2015.06.02
社員みんな、18時の定時退社が絶対!『北欧、暮らしの道具店』が実践する残業しないための努力

社員みんな、18時の定時退社が絶対!『北欧、暮らしの道具店』が実践する残業しないための努力

WEB・クリエイティブ業界向け「わたし、人事もやってますサミット」イベントの様子をお届けします。ゲストは『北欧、暮らしの道具店』運営するクラシコム代表の青木耕平さん。全員18時退社にも関わらず、160%の業績をあげている!?一体その秘密とは。

0 0 104 4

CINRA.JOB主催「わたし、人事もやってますサミット」

2015年5月15日に開催された、「わたし、人事もやってますサミット」(CINRA.JOB 主催)のイベントレポートをお届けします。

今回の参加対象者は、WEB・クリエイティブ業界を中心とする人事のみなさん。特に専任人事だけでなく、他の業務と兼務している人事、経営者も対象者となりました。

わたし、人事もやってますサミット

大盛況だった会場の様子。お酒や軽食を片手に楽しみつつ、
みなさん、気軽に情報交換をする様子が印象的でした。


イベントでは採用の秘訣や成功の奥に隠れた採用の失敗談等を聞いたり、企業のユニークな福利厚生をシェアしたり。あまり外に出る機会がなく、「なかなか相談相手がいない」という人事を手助けするのが主なテーマ。

その中でも、今回はトークセッションの内容をご紹介します。初回ゲストは「北欧、暮らしの道具店」を運営する株式会社クラシコム(以下、クラシコム)代表、青木耕平さん(聞き手・株式会社CINRA(以下、CINRA)代表/杉浦太一さん)。

クラシコムは「18時で全員退社」を掲げ、それでも160%の業績を維持しています。なぜそれができているのか?組織づくりのウラ側などさまざまな話が飛び出しました。

18時で全員退社と160%の業績の秘密

トークセッションはイベント開始時間が夜ということもあり、「残業」の話題に。CINRA代表の杉浦さんより「18時全員退社」と「業績」に関する質問からトークがスタートしました。


杉浦:残業ゼロで毎年160%の業績を上げ続けているってすごいですよね。ちょっと信じがたいのですが、そもそも「残業を無しにしよう」ってどこから生まれたのでしょうか?

青木:もともと僕もサラリーマン時代から、あんまり残業するっていうタイプじゃなかったんです。まずあったのが、ダラダラやるのはあまり好きじゃないっていう「好みの問題」。で、僕は妹と創業していまして。ビジネスとしても社内が女性中心になるのは目に見えていたんですよ。

杉浦:おいくつで起業されたのですか?

青木:妹が30歳、僕が34歳のときに起業しました。僕も結婚して子供がいましたし、妹も結婚してました。だから、妹もそう遠くない将来に子どもを育てながらの仕事になるだろうなぁと。周囲からも「妹さんが産休に入ったら会社、大変よね」って言われていました。もう、妹に食わしてもらってる感覚ですよね(笑)

杉浦:なるほど、そういう状況だったんですね。

青木:でも、正直「大変」って言われて悔しかったんです。だから、妹が一時的に産休で抜けてもきちんとパフォーマンスが発揮できる組織が求められると思ったし、組織作りが僕の使命でした。


わたし、人事もやってますサミット_株式会社クラシコム代表 青木耕平さん

株式会社クラシコム代表 青木耕平さん


杉浦:具体的に何から始めたのですか?

青木:まず、自分たちの給料が出るより先にやったことは採用です。起業したばかりの会社ですし、働いてくれる人にどう考えても「高い給料」は提供できないじゃないですか。僕らの会社で働いてくれるメリットとして何が生み出せるだろうかって考えたときに「18時に帰れる」というメリットなら提供できると思いました。「これなら1円もかからない!」って。

提供できるものが「時間」ってことで、そのときから求人の募集要項に「18時以降の仕事はしません」って書いてました。募集要項に書いちゃったので、18時以降の仕事はできないですよね。今も残業時間は月に平均20分もないと思います。

杉浦:月にですか?! すごい!

青木:逆に帰らないと周りが「もう18時だよ」って言うんです。エンジニアには嫌がられるときもありますが……。

杉浦:夜行性の人もいますからね。他にも18時にこだわる理由はありますか?

青木:僕は、職種に関係なく公平に評価したいんです。

色々な事情があって、時間を長く使える人間と使えない人間がいる。「子供の迎えがあるから17時45分に帰らないといけない!」っていう社員がいる一方、時間に縛られない人間も世の中にいる。これって、サッカーを「90分でやる人間」と「120分でやる人間」を比べるのと一緒です。

時間が多い分、「120分でやる人間」が有利になる。これって当たり前じゃないですか。どうしても評価や成果という面で人間をみると、時間を多く使っている人間が有利になってしまう。

杉浦:確かに、使える時間は人それぞれですよね。評価や成果という観点から人を測るのってすごく難しい。

青木:そうなんです。だからサッカーと同じ「この試合は90分です!」と決めちゃえば、同じ条件でみんな働ける。どういう状況であれ、同じ時間、同じ条件で勝負して評価されるっていう会社になる。「じゃあ会社にいる時間って1秒も無駄に使えないぞ」ってなる。それが、結果として出たのが160%という業績数字です。

残業しないために、制作請負・イベント出展は全て断った

わたし、人事もやってますサミット

青木:あとは残業をしないために、制作請負・イベント出展はすべて断りましたね。相手の事情に従わないといけないということに一切手を出してないから、「そりゃ帰れますよね」っていう。

18時5分に毎日ボタンを押さなきゃいけない仕事があったとすると、クラシコムはそれをやらないんです。だって18時5分だから。17時55分にできるなら考えるっていうスタンス。

杉浦:徹底してる……。でも、時間が限られてくるとみんなピリピリしませんか?

青木:ピリピリというわけではないのですが、実は創業から5年経つまで「自由だけど寂しい会社だ」って言われてたんです。社員からも「うちっていい会社だし、居心地いいけどちょっと寂しい会社だよね」って。

杉浦:社風って難しいですよね。

青木:朝9時からトップスピードで働かないと成り立たないから、もくもくとやって18時で解散。「これって寂しいよね」って僕も感じて。それで、社員同士がSNSで繋がるようにしたり、社食も始めました。

杉浦:社食ですか?オフィスに?

青木:料理家の方に1週間に2回くらい来ていただいて、社内のキッチンで作った料理を提供いただきました。あとはオフィスに投資するようにしています。生活の場として居心地が良くなり、スタッフがリラックスして自然に良い関係性が構築されることが目的です。ここ数年毎年移転をしているのですが、すべて改装していますね。18時を過ぎて仕事をしてしまう環境にならないように、できることをすべてやっています。

あえて「評価をしない」という人事制度

わたし、人事もやってますサミット_CINRA代表 杉浦太一さん

CINRA代表 杉浦太一さん


杉浦:18時までの仕事となると、成果が社員個人の「能力」によって変わりますよね。そうなると、入社したばかりの人間が頑張って一人前になるってことはできなくなってしまうのではないでしょうか?スタッフの評価はどうやってますか?

青木:乱暴な表現かもしれませんが、実は評価をしていないんです。クラシコムでは「人事ランク」っていうのがあって、入ったときはみんな同じ給料、同じ評価で始まります。だから、その日の頑張りや成果の有無って関係ないんです。一個のビジネスをみんなでやっているわけですから、「誰の活躍でこの利益になった」って測る手段なんてないと思っています。

杉浦:総合職や技術職の分け方もない、同じ立場なんですね。

青木:人事ランク自体は、だいたい5ランクくらいに分かれていて、これは僕が決めています。クラシコムは規模的に20人弱の社員数なので。この規模の会社で働くうえでは、「トップのことを信じることができる」ってことがすごく重要だと思うんです。トップのことを信じられないなら辞めたほうがいい。自分が信じられるトップが評価すればより正確だし、効率がいいと僕は思っているので。社員には胸張って「信じてくれ」って言ってます。

産休に入っても、その人が戻るまでポストを空けておく。

青木:クラシコムでは1年であれば、産休育休に入ってもポストは保護するようにしています。マネージャーが産休育休に入っても、帰ってくるまでポストを空けておく。産休明けは、マネージャーのまま職場に復帰します。

杉浦:空席にするんですか?

青木:「マネージャーのポジションを取られたくないから産休育休に入らない!」なんて不健全じゃないですか。僕はそういうのが嫌なので、基本的に立場は保護します。100%は約束できないけれど、高い確率で保護する方向で動きます。社員にも会社として最大限努力するってことは伝えますね。


わたし、人事もやってますサミット

会場に用意されていたアイシングクッキー。
見た目のかわいさはもちろん、味もバツグンでした!


杉浦:なるほど。空席になったポジションは補完し合うのでしょうか?

青木:はい。これがとてもいいことで、マネージャー代行のような役割を何人かが分担で持つようにします。すると成長する人間も出てくるんですね。マネージャーが戻ってきて補完タスクがなくなったときは、新たな部門作って昇格させるという工夫ができます。産休育休って本当に良いことです。すぐには昇格できない人材にも、空いたポストのタスクを与えることで、昇格できるチャンスを与えられる。そうすれば万が一その仕事がうまくできなかったとしても元々昇格させてないので降格もしないで済みます。

杉浦:良い社風ですね。どうしても社員が産休育休に入ると「今は代行していてもいつか戻ってくるから」という意識が働いてしまいますから。

青木:あとは、クラシコムは本人にしか分からない業務は絶対作りません。必ず周りがミラーリングできる仕組みになっています。「Aさんしかできない仕事」があったら、Aさんは休めないし残業してしまう。風邪もひけない。「いま休んでいるAさんがいれば100点だけど、Aさんがいない時間はみんなで補完しあって80点でもいいじゃない?」というのがクラシコムのスタンス。それが産休育休で1年続いても良いんです。無理をしないってことですね。

「ほぼ人事、ちょこっと社長」

杉浦:以前募集されていたクラシコムさんの採用ページを拝見したのですが、報酬含めて完全に情報を開示できるのがすごいですよね。あと採用ページがものすごく長い気がするのですが……。

青木:そうですね、2万字くらいあります。年ごとに内容を継ぎ足していくうちに長くなってしまいました。文章、覚えちゃいますよね。

杉浦:覚えられません!(笑)

青木:僕が悲しいのって、本来であればミスマッチな人、縁がない人にわざわざ手間をかけて応募してもらうことなんです。僕も転職活動していたから分かるんですが、履歴書も手間がかかるじゃないですか。ここまで募集要項が長いと「本当にクラシコムが好きな人」しか応募してこないだろうって。

杉浦:それでも先日500人も応募があったんですよね?

青木:はい。

杉浦:この長い募集要項でも応募者が殺到するブランド力がすごい。

青木:「採用時の状況によって違うから、詳細な条件は公開できない」っていう会社さんもあると思うのですが、クラシコムはみんな同じラインだから公開しています。僕は中途採用を新卒採用みたいにやりたいと思ってて。それで年一回中途一括採用という形式で採用活動を行っています。社内に同期と先輩後輩の関係を作りたいんですよね。実は成果をあげれば入社してからの報酬が上がっていくスピードも遅くはないと思っていますし、それがベストなんじゃないかって思った結果です。

杉浦:会社に入る前より、入った後のほうが重要ってことですね。

青木:そうです。僕の場合「ほぼ人事」で、ついでに社長もやってるんですよ。ちょこっとだけ社長なんです。経営者という観点から見るとまだまだ会社が小規模だから、実現できているのかもしれませんね。

杉浦:なるほど。経営者の目線も残しておくということですね。今回はとても勉強になりました。貴重なお話をありがとうございました!

青木:こちらこそありがとうございました!


(おわり)

わたし、人事もやってますサミット

[取材・文]鈴木美雪


文 = 鈴木美雪
編集 = 白石勝也


関連記事

特集記事

お問い合わせ
取材のご依頼やサイトに関する
お問い合わせはこちらから