内閣府を経て、CAMPFIREに入社した高橋あゆみさん。キュレーターとしてプロジェクトオーナーに伴走し、チームのマネジメントも担う。入社当初は「テンプレ化した仕事をして、ユーザーと向き合えてなかった」という高橋さん。彼女が目の前のユーザーに向き合うまでの道のりとは?
ー CS失敗談を伺う前に、これまでのキャリアについて伺わせてください。高橋さんは新卒で内閣府に入府したと伺いました。なぜ、キャリアチェンジされたのでしょうか?
大学時代の頃に遡るのですが、海外の児童養護施設に暮らす子どもたちを支援するNPOに参画した経験が、いま振り返ると現在の仕事につながる原点だったなと思います。
子どもたちの通学費用や施設建設費などを集める寄付活動をしていたのですが、その中でさまざまな葛藤があって...。寄付をお願いすることに対して、どこか後ろめたさを感じてしまったり。周りの友人にも「金銭のための友達って思われたらどうしよう」と気になってしまったり。社会を良くする活動をしているのに、お金を集めることはこんなにもハードルの高いことなんだ...と痛感しました。
当時はまだクラウドファンディングという仕組みがあることを知らなくて、まずは「制度や仕組みづくりを通じて寄付文化を根付かせたい」と思い、内閣府に入りました。経済分析や国際会議に関する業務など、幅広い業務に携わりましたが、キャリアを重ねていくなかで、自分の中で少しずつ「もっと人に近い場所で仕事がしたい」という気持ちが大きくなっていったんです。
寄付文化を根付かせる方法にはいろいろあるけれど、顔の見える距離感で、その人の夢ややりたいことの実現に向けて伴走したい。制度ではなくサービスという方法が自分には合っているのかもしれない。そう思いはじめたタイミングで、ちょうどクラウドファンディングを知りました。いくつかのプラットフォームを調べていくなかで、CAMPFIREのミッションに共感し、ご縁あって入社をしました。
ー CAMPFIREに入社されてからは、どんなお仕事を?
「CAMPFIRE」では、個人から自治体や企業まで、幅広いユーザーにプロジェクトを掲載いただいているのですが、私の所属する「カスタマーサクセスチーム」では、とくに個人の方の資金調達を多くサポートしています。
ミッションは「クラウドファンディングという“山の裾野”を広げる」こと。わかりやすく言えば、1000万円のプロジェクト1つよりも、10万円のプロジェクトを100個掲載いただくことを目指していく。老若男女あらゆる方々、はじめてクラウドファンディングをする方も含めて、挑戦のハードルを少しでも下げて、「クラウドファンディングをやってよかった」「CAMPFIREと出会えてよかった」と思っていただけることを大切にしています。
ー 実際に入社されてから、最初はどんなことに苦労しましたか?
もともと行政で仕事をしていたからか、入社当初は誰がやっても質の変わらない画一的な方法が良いと思い込んでいました。
なので、最初は創意工夫をするという発想が頭の中になくて...。メール文面ひとつとっても、文章に自分なりの表現を加えることもなく、すべてテンプレ化。連絡を取るタイミングもほとんど一緒でしたね。たとえ自分が休んで他の人が担当することになっても、同じ対応ができるような仕事の進め方が良いのではと考えていたんです。
ただ、いま当時のやり方を振り返ると、効率良く仕事を進めることに目がいって、相手のことが見えていなかったなと思います。どんな気持ちでクラウドファンディングをやろうと思ってくださったのか。クラウドファンディングの先の未来にどんなことを実現したいのか。プロジェクトの起案者(以下プロジェクトオーナー)への想像力が足りていませんでした。
ー このままではダメだ...!と気づくことができたのは、なにかきっかけが?
先輩たちとプロジェクトオーナーさんとの打ち合わせに同席させてもらったことは、とても大きかったですね。コミュニケーションの仕方も、打ち合わせの頻度も、人によって全く違う。進め方に決まりはなくて、とても自由だったんです。
プロジェクトオーナーさんの表情がパッと明るくなったり、打ち合わせを終えたときやる気に満ちた表情になっている。「正しく無難なやり方」は捨てて、もっと自由に柔軟にやっていこうと、そのとき気づかされました。
それからは、プロジェクトオーナーさんと実際にやりとりをさせていただく前に、できるだけその方の情報を集めて、ご本人を目の前にして会話するシーンを想像するようになりました。そうしたら当然テンプレ化はできなくて…。もしかしたら文章には現れていない、その人の思いや実現したいことがあるのではないか。問い合わせいただいたことばの端々から思いを巡らせて、相手をイメージすることに努めています。
ー さまざまなプロジェクトオーナーさんと向き合う上で、現在はどんなことを心がけていますか?
まず、ひとりひとりと向き合い、目の前の人のサクセスに魂を注ぎ切る姿勢はなによりも大切だと考えています。
とはいえ、CAMPFIREのユーザー数はうれしいことに年々増えています。すべての方に付きっきりになってサポートするのはどうしても難しいことです。いくら対応が丁寧でも次の方をお待たせするのは本意ではありません。
そこで、目の前の方だけではなく、次にサポートを待っている方々、ひいてはまだ見ぬ未来のプロジェクトオーナーの方にも常に思いを馳せています。一人の方のサクセス体験を、次に活かしていくためです。
つまりそれは、対応のテンプレ化ではなく、対応の最大公約数を見つけて普遍化することだと思います。プロジェクトオーナー共通の悩みや不安、あるいは歓びなどを見つけて、お待たせしなくてもよりよい体験をしていただけるように、顧客対応の仕組みであったり、プロダクトやマーケティング施策であったり、サービスそのものに還元していくように心がけています。
特に後者については、サクセスを願っているのは我々のチームだけではありません。ユーザーに一番近いチームとして、その経験をできるだけ他部署へも共有し、未来により多くのサクセスを生み出すサービスを作りたい。だからこそ、目の前のひとに向き合う責任がさらに強くなるんです。
ー 現在、高橋さんはカスタマーサクセスチームのマネージャーをされていますが、メンバーに日々伝えていること、チーム内で共有していることはありますか?
チームの中でよく話すのは「クラウドファンディングの目標金額が達成できなかったとしても、必ずしも失敗じゃない」ということです。
一般的にクラウドファンディングの成功は「目標金額を100%達成した状態」と捉えられています。でも、達成しなかったとしても、「サクセス」のあり方は人それぞれのカタチがあると考えています。
そう思うようになったのは、あるプロジェクトがきっかけでした。プロジェクトオーナーは当時大学生で、「海外を旅して、本をつくりたい」というプロジェクト。しかし、結果は99%達成。わずかに目標金額に届かずという、とても惜しい結果に終わりました。
あと1%。当時の私は「達成させてあげたかったな...」と申し訳ない気持ちでいっぱいでしたが、その大学生が「1%足りなかったのは、自分の伸びしろだと捉えています」とおっしゃったんですね。
達成できなかったことにも理由がある。プロジェクトを通じて、応援してくれる支援者と出会い、やりとりも生まれた。クラウドファンディングにチャレンジして、何かしらの学びや発見がその方の中であったとしたら、それは「成功体験」とも捉えられるのだと気づかされました。
ー なるほど、サクセスは、目標金額の達成だけじゃないと。
私自身、最初は「サクセス=目標金額の達成」と捉えてしまっていて。一人ひとりのサクセスのカタチがあることを全然わかっていませんでした。
これはいまも後悔として心に残っていることなのですが...とあるプロジェクトで、最終日になっても目標金額に全く届いておらず、担当者である私自身も「難しいだろうな...」と諦めてしまって。いま思うと、なにかひと言でも声をかけられていたら、プロジェクトオーナーさんが達成に向けてなにかアクションを起こせていたかもしれない。そのアクションそのものが、サクセスの体験になりえたかもしれないんです。
あとは、「リピートしてくださること」もサクセスのひとつのカタチだと捉えています。過去にCAMPFIREを通じてクラウドファンディングにチャレンジしてくださった方が、また新たなプロジェクトを立ち上げてくださる。また「CAMPFIREでやりたい」と思ってくれたのは、過去の体験が良いものだったからだと思うんですね。
自分の夢ややりたいことを言葉で発信し、お金を集める。その一連のアクションって、ものすごく勇気の要るコトだと思うんです。その勇気を後押しするのが、自分や誰かの成功体験。「慣れ」とも言い換えられるかもしれません。だから、リピートの積み重ねを通じて、誰もがクラウドファンディングを当たり前に挑戦できる未来をつくっていきたいです。
ー最後に、いまカスタマーサクセスとして奮闘している方に向けて、ぜひメッセージをいただけるとうれしいです。
私自身、カスタマーサクセスについて日々模索中なのですが、「サービスはユーザーによって育てられている」という感覚を持つことでしょうか。
以前、あるプロジェクトオーナーさんが、こんな言葉をかけてくださったんです。「私一人では消えそうなマッチの火だった夢が、みなさんにくべていただいた薪のおかげで、今は明々と燃えている気がします」と。
まさにCAMPFIREの描くビジョンを、ユーザーさんが自分の言葉で表現してくださったことに、とても感動しました。そして同時に、私たちの描くビジョンやサービスは、「私たちのもの」ではなくて、ユーザーさんによって育てられていくものなんだと感じました。
「サクセス」の定義、プロジェクトの良し悪し、CAMPFIREというサービスの価値をユーザーに押し付けるのではなく、ユーザーさんが「CAMPIFREと出会えてよかった」と自然と感じてもらえるように、クラウドファンディングの土壌を整えていきたいです。
取材 / 文 = 野村愛
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