過去にはゲーム実況動画で「スプリングまお」として活動し、多くのゲームファンを持つ小川まさみさん(Mirrativ/ミラティブ共同創業者)。Twitterフォロワー数は37万人。今でこそ多くのファンを持つ彼女だが、「もともとは普通の会社員だった」と語る。そこにあったのは「どんな無茶ぶりも全て打ち返す」という仕事のスタンスだった。
略歴
2005年 … 新卒で携帯月額サイトを運営する寺島情報企画へに入社
2011年 … AppBankに転職。アプリディレクターとしてツール系アプリを複数リリース
2013年 … ゲーム攻略アプリディレクターとして働きながら、人気YouTuber『マックスむらい』の動画出演
2015年 … AppBank完全子会社の社長就任。アプリ制作業務と動画出演業務も兼務
2016年 … DeNAに転職
現在 … ミラティブの共同創業者でMirrativのコミュニティマネージャー
「もともとは普通の会社員だった」そう語ってくれた小川まさみさん。彼女を有名にしたのが、マックスむらいさんとのYouTube出演。2013年当時、ゲーム攻略アプリ開発のディレクターを務めていた彼女にとってゲーム実況動画は未知の世界。苦悩もあったという。
ある日突然、マックスむらいさんから「ゲームの生放送に出演してもらえないかな」と声をかけられて。普通の会社員だったので最初は驚きましたね。でも、できる、できないで判断しちゃダメだと思って。来たボールは全部打ち返す。二つ返事で「やります」と伝えました。当時はゲーム攻略アプリのディレクションをしていて。使ってくれる方のためのコンテンツなら、という思いもありました。
…ただ、当然、初めてのことだらけ。もう本当に失敗しまくりました。生放送では、自分がプレイすることもありましたが、緊張して、ゲーム操作の手が全く動かない。震えてしまう。それでもなんとか番組を成立させないといけないから、しゃべりまくる。その場、その場、がむしゃらに対応していました。
今だから言えることですけど…致命的なのは当時、全くゲームについて知らなかった。ドラクエもファイナルファンタジーも通ってきていないド素人。だから、HP回復とか、攻撃するとか概念がよくわかっていませんでした。
敵のモンスターが出てきても、何をすればいいのかわからない。防御力が高い敵なら「毒で防御力をさげてから倒す」などセオリーも知らない。パズドラでもそうですよね。敵の防御力をさげてからパズルしないと倒せないのですが、過去のゲームの文脈がない私は「…え?なんで?」と全く意味がわからなかったですね。
「ゲームが得意じゃない」「緊張する」それでも続けられたのは、「期待に応えたい」という強い信念があったからだという。
今、振り返っても、あの頃はすごくしんどくて。マルチプレイで足をひっぱりまくる。協力していよいよフィニッシュ!という時に、私があっさり死ぬわけですよ。「なにやってるんだ」と周りに思われるんじゃないか。やさしくフォローしてもらっても、申し訳ない気持ちしか無い。下手なプレイに視聴者はウンザリしているんじゃないか。心の中では「こんな配信…楽しくないですよね、ごめんなさい…」と自己嫌悪ばかりでした。
それでも「やめる」という選択肢はなくて。任されたからには絶対に逃げたくなかったし、外されたくなかった。だから仕事も休まないし、生放送にも出つづける。父親が入院したのに休まなかったみたいなことも…いま考えると本当にひどいですね(笑)
もちろん誰もがムリしてやることではないですが、私はやり抜きたかったんですよね。
全然ダメな私でも、視聴者をはじめ、期待してくれる人がいた。期待に応えたい。その一心でした。何がおもしろい配信なのか、周りのヒーローたちをどう見せていくか。ヘタなりにどうすれば上達するか。当時一緒に出ていたメンバーを観察したり、どんどん質問したり、できるだけすぐ実践していく。プレイヤーとしての自分ではなくて、ヒーローを輝かせるサブとしての自分を見つけていきました。そうしているうちに意見を聞かれるようになったり、壁打ち相手になったり。少しずつ出演者としての楽しさがわかってきたし、たまたまだったのですが「放り込まれて、ラッキーだったな」って思えるようになっていきました。
苦手だったゲームも「誰かとつながるためのツール」。そう気づいてから、ゲームや動画配信を楽しめるようになっていったそうだ。
やっていくうちに、ゲームって「コミュニティ」なんだと気づいたんですよね。何年やってもなかなかゲームは上手くなりませんでした。でも、一緒にゲームを楽しめる友達がどんどん増えていった。教え合う関係ができると、自分や相手の成長が感じられて。自分のレベルをあげることだけが、ゲームの楽しみじゃないと気づかせてもらいました。
ゲームのコミュニティがどうやって大きくなっていくのか、どう流行っていくのか。ゲームが得意じゃなかったからこそ、素直に学習できたんだと思います。私のような体験をより多くの人がすれば、ゲームに触れた経験が少なく、得意じゃない人でも、誰かとつながることでゲームを楽しめると思うんです。そういうことを考えるようになってから、ゲームの動画配信もすごく楽しくなっていきました。
ただ、YouTubeに限らずTwitterもそうですけど、フォロワーが増えると一定数の批判や誹謗中傷もあったりして。いわゆるアンチという人たち。特に誹謗中傷をしてくる人は遊びのつもりだったかもしれないですが、当時はめちゃくちゃ悩まされました。
そこから少しずつ生放送で、挑戦してみたことがあるんです。ネガティブなコメントにこそ、リアルタイムでちゃんと向き合って返事をする。そうすると「まおさん、いい人やん」みたいに態度が明らかにかわったりも。
オフラインで会う機会も増やすなど、ユーザーさんと接点を持つようにしていきました。ユーザーさんのリアクションこそが自分の活力になる。「ああ、今週もこの生放送の時間が来ましたか。皆さんと対談できてうれしいですわ」みたいな。ユーザーさんたちとの「つながり」から活力をもらえるものなんですよね。
ゲーム配信を通じてみつけた居場所。小川さんは「ゲーム好きな仲間」にとっての居場所を、Mirrativでつくっていきたいという。
インターネットのコミュニティは、みんなにとっての居場所だと思うんです。振り返ってみると、もともと私も、インターネットを拠り所にしていたところもある。高校生の時とか、夜23時過ぎにチャットルームで話してくれた大人たちがいて。学校と違う安心感のある居場所で。その安心があったから、学校で無理せずに済んだ気がしていて。息苦しさから解放されたというか。本当に気の合う人とだけ付き合っていけばいい。いい意味で肩の力を抜くことができました。
だからこそ、人にはそれぞれ、自分が居場所と思えるコミュニティがあったほうがいい。ひとつだと心もとないし、いくつも持っていたほうがいい。一人で悩んでつらくなったら逃げられる場所を持てばいい。ゲームが好きな人、映画が好きな人、音楽が好きな人…それぞれが集まるコミュニティに所属しながら、いろんな「自分」を持ってるほうが生きやすいですよね。オフラインも、オンラインでも、たくさんの「自分」を持っていて、時に使い分けたほうが健全だよなって。
Mirrativも、運営している私たちにとっての居場所でもあって。ユーザーさんはもちろんだけど、自分たちがより使いやすいサービス、求めてるサービスを作ろうとしているのかもしれない。そんな愛が伝わるようなコミュニケーションを作っていきたいと思っています。
最近だと、「ミラティブ運営だより」という、ユーザーさんからいただいた意見を「実現しました!」と報告する場を作りました。テキストの記事で公開して、その記事を実際に配信で生の声として届ける、ということをしたんですよ。もちろん実装が難しいものもあるので、そこは真摯に向き合って説明して、ユーザーさんに理解をしてもらう。ときには批判を浴びることもあるかもしれませんが、向き合うことを諦めず、ユーザーさんに喜んでもらえるように模索し続けたいです。
人が集まる場所があるから誰かとつながれる。Mirrativはもうそういう場所になっていると信じているんですが、もっともっと大きくしたい。その可能性を日々感じて、私自身がいちばんワクワクしているかもしれないですね(笑)
文 = 大塚康平
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