10XのBizDev 第一号社員である赤木努さん(31)。小売チェーンストアECのプラットフォーム「Stailer/ステイラー」の事業開発を担うキーマンだ。もともと三菱商事で働いていたが、2019年4月から10Xに携わる(当時7名→2022年内定者含め70名)。彼が事業立ち上げで発揮したバリューとは。
Stailer(ステイラー)…食品スーパーやドラッグストア等の小売事業者が自社でシステム開発することなくネットスーパー事業を立ち上げられるプラットフォーム。ネットスーパーのアプリ、Web、店舗側のオペレーションに必要なあらゆる機能が揃う。小売ECにおける購買体験を向上させ、事業成長を支援する。ネットスーパーにおける売上の一部をレベニューシェアによって得ていくビジネスモデルとなる。
10Xにおける「BizDev第一号社員」である赤木努さん(31)。ファーストキャリアは三菱商事、自動車部門にて海外出向、新規事業開発などを経験。29歳で10Xへ。そもそも、なぜ彼は商社からスタートアップへの転職を考えたのだろうか。
「いかに自分が井の中の蛙か。はじめは漠然とした不安から転職について考え始めました。商社は、どんな嵐が来ても沈まない、いわば安定したクルーズ船のようなもの。船内に設備の整ったジムがあって、そこで筋トレをしているイメージでした。ただ、スタートアップは、荒波に漕ぎ出していく小舟。転覆してしまう人もいれば、生き延びる人もいる。その小舟に乗ること自体で鍛えられる。このままクルーズ船で筋トレをしていて、世の中に価値を発揮できる人間になれるのか。きちんと向き合った時、一度しかない人生、後悔しないためにも自ら小舟のパドルを漕ぐ経験がしたかった。その方が自分にとって価値のある時間だろうと思いました」
そのなかでもなぜ、BizDevというキャリア選択だったのだろう。
「まず、BizDevという職種を選んだ理由ですが、ここはシンプルに「やれること」「やりたいこと」が重なったから。商社にいると“自分にはあまり強みがない”と感じたりもして。ジェネラリスト型の人間が多く、何を強みに転職していいかわからない。ただ、ジェネラリストが必要な場所もある。私は、BizDevはある意味ジェネラリストを極めることだと思っていて。ビジネスの世界において何でもやる総合格闘家。世の中に価値を出せる「実業家」という言葉が好きなのですが、事業を作って、大きくできる人間になりたい。その最前線がまさにBizDevでした」
10Xへの入社理由については、小売や食品など“手触り感”がある事業ドメインであったこと。そして、大きなビジョンに対する“裁量”にあったと振り返る。
「携わりはじめた頃は7名、正式に入社した時の10Xは12人の組織だったため、代表の矢本以外でBizDevは誰もおらず、裁量があるだろうと思いました。矢本からは“手段は問わないから、ミッションに対してやるべきことを、逆算して好きにやってほしい”と言ってもらえた。たとえば、じつは「Stailer」の前に「タベクル」という買い物代行に近いサービスをPoC的に立ち上げたことがあって。入社前にインターンに近いカタチで一員としてゼロからサービス立ち上げに携わらせてもらいました。自分たちで倉庫やトラックを借りたり、チラシをポスティングしたり。4ヶ月間のテストで「タベクル」は終了したのですが、ここまでやるのか、やらせてもらえるのかと。やれること、やりたいことが重なった感覚がありましたね」
赤木さんが思う、BizDevとして活躍する人の共通点
・「自分はこうしたい」という意志が強い
・成長意欲が高い
・過去の自分、成果を捨てて常に脱皮できる(居心地の良い環境に止まらない)
・相手の懐に入り込むコミュニケーション能力
・その時必要なスキルセットを会得し「なんとかする」能力(自分もその場その場で必要なスキルを身につけてやってきましたが、その一つ一つは決して自慢できるほどのレベルではありません)
BizDevとしてステップアップのためにはいずれも重要だと思っていますが、とくにこの5つ目の「なんとかする」に尽きる部分はあるかもしれません。抽象的な仕事でもあるので、その時々で能力を身につけてとにかくなんとかする。10XのメンバーはBizDevに限らずですが、そういった動き方をしている気がします。
こうして10Xに入社した赤木さんだが、入社直後には戸惑いもあったと振り返る。
「はじめは自分がどのような価値を発揮したらいいか、発揮できるか、よくわかりませんでした。ソフトウェアのことがわかるわけでも、プロダクトを立ち上げたこともない。まして会社としても実績がほぼない状態でした」
そういったなか、広島県を中心に展開する食品スーパー「フレスタ」との提携が、BizDevとして初の実績となったという。
「2020年12月、フレスタさんとの提携がカタチになり、ようやくBizDevとしてのスタートラインに立てた気がしました。Stailerとしての発表はイトーヨーカドーさんに次ぐ2社目。ですが、フレスタさんは、それ以前の2020年5月くらいにインバウンドでいただいたお話で。当然、プロダクトが世の中に出せていない状態のなか、ソフトウェアエンジニアとも連携し、リリースまでのサイクルを回すことができた。わからないことも全て受け入れ、すごく細かいところまでやれたことが、BizDevとして重要なプロセスだったなと思います」
プロジェクトとしては順調に進捗したものの、そこには0→1の難しさがあったと振り返る。
「そもそも、世の中に出てないプロダクトをどう信頼してもらうか。得体の知れないスタートアップに、背中を預けてもらえるか。当時、自分が出せた唯一のバリューは、月並みですが、担当者と深い信頼関係を構築できたことかなと思います。その方との信頼関係があるから、難しい要望も受け入れてもらえた。なかなか聞きづらい情報も得ることができました。こうして小さく実績を積み上げていくことで、10Xのなかでも、ようやく自分が仲間になれた気がしました。正直、はじめは全くアウトプットが出せず、「この人は何をするために会社に入ってきたんだ?」と思われていたと思うんです。ただ、提携がカタチになったことで「BizDevってこういうことをやる人なんだ」と理解を得られた。BizDevの価値をわかってもらえた最初の仕事だったかなと思います」
具体的に、どのようにしてフレスタ側の担当者との信頼を築いていったのだろう。
「自分で言うのもおこがましいですが、フレスタの担当者さんから直接「すごく信頼しています」と言っていただいたことがあって。その理由は「数字や事業の全体像が頭に入っていて的確に答えられるから」と。まだStailer契約前だったフレスタの既存EC事業について、たとえば「媒体別に1日何件注文があるか」「客単価はいくらか」「1日の会員登録はどれぐらいか」こういった数字をパッと答えていました。正直、自分では特別意識していたわけではなかったのですが、事業へ深くコミットしていたことが伝わったのかもしれません。もうひとつ、社内からの信頼、とくにソフトウェアエンジニアとのコミュニケーションでは「なぜ、それをやらなきゃいけないのか」を納得感が得られるまで丁寧に深ぼって説明することを意識しています。とにかくWhyを徹底して伝える。ここは10Xに来てから身についた部分だと思います」
こうして10XにてBizDevとして実績を築いてきた赤木さん。いわゆるセールスとの違いについて、どう役割の違いを定義しているのだろう。
「10XのBizDevは決してStailerというシステムを販売しません。その理由は、10XはStailerをより多くの企業に導入することを目指しているのではなく、Stailerを導入したパートナー企業のお客様(エンドユーザー)がサービスを享受し、それによってパートナー企業のEC事業が成長することを目指しているからです。これを実現するためには、パートナー企業にStailerを導入するだけでは足りず、その前後でパートナー経営陣とのデジタル戦略に関する方向性のすり合わせや、現場の業務設計、顧客獲得など深くパートナーに入り込み、事業成長に伴走することが求められます。
他方、Stailerはプラットフォームとしての側面も持ち合わせています。いかにサービスや機能を汎用化し、プラットフォームとしての拡張性を担保するか。これによってStailerの事業機会を最大化する取り組みも行なっています。
よく事業機会の最大化を「横」と「縦」で表現するのですが、まず「横」はパートナー企業のEC事業を成長させマーケットを創っていく動き。そして「縦」はパートナー企業の課題を見つけ出すことでStailerの新たな提供価値を探索する動きを指しています。もちろん、導入数を増やすことはStailerの事業成長には必要ですし、その過程で営業的要素が強い業務も発生します。しかし、導入数を追うことは目的にはなりません。これが10Xではセールスではなく「事業開発 = BizDev」の名が付いている所以だと思います」
Stailerの提供開始からまもなく2年が経とうとしているが、その提供価値も変化してきたと赤木さんは語る。
「Stailerのローンチ当初は、すでに自社でネットスーパーを運営している小売事業者に対し、モバイルアプリを提供するサービスからスタートし、UXの改善に一番の価値を感じていただいていました。その後、2021年前半からは、UXに加えてスタッフ向けのアプリや基幹システムなど、ネットスーパーに必要なものを全てご提供していく形へと大きく提供価値を拡張させています。たとえば、店舗スタッフの方が注文を受けた後に商品をピッキングする作業を効率化したり、配送員の方が手元で最短のルートを確認したり、配送場所に関するメモを共有したり、ということも可能になっています」
そのなかでも特に力を割いたのが、商品マスタの部分だという。
「一般的なECでは“選んだ商品が買える” ことは当然だと思いますが、じつは食品スーパーでいえば、正確な在庫データを持つのが非常に難しいんです。生鮮品なので入荷数や産地、賞味期限なども流動的ですし、“キャベツを10個入荷したが、店頭で半分にカットして20個販売していた”ということもあります。このような状況の中、どの時点で商品のデータを取得し、どの時点で更新し、店頭とECの在庫状況をできる限り連動させるのか。こういった考え方が問われる商品マスタは生鮮ECの鍵になるんです。さらに、従来商品マスタ作成の作業は人の手によってExcelで行なわれており、ネットスーパーの運用コストを引き上げていた。商品マスタへのテコ入れは、UXの観点でも事業採算の観点でも非常に重要なんです」
そういった商品マスタの構築は、プロダクト側での仕事のように思えるが、あえてBizDevとして赤木さんが担ってきた理由とは。
「当時、人が少なく自分がやるしかなかったというのはもちろんあります。ただ、私が商品マスタの仕組みづくりを担った一番の理由は、プロダクトの提供価値が、そのまま事業機会の最大化につながるからです。プロダクトのバリュー・プロポジションを深く理解しているからこそ、自分の言葉で「なぜ、Stailerを導入した方がいいのか」説得力を持って伝えられ、提携につながりやすくなります。小売事業者の方とお話する際に「みなさんがこれまでExcelなどで手作業でやっていた商品マスタの生成を、Stailerで自動化できます」と裏側の仕組み含めてお話すると、ほとんどの企業様に興味を持っていただける。パートナー企業の方が不便を感じている点と、自分たちのプロダクトで解消できるポイントを含めてBizDevは事業全体を理解している必要がありますし、必要あればプロダクトについても深く理解すべきだと思います」
そして伺えたのが、今後の展開について。個人、そして組織として、いかにスケールをさせていくのかーー。
「まず個人としては、小売事業者さんの新規開拓に改めて注力していきたいです。というのも、2年ほどStailerの事業開発を進めてきて、プロダクトや事業について当初よりもかなり理解が深まってきた実感があります。入社当初は代表の矢本に頼っている部分もあったのですが、今ならば当時矢本が担っていた役割を担い、“事業機会を最大化する”という本来のBizDevのミッションにより近づけると考えているからです。
また、10X全体としても、ありがたいことに多くの小売事業者の方からの期待を頂いている中、これからは多くのローンチが控えており、市場へと広めていくフェーズです。Stailerはプラットフォームとして多くの機能を備えていますが、パートナーとなる小売事業者、その先にいるお客様、各々の状況を踏まえ、求められる価値とStailerで提供できる価値の合致を研ぎ澄ますことで、パートナー企業の事業の成長を実現する。ここがBizDevの腕の見せ所だと考えています。パートナーが数十社、数百社と増えていってもそれぞれのパートナーにしっかり価値を提供できるスケーラブルな状態を、BizDev組織とプロダクト組織でしっかり創っていく。それが、これからのチャレンジです」
(おわり)
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取材 / 文 = 白石勝也
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