2022.04.20
CA 藤田晋にプレゼンし続けた男。OEN 鈴木雄登の事業創出にかける情熱

CA 藤田晋にプレゼンし続けた男。OEN 鈴木雄登の事業創出にかける情熱

2021年12月に「ももいろクローバーZ」をはじめ、スターダストプラネット所属アイドルの生配信などが楽しめる「スタコミュ」をリリース。新卒1年目から新規事業に挑んできた鈴木雄登さん(27)。サイバーエージェントのエンタメDX支援子会社OENで取締役を務める彼の事業立ち上げに至る奮闘を追った。

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ボツ案は10個以上、半年間仕込んでクローズも。

2020年4月、サイバーエージェントに新卒入社した鈴木さん。内定者時代から新規事業プロジェクトに参加し、代表である藤田晋氏に事業アイデアをプレゼンし続けてきた。

じつは入社前には既に事業化のGoが出ていたアイデアもあった。

「当時はABEMAの周辺領域、オフラインイベントをDXしていくような事業を企画していました。いきなり社外のIPコンテンツと組むのは難しいので、まずは社内調整中心に完結するものを企画して。「大変だと思うけど、やってみれば」とGOが出ていたのですが…」

当時はまだコロナ前。彼が入社する2020年4月には、市況が大きく変化していた。まさに一度目の緊急事態宣言が発令された時期だ。

「そもそも、エンタメ業界全体でオフラインのイベントが開催できなくなってしまって。入社する2日前に、藤田とどうするか決める会議がありました。入社してすぐ始められるくらい準備していたのですが、自分自身でも「やめたほうがいいと思います」と伝えました。なので、配属先も白紙になってしまって。その場で藤田から“久しぶりに社長室内に「新規事業準備室」を作るから、そこで働けば?”と、直下に配属してもらえたのは良かったですね」

こうしてサイバーエージェント 社長室に“事業をつくりたい”と入社した鈴木さん。ただ、決して順風満帆だったわけではない。

「社長室に配属されて2週間くらいは、引き続き自分のアイデアをプレゼンしていました。もともとスポーツ領域に興味があったので、スポーツ関連事業とか。ただ、ちょうど「あした会議*」もあって。コロナでもあったので、どんどん新規事業案が可決されたんですよね。そのうちの一つが、僕のところにおりてきて、任されてもらえることになりました。…ただ、これも半年後にはピボットするんですけどね(笑)」

*あした会議…サイバーエージェント内で半期に一度開催される、最重要経営会議。各執行役員がヘッドになり社内からエース社員を4名前後ずつ選出し、チームを組閣。その時、ないし中長期的な同社の抱える経営課題や、大型の人事、新規事業・新規会社の設立提案などを行う会議体。

リリース直前のピボット。コロナの先を見据えて

入社半年、事業を仕込み続けていたものの、そこには常にもどかしさがあったという。

「正直、気持ち的にはつらかったかもしれないですね。半期に1回、全社総会があるのですが、同期入社のメンバーが新人賞を獲るなど、どんどん活躍していって。横を見れば、みんな現場で成果を出しているけど、自分は何も成果を出していなかったので」

追い打ちをかけるように、半年間仕込んできた事業もピボットすることに。

「チケット制のライブ配信プラットフォームを企画していたのですが、ピボットすることに。藤田にアドバイスをもらったんですよね。モックもできて、あとはリリース許可をもらうだけ。ただ、タイミング的にちょうどコロナが逆に落ち着いていた頃で。もしコロナが落ち着いて、オフラインに戻ったら落ち込むリスクもありました。”それであれば、エンタメD2CとかエンタメDXのように、芸能事務所のビジネスの根幹を変えて、オンライン上でのマネタイズの中心となるような事業にしたほうがいいよ”と」

前例として、LDH(EXILEや三代目 J SOUL BROTHERSなどが所属する芸能プロダクトション)のデジタル化をサイバーエージェントが共同で行い、専用サービス「CL」を立ち上げ、好調でもあった。

「まさにLDHさんとやっていた「CL」に近い方向性を模索することになりました。藤田からさらっと「大きい事務所さんにお願いして組ませてもらってきてよ」と。さすがに新卒1年目に言うことかな、と思いましたけどね(笑)」

そこからわずか1ヶ月でスターダスト プラネット*とパートナー契約が実現。所属アイドルの新しいデジタルエンタメサービス「スタコミュ」リリースへとつながっていく。

*スターダスト プラネット…40周年を迎えたスターダストプロモーション初のアイドルセクション

「本当に怒涛の1ヶ月でした。芸能界に明るい役員、事業責任者に頭をさげて、駆けずり回って協力をお願いして。その時、熱心にサポートしてくれたのが、OENの代表である藤井でした。一緒にスターダストプロモーションさんに提案に行かせてもらって、商談を進めることができました」

半年間仕込んできた事業からのピボット。そこにネガティブな気持ちはなかったのだろうか。

「個人としてそれは全くないですね。僕は事業さえ成功すればいいと思っていたので、かけてきた時間が無駄になるといった感覚もありませんでした。ただ、どう社内のみんなに伝えればいいか、悩みました。そこは、開発の責任者である技術担当役員の長瀬が、社内のみんなを集めて検討するプロセスを入れてくれた。納得感あるように丁寧にコミュニケーションを取ってくれて、すごくありがたかったですね」

僕は社長失格だった

2020年9月に立ち上がった「CyberArrow」にて代表取締役を務めてきた鈴木さん。2021年10月にOENと合併。役割を取締役に変え、同年12月に「スタコミュ」をリリースさせた。新卒1年目から2年目にかけ、年上しかいない環境で社長を務めてきた。その経験を振り返る。

「本当にたくさんの人に迷惑をかけたと思います。社員はみんな僕より年上。「藤田がこう言っているから、やるしかない」と、結果をおろしていくだけ。本当に自転車操業、ギリギリで戦っていました。ただ、それじゃダメだとやり方を変えるようになって。もちろん大事な意思決定はすべきですが、経験が少ないので、みんなを引っ張るタイプのリーダーに自分はなれない。それよりもコーディネーター側に回ろうと。みんなの意見を引き出し、相談したり、検討するプロセスを入れたりしていく。どちらかといえば、PMっぽいやり方に変えたことで少しはよくなったのかなと思います」

ももいろクローバーZをはじめとしたスターダスト プラネット所属アイドルの新しいデジタルエンターテインメントサービス「スタコミュ」。ライブコンサートやオンラインファンミーティングなどのコンテンツ配信のほか、ライブ配信機能、コミュニケーション機能、推し&フォロー機能といった専用アプリならではの豊富な機能を用意。「アプリを立ち上げるといわゆる“推し”のアイドルがファーストビューに出てくるのもこだわり。距離が近く、アイドルたちの素の表情だったり、つながっている感であったり、推し活が促進されるとポジティブな声をもらっています。事務所としても大きくアップデートしていきたいと意見をもらっています」と鈴木さん。

事業推進の鍵は、綿密なコミュニケーション

鈴木さんたちの提案は、どういった部分が評価され、パートナー契約が決まったのだろうか。

「まずスターダストさんとしても今後を見据えた時、オンラインでファンが楽しめるコンテンツ、そしてデジタルの事業を模索していたタイミングでした。サイバーエージェント全体としてもABEMA、デジタルマーケティング、プロモーション、そして開発やクリエイティブに強みがある。サービスクオリティの高さも評価いただけました。じつはオンラインでアイドルグループの生配信が見れるような、サービスの提案は他社からもあったそうで。参入タイミングを逃さなかったのも良かった。そう考えると改めて藤田の助言はありがたかったです」

まだまだスタートラインに立ったばかり、と前置きをしながらも、この事業立ち上げにおいて鍵となった部分も伺えた。

「とくにエンタメDXにおいて、業界特有の構造や先方の企業構造を理解した丁寧なコミュニケーションはすごく重要だと感じました。たとえば、複数のアイドルグループが所属する事務所でいえば、マネージャーさんによって方針、考え方、戦略が違ったりもする。それらを踏まえてコミュニケーションの取り方、メリットの作り方や伝え方などを考えて動いていく必要があります」

さらに企業間における「カルチャーの違い」を埋めることも大切だったという。

「当然、事務所関係者もファンの皆さんも多いことからより良いものにするために、サービスに対する多くの要望があるわけですよね。ただ、言われるがままにすべてを開発していくことは非効率です。先ほどの話とも重なりますが、僕が「言われたからやるしかない」と社内におろし、工数が5倍に膨れ上がってしまったことも。それもやり方を変え、エンジニア第一主義の開発でプロジェクトを進める方針にシフトしていきました。社内のうまくいっている事例をスターダストさん側にも共有し、なぜ、エンジニアの意見を尊重すべきか、粘り強く伝えていきました。逆に社内にはスターダストさんとのやり取りをオープンにしたり、彼らの歴史や活動をSlackで共有したり、メンバーにアイドル業界についての勉強会を開催してもらったり、、配信現場やライブにもエンジニアと足を運んだりして。このようにして少しずつですが、互いの理解を深め、進めやすくなってきたと思います」

「若いうちから事業をつくる経験がしたくて。もうサイバーエージェント一択でした」と鈴木さん。もともとは日本のプロスポーツレベルを向上したいと、学生時代にはスポーツ科学領域を専攻。大学院でも研究に没頭。「次第にスポーツに関わるにしても、もっと見る人を増やしたい、全体を盛り上げたいとビジネス寄りのことがやりたいと気づいて。まずは一人の事業家として戦闘力をあげたい、いろんな能力をつけてスポーツ界に貢献したいと考え方が切り替わりました」

日本のエンタメを世界へ。閉塞感を打破していく

単なるデジタル施策ではなく「エンタメDX」を掲げるOEN。業界全体の動向について、どのように見ているのだろうか。

「日本でも世界に届ける前提でコンテンツが作られていく。その流れは加速すると思っています。よく言われますが、少子化もあり、日本の市場はどんどん小さくなっていて。ですが、世界で見れば75億の人口のうち1/3は若い世代。日本だと1800万人しかいないZ世代も、インドネシアなら7500万人もいる。そういった購買欲のある若い層に向けたエンタメにチャンスがあると思います。世界でいえば、BTSの所属事務所「HYBE」が運営する「Weverse」が有名ですよね。世界に3000万人ものユーザーがいるそうです」

芸能事務所やアーティストが独自のプラットフォームを持つことが当たり前になっていくなか、OENとしてどういった戦略をとるのか。

「OENとしては「スタコミュ」のようなサービスをいくつも作っていけるような基盤を構築しています。コアファンの熱狂を溜める、トータルパッケージのエコシステムをつくっていく。オンラインで何かやるなら、僕らとやるしかない。そんな状態にしたいですね。その先にある思いとしては、日本のコンテンツを世界で流行らせたい。ひとつのライブをオンライン配信しても、それはデジタル施策でしかありません。事業構造そのものをDXし、世界で戦えるものにしていけるか。僕らが携わることでエンターテイメント産業が発展し、日本の閉塞感を打破したいですね」

そして最後に伺えたのが、鈴木さん自身の仕事への考え方について。新規事業を担うポジションにおいて、彼が大切にしてきたこととは――。

「新卒で入社してから新規事業しかやってきていないので偉そうなことは言えないですが、先輩が残してくれた「勝ちパターン」や「型」がまだない領域だったんですよね。なので、もうその場その場で成果を出すために何でもやってきたと思います。そのなかでtoBも、toCも、PM的な動きも3年目で一通りやりました。週3日くらいで役員と毎週ミーティングしているのですが、寝ずに考えたアイデアも冒頭1分で瞬殺されたり(笑)。むしろ、そういう経験ばかりだったので「折れない」は強みかも。ただ、サイバーエージェント全社への貢献でいえば、全然できていない。事業をつくれる人って、自分が間に立って、価値をつなぎ合わせ、世の中を良くしていく人。そういう稀有なビジネスパーソンになっていけたらいいなと思います」


取材 / 文 = 白石勝也


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