、メルカリ教室でいえば、2019年4月に2拠点からスタートし、5ヶ月後には50拠点、さらに同年12月にはドコモショップ134店舗のスマホ教室でも実施するまでに拡大へ。そのウラ側についても伺えた。
「もともとは六本木ヒルズでスポットの子ども向けイベントから始まっているんですよね。そこで「出品意向があるが、使っていないユーザーさんってじつはものすごく多いのではないか」と。メルカリの事業戦略発表会などでよく「フリマ潜在ユーザー3600万人」という調査データがありますが、じつはこのメルカリ教室立ち上げの時に調べたものでもあります」
確かに、対面型で出品方法を教えるコンテンツには需要があるかもしれない。一方でオフライン事業の実績がなかったメルカリで、どう「やる」を決定したのか。
「まずはシンプルに出品したいのにできない人がいる。だから「あったら便利」を事業化しようと企画をつくり、いくつかの拠点で実証実験をしていきました。そこで定性、定量でポジティブな反応を得ることができました。教室に参加してくれた人はかなりの割合でその後に出品してくれる。さらに継続率もかなり高い。それであれば投資してスケールさせる、事業にとってプラスになる。シンプルな判断がつきました」
こう淡々と笑顔で話す石川さんだが、オフライン事業における課題の大部分はリソースにあり、かなりの投資規模になることが予想されたはずだ。いかにそれらを実行し、スケールさせたのか。
「そもそもメルカリ社内には、オフライン事業をやったことがある人がおらず、知見がありませんでした。どうそのコンテンツと場所を確保するか、運用オペレーションを組むか。それが当たり前にできるプロフェッショナルな集団がドコモショップのスマホ教室でした。組ませていただくことで、実店舗も、スタッフも、補完ができる。ドコモさん側からすると来店のきっかけづくりになる。もし仮に自社で完結できていたら、そもそもドコモさんと組ませていただく発想がなく、スケールしなかったのかもしれない。当然、僕ひとりの力で出来ることは限られますし、社内でも、社外でも、仲間を集められたことで大きくなっていったように思います。早くに自分の言葉で語れるビジョンを明確にし、熱量を持って語りながら巻き込んでいくところはすごく意識したところかも知れません」
そこにも「未来進行形」の考え方が、応用されているのかもしれない。
「勝手に自分たちの頭で「できない」と思わないことは、結構大事なことかもしれません。まずは無邪気に相手に「こんなことできませんかね」と提案してみる。するとレスポンスがあって意外と糸口が見つかり、広がっていくこともあるのかなと思います」
そして、最後に伺えたのが2021年10月にスタートしたメルロジについて。彼らはいったいどのような課題を解決していくのか。
「まずメルカリの世の中に対する影響度が大きくなってきたなかで、自分たち自身で、その流通を支えてきた配送物流というインフラを作り込むことで、さらに変えられる世界が見えてきたというのがあると思います。たとえば、今のスピード配送など物流業界全体として人手不足、労働問題などにつながっていて。誰かの、もしくは何かの「負」によって成り立っているともいえます。サスティナブルではないですし、その構造を変えたい。あとは配送にしてもサービスにしてもいろいろな選択肢が作れて便利にはなっているけど、本当にオフラインを含めてどこまで理解してもらえているのか。たとえば、コンビニから配送する時、レジに並ぶのはコンビニのスタッフさんにも、他のお客様にも迷惑ではないか。そこに心理的ハードルがないか。サービスリテラシーが高く、そういったハードルを越えられる人しか使えないのであれば、メルカリが目指す「スマホ1つで簡単に誰もが出品できる」と乖離があるわけですよね。
メルカリは、そういった「負」を一つひとつ解決しながら作ってきた会社なので、物流に関してもやっていければと思っています。これが「多様な価値をつなぎ、やさしい生活を創る」というミッションを掲げた背景でもあります。そのたくさんの人たちと叶えない世界に向けて、また一歩ずつ前線で泥臭く進んでいければと思います」
取材 / 文 = 白石勝也
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