2013.10.02
サイボウズ青野社長に聞く、離職率を28%から4%に下げる方法。

サイボウズ青野社長に聞く、離職率を28%から4%に下げる方法。

人材の獲得もさることながら、優秀な人材に、いかに自社で長く活躍してもらうかもWEB・IT業界の抱える大きな課題の一つ。そんな中サイボウズが、28%の離職率を4%にまで改善できた理由の一つに、多様なワークスタイルを実現する制度の充実があった。効果を出す制度が生まれる背景やプロセスとは?

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サイボウズが多様なワークスタイルを求めるワケとは?

人材の流動が激しいWEB・IT業界。自らの成長のため、またより良い環境に身を置くために、転職を繰り返すエンジニア・クリエイターも多いことだろう。

その業界において、注目したい企業がある。企業や組織内の情報共有やコミュニケーションを支援するグループウェアの開発を手掛けるサイボウズだ。

サイボウズが長年取り組んでいるのがよりよいチームワーク、そして多様なワークスタイルの実現。

今回、お話を伺ったサイボウズ社長・青野慶久氏が社長に就任した年の離職率はなんと28%にも上っていたという。

しかし、「より多くの人が、より成長して、より長く働ける環境を提供する」というポリシーを定め、ワークライフバランスに配慮した制度や、社内コミュニケーションを活性化する制度を導入した結果、離職率は4%まで低下し、企業としても着実に成長を果たしている。

彼らはなぜ多様なワークスタイルを目指し、具体的にはどのような制度を整えてきたのだろうか?

毎週のように送別会がある会社だった

― サイボウズが多様なワークスタイルを求めるに至った背景とは、どこにあるのでしょうか?


避けて通れないのが離職率の話になりますね。サイボウズは創業以来、毎年15~20%前後の離職率で推移していたんですが、私が社長になった2005年には28%まで上昇したんです。100人に満たない会社において、1年間で30人弱が辞めるとなると、オフィスの雰囲気も正直良くない状況でしたね。



「そんなに青野が社長になるの嫌か…!」なんて思ったこともありましたが(笑)当時を考えると、業界的にはちょうど2度目のITバブルがはじけ、サイボウズとしても長時間労働や休日出勤が日常化していた時期。改めて、社員にいかに自社で長く活躍してもらうか?というテーマについて真剣に考え始めました。

まず始めたのが、社員の話をきちんと聞くこと。すごく単純なことなのですが、みんなが求めている働き方が本当に多種多様なんだなということが分かってきたんです。

そこで、どんな人でも気持ちよく働ける環境を作っていこうとあらゆる人事制度をボトムアップ型で社員と一緒になって改めて整えてきました。制度の充実と社員への浸透によって2012年には離職率を4%まで下げることが出来ました。

― 様々な制度があるようですが、その判断軸はどこにあるのでしょうか?社員の定着のためなら、なんでもアリというわけではないですよね。


仰るとおりです。制度は必ず、サイボウズの目指す「グループウェア世界一」という目標に対して同じベクトルを向いているものでなければならない。うまくいっている他社の取り組みをマネするだけではダメなんです。

また、「社員の定着を目指す制度=社員を甘やかす制度」になってしまっては元も子もありません。もちろん社員には、自分にあった環境で長く働いてもらいたいと思っていますが、居心地のいい空間に居続け、会社に依存し自律できないいわゆる“ぶらさがり”のようなエンジニアやスタッフを抱える気は全くないということは、社員に伝え続けていることでもあります。



人事制度は成功事例が出てきて、社員に浸透し始める

― 具体的にどのような制度を作られたんですか?


仕事を重視する人、仕事とプライベートを両立させたい人、残業をなくすことで、家庭や社外の活動にも積極的に参加する人、それぞれライフスタイルの変化に合わせて働き方を選択できる『選択型人事制度』を導入しました。

具体的な働き方として、『在宅勤務制度』や時間や場所ではなく成果や生産性をより重視する『ウルトラワーク制度』も用意しています。

現在では社員が自分にあった様々な制度を積極的に利用していますが、最初からうまくいったわけではないんです。これまでみんなが同じ働き方、残業が当たり前の組織でしたから、新しい制度だけつくってもなかなか利用されないんですよ。



人事制度は少しずつ成功事例が出てきて、社員に浸透していくもの。例えば、残業しない制度を妊娠中やお子さんがいる人だけではなく、働きながら定時後に学校に通う人が活用しはじめると、「あの制度はこんなふうに使えるんだ」という良いウワサも出る。

マネジメントする側も、こうやって仕事を振り分ければチームがうまく回る、という体験を社内で共有したり。そういう多様な制度を活用する人たちを受け入れる組織文化を醸成することで、制度が本当の意味で活用されることを学びましたね。


― 特に効果が高い施策はどのようなものなのでしょうか?


珍しいものではないかもしれませんが、2005年から始めている『社内部活動』の促進制度はコミュニケーションの活性化に非常に貢献していると感じます。

年数回の活動報告書の提出と、複数の部署に所属する5人以上の部員で構成されていれば、どんな部でも設立でき、補助を受けられるものです。

社員数が毎年数十%で拡大していくと、組織はどうしても縦割り構造になってしまいます。横串のつながりを形成する部活動が積極的に行なわれることで、部署間の連携が容易になり、全社の業務スピードアップにつながっています。

余談ですが、部活動が活発になると社内恋愛…社内結婚が非常に増えるんですよ(笑)サイボウズには30組60名の社内夫婦がいて聞いたところによると結婚予備軍も多数いるらしいんですね。

会社としても、パートナーがサイボウズで働いていることをお互い良しとしたということ。離職率の改善だけでなく、「社内恋愛が増えた」なんてことも制度がうまくいっているポイントの一つかなと考えています。

トップダウンの制度は上手くいかない

― 企業が様々な制度を整備する一方、社員からすると使いづらく利用されないケースも多いと耳にします。きちんと“活用”される制度を生み出すポイントは何なんでしょうか?


ボトムアップ型で制度づくりすることでしょうか。

以前、小さな子どもを持つ社員から「託児所がなかなか見つからず、すごく困っている」という相談をいくつか受けたんです。

そこで、社長自ら「会社に託児所を作ろう!、会社に子どもを預けられると安心だし、仕事にも支障が出にくいでしょ」と提案したんですね。

すると社員から「通勤ラッシュを避けられない東京のどまん中に、小さな子どもを連れてくることがどれだけ大変か!」という反応を直接受けたんですね。トップダウン型で、制度を整備したところで、なかなか社員のニーズに合ったものは生まれないと私自身も経験しましたよ。



またポイントとなるのは、制度が完成するまでのプロセスを社員全員に共有し、制度設計の段階から自分事化させることだと思います。

社員が求める制度のニーズを吸い上げて、どうしたら可能になるか?その制度は本当にサイボウズの向かうべきベクトルにあっているのか?妥協せず検討していきます。

社員に求めているのは「質問責任」を果たすこと。制度にかぎらず、経営や目標まで何でも疑問に思ったら果たすべき義務として人事や上長、社長である私に質問すること。それに対して私たちは必ず説明責任にを果たすと。お互いが義務を果たすことで信頼関係が生まれよりよい制度、組織が生まれるはずです。

今後も、会社の目標達成に寄与するため、よりよい会社にしていくために誰にとってもよりよい環境にみんなでしていく。これに尽きますよ。


(つづく)▼サイボウズ 青野慶久社長へのインタビュー第2弾
サイボウズはなぜ、“社員が会社を辞めやすい”人事制度を作ったのか?


編集 = 松尾彰大


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