「よし、お見合い相手をCAMPFIREで探そう!」お金も集めながら、恋人も探す。当時26歳、彼女は前代未聞のプロジェクトを成功させた。恋人も見つかり、めでたし…では終わらない。なんと家入一真さんから「一緒に働かないか」と打診が! 手探りでキャリアを、そして人生を切り開いた彼女の4年間に迫る。
「母の教えに『迷ったら厳しい道を選べ』という言葉があるんです」
これまでの人生を振り返り、彼女はそう語った。
彼女の名前は、たけべともこ。クラウドファンディングサイトを手がけるCAMPFIREの広報だ。
2016年に入社したたけべさん。経験ゼロだった彼女は、手探りで広報としての働き方を確立。試行錯誤しながらCAMPFIRE公式Twitterアカウントの「中の人」として2万人近いフォロワーを獲得してきた。
そして、2019年、春。
たけべさんがCAMPFIREを去ることに。なぜCAMPFIREを去る?そしてどこへ?
家入一真さんも信頼を寄せる彼女の、人生の分岐路に立ち会ったーー。
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CAMPFIREを卒業します
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広報として怒涛の4年間を過ごしましたが、「20代のうちにもう一度挑戦したい」と思い転職を決意。大好きな会社 CAMPFIREで、私の業務を引き継いでくれる方を大募集します
▼サービスのファンを増やす、Twitterの2代目 ナカノヒト 募集!https://t.co/rf4zH5rf4t— たけべ ともこ178cm (@TA_KE_BE) 2019年3月1日
ーたけべさんといえば、CAMPFIREでの「お見合い相手募集プロジェクト」がバズりましたよね。こんな使い方をする人がいるんだ!と驚いたことを覚えています。一見ネタっぽいけど本気……なぜクラウドファンディングでお見合い相手を募ろうと?
いろいろなクラウドファンディングのプロジェクトをチェックしていたら、お金だけじゃなくて人や熱狂が集まっていて「おもしろい!」って思ったんですよね。
“人集め“にクラウドファンディングを活用できないか、そう思って企画しました。
あとは単純に出会いがなかったから。合コンに行ってもダメ、マッチングアプリを使ってもダメ……全然恋愛ができていなかったことも理由のひとつでした。
-プロジェクトで気をつけたことは?
真面目にやること。あとはシンプルに「自分はこういう人間で、こういう方と出会いたい」というメッセージにしたこと。「本気」が伝わるように、地道に取り組みましたね。
もともとはリターンも『お見合い参加権』という表記だったのですが、友だちに「いやいや、たけべは他人に権利を与えられるほどの人間なのか」と言われて。『公開お見合いイベント参加券』という表記に変更したり。その友人のアドバイスがすごく的確だったんです。
はじめは、ページも私の顔写真を羅列しようとしていたのですが、「勘違いオンナが調子乗っているプロジェクトにしか見えない」と辛辣な意見がもらえた。速攻で変えましたね(笑)。
そのあと、プロジェクトが成功してハッとしたこともあって。
いたずらを避けたかったので安くない金額を設定している。当たり前ですが、みなさん全員本気なんですよね。ただ、11人いたら確実に10人は断らなければいけない。“本気”に応えることの責任の重さで、夜眠れなくなりました。私には「お見合いをしない」という選択肢がない。
今のパートナーと出会えたことに感謝しているけど、反省もしました。あの頃にタイムスリップできたら絶対にやらないです。軽率に人の気持ちや人生を左右するプロジェクトをやってはいけない。こういう話をすると「ほら見たことか!」って言う人がいると思うんですが、実際に経験しないとわからないんですよね…。
ーそこから、どういった経緯でCAMPFIREの広報に?広報経験もゼロだったとか。
そうですね、もともと広報でもなんでもなく、オウンドメディアのライター、ただのアルバイターだったんです。
プロジェクトが成功した翌々日ぐらいに、一度も会ったことのない家入一真からメッセージが届いたんです。「よかったら美味しいコーヒーでも飲みませんか?」って。
以前、CAMPFIREでアルバイトをしていたこともあったのですが、当時は代表を外れていた。だから、私は面識がなかったんです。ただ、もちろん名前は知っているし、コーヒーもおごってくれるだろうし、なんなら「家入砲」を利用してやろうぐらいの気持ちで会いに行きました。
コーヒーを飲みながら30分ぐらい話して「じゃあいつから来てくれますか?」って。
ー急展開……!
パートナーを見つけるためのお見合い相手募集プロジェクトだったはずが、パートナーだけではなく自分の行動を評価してくれる人も見つかった(笑)
ー何がたけべさんに「家入さんとCAMPFIREで働こう」と思わせたんでしょう?
自分で考察するのはちょっと照れくさいですが、たぶん、家入は私のコンプレックスに目を向けてくれていて。
私、身長コンプレックスなんです。すごく背が高い。だから、あえてクラウドファンディングのページにも身長を明記して。あらかじめ身長を知った状態で応募してもらえば「背が高いからイヤ」とはならないですよね。
「自分のコンプレックスに打ち勝つために挑戦したことがすごい」と言われて、ちゃんと見てくれていたことが嬉しかったんです。
もうひとつ、忘れられない言葉があって。「CAMPFIRE共同創業者の石田がアルバイトとして採用したことのある、たけべさんなら絶対に大丈夫」と言って私の細かい経歴は気にしなかった。「こういう社長の下で働いてみたい」という気持ちにさせられました。
ー不安はなかったんですか?
もちろんありました。むしろ不安しかなかったです。
本当はクラウドファンディングのプロジェクトをサポートする「キュレーター」として入社する予定が、直前で家入から「広報がいないのでお願いします」と言われて……あまりNOとは言えないタイプなので「やります」とは言いました。でも、広報の先輩もいないし、半年ぐらいはずっと辞めたかったです(笑)。
ーそれでも頑張れたのはなぜですか?普通なら逃げ出したくなりそう……。
母の教えに「2つの選択肢があったら厳しい道を選べ」という言葉があるんです。当然ですが、広報を続ける方がツラかったし、やはり家入をアッと驚かせたかったので、しがみついていました。すると、少しずつ潮目が変わってきて、PRの経験者が入社したんです。
だから彼女に広報の業務内容は教えてもらいつつ、「彼女にはメディアアライアンス、私は家入のスケジュール管理やSNS運用」と役割分担をしながら二輪で走れるようになっていきました。広報の仕事がおもしろくなったのは、その頃からですね。
ーSNS運用の話題も出ましたが、公式Twitterアカウントはずっとたけべさんが?家入さんをいじるのがすごくおもしろいです(笑)
ありがとうございます。ただ、当たり前ですが、最初から「家入いじり」をしていたわけではないんです。
入社したての頃はコミュニケーションの取り方がよくわからなくて。家入が遅刻したり、締め切りを守れなかったりするとただただ悲しいだけ。「自分の力不足」と、ずっとひとりでモヤモヤしていて。
転機となったのは、家入のとあるツイートです。
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うちの広報がカジュアルに僕に30分前の嘘の時間を伝えるようになった、家入ハックよく出来てる— 家入一真 (@hbkr) 2016年11月16日
このツイートをみたときに「これはネタになるかも?」と思って、家入をいじり始めました。
ーいくら信頼関係があるとはいえ、社長をいじるってこわくないですか?
ちょっとずつ攻めていきました。「あ、ここまではイケるな」って(笑)。トライアンドエラーを繰り返すような感覚。今まで、一度も家入に叱られることもなかったし、「このツイート消して」と言われることもなくて。
たぶん、家入にとってTwitterが一番のコミュニケーションツールなんですよね。電話も出ないし、メッセージもなかなか返信がないので(笑)。
ーそういう意味だと相手にあわせたコミュニケーションのとり方ができていた、と。もうひとつ家入さんをとりあげながらも、公式SNSとして成り立たせていく。その上で工夫をされたことは?
大事にしていたのは「人格を否定しないこと」「家入への愛を忘れないこと」「内輪ネタにしすぎないこと」だと思います。
もう少しテクニック的な話にすると、家入のアカウントには20万人以上のフォロワーがいるので、彼がリツイートしたくなることも考えていました。
その結果、CAMPFIREの公式アカウントのフォロワー数が2万人ぐらい増えたんですが、数字以上に嬉しかったのが、採用につながったこと。
「社員が代表をいじる」って仲が良くなければ成立しないコミュニケーション。採用担当から「Twitterを見て、社風に惹かれた人が応募してくれた」みたいな話を聞いたときはすごく嬉しかったですね。
ーせっかく家入さんとの関係性も強くなって「これから」というときだと思うのですが、なぜ退職を?
家入には怒られるかもしれないけど、自分のなかで一区切りがついたからですね。
先日日経産業新聞の一面に「家入一門」という相関図を載せていただいたんです。実は、家入には内緒で日経産業新聞の記者さんとやり取りして、「一門」の方たちをおつなぎしていたので、彼にしてみたら「朝起きたらいきなり新聞の一面に載っている」という状況だったんです。
手前味噌ですが、世の中へのインパクトもあったし、家入にとっても嬉しかったと思うんですよね。これは私じゃなきゃできない仕事だと思えた。同時にすごい達成感もあった。そこから、そろそろ次のステージを目指す時期なのかなって。
ー家入さんには何と?
いや、まだ直接話していないんですよ(笑)。
でも、一度「転職を考えている」という相談をしたら、「僕は引き止めないことにしている。『ここにいたい』と思ってもらえなかったのは経営者の敗北だから」と言ってくれて……それどころか「次に行きたい会社があるなら紹介するよ」と。こんなこと言ってくれる代表はなかなかいませんよね。やっぱり私はやさしい家入が好き。すごく居心地もいい。でも、だからこそ、そろそろ少し離れた外から見ていたい。新しい挑戦をしてみたいと思うようになりました。
ー次のステージはどちらなのでしょう?
クラウド労務ソフトのSmartHRです。CAMPFIREとはタイプの異なる会社だけど、今まで広報として培ってきたものを活かしたいと思って転職を決めました。
惹かれたポイントは、情報をオープンにしていること。会社情報も公開していますし、内定をいただいたときも「なぜ内定を出すのか」を全部説明してくれた。「ここが魅力的だから一緒に働こう」と言われるのはやっぱり嬉しいですよ。今から「代表の宮田さんをどうやっていじろうかな」と企んでいます(笑)。
最後に家入一真さんより、CAMPFIREを卒業するたけべさんに向けてメッセージをいただきました。
このメッセージはCAREER HACKさんにご協力いただいて、サプライズで書いています。
たけべさん、4年間、あっという間に駆け抜けましたね。仲間が数人のところから100人を超えるところまで、とにかく激動の数年間だったと思います。辛いことや、不満・不安もたくさんあったことだと思います。こんな僕について来てくれて、本当にありがとう。
思えば、僕の「ひとりぼっちキャラ」をいじって引き出してくれたのはたけべさんでしたね。直接伝えたことは無いですが、正直、このいじりに、僕は救われたんです。愛のあるいじりは、時として人を救う。本当の意味での「ユーモア」が、そこにはありました。
僕は、出会いも、そして別れも、短期的には考えていません。別れを短期で考えるから、執着して引きとめてしまったり、束縛してしまったりする。一生単位で考えれば、再会することだって、いち友人として遊ぶことだって、そして、もしかしたらまた一緒に働くことだって、あり得ますよね(よね?)
僕は、辞める仲間を、どんな理由であれ絶対に引きとめないことにしています。辞める、という決意、そしてそれを伝え、行動に移すことは、とても勇気のいることだから。引き止めることは、その勇気ある決断を、ないがしろにする行為だと思っているから。そして、また絶対どこかで再会することを信じているから。
僕が良く言う"居場所" の定義は、いつだって、誰にだって、「おかえり」と言ってあげられる場所のことです。辛い時に「この会社で働いていて良かった」みんなにそう思ってもらえる"居場所"を作ることが、経営者の役割だと信じています。またいつだって遊びに来てください。
その時はみんなで言うよ、「おかえり!」と。
家入より
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