2020.01.08
名もなき日本語教師が、一夜にして中国の大スターに。中国版YouTuber「KOL」のリアル

名もなき日本語教師が、一夜にして中国の大スターに。中国版YouTuber「KOL」のリアル

松浦文哉さんは、中国最大級の動画投稿サイト「bilibili動画」で66万フォロワーを持つインフルエンサー(KOL)だ。普通の日本語教師が、一夜にして中国の大スターに。「とにかく中国が好き、動画が楽しい」と邁進。日中を「動画」でつなぐ男の物語に迫る。

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全2回の連載でお送りいたします。
[1]名もなき日本語教師が、一夜にして中国の大スターに。中国版YouTuber「KOL」のリアル
[2]ホスト界の帝王「ローランド」が中国で大ウケ。中国でバズる日本コンテンツの共通項

「先生の授業面白いから、ネットに投稿していい?」

松浦さんの「動画配信」との出会いは、2015年。大学時代に興味を持った中国に渡り、日本語教師として働いていたときのことだった。

動画配信をはじめたのは、本当にたまたまで。自分でやろうと思ったわけではないんです。

ある日、生徒から「先生の授業面白いから、撮影してネットに上げていい?」と言われて。「へーそんなの流行ってるんだ。全然いいよ」って、何も考えずOKしました。

生徒が投稿したのは「bilibili動画(通称:ビリビリ)」という動画共有SNS。日本の「ニコニコ動画」や「YouTube」みたいなものですね。

投稿した動画を見せてもらったら、少しですがコメントや弾幕がついていて。ビリビリは日本のアニメやテレビ番組が多く配信されているサイトなので、日本が好きな視聴者が多いらしいんです。「先生のこと“カッコいい”ってさ」なんて言われて、嬉しかった(笑)。

そこから動画配信に興味を持って、少しずつ、日本の文化について説明する動画を投稿するようになったんです。最初の頃は中国語も全然話せなかったので、中国人の友だちにご飯をおごる代わりに翻訳してもらっていましたね。

出典:松浦文哉-SPWZ社長-(bilibili動画)

「日本人あるある」がバズり、フォロワー10万人越え

日本語教師の仕事をしながら、趣味で動画配信を続けていた松浦さん。ある日、転機が訪れる。

2018年の2月頃ですかね。「中国生活に慣れすぎて帰国した日本人あるある」という動画を投稿したら、それが大ウケして。気づいたら再生回数が50万回を超えていた。フォロワーも、いっきに10万人を超えたんです。

Alipay(アリペイ)が使えない、地下鉄が複雑すぎ、などをコント仕立てにした動画「中国に長くいすぎた日本人が日本に帰国したら」が大人気に。現在はシリーズ化もしている。出典:松浦文哉-SPWZ社長-(bilibili動画)

正直、自分でも驚きました。フォロワーが15万人を超えたあたりからは、街で「あ、ソンプー(僕の中国での愛称)だ!」と言われることも増えてきて。有名人になった気分でしたよ。

どうしてバズれたかと聞かれると難しいのですが……僕、シンプルに動画配信がめちゃくちゃ楽しいと思ってやっていたんですよね。

ビリビリは広告がついていないので、どれだけ再生回数が増えたって一銭も入って来ない。仕事にしようとか、一発当ててやろうみたいなことは全然考えていなくて。あくまで趣味でした。

動画は会ったこともない人とつながれて、すぐに反応が見れる。自分では当たり前だと思っていた日本の話を面白がってもらえるのも嬉しかった。逆に、面白いと思ってやったことがめちゃくちゃスベるときもあってツラかったですけど(笑)。

たとえば、日本のYouTubeで「お金を使いまくる」みたいな動画って結構人気だったりするんですけど、中国ではあまりウケない。そういった国民性の違いによるコンテンツの強さも見えてくるんです。

どうしたらもっと人気者になれるかなって、暇さえあればとにかくビリビリやYouTubeでいろんな人の動画を観まくりました。なんでこの人はフォロワーが多いんだろう、逆になんで少ないんだろうって、毎日数百件動画を見て研究していましたね。

フォロワーがさらに増えると、中国に支社を持つ日本企業などからスポンサード広告の依頼が来るようになって。小林製薬さんだったり、全日空さんだったり。信じられないような大手企業から連絡を受けて……もうびっくりの連続でした。

人の温かい中国に、恋をした。

そもそも、松浦さんが中国に渡ったきっかけは何だったのか。

大学生の頃に、異文化交流会で中国人留学生と話す機会があって。そこで話した中国人の子がすごくフランクで優しくて、いっきに興味が湧いたんです。その後バックパッカーとして中国にも行き、さらに中国が好きになって。「よし、中国で働こう!」と、ほとんど勢いで決めました。

もちろん、面接には落ちまくりました。「ニーハオ」と「シェイシェイ」しか話せなかったし、社会人経験もないし当然ですよね。唯一拾ってもらえたのが、日本語教師の仕事だったんです。

中国に渡ってからも、「中国が好き」という気持ちは変わらなかったですね。あまりイメージないかもしれませんが、中国の人って、おもてなしがすごいんです。

たとえば、僕の友だちが日本から遊びに来たときとか。現地の友だちに彼を紹介すると、「ここ楽しいよ!」とか、「これ食べて!日本にないでしょう?」って、僕より彼を楽しませようとしてくれる。

レストランで隣の席になった人といつの間にか仲良くなってる、とかもよくあって。垣根がないというか、どんどん友だちの輪が広がっていく。

中国には「WeChat」っていうLINEのようなツールがあるんですけど、僕いま、1000人くらい友だちがいます。LINEだと家族や本当に仲の良い人だけで、36人ぐらいしかいないのに(笑)。日本とは少し違う中国独特の距離感は、僕の中ですごく好きなところです。

【プロフィール】松浦 文哉(29) 2012年に中国へ渡り、日本語教師として働きながら2015年に「bilibili動画」での配信活動をスタート。日本文化を紹介する動画がじわじわと話題になり、ビリビリ内の日本人配信者第3位の66万フォロワーを獲得。2019年4月に日本へ帰国し、中国進出支援ビジネスを展開するkyoukanにジョイン。インフルエンサーの育成を行なう「KOL JAPAN」にてプロデューサーを務める。

中国の魅力を、もっと日本に

2019年4月。松浦さんは中国を離れ、6年ぶりに日本へ帰国。自身のように、中国に進出する日本人インフルエンサーのプロデュースに携わっている。

僕は中国も日本も大好きなので、動画というコンテンツを使って何か日中友好につながることができないかと思っていたんです。自分のように中国で活動する日本人が増えれば、日本国内での中国への興味がもっと高まるんじゃないかって。

そんなとき、中国で開催されたコミケでたまたま「kyoukan」という会社の社長に声をかけられて。2018年の年末ごろですね。

kyoukanは、インフルエンサーマーケティングの会社。中国進出の機会を狙っているものの、中国で成功するための知見がなく困っている、と。

すぐに意気投合しました。自分の経験を活かせるのはすごく嬉しい。それに、僕一人で活動を続けるより、支援にまわったほうが、実現したい「日中友好」をより加速させられるのではないかと思ったんです。

それでさっそく荷物をまとめて、日本に戻ってきたというわけです。

中国のことをもっと知ってもらうことができれば、みんな絶対好きになるはず。日本の友だちが中国に遊びに来てくれたときって、帰りの空港で絶対こう言うんです。「マジで中国楽しかった」「全然思ってたのと違った」って。

この感覚を一人でも多くの人に体験してほしい。僕の活動が、少しでも日本人が中国を知るきっかけになれたらうれしいです。

>>>[2]ホスト界の帝王「ローランド」が中国で大ウケ。中国でバズる日本コンテンツの共通項


取材 / 文 = 長谷川純菜


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